怪しい二人 夢見る文豪と文学少女

暇神

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#1 ひとりかくれんぼ

箸休め 二人の日常

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 窓から朝日が差している。

 俺は耳元で鳴っているスマホのアラームを切ると、ゆっくり上体を起こした。
 俺の名前は八神蒼佑やがみそうすけ。ここ、岩戸探偵事務所で働いている、一応小説家だ。
 小説家とは言いつつ、稼ぎの多くは経営しているブログや、片手間程度の株取引から出ているので、小説家と言っていいのかと思ってはいる。
 だが、小説家という職業は、中坊の頃からなりたいと思っていた職業なので、俺は小説家と名乗る事が多い。
 俺はこの事務所で、家事、雑用全般を担当……というか押し付けられている。
 なので、俺は自然と早く起きなければならなくなる。
 まず、朝食の準備に取り掛かる。
 今日の朝食は、甘い出汁巻き卵、味噌汁、漬物、納豆、白米である。因みに節約の為、事務所で育てられる物は事務所で育て、事務所で作れる物は事務所で作る事になっているので、今日の味噌汁に入っているもやしや、おかずの漬物、納豆でさえ、この事務所で作られている。
 朝食が出来た所で、この事務所の主であり、俺にこの事務所の雑用を押し付けた張本人、岩戸咲良いわとさくらを起こしに行く。
「せんせ~朝ですよ~起きてくださ~い」
「ううん……あと二時間だけ寝かせておくれよ……ぐう」
 毎朝こんな調子で困ってしまう。これで良家のお嬢様だと言うのだから驚きだ。
 だが、今日は秘密兵器があるのだ。これがあれば、寝起きの悪い先生でも、必ず起きてくるのだ。
「今日の朝食は先生の大好きな、甘い出汁巻き卵ですよ~。冷めない内に頂きましょう?」
「それを早く言わないか!」
 飛び起きた。ちょろい。
 先生は出汁巻き卵が大の好物で、朝食にそれが出ると分かれば、飛び起きるのだ。
 だから仕事の翌日は、ご褒美の意味も込めて、決まって出汁巻き卵が朝食に並ぶ。
「早くしたまえ、八神くん!」
 いつの間にか食卓に座っていた先生は、早く朝食をよそってくれと俺に催促してくる。
「はいはい、アンタがそれを言うんですね」
「冷めない内に、と言ったのは君だろう? そんな事よりも早くしてくれ」
 食卓に朝食を並べ終えると、すぐさま彼女は「いただきます」と言い、朝食を口に放り込み始める。みるみるうちに皿から食べ物が消えていく。
 一度に口に物を放り込んだからか、先生は咽てしまった。
 水が入ったコップを差し出すと、先生はそれを俺の手から奪い取り、喉に詰まった物を流し込む。
「ふう……助かったよ、八神くん。」
「そこまで美味しそうに食べられて悪い気はしませんが、喉に詰まらせないよう、気を付けてくださいね?」
「君のご飯が美味しいのが悪い!」
「んな横暴な!」
 そんなやり取りをしている内に、先生はまた食べ始めた。その大きい訳でもない腹の一体どこに入っているのか、とても不思議だ。
 先生は、食事に手を付けていない俺を見て、「ほら! 八神くんも食べたまえ!」と言い出す。
 俺はその言葉に促されるまま、自分で作った朝食を食べ始める。
 十分くらいだろうか。俺達は朝食を食べ終わり、先生はテレビで朝のニュースを見はじめ、俺は朝食の皿洗いを始める。
 皿洗いも終わり、一息ついたところで、先生が天気予報が見ている事に気付いた。
「八神くん、今日は午後から降るらしいぞ」
「じゃあ、午前中に買い物を済ませておきましょう。ついでに洗濯物も取りに」
 そう言いながら、手に取ったチラシを見て、俺は息を飲んだ。
 タイムセール……それも『お肉お一人様一パック百五十円』だと!? それだけではない! 『卵お一人様一パック五十円」まで開催されている!
 開始時刻は十時~十一時、今は九時五十分、走れば間に合う!
「先生! 行きますよ!」
「どうしたのだ、八神くん!?」
「タイムセールです!」
「はあ!?」
 そして俺達は、事務所を飛び出した。

 走ること十分、タイムセールには間に合った……
 卵もお肉も、まだ残っている!
 「おお……」と、思わず感嘆の声が漏れる。
 俺はそれらを買い物カゴに入れ、ついでに切れそうになっていた、醤油、みりん、塩、砂糖も買った。
 とんでもない達成感だ……まるで子供の頃、初めて初詣まで起きていられた時の様だ。
「や……八神くん……」
 あ、先生がいつの間にかぐったりしている。日頃の恨みだ。ざまあ。
「洗濯カゴは……どうしたんだい?」
「……あ」
 この後、俺達は急いで事務所に戻り、洗濯カゴを持って、コインランドリーに行ったのだが、流石に先生が洗濯物を取りに行く事はなかった。

「全く……酷い目にあった……この落とし前はいつかつけてもらうぞ! 八神くん!」

「今回はすみませんでした。お詫びに、昼食は少し豪華にしますので」
 事務所に帰って来た俺は、いきなり外に連れ出した上、十分も全力で走らせた事でご機嫌斜めな先生を宥める事に心血を注いでいた。
「大体君はそんな所があるよねえ!? 人の都合も考えず、いきなり外に連れ出すだなんて! あと豪華にするのは夕飯にしてくれ」
「いや本当に申し訳ない……」
 その後、昼食をラーメン、ついでにチャーシュー多めにした事で、先生の機嫌は良くなったらしい。
 尚、「夕飯も必ず豪華にすること!」と言っていた。やはりちょろい。

 昼食の後、俺には時間に余裕が生じる為、俺はブログの更新や、株の確認、そして便宜上本職の、小説を書き始めた。
 先生はと言うと、お気に入りの骨董品コレクションを磨いたり、買いためてあると言う小説を読み始める。
 すると、事務所は静まり返り、俺がキーボードを打つ音と、先生がページをめくる音だけが聞こえる、とても落ち着く空間となる。
 そのまま特に何も起きぬまま時間が過ぎ、日が沈んだ頃、俺は夕飯を用意し始め、先生は風呂掃除をするため、風呂場に向かう。
 風呂掃除が終わった先生が「今日は何かな?」と、目を輝かせて言うので、少し意地悪をして、「何でしょう? 当ててみたらどうです?」と答えた。
「教えてくれてもいいんだよ?」
「『教えてお兄たま』と言ったら教えて上げますよ」
 少し冗談を言っただけなのに、彼女は黙って、いつも座っている椅子に向かった。よっぽど嫌だったらしい。ざまあ。
 少し経つと、『お風呂が沸きました』という、聞き慣れた音声が流れた為、先生は「お風呂お先に頂いてるよ~」と言って、風呂場に行った。長いことこと共同生活してて何だが、異性が一つ屋根の下に居ると言うのに、何の警戒もしない先生って結構危ういのでは……?
 そんな事を考えている内に、夕飯が出来上がったので、俺はそれを皿に盛り付け、少しニュースを見ながら先生が風呂から上がるのを待つ。
 少し待っていると、先生が風呂から上がって来た。
「よーし! 次は夕飯だ! 今日の献立はなんだい?」
 ふっふっふ……聞いて驚け見て轟け……
 俺が運んできた料理を見るなり、先生は「八神くん……正気か?」と言ってきた。
「今日の献立は……! ハンバーグだあ!」
「なっ! 何~!?」
 ハンバーグ程度で何を大袈裟な……と思った事だろう。しかし、金欠の我が家ではここまで肉らしい肉料理は中々出せないのだ。今日安売りだったのが偶然にも牛挽肉だった上、仕事の翌日ということでいつもより懐が温かくなっているので、今日の夕飯はハンバーグにしてやろうと思ったのだ。
 先生は、中々出ないハンバーグに目を輝かせている。
 我慢できないと言った風に「いただきます」と言い、まず副菜を食べ切り、いよいよお待ちかねのハンバーグを口に運ぶ。
 先生は満足そうに頷くと、もう一切れ、もう一切れと言った具合に、ハンバーグを食べ進めていっている。
「やはり万人に愛される肉料理とい言えばハンバーグだな」
「美味いですもんね」
 そんなやり取りをしている間にも、先生の皿のハンバーグは見る見るうちに減っていく。
 やがて先生の皿が空になると、まだ足りなかったのか、少ししょんぼりしてしまった。
 俺は「はあ……」と溜息を吐くと、残っていたハンバーグの半分、元の大きさの三分の一を先生の皿にくれてやった。
「いいのかい!? ありがとう!」
「先生がそれはもう美味しそうに食べて貰えるので、こちらも気分が良いんですよ」
 すると、そのハンバーグもあっという間に無くなり、俺も丁度食べ終わったので、二人一緒に手を合わせ、「ごちそうさまでした」という。
 その後、俺は風呂に入り、先生はテレビでお気に入りの番組を見ている。
 俺は風呂から上がると、pcを開き、作業を始める。
 そのまま暫く経ち、いつの間にか時計の針は十一時を回っていた。
 そろそろ寝る時間だなと思い、先生に声をかけようとするが、こちらはいつの間にか寝落ちしており、俺は自分の寝室に向かう前に、先生をソファに寝かせ、毛布をかけた。
「おやすみなさい、先生」
 俺も自分のベッドに寝転がり、電気を消した。

 やがて俺は、襲い来る眠気に身を任せ、深い眠りについた。
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