怪しい二人 美術商とアウトロー

暇神

文字の大きさ
106 / 153
No.8 ふじのやま

File:0 原点

しおりを挟む
 あ~クソ。クソクソクソクソ。マジでクソな気分だ。コミックの新刊が売り切れてやがるとは。あの本屋はいつも客が居ねぇから大丈夫だと思ってたんだが、完全に想定外だ。
 ここ最近のキツイ仕事の連続も、あの一冊が今日発売だって事だけで耐えられてたのに。次の入荷はいつになる事やら……考えるだけで憂鬱だ。
「若。建物内に魔力の反応はありません」
「思ってたより早く済んだな……粗大生ごみの処理だけ頼むわ。俺はここの保管庫行って来る」
「承知しました」
 ボスの話じゃ、ここに保管してある神秘学関連の物品は全部持ち帰って良いって話だったよな。コミックの代わりにはならねぇが、まぁ無ぇよりはマシだ。そこそこ巨大な組織だったし、素晴らしい宝物庫がある事を着たいしよう。
 見取り図じゃ確かこっちの方に……おぉあったあった。マスターキーは既に拝借してるし、早速御開帳と……と考えながら扉へ手を置いた瞬間、少しの違和感があった。俺が扉を軽く押すと、扉はそれが自然であるように開いた。
「空いてたのか?不用心だな……」
 多分、俺達がこの施設に突入した時、ここに誰かが居たんだろう。そして慌ててここから出たせいで、施錠を忘れたとか……いや結構無理あるな。可能性はあるが、それでも結構弱いだろ。しかしまぁ、もうこの建物の中に魔術師は居ねぇんだし、気にする事じゃねぇよな。
 しかし本当に不用心だな。人避けの結界すら無ぇとか、防犯対策どうなってんだ。まぁこの状況じゃ防犯もクソも無ぇだろうけど。さ~てここにはどんな神秘の遺産が……
 と考えながら保管庫に入った俺が、間抜けに「……あ?」と声を漏らしてしまったのは、多分無理も無ぇ事だ。理由は単純。誰も居ねぇ筈の保管室に、何でか人が居たからだ。その女は、絵画を保管庫の壁から外そうとしながら、こちらを見ている体勢で、俺は両手を上着のポケットに入れた状態で固まった。
 なんでここに人が居るんだ?魔力は感じねぇ。魔術師じゃねぇのか?いやだったらなんでこんな場所に居る?一般人ならこの施設に張られた人避けの結界を通り抜けられねぇよな。なら魔術師なのか?いやだとしても……
「……」
「待て待て無言でその絵持って行こうとすんじゃねぇ」
「……」
「仕舞えって言ってる訳でもねぇよ」
 なんだコイツ。殺してやろうか?しかしこの組織の名簿にこんな女は居なかった。一般人か魔術師かも分からねぇ以上面倒な事になりかねねぇ。
「……お前は誰なんだ?」
「……」
「答えろよ」
 俺がそう言うと、女は絵画を恐らく魔道具であろうバッグに仕舞い、メモ帳を取り出した。女はそこに何かを書き込むと、俺にそれを差し出して来た。
「あぁ?え~と……『手話で話そう。無理なら筆談』……用心深いんだな」
 女は反応を示さねぇ。多分、特定の言葉や会話をトリガーにして発動する魔術を警戒してるんだろうな。確かに手話で発動できる魔術ってのは聞かねぇし、合理的か。
『分かった。手話にしよう』
『助かるよ』
『お前は誰だ?』
『……美術商とでも名乗っておこうかな。この絵画が欲しかっただけだ。見逃してくれると助かるんだが?』
『難しいな』
『何故?』
『俺はここの組織を壊滅させに来た』
『私はこの組織の人間ではないよ?』
『怪しい人物って事だ』
 女は考え込むように黙ってしまった。さてどうしようか。ここで殺しても良いんだが、どうも簡単にコイツを殺せると思えねぇ。あと単純にやる気が無ぇ。さてどうした物か……
「あ、若~処理終わったんで撤収……って、え?」
 おっと不味いな。部下が来た。この状況じゃ、俺とこの組織が繋がっていると思われる可能性もある。この女が組織に関係している人間でないと言える証拠は無く、俺とコイツは明らかにコミュニケーションを取っている。
 『どうしようか』……と考えるよりも先に、女は俺と部下の間に割って入った。何考えてやがる?殺されてもおかしくねぇんだぞ?止めなければ。
「おい……!」
「初めまして。彼の部下だよね?」
 は?それを確認してどうするつもりなんだ?どうやって誤魔化すつもりだ?少なくとも俺には、この状況を打破する方法を思い付かねぇ。
 いやしかし、コイツは考え無しに動くタイプじゃねぇ。何か考えがあるんだろう。俺が今できるのは、コイツに話を合わせ、見守る事だ。
「え?あ、あぁそうだが……いや、お前は何者だ?」
「私は彼のオトモダチさ。彼の頼みで、別動隊として動く事になっていたんだ」
「若。事実なんですか?」
「事実だ。ファミリーの中に裏切り物が居ねぇとも限らねぇんだ。ファミリーから独立している、信用できる人間を使う事は決めていた」
「そんな勝手な……第一、一般人の事は信用できませんよ」
「私は魔術師だよ。魔力を隠していただけさ」
 そう言うと、女は隠していたらしい魔力を表に出した。やっぱ魔術師だよな。そうでなきゃ、こんな所来ねぇし。
 だが、俺の部下はまだ納得してねぇ様子だ。面倒臭ぇが……コイツなら、何か考えがあるんだろう。女は仕方が無いと言いたげな様子で、口を開いた。
「信用できないと言うなら、来ると良い。証拠を見せてあげるよ」
「は?ちょっと勝手に……」
「ほら医者に行く前のガキじゃねぇんだ。行くぞ」
 女は保管庫から出ると、施設の更に奥の方へ進んで行った。この方向は確か、モニタールームがあった筈だ。
 それに気付いた瞬間、コイツが言っていた『証拠』が何なのかの想像ができた。そして女がモニタールームの扉を開いた瞬間に、その想像は現実となった。

 モニタールームには、心臓を貫かれた人間の死体が大量に転がっていた。

「これは……これを、貴女一人で?」
「そうさ。私は美術商でね。絵画一枚と引き換えに、彼の依頼を受けた」
 しれっとあの絵画を自分の物にしようとしてるな。しかし、これだけ動いてくれてたんだ。そもそも持ち帰るか否かすら俺に任されてんだ。あの絵画がただの神秘の遺産じゃねぇ事は俺でも分かるが、あれ一枚くれてやる位なら、多分問題無ぇだろう。
「あぁ、その絵画もあるさ。見るかい?」
「いや……結構です。若に、お嬢さん。疑ってしまい、申し訳ありません」
「まぁ気にすんな。状況が状況だったしな。じゃ、さっさと撤収するぞ」
「私は私で道があるからね。ここで一旦お別れだ」
 女はそう言って、モニタールームの更に奥へ進んで行く。俺達も撤収する為、元来た道を辿り始めた。しかし俺の部下は女の方を振り返り、口を開いた。
「お嬢さん!最後に、お名前を聞いても?」
 女はこちらへ振り返り、軽く微笑みを浮かべて、その問いに答える。

「ソフィア・アンデルセン」

 時計の針が、一つ進んだ気がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

ユニークアイテムな女子(絶対的替えの効かない、唯一無二の彼女)「ゆにかの」

masuta
キャラ文芸
恋と友情、そして命を懸けた決断。青春は止まらない。 世界を股にかける財閥の御曹司・嘉位は、U-15日本代表として世界一を経験した天才投手。 しかし、ある理由で野球を捨て、超エリート進学校・和井田学園へ進学する。 入学式の日、偶然ぶつかった少女・香織。 彼女は、嘉位にとって“絶対的替えの効かない、唯一無二の存在”だった。 香織は、八重の親友。 そして八重は、時に未来を暗示する不思議な夢を見る少女。 その夢が、やがて物語を大きく動かしていく。 ゴールデンウィーク、八重の見た夢は、未曾有の大災害を告げていた。 偶然か、必然か……命を守るために立ち上がる。 「誰も欠けさせない」という信念を胸に走り続ける。 やがて災害を未然に防ぎ、再びグラウンドへと導く。 その中で、恋もまた静かに進んでいく。 「ずっと、君が好きだった」告白の言葉が、災害と勝負を越えた心を震わせる。 それぞれの想いが交錯し、群像劇は加速する。 一人ひとりが主人公。人生に脇役はいない。 現代ファンタジーとリアルが交錯する青春群像劇。 本作は小説家になろう、オリジナル作品のフルリメイク版です。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

処理中です...