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ガーランド大陸の覇者 姫と森の記録
しおりを挟む魔物データNo. FA-001
種族名:トレント
種族:植物系魔物
寿命:不明
身長:植物の種類による。最大種で200m
体重:測定不可
通称:〝ガーランド大陸の覇者〟
特記:人族が〝ガーランド大陸〟を捨てた要因。縦横無尽に暴れる凶悪な魔物
▲▲▲
この戦争は、我が国は関係していなかった。その国はただ国民を飢えから救いたかった、それだけだった。トレント様を害したかったわけではない。たまたま伐採した木々の中に、幼いトレント様が混じっていただけだった……ただそれだけだ。
それが今、こんな状況になっている。
迫り来るトレント様の群れは、まるで動く壁だ。延びた枝に薙ぎ払われ、その重量に押しつぶられ、我々の兵は何もできずに蹂躙されていった。そして、人類は植物に敗北した……。
私は今、最後の避難船の上で燃えゆく祖国を眺めている。
そして、最後に一言言わせてほしい
木の魔物のくせに……燃えないなんて反則だ。クソッたれ!!
ガーランド大陸最後の国の王 モウヤ•ケクソ•ダーナの日記より
▲▲▲
早朝、私が目を覚まし、ツボに溜めていた水で顔を洗っていると、森がかすかにざわめいた。乾いた小枝が折れ、落ち葉が押し分けられる音がした。それは慌ただしくもなく、怯えた様子でもなく規則正しい音だ。
長いあいだ、この森を知り尽くした者だけが立てる音だった。
私がそちらへ顔を向けた次の瞬間、私より大きい影が木立のあいだから滑り出た。
トレント達である。
トレントとしては年若いらしいが、葉の茂り、ねじれた幹や根で構成された身体は私より一回りは大きい。そんなトレントが5体。1人の美しい女性に引き連れられて現れたのである。
彼女こそが〝トレントの姫〟である。
人の様に見えても彼女はトレントである。高位のトレントとなると、人の形を模倣するのも簡単なのだそうだ。その美しさの前に、忘れそうになるが圧倒的な力を持った存在なのである。
そんな彼女が朝早くから私のもとに顔を出してくださっている。
〝人類が敗北した大陸〟〝植物が統べる大地〟と呼ばれる〝ガーランド大陸〟。この大陸に生息する魔物を調べ始めるにあたり、最初に記すべきはやはり〝トレント〟になるだろう。
〝トレント〟……長い年月生きた木々が意志を持ち、精霊化した存在。
そして、ガーランド大陸から人類が逃げ出した最大の要因。
人類はトレントの率いる植物達との戦争に負け、大陸を捨てて周辺の島々へ逃げ込んだ……200年が過ぎ、この事実はすでに伝承となっている。
そして、植物達を率いたのが彼女、〝トレントの姫〟である。
人類が逃げ出した後、大陸の支配者は〝トレント〟となった。彼女によれば、大陸に存在する木々の八割がトレントなのだそうだ。その全てが彼女の支配下にあるという。どう考えても、私たち人族が太刀打ちなどできない圧倒的な数の暴力を持った種族なのである。
私は運が良かったのだろう。そんな彼女らに受け入れてもらうことができたのだから。
しかし、出会いは良いものではなく……むしろ最悪であった。
国王命令でこの大陸に調査へ来た我々は、早々に失態を犯した。ベースキャンプを築く準備を始め、木材を手に入れる為に斧を突き立てたのが〝トレント〟だった。その瞬間に響き渡った悲鳴……それは今までに聞いたことがないほど恐怖を感じるものだった。
その悲鳴の後、騒めく森から次々と〝トレント〟が姿を現した。見渡す限りでも20体以上に上った。母国では1体でも出ただけで甚大な被害が出ると言われているのに。
調査隊はすぐさま撤退を始めた。私たちは一目散に船に向かったが、私はここで間違った判断をしてしまった。父上からいただいた白銀鳥のクイルペンを取りに戻ってしまったのだ。いや、今となっては正しい判断だったのかもしれない。
急ぎ調査隊に合流しようとしたがすでに遅かった。船は出航してしまっていたのだった。ここまでかと私は初めて死を実感した。私はこの日ほど神に祈ったことはない。生き残れるのならと、ありとあらゆる国の神、邪神にも祈った。
何に祈ったのがよかったのかはわからない……ただ、私の願いは叶ったのだ。
トレントの集団に取り囲まれ、私は震えながら周りを見渡していると、その中から女神の様な美女が現れたのだ。
彼女は〝管理者〟と名乗り、トレントが人の形を模した者だと言った。そして、自分こそがこの大陸のトレントをまとめる者だと。
トレントが人化するなど聞いたこともなかったが、周りのトレントの様子から、彼らを統べる者だとすぐに理解できた。
その後、日を跨いでまで私は彼女と語らった。
ここに来た目的など全てを話した。ありがたいことに彼女は賢く寛容だった。私がこの大陸に滞在することを許してくれたのだった。
それから数日、私は少しずつトレントの習性を理解し始めていた。彼らは、こちらが敬意を払えば、無闇矢鱈に危害を加えては来ない。なんなら、燃料、木の実など食料を定期的に分けてくれる。感情があり、知識があり、独自の社会性を築き上げ、対等に渡り合える精霊だったのだ。
そんな中、彼女は「暇つぶし」にと、彼女の持つ知識を私に与えてくれることになった。トレント達のこと、この大陸のこと。そこに棲まう生き物のこと。そしてこれまでの歴史。
トレントが彼女の様に人化する……それだけで世紀の発見に等しいのに、それ以上に信じられない話を多く聞くことができた。
前にも記したが、この大陸に存在する木々のうち八割がトレントである。そして、トレントの社会にも年功序列が存在し、永く生きたトレントが敬われている。中でも、〝最古〟と呼ばれるトレント達は、500年以上生き、別格な存在として敬われている。
そんな〝最古〟のトレント達は500年以上も前に、1人の人族により生み出されたそうだ。そして、彼女こそ〝始まり〟……その人族によって最初に産み落とされたトレントであり、故に〝姫〟なのである。
その人族が何を考え、何を思いトレントを産み続けたのかは、彼女としてももはやわからないそうだ。ただそのおかげで、その人族が亡き後に寂しい思いはしないで済んだと。微笑む姿は美しく見えた。
そして、200年前、植物と人族の間に戦争が起きた。我々に伝わる伝承では、先に人族の領域を侵したのは植物だとされていた。領土は狭まり、食料は減少し、慢性的な飢饉が人々を苦しめた結果、彼らはトレントの森に手を出し、戦いが始まったのだと。
だが、彼女の言い分はまったく異なった。人族の国々が領土拡大のために無秩序に森を伐採したことが衝突の原因だという。彼女たちは何度も話し合いを求めたが、人族たちはそれを無視した。そしてついに、大陸中の植物が人族を敵と認識し、作物は育たなくなったのだという。
彼女と実際に話した私なら分かる。話し合いができていれば、この森で育つ恵みを分け与えてもらえ、共に共存ができたのだと。言い伝えられた伝承が、いかに人族にいいように書き換えられていたかを知らされることになった。
この数日で教えられたこれだけの事で、この大陸に来た甲斐があるというものだった。
私のこの手記が国に届いた時、国はどの様な対応を取るかはわからない。不都合により、抹消されるかもしれない。ただ、この大陸に帰還を望むのならば……彼女達トレントとの話し合いのテーブルにつく、勇気と覚悟が必要なのは理解していただきたいものだ。
そんな彼女らが、今日も今日とて私のところに顔を出してくれる。食料と燃料を持って。おかげで不自由の無い生活を送れている。
今では、姫以外のトレントを個々で識別でき、コミュニケーションが取れるようになった。話すことができるわけではないが、何故か意思疎通ができている。
挨拶をすれば、スチャっと手を挙げて答えてくれる。その姿に愛着すら湧いてきている。
これから、この大陸の生態系を調べるにあたり、彼女らの力は必然的に必要となるだろう。私は今以上に彼女達と友好を深め調査していきたいと思っている。
《補遺一》若木のトレントについて
トレントと一口に言っても、さまざまな個体がいる。
私は、最初見分けがつかなかったが、観察を続けるうちに個性があることが分かった。私が最初に覚えたのは、姫に随伴していた五体のうち、最も背の低い個体である。
幹はまだ細く、葉の量も少ない。動きは拙く、歩き方も少し子供のようによろよろしている。歩くたびに根が地面に引っかかり、小さな音を立てていた。年若いトレントであることは疑いようがない。
このトレントは若者特有の好奇心を持っているのか、私の生活を興味深そうに観察してくるのだ。そんな中、興味深いことがあった。この個体が私の焚き火を極端に避ける点である。興味があるのか近づいてくるが、燃料として与えられた枯れ枝を火にくべると、必ず一歩後退し、幹をわずかに傾ける。恐怖というより、判断を保留しているような態度に見えた。
一方で、別の少し大きく先輩とみられるトレントは、炎を覗き込み、燃える音に合わせて枝を揺らした。火が彼らにとって一様に「敵」ではないことだけは確かであった。
姫にこの違いについて尋ねたが、彼女は答えなかった。ただ、「木にも性格があるのじゃ」と微笑んだだけである。
《補遺二》トレントの沈黙について
トレント達は言葉を話さない。少なくとも、人の言語を用いることはない。
それにもかかわらず、私は彼らと意思疎通ができている。
最初は錯覚だと思った。だが、水を求める視線、立ち入りを拒む動き、警戒を解いたときの緩やかな揺れ……それらは偶然にしては一貫しすぎている。
最初から意思疎通ができたわけではない。最初の頃、彼らは「即答」をしなかった。何かを求めても、トレントは必ず最初に沈黙をしていた。その沈黙は短い時もあれば、日を跨ぐこともあった。
人族であれば無視と受け取られるだろう。しかし彼らにとって沈黙とは、思考の時間だったみたいだ。トレントの中には初めて人族を見た者もいたのだろう。トレントは自分たちの思考時間が人にとって長く感じるとは思っていなかったようだ。それが分かってから、私は不用意に答えを急ぎ求めなくなった。
しかし、彼らも人という生き物を理解したのか、トレント達の反応は段々と早くなってきていることをここに記録する。
魔物データNo. FA-001(改訂)
種族名:トレント
種族:植物系精霊種
寿命:不明(現存個体で500年以上)
身長:最大種200m超
通称:〝ガーランド大陸の覇者〟〝管理者〟
特記:ガーランド大陸の支配種。人族が〝ガーランド大陸〟を捨てる要因と言われていた。高度な社会性と意思疎通能力を持つ。武力・魔法耐性ともに高いが、基本的に寛容。
トレント達との衝突は、無秩序な伐採行為に起因する可能性が高い。最優先事項は交渉であり、敵対行動は自滅に等しい。
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