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〝ガーランド大陸の覇者〟 トレント、姫と森の記録③
しおりを挟む我々に伝わる伝承では、先に人族の領域を侵したのは植物だとされていた。領土は狭まり、食料は減少し、慢性的な飢饉が人々を苦しめた結果、彼らはトレントの森に手を出し、戦いが始まったのだと。
だが、彼女の言い分はまったく異なった。人族の国々が領土拡大のために無秩序に森を伐採したことが衝突の原因だという。
彼女たちは何度も話し合いを求めたが、人族たちはそれを無視した。そしてついに、大陸中の植物が人族を敵と認識し、作物は育たなくなったのだという。
彼女と実際に話した私なら分かる。
話し合いができていれば、この森で育つ恵みを分け与えてもらえ、共に共存ができたのだと。
言い伝えられた伝承が、いかに人族にいいように書き換えられていたかを知らされることになった。
この数日で教えられたこれだけの事で、この大陸に来た甲斐があるというものだった。
私のこの手記が国に届いた時、国はどの様な対応を取るかはわからない。不都合により、抹消されるかもしれない。
ただ、この大陸に帰還を望むのならば……彼女達トレントとの話し合いのテーブルにつく、勇気と覚悟が必要なのは理解していただきたいものだ。
そんな彼女らが、今日も今日とて私のところに顔を出してくれる。食料と燃料を持って。
おかげで不自由の無い生活を送れている。
今では、姫以外のトレントを個々で識別でき、コミュニケーションが取れるようになった。話すことができるわけではないが、何故か意思疎通ができている。
挨拶をすれば、スチャっと手を挙げて答えてくれる。その姿に愛着すら湧いてきている。
これから、この大陸の生態系を調べるにあたり、彼女らの力は必然的に必要となるだろう。
私は今以上に彼女達と友好を深め調査していきたいと思っている。
《補遺一》若木のトレントについて
トレントと一口に言っても、さまざまな個体がいる。
私は、最初見分けがつかなかったが、観察を続けるうちに個性があることが分かった。
私が最初に覚えたのは、姫に随伴していた五体のうち、最も背の低い個体である。
幹はまだ細く、葉の量も少ない。動きは拙く、歩き方も少し子供のようによろよろしている。
歩くたびに根が地面に引っかかり、小さな音を立てていた。年若いトレントであることは疑いようがない。
このトレントは若者特有の好奇心を持っているのか、私の生活を興味深そうに観察してくるのだ。
そんな中、興味深いことがあった。この個体が私の焚き火を極端に避ける点である。
興味があるのか近づいてくるが、燃料として与えられた枯れ枝を火にくべると、必ず一歩後退し、幹をわずかに傾ける。
恐怖というより、判断を保留しているような態度に見えた。
一方で、別の少し大きく先輩とみられるトレントは、炎を覗き込み、燃える音に合わせて枝を揺らした。火が彼らにとって一様に「敵」ではないことだけは確かであった。
姫にこの違いについて尋ねたが、彼女は答えなかった。
ただ、「木にも性格があるのじゃ」と微笑んだだけである。
《補遺二》トレントの沈黙について
トレント達は言葉を話さない。少なくとも、人の言語を用いることはない。
それにもかかわらず、私は彼らと意思疎通ができている。
最初は錯覚だと思った。
だが、水を求める視線、立ち入りを拒む動き、警戒を解いたときの緩やかな揺れ……それらは偶然にしては一貫しすぎている。
最初から意思疎通ができたわけではない。
最初の頃、彼らは「即答」をしなかった。
何かを求めても、トレントは必ず最初に沈黙をしていた。その沈黙は短い時もあれば、日を跨ぐこともあった。
人族であれば無視と受け取られるだろう。
しかし彼らにとって沈黙とは、思考の時間だったみたいだ。トレントの中には初めて人族を見た者もいたのだろう。
トレントは自分たちの思考時間が人にとって長く感じるとは思っていなかったようだ。
それが分かってから、私は不用意に答えを急ぎ求めなくなった。
しかし、彼らも人という生き物を理解したのか、トレント達の反応は段々と早くなってきていることをここに記録する。
魔物データNo. FA-001(改訂)
種族名:トレント
種族:植物系精霊種
寿命:不明(現存個体で500年以上)
身長:最大種200m超
通称:〝ガーランド大陸の覇者〟〝管理者〟
特記:ガーランド大陸の支配種。人族が〝ガーランド大陸〟を捨てる要因と言われていた。高度な社会性と意思疎通能力を持つ。武力・魔法耐性ともに高いが、基本的に寛容。
トレント達との衝突は、無秩序な伐採行為に起因する可能性が高い。最優先事項は交渉であり、敵対行動は自滅に等しい。
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