ファートン魔物記 ― ガーランド大陸におけるある調査員の記録 ―

#Daki-Makura

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マンドラゴラ クソッタレの小悪魔

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 魔物データNo. FA-019
 種族名:マンドラゴラ
 種族:植物系魔物
 寿命:不明
 身長:10~20cm
 体重:300~500g
 通称:〝クソッタレ〟あるいは〝クソッタレの悪魔〟
 特記:小さき悪魔。見つけ次第倒すべき存在。叫ばせるな。やられる前にやれ。

▲▲▲

 マンドラゴラ。
 いつの頃からか、俺たちはあいつらを畏怖を込めてこう呼ぶ様になった〝クソッタレ〟と。マンドラゴラは引っこ抜かないと叫ばない?そんなのおとぎ話だ。あいつらは気がつけば足元にいるんだ。小さい身体を活かして忍び寄ってくるんだよ。朝昼晩なんて関係ない。そして一回叫べば全てが終わる。全てが吹き飛んで、はい終わり。

 なんだよ!! 〝ヌボォォォォォォォ!!〟って……

 それをトレント共が……トレント共が……大量に投げ込んできやがったんだ……あれは悪夢だった……あれは……あれは……地獄だった……。

 わかるか? 降って来るんだよ!〝ヌボォォォォ〟って空から!
 〝ヌボ……ォォォォ〟って………………
 〝ヌ……ボ……、ヌボ……ォォ……〟っt……

 あぁぁ!あぁぁぁぁぁ!!!あいつが来る!あいつらが飛んでくる!!空から降って来る!!逃げないと……逃げないと……逃げないと……
 
 〝ヌボォォォォ〟って悪魔が降って来る!!

 将軍へのインタビューは、将軍の錯乱により医師の決定でここで中断されました。

 シテヨ共和国軍将軍 ダンテ談
 滅亡したシテヨ共和国で発行された新聞内記載
 
▲▲▲
 
 私がこの大陸に住み、すでに数ヶ月が過ぎている。そんな中、私は奇妙な共同生活を始めていた。それは森の中の小人だ。最初、森の中を歩くと、必ずと言っていいほどこの小さい生き物に出会したでくわした。その姿は街にいる子供の様だが、私の広げた手のひらサイズしかない。そんな彼らはとても友好的で、私の頭や肩に乗ったり、足元にまとわりついては森の中を案内してくれるのだった。不思議なことに、これらの後をついていくと、なんの問題も無く目的地に辿り着くのだ。

 この愛らしい小人が……〝クソッタレ〟と呼ばれるマンドラゴラだったとは……。
 姫に生暖かい目で、「また、ずいぶん変わったモノ共に好かれたようじゃな」と言われた時、私は何を言われているのかわからなかった。
 それがマンドラゴラと知らされた時、私は恐怖に慄き……不甲斐なくも腰を抜かしてしまったのだ。

 しかし、それからもマンドラゴラ達は私にまとわりついてきた。恐怖で震える私などお構い無しに。私の何が気に入ったのかはわからないが、ここまで一緒にいると嫌でもわかる。彼らが善良で、おとぎ話の中の様に怖い存在ではないと。今では何体ものマンドラゴラが私の住居に住み着いているのだ。

 朝、日が登る頃、彼らは私を起こしに枕元にやって来ては〝ヌボォォォォ~〟と奇妙な声をあげて起こしてくれる。この叫びこそがマンドラゴラが恐れられる理由となる〝滅びの叫び〟なのだが、なんとも間抜けな叫び声である。最初の頃こそ毎度飛び起きたが、今では気持ちの良い目覚めを運んでくれている。
 
 寝床から抜け出し近くの井戸へ顔を洗いに行くと、彼らも当然ついて来て、そして水をかけてくれと毎度強請んでくる。不思議なのは自分たちだけで水浴びはせず、桶に水が入っていても必ず私にかけてくれと強請んでくる。仕方なく桶から掬って水をかけてやると、喜んで小躍りをするのだが、その姿がまた愛らしいのだ。

 普段午前中は、集めた魔物の資料をまとめているのだが、その時の彼らはおとなしい。何体もいた彼らも、いつの間にか数体だけを残して姿を消すのだ。
 
 一度、不思議に思った私は、彼らを探してみると、住居の屋根に膝を抱えて座っているのを見つけた。皆で固まり、日の光を浴びて緩んだ表情で座っていたのだ。人の姿(小人だが)と言えど、やはりマンドラゴラは植物系の魔物なのだと再認識したのだった。

 そうこうしているうちに昼を迎え、昼食を終え今日の探索の準備を始める頃、彼らは住居へ戻って来るのだが、ソワソワと落ち着きなく纏わり付いてくる。探索に誰を連れていくかを決めろと催促しているのだ。今でこそ数個のグループに分け、順番に連れて行っているのだが、それでも居残り組はなかなか離れてはくれない。
 
 最初の頃は本当に酷かった。全員でついてこようとするのだが、全員が私の肩や頭に乗ろうとしたのだ。流石に鬱陶しすぎて遠慮してもらう様にお願いしたが、今度は誰がついていくかで争いだしたのだ。危うく居住スペースが丸ごと吹き飛ぶところだった。仕方なく〝くじ引き〟にしたこともあったが、何が気に入らなかったのか喧嘩を始める始末だった。結局、グループ分けでの当番制となり、担当のマンドラゴラ達が私の肩、頭、背嚢の上に座り、やっと出発ができるようになるのだった。

 探索時に進む方向は基本私が決めているが、細かいルートは彼らが指示してくれる。ありがたいことに私の言うことを理解しているらしく、観察したい魔物の所や、行きたい場所へ的確に辿り着き、迷ったことがない。

 だからと言って危険が無いわけではない。
 
 かなりの確率で魔獣の襲撃に遭うのだ……。その瞬間、彼らは最強の用心棒へと変貌する。この小さく可愛らしい姿からは想像できないくらいに。どれくらいか?私が魔物の襲撃を認識する前に終わっているのだ。

 〝ヌボォォ!!〟

 突然耳元で響く声に驚き、叫んだマンドラゴラがいる方向を見ると、円形に貫かれた様に空間が生まれているのだ。初めは何が起こったのか分からなかったが……ある時、魔物の足が残っているのを見て全てを理解できた。襲撃されていたのだと。
 最初の頃は叫ばれるたびにひっくり返っていたが、今は「あ、襲撃だった?」と普通に先へ歩みを進めている。これが慣れだと思うと恐ろしく思う。ただ一つ、耳元で叫ばれているのに自分には何も影響が無いことは、調べるべきことだとは思っている。

 この大陸に来てまだ日が経っておらず、大陸の全容を分かっていない私は、基本的に住居スペースを中心に活動している。日没の前に居住スペースへ戻っているのだが、戻ると居残り組が小踊りで迎えてくれる。最初の頃の一人で生活していた頃に比べると、賑やかすぎるが寂しさは無く無事に戻れた喜びを噛み締めている。

 そして就寝時間。
 住居内の灯りは暖炉の火のみ。残念ながら光源となる油の入手方法を知らない私は、夜間に何かをする気はなくすぐに寝ることにしている。そうすると住居内のマンドラゴラも就寝の準備を始める。彼らの寝具は調査隊が置いて行ったコップや深皿である。最初に一体のマンドラゴラが私のもとへコップを持ってきて土を詰めさせた。その姿を見た他のマンドラゴラ達も容器を探しては持ってきて土を詰めさせた。しかし、今住んでいる数には容器の数は足りず、つたないなりに私自ら作成したのだった。今のところ文句は出ていないので満足してくれているのだろう。

 彼らはそれぞれの容器の土の中へ器用に潜り込む。頭の葉っぱ部分だけを残して潜り込むのだが、最初は呼吸ができているのか?大丈夫か?と思ったが、どうやら口で呼吸をしているのではないみたいだ。まだまだ魔物達には未知なことが多いようだ。

 このようにして、私と奇妙な同居人の一日は終わっていく。賑やかで飽きない日々。この大陸に来てこんな生活ができるとは思っていなかった。今はできるだけ、〝クソッタレ〟と呼ばれ恐れられているこの悪魔……いや愛くるしい小悪魔達との生活が続くことを願っている。


 《補遺一》マンドラゴラの叫びについて

 マンドラゴラの叫びは、一般には〝滅びの叫び〟と呼ばれ、全てを吹き飛ばす。そこに分別などないと言い伝えられている。
 だが、私の観察結果は、その俗説と大きく異なる。

 私が共に生活している彼らの叫びは、少なくとも無差別ではない。
 叫びが放たれる瞬間、度々私は至近距離にいながら、鼓膜の損傷も精神への影響も一切受けていない。むしろ、今となっては目覚ましとして機能しているほどなのだ。

 一方で、襲撃してきた魔獣に対しては、その叫びは即座に致死的な効果を発揮する。
 空間が円形に穿たれる現象から推測するに、単なる音波、音系魔法ではなく、指向性を持った魔力干渉、あるいは空間そのものへの作用する空間魔法なのではないかと考えられる。

 仮説ではあるが、マンドラゴラは「仲間」と「敵」を明確に区別しているのではないだろうか。

 もしこれが事実であれば、彼らは極めて高度な判断能力を有する魔物であり、〝無差別殺戮の悪魔〟という評価は、再考されるべきだと私は考える。


 《補遺二》私がマンドラゴラに選ばれた理由についての一考察

 私の国では、マンドラゴラが人間に友好的であるという記録はない。明確な敵だと言い伝えられていた。そんな中、住居を共有し、行動を共にするなど前代未聞になるだろう。

 私自身、なぜ彼らに気に入られたのかは未だに理解できていない。
 ただし、いくつかの可能性については考察することにした。

 第一に、敵意を向けなかったこと。
 彼らと初めて遭遇した際、私は彼らがマンドラゴラと知らず、武器を取らず、追い払おうともせずに友好的に接した。結果として、彼らは逃げることも、叫ぶこともせず、こちらの反応を観察していたように見えた。

 第二に、彼らを「魔物」として扱わなかったこと。
 その後、マンドラゴラと知っても、私は彼らを子供や小動物に接するのと同じ距離感で受け入れていた。恐怖心はあったが、結果的にそれが彼らにとって無害な存在として認識された可能性がある。

 第三に、大陸そのものとの関係性。
 私はトレントの姫より、この大陸での滞在を許可されている。
 もしかすると、マンドラゴラは大陸に根を張る植物系魔物として、
 「この地に拒まれていない人族」だと、本能的に感じ取ったのかもしれない。

 最後に、最も考えたくないが否定できない仮説として、彼らが私を「保護対象」として選んだ可能性である。
 探索時、彼らは私が危険を認識するよりも先に敵を排除する。それは護衛というより、幼体を守る行動にも近い。力を持たない私は赤子で、彼らは親心で寄り添っているのかもしれない。

 もしこのどれかの仮説が正しいとしても、私が彼らに気に入られたのではなく、彼らに〝選ばれた〟のだと考えるべきなのだろう。

 いずれにせよ、この関係性がいつまで続くかは不明である。
 私は今日も彼らを観察し、記録し、不用意に裏切らぬよう振る舞うしかない。
 

 魔物データNo. FA-019(改訂)
 種族名:マンドラゴラ
 種族:植物系魔物
 寿命:不明
 身長:10~20cm
 体重:300~500g
 通称:〝クソッタレ〟あるいは〝クソッタレに悪魔〟、〝クソッタレの小悪魔〟
 特記:子供のような容姿。気がつくといつの間にか側にいる。愛嬌があり嬉しいと小踊りする。恐れられているのが嘘のようだが、攻撃力は凄まじい。〝ヌボォォォォ!!〟っと叫んだだけで大抵の物は吹き消せる怖い存在である。
 ちなみに、〝クソッタレ〟〝クソッタレの悪魔〟と通称をつけたのは、すでになくなった国の兵士達と言われている。

 
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