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一章

二十四話 声援

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「では、一時間後を楽しみにしているぞ。」

そして、アナウンスは終了した。
…どういうことだ?もう魔王軍の侵略が始まったのか?それにしても…風神雷神兄弟を引き換えなんて…

「アサヤ…どうするの?」

リナさんが小声で喋りかけてきた。

「リナさん、個人的にはどうしようも出来ないような気がします。」

「確かに、そうね。風神雷神兄弟を手放すと戦争に負ける確率が高くなる。でも、トルンタルタ王国を手放すことは絶対に出来ない。全く、魔族というものは酷いものね。」

「そうですね。」

だが、どうする?民衆のことだ。錯乱してカリブ兄弟を捉えようとするんじゃないか?どうしたらいいんだ…

「あ!国王様!」

「!」

民衆の一人が言った。
そして、緑色の服にサンタクロースのようなもじゃもじゃヒゲの男が現れた。

「風神雷神兄弟よ…。」

「わかっています。国王様。どうぞ、私達を捕らえてください。」

「いや!違う。君たちに、この国を守ってもらいたい。」

「!!。で、ですが!」

「いいのじゃ。この国の民は皆それを望んでいるじゃろう。」

国王は威厳を持ってそう言う。

「そうだ!この国を守ってくれ!風神雷神兄弟!」

民衆の一人が声を上げた。

「そうだ!守って!」

「カリブさん!守ってください!」

そして一人の声が、大声援と変わって言った。

「…分かった!俺たちがこの国を守ろう!」

「ワー!!!」

そして、拍手が湧いた。
人に頼られるとすぐに性格が変わるな。この兄弟。

「と、いうことだ!リナ、力を貸してくれ!」


「ふー。分かったわ。」

リナさんはため息をひとつ付き、それに合意した。
なんで、俺は呼んでくれないんだろうな?



「と、いうことで、敵艦内に侵入して、ジークフリートを倒す。そう言う作戦でいいか?」

「ええ。そうしましょう。」

カリブ兄とリナさんが十五分相談した結果こうなった。
住人はトルンタルタ城に全員避難した。そして、結局戦力に加えて貰えなかった俺は、住人の誘導役ということで住人を避難させていた。
なんで、俺を最前線で戦わしてくれないの?ってすごく言いたかったよ!本当に!
だが、そんな俺に奇跡が起きた。誘導中にトルンタルタ国王に、

「君は行きなさい。我慢してもらいたくない。」

と言われ、戦うことを許されたのだ。

「あ、ありがとうございます!」

俺はお礼を言い、あとをトルンタルタ国王に任せて三人の元へ向かった。

「おーい!」

「「「!?」」」

みんなびっくりしていた。

「な、なぜここにいる!?」

カリブ兄は尋ねる。

「そりゃ、俺戦えるからですよ!」

「バカ言え!相手は魔人だぞ!貴様が太刀打ちできる相手ではないのは承知のはずだぞ!」

カリブ兄は怒鳴る。
太刀打ちできないのは承知していないけどな。

「まって!アサヤは戦力になるわ!私が保証してあげる。」

リナさんが俺を庇ってくれた。

「そ、そうか。」

カリブ兄が俺を認めてくれたような気がした。
でも、まぁリナさんの保証付きだったら大体の人は認めてくれると思うけどね。
そして、四人で運命の時を待った。

…ゴーン。

一時を知らせる、鐘の音が沈黙した王国に響いた。
それと同時に、アナウンスが流れた。

「ザー…一時間経った。答えを聞こう。と言いたいところだが、状況を見た感じNOと言わざる得ない状況だな。失望したよ。ハハハ…では、約束通りこの国の侵略、大量虐殺を始めるよ。」

アナウンスが切れ、上空の彼方から何かが落下してくる音が無数に聞こえた。
なんだ?この音…

ドゴン!

大きな地響きと共に、八体の魔人が出現した。皆、ニヤニヤしている。
魔人ってみんなあんな顔なのかな?というより、これから本当の戦いが始まるな。

「始まるぞ!」

「そうだね、兄貴!」

「ええ!」

「はい!」

みんな拳を強く握る。
俺にはわかる。これから、始まるのはただの戦いじゃない。命をかけた死闘ということが!
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