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第八話 湖の竜 ~チャプター5~
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ドラゴンのブレスを受け青白い炎に包まれた巨大タコ。
手も足も出なかった相手に一撃で致命的なダメージを与えるその様子に改めて伝説と謂われるドラゴンの強さを目の当たりにした。
「あれが……ドラゴン!?」「私たちが手も足も出なかった相手を一撃で…」
やがて炎が収まり、そこには黒く焼け焦げ動かなくなった巨大タコが残されていた。
「…死んだの?」
「否。一時的に動きを止めたに過ぎぬ。」
「ドラゴンでも倒せないの?何なのよコイツは?」
「これは神代の頃、冥界の神が地上の生物を一掃するために遣わされた『神獣』の一体だ。」
「神獣?」
「神獣には死の概念はない。肉体を完全に滅さない限り何度も復活する。これを完全に倒せるのは帝竜とその直下たる六機の皇竜のみである。当機の性能ではこの身を以って奴を封じるまでだ。」
帝竜と六体の皇竜。300年前までこの地に君臨し、人々を治めていたドラゴンの頂点の存在だ。
邪神が遣わした神獣が地上を蹂躙していた時代に、人を守り導いたとされている。
重苦しい空気が漂う中リーナがボソッと俺たちに囁く。
「…邪竜じゃなかったんだね。」
「どうやら、長い間伝え聞いていくうちに二者の存在が混同してしまったようですね。」
シアリーゼ姫が見解を述べた後、マリークレアさんがドラゴンに歩み寄り尋ねる。
「湖の竜よ。この地にいた竜は300年前、すべてこの地より去ってしまいました。今我々にはこの神獣に対抗する手段はありません。」
「そうか。やはり目を覚ますには早すぎたようだ。」
「大体なんでドラゴンはみんないなくなっちゃったのよ?」
「神獣を倒したのち、人の子らを治め導くのが我々竜の役目である。だが竜が君臨したままでは人の子らの進歩の妨げとなる。故に役目を終えたと判断した帝竜らはその時を以って配下の竜を引き連れこの地を離れたのであろう。」
「でもその神獣?がまだ残ってるじゃない!役目全うしてないじゃないのよ!」
「おそらくそれが当機に課せられた役目であろう。いずれ人の子らにも神獣に対抗する手段もその進歩によってもたらされるとし、当機はその時までこの身で神獣を封じる筈であった。」
「筈だった…って?」
「封印の力は時が経つにつれ弱まっていたが、それでもあと百数年は持たせるつもりであった。だが、幾日前、この湖に強大な風の魔力が撃ち込まれるのを感知した。その影響で神獣が活動を再開してしまったのだ。」
「数日前……、強大な風の魔力……?」
その出来事に憶えがあった一同は一斉にノーラ姫の方を見る。
「な、何よ…?」
「姫様……。」「ノーラさん、さすがにあれはマズかったのでは…?」
「こんな湖の底にバケモノが眠ってるなんて誰も思わないでしょ!?」
弁明を続けるノーラ姫だが、それでも彼女に集まる視線は冷たいままであった。
「…コホン。と、とにかく―――」
弁明をあきらめたノーラ姫はドラゴンのもとへ歩み寄る。
「えーっと、アナタお名前は?」
「当機に固有名称は存在しない。必要であれば好きに呼称するといい。」
「そう。じゃあ、えーっと…」
考え込むノーラ姫。しばらくして彼女が口を切る―――
「それなら、アシア湖にちなんで、あっsy―――」
「ノォォォォォォォ!!!!」
ノーラ姫がその名を告げようとしたところを俺は全力で遮った。
「な、何なのよ急に!?」
「長年神獣を封印してくれていたドラゴンにそんなの失礼すぎる!」
「今のアンタはアタシに対して失礼よ。」
「ならアンタはちゃんとした名前つけられるっての?」
「そうだなぁ…」
昔の俺なら溢れんばかりの中二ボキャブラリーがあったのだが、そんなもの疾うに枯れ果ててしまっている。
さっきの姫ではないが、このアシア湖にちなんだ名称を授けた方がいいのだろう。
「……アシア湖の賢竜、アシオン。」
「……仕方ないわね。」
受け入れたノーラ姫は再びドラゴンと向き合う。
「では湖の賢竜アシオン。アナタはこれからどうするの?」
「我が身を以って再び此奴をこの湖の底へ封じる。先ほど述べた通りあと百幾年は持たせるつもりだ。」
それを聞くと、ノーラ姫はアシオンに対し畏まった姿勢を見せる。
「…拝承いたしました。貴殿の長きにわたりその身を以って我ら人類を守りつづけるその功績、このアヴァルー王国第二王女・ノーラ=アヴァルーの名のもとに後世まで確かに伝え聞かせることを約束致します。」
「…感謝する、貴き人の子よ。」
アシオンはそう話すと未だ動きを止めたままの神獣を抱え上げ飛び立つ。
「では、さらばだ。」
そう告げたアシオンはそのまま天空へと飛翔し、湖の中心に飛び込んでいった。
湖には大きな水柱がたち、その上空に虹が掛かる。
「―――ふぅ。これで一件落着ね。」
ノーラ姫は安堵の声を漏らす。
「…さて…と。まだ時間はたっぷりあるし、バカンスの続きとしゃれこみましょ。」
背伸びをしながらノーラ姫は湖へと向かっていくが―――
「…ちょっと待て。」
未だ砂浜に埋められたままの俺がそれを制止した。
「…何よ?」
「この中に一人、弾劾せねばなるまい人物がいる。」
「なんなのよ!もう終わったじゃない!」
「ほう、罪は自覚しているようだな容疑者Nよ。」
何もなければあと数百年は封印はもっていた筈だったが、姫が余計な事をしたせいで俺たちはこんな目に遭ったのだ。
「…ね、ねぇ?アタシ悪くないわよね?」
他の皆に弁護を求めるノーラ姫だったが…
「さすがにやり過ぎだったと思います…。」
「シア!?」
「私も…ちょっとコワかったし…。」
「メルまで!?」
「さすがに今回の事は陛下に報告させていただきます。」
「ちょ!?パ…お父様に言うのだけはやめて!」
「フフフフフフ…」
「リ、リーナ?なんかコワいわよ!?」
もはやノーラ姫を擁護する者はこの場にいなかった。
「者どもぉ!引ったてぃ!」
掛け声のもと皆一斉に飛び掛かり、ノーラ姫はあえなく御用となった。
そして俺と同様、首から下を砂に埋められてしまう。
「ふぇ~ん、もうサイアク~…」
「まぁ、同じ罪人同士仲良くしようや。」
「もうッ!」
「さて、まだスイカがあるようですし、折角なので先ほどやった『ゲーム』をまたいたしましょうか。」
「シア!?ま、まさか…」
シアリーゼ姫はまだ残っていたスイカを持ち出し、俺とノーラ姫の前にそれを置いた。
「それでは参りましょう!」
「いやぁぁぁぁ!」
―――その後、俺とノーラ姫は日が暮れるまで砂浜に埋められたままだった。
手も足も出なかった相手に一撃で致命的なダメージを与えるその様子に改めて伝説と謂われるドラゴンの強さを目の当たりにした。
「あれが……ドラゴン!?」「私たちが手も足も出なかった相手を一撃で…」
やがて炎が収まり、そこには黒く焼け焦げ動かなくなった巨大タコが残されていた。
「…死んだの?」
「否。一時的に動きを止めたに過ぎぬ。」
「ドラゴンでも倒せないの?何なのよコイツは?」
「これは神代の頃、冥界の神が地上の生物を一掃するために遣わされた『神獣』の一体だ。」
「神獣?」
「神獣には死の概念はない。肉体を完全に滅さない限り何度も復活する。これを完全に倒せるのは帝竜とその直下たる六機の皇竜のみである。当機の性能ではこの身を以って奴を封じるまでだ。」
帝竜と六体の皇竜。300年前までこの地に君臨し、人々を治めていたドラゴンの頂点の存在だ。
邪神が遣わした神獣が地上を蹂躙していた時代に、人を守り導いたとされている。
重苦しい空気が漂う中リーナがボソッと俺たちに囁く。
「…邪竜じゃなかったんだね。」
「どうやら、長い間伝え聞いていくうちに二者の存在が混同してしまったようですね。」
シアリーゼ姫が見解を述べた後、マリークレアさんがドラゴンに歩み寄り尋ねる。
「湖の竜よ。この地にいた竜は300年前、すべてこの地より去ってしまいました。今我々にはこの神獣に対抗する手段はありません。」
「そうか。やはり目を覚ますには早すぎたようだ。」
「大体なんでドラゴンはみんないなくなっちゃったのよ?」
「神獣を倒したのち、人の子らを治め導くのが我々竜の役目である。だが竜が君臨したままでは人の子らの進歩の妨げとなる。故に役目を終えたと判断した帝竜らはその時を以って配下の竜を引き連れこの地を離れたのであろう。」
「でもその神獣?がまだ残ってるじゃない!役目全うしてないじゃないのよ!」
「おそらくそれが当機に課せられた役目であろう。いずれ人の子らにも神獣に対抗する手段もその進歩によってもたらされるとし、当機はその時までこの身で神獣を封じる筈であった。」
「筈だった…って?」
「封印の力は時が経つにつれ弱まっていたが、それでもあと百数年は持たせるつもりであった。だが、幾日前、この湖に強大な風の魔力が撃ち込まれるのを感知した。その影響で神獣が活動を再開してしまったのだ。」
「数日前……、強大な風の魔力……?」
その出来事に憶えがあった一同は一斉にノーラ姫の方を見る。
「な、何よ…?」
「姫様……。」「ノーラさん、さすがにあれはマズかったのでは…?」
「こんな湖の底にバケモノが眠ってるなんて誰も思わないでしょ!?」
弁明を続けるノーラ姫だが、それでも彼女に集まる視線は冷たいままであった。
「…コホン。と、とにかく―――」
弁明をあきらめたノーラ姫はドラゴンのもとへ歩み寄る。
「えーっと、アナタお名前は?」
「当機に固有名称は存在しない。必要であれば好きに呼称するといい。」
「そう。じゃあ、えーっと…」
考え込むノーラ姫。しばらくして彼女が口を切る―――
「それなら、アシア湖にちなんで、あっsy―――」
「ノォォォォォォォ!!!!」
ノーラ姫がその名を告げようとしたところを俺は全力で遮った。
「な、何なのよ急に!?」
「長年神獣を封印してくれていたドラゴンにそんなの失礼すぎる!」
「今のアンタはアタシに対して失礼よ。」
「ならアンタはちゃんとした名前つけられるっての?」
「そうだなぁ…」
昔の俺なら溢れんばかりの中二ボキャブラリーがあったのだが、そんなもの疾うに枯れ果ててしまっている。
さっきの姫ではないが、このアシア湖にちなんだ名称を授けた方がいいのだろう。
「……アシア湖の賢竜、アシオン。」
「……仕方ないわね。」
受け入れたノーラ姫は再びドラゴンと向き合う。
「では湖の賢竜アシオン。アナタはこれからどうするの?」
「我が身を以って再び此奴をこの湖の底へ封じる。先ほど述べた通りあと百幾年は持たせるつもりだ。」
それを聞くと、ノーラ姫はアシオンに対し畏まった姿勢を見せる。
「…拝承いたしました。貴殿の長きにわたりその身を以って我ら人類を守りつづけるその功績、このアヴァルー王国第二王女・ノーラ=アヴァルーの名のもとに後世まで確かに伝え聞かせることを約束致します。」
「…感謝する、貴き人の子よ。」
アシオンはそう話すと未だ動きを止めたままの神獣を抱え上げ飛び立つ。
「では、さらばだ。」
そう告げたアシオンはそのまま天空へと飛翔し、湖の中心に飛び込んでいった。
湖には大きな水柱がたち、その上空に虹が掛かる。
「―――ふぅ。これで一件落着ね。」
ノーラ姫は安堵の声を漏らす。
「…さて…と。まだ時間はたっぷりあるし、バカンスの続きとしゃれこみましょ。」
背伸びをしながらノーラ姫は湖へと向かっていくが―――
「…ちょっと待て。」
未だ砂浜に埋められたままの俺がそれを制止した。
「…何よ?」
「この中に一人、弾劾せねばなるまい人物がいる。」
「なんなのよ!もう終わったじゃない!」
「ほう、罪は自覚しているようだな容疑者Nよ。」
何もなければあと数百年は封印はもっていた筈だったが、姫が余計な事をしたせいで俺たちはこんな目に遭ったのだ。
「…ね、ねぇ?アタシ悪くないわよね?」
他の皆に弁護を求めるノーラ姫だったが…
「さすがにやり過ぎだったと思います…。」
「シア!?」
「私も…ちょっとコワかったし…。」
「メルまで!?」
「さすがに今回の事は陛下に報告させていただきます。」
「ちょ!?パ…お父様に言うのだけはやめて!」
「フフフフフフ…」
「リ、リーナ?なんかコワいわよ!?」
もはやノーラ姫を擁護する者はこの場にいなかった。
「者どもぉ!引ったてぃ!」
掛け声のもと皆一斉に飛び掛かり、ノーラ姫はあえなく御用となった。
そして俺と同様、首から下を砂に埋められてしまう。
「ふぇ~ん、もうサイアク~…」
「まぁ、同じ罪人同士仲良くしようや。」
「もうッ!」
「さて、まだスイカがあるようですし、折角なので先ほどやった『ゲーム』をまたいたしましょうか。」
「シア!?ま、まさか…」
シアリーゼ姫はまだ残っていたスイカを持ち出し、俺とノーラ姫の前にそれを置いた。
「それでは参りましょう!」
「いやぁぁぁぁ!」
―――その後、俺とノーラ姫は日が暮れるまで砂浜に埋められたままだった。
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主人公がどこか頼らないけど、飾らず、もがいている姿に共感できました。主人公の今後の成長が気になります。とてもテンポよく読みやすいのでおすすめです。連載頑張ってください。応援します!