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命懸けの美食 チャージダック②
しおりを挟む私が乾いた肉を見つめていると、悪魔が囁いた。
ーまだ誰も、この大陸で“卵を狙っていない”ーと。
しかし、この時の私は、トレントが容易く持ち込む魔物を、所詮は絶滅したと書籍の中だけで語られる存在だと信じ込み、無自覚に侮っていた。
そして今……私はほうほうの体で逃げ帰ってきていた。
全身を土と落ち葉まみれにしながら。
事の発端は、私が〝突撃兵〟の卵を取りに行こうと考えた、その軽率な判断だった。
私は早速〝突撃兵〟の卵を取りに行くことにした。
道案内のトレントに護衛のマンドラゴラ。
彼らがいれば問題なく卵を入手できると思っていたのだ。
マンドラゴラ達には、叫びすぎないように注意するのを忘れなかった。彼らが本気を出せば、卵どころの話ではなくなってしまうからだ。
森を進むにつれ風景が、木々から竹へと変わっていく。
どうやら〝突撃兵〟は竹林を好み生活しているようだ。
卵ばかりが有名になり、〝突撃兵〟の生態についてはあまり記録に残っていない。
これは、卵を独占したい貴族、冒険者が記録を残さなかったと考えられる。
竹林に入り、少し進んだ時である。
遠くの方でひょっこりと顔を出したモノがいた。
紛うことなき〝突撃兵〟……資料の挿絵で見た通りの顔つきだった。
その〝突撃兵〟が「グワァ」っと短く鳴くと、草むらの中から同じ顔がニョキニョキと飛び出してくる。
そして、その無数の目が私を捉えたのだった。
資料の挿絵からは伝わってこなかった鋭い目。
私は一瞬だけ足を止めたが、深呼吸を一つして再び歩みを進めた。……のだが、その鋭さは伊達ではなかった。
「グワァァァァ!!」
その一鳴きで、世界が弾けた。最初、何が起きたのか理解できなかった。
右肩に乗っていたマンドラゴラが〝ヌボォ!!〟と短く叫んだ、その直後……私は無様にも地面に倒れ込んでいたからだ。
倒れたまま空を見上げ、ようやく理解することができた。
〝突撃兵〟達が、縦横無尽に飛び交っていたのだ。
それはまさしく突撃と呼ぶにふさわしい光景だった。
凄まじい速度。目で追うのも困難なほどだ。
さらに、彼らは想像以上に器用だった。
突っ込んだ先の竹のしなりを利用し、その反動で次の突撃へと繋げている。
避けたと思った瞬間、別方向から別個体が飛んでくる。
決して竹には突き刺さらない。
――勝てる気がしない。
私は悟った。
例えマンドラゴラやトレントがいても、助かる未来がまるで想像できない。彼らが無事でも、私はそうもいかないと。
次の瞬間、私は尊厳を捨てた。
身体が土や落ち葉で汚れることなど気にも留めず、這いつくばって逃げ出したのである。
その後も、私は何度か卵を採りに行った。
そしてその度に、〝突撃兵〟を前にして無様に逃げ帰った。
一度も、例外はなく。
〝突撃兵〟の卵にまつわる逸話は、どうやら誇張ではなかったようだ。ならば――その卵のおいしさも、また真実なのだろう。
どうしても、食べたい。
その衝動だけが私を突き動かした。
私は作戦を変え、遠くから彼らを観察することにした。
その結果、これまで知られていなかった〝突撃兵〟の生態が、少しずつ見えてきたのだ。
彼らの群れは、数匹のメスを中心に、多数のオスがそれを守る構成を取っている。
そして……基本的に突撃してくるのは、オスのみである。
ではメスはというと……逆に驚くほど動かない。
だからといって、卵を温めているわけでもない。
巣の中で卵を横目に、オスから餌を貢がれているのだった。
餌を探すのも、卵を温めるのも、外敵へ突撃するのも、すべてオスである。
トレント達が持ち帰る〝突撃兵〟が毎度オスだったことも、遭遇する確率がオスの方が圧倒的に高かった……それだけだったようだ。
そこで私は、一つの仮説を立てた。
オス達が突撃行動を行っている間、〝卵は無防備なのではないか〟と。
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