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ちょっとした非日常の物語
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教室に入る。浮かれたクラスメイトと、四色それぞれのハチマキが目に入る。
今日は体育祭の当日だ。皆、自分の体操着に着替え、それぞれの陣営のハチマキを着けて、この後の戦いに備える。自分の組を勝たせるべく、皆、自分自身を鼓舞する。
これから行われる競技に向けて、準備体操を始める人も居れば、友人と語り合って談笑している人も居る。まあ殆どの人は、この一年にたった一度しか無い行事に、胸を躍らせている事だろう。
無論、僕もその一人だ。僕は自分の体操着に着替え終わり、教室に戻り、体育祭の話を始めた。
「ついにやって来たな!この時が!」
「そうだね。振り付け、ヒッキーもギリギリ覚えられて良かったよ」
「この一か月、苦労したぜ……」
ヒッキーは遠い目をしながら、これまでの事を思い出している様子だった。僕はその様子が面白くて、少し吹き出してしまった。
しかし、本当にこの一か月、それはもう苦労した。放課後の練習だけじゃ足りなかったヒッキーは、部活が終わったその後、そして予定が無い休日までも、僕と練習をする事にした。それでも中々覚えきれなかったヒッキーは、結局リハーサルギリギリになって、なんとか覚えられたようだった。
「感謝してるぜハル」
「どうって事無いよ。僕ら親友だろ?」
「ありがてえ……後光が差して見えるぞ……」
そんなにか。感謝されるのは嫌いじゃないけど、そこまで言う事なのか。まあ、分からない部分を教えてくれるのはありがたい事だ。実際勉強とか教えて貰えるのはありがたかった。
体育祭は午前の部と午後の部の二部に別れている。午前は基本全員参加の競技で、午後はリレーを除いて、選ばれた生徒だけが参加する競技に別れているらしい。因みに、僕は午後の競技に出る予定は無いので、楽そうで助かる。
「そう言えば、ヒッキー手袋持って来た?擦り剥くから綱引きの時は着けろって……」
「……あ」
やっぱりね。まあ代わりを持って来た訳じゃないんだけども。
「どうしよう」
「仕方無いし、誰かから借りれないか聞いてみれば?持って来てるでしょ」
この後、社交的なヒッキーが手袋を借りて来るまで、然程時間が掛からなかったのは、言うまでもない事だろう。
よく晴れた春空の下、僕ら生徒は、校長先生のお話を聞いていた。
『天気にも恵まれ、気持ちの良い日です。誰も怪我する事の無いよう……』
よくぞここまで話を長ったらしくできる物だ。わざわざ全ての生徒を立たせながらやる事でもないでしょ。どうせ内容も薄いんだから。
だが、そんな事を言えばお呼び出し待った無しで、この長いお話よりも面倒な事になる事は火を見るよりも明らかな事なので、僕は何も言わず、ただぼーっと、時間が過ぎるのを待った。
三分もすると、校長先生のお話も終わり、僕らは準備体操をする事になった。午前も午後もやるのに、これ一回切りとか、自己満足でしかないだろ。まあ無いよりかはマシか。
それも終わると、一旦それぞれの競技に移った。綱引きまでは少し時間があるので、僕らはやっと、教室から持って来るように指示されていた椅子に座り、一息吐ける。
「いよいよ始まったって感じするな」
「そうだね。そう言えば、ヒッキーは借り物競争に出るんだったっけ?」
「そうだぜ。応援よろしくな」
ヒッキーは社交的なだけでなく積極的なので、こういう事にもよく手を出す。中学の時も、生徒会長に立候補して、七票差で敗れて悔しがっていたっけ。積極性があるのは良い事だ。少なくとも、学校からの評価は上がるだろう。僕には無い部分だ。
僕らは『集合しろ』という指示が出るまで、自分達の席で話して、時間を潰した。集合が掛かるまでは、三十分程度時間があるので、僕らは少しだけ余裕を持って話ができた。
「一年!集合!」
教師の合図で、ぞろぞろと席から人が立ち上がる。皆、ほんの少しだけ怠そうに見える。話をしていた所だったのだろうな。ま、僕もそうなんだけど。
しかし、うだうだ言ってもいられない。僕らも椅子から立ち上がり、集合場所に集まる。
「事前に決めて置いた並びに並んで~」
「あれ?こっちだっけ?」
「春樹くんは私の後ろだから合ってるよ」
僕は所定の位置に収まり、綱引きが始まるのを待つ。一年に一度の行事なのだし、頑張ってみよう。
そしてピストルの音と同時に、綱引きが始まった。僕らは腕と足と腰に力を入れて、声を出して、それぞれの方向に綱を引く。少しでも自分の方に進むように、全力で。勝負はたったの三十秒。やってみると一瞬だ。体感ではたった数秒経った後、終了のピストルの音が響いた。
『一回戦は、赤組、緑組の勝ちです』
勝負の結果、一回戦は僕ら赤組と、僕らとは別の組み合わせでやっていた緑組の勝ちだ。二回戦では、もう片方の勝った組、つまり緑組と戦う。この時点で少し疲れるな。だけど負けたくはない。次も勝てるように頑張ろう。
次の準備をする為に、多少時間を置いた後、もう一度僕らは、所定の位置に立った。綱を持ち、ピストルの音を待つ。審判の腕が挙げられ、引き金に指が掛かる。指は引かれ、ピストルの音が再度響く。
再度、僕らは綱を引く。地面と靴が擦れる音が、自分だけでなく、周囲の人達の足元からも聞こえる。僕らは負けじと力を込め、声を張り上げ、相手に対抗する。
もう一度、三十秒。綱を握り締め、それを精一杯引っ張る。体感での、それも精一杯力を込めたその時間は、変わらず一瞬で過ぎ去ってしまう。ピストルが再度宙に向かって撃たれ、僕らはそこで、綱から手を離す。審判が僕らの真ん中辺りに立ち、勝敗を決定する。
一部の人間が手を合わせ、自分達の勝利を神に祈る。僕は目の前の人の背に隠れ、僅かにしか見えない審判の顔を見ながら、その人間の判断を待つ。
一瞬、間が空く。審判は手に持っている旗の内、片方を上に掲げる。その旗の色は、少し色褪せた赤だった。
『第三種目綱引きは、赤組の勝ちです』
周囲から声が上がる。歓喜する声が上がる。僕もそれに混じり、声を出して、両腕を上に揚げる。単純に嬉しい。
その後、次の種目に移る為に、僕らは自分達の席に戻った。まあ、戻ったというのは全体の流れの事で、殆どの生徒は立ち上がって、それぞれの友人と話している訳だけども。勿論、僕もヒッキーと話している。
「綱引きは余裕だったな」
「余裕……まあそうだね」
ヒッキーは手袋を外しながら、僕の席に近付いて来た。どうやら、誰かに借りた手袋は大いに役立ったらしい。僕も席を立ち上がり、取り敢えず木の陰に向かう。
「次何だっけ?種目さ」
「確か二つ空いて玉入れじゃなかったっけ?」
「そうだっけ?」
「質問で返さないでくれよ」
でもまあ、二つ空いていたのは確実だし、多少時間が空くのは嬉しいな。楽しく話が……じゃなくて、少し休む事ができる。
「そう言えば、あの手袋誰から借りたの?」
「隣のクラスの赤城。良い奴っぽかったぜ」
「あれ?仲良かったっけ?」
「いんや~あんま話した事無かったな。でもなんか、『困ってるなら良いよ』みたいな感じでくれたんだよね」
どうやら、本当に気の良い人らしい。僕も今度話してみようかな。人の性格に敏感なヒッキーが、手放しで『良い奴』って言う位だし、本当に良い人なんだろう。そういう人と言い関係を築くのは、僕にとっても得になる。
僕らは次の競技が始まるまで、適当な事を話したり水筒の中身をチビチビ飲んだり、偶に競技をやっている先輩方を応援したりして、適当に時間を潰した。そして暫くすると、また競技が始まった。
「一年!集まってー!」
「お、もう玉入れか」
「手袋置いて来なよ。要らないでしょ」
僕は手袋を置きに戻ったヒッキーを尻目に、集合場所に向かう。中学の頃から疑問だったのだが、わざわざ入場の練習までして、動きを揃える理由って何だろう。揃えた方が何かと便利なのは分かるけど、練習まで必要かな?
玉入れは、本来とても簡単なルールの筈だが、この学校ではそうではないらしい。それぞれの籠を用意して、それにそれぞれの組の色の玉を入れる所までは同じなのだが、それ以上に一つ、面白いルールがある。
『では、各組の代表は、位置についてください』
スピーカーから司会者の声が聞こえると、それぞれの組の集団の中から一人、前に出る。そして係の人間はその人達に、長い竹の棒の先に取り付けられている籠を背負わせる。それぞれの人の組とは違う色の籠だ。
この学校の玉入れの変な所は、正にここだ。先ず、各組の代表が、自分以外の組の籠を背負って、会場を走り回る。生徒は自分達の組の籠を背負った人を追い掛け回し、背中の籠に玉を入れる。つまり、少し鬼ごっこの要素が含まれているのだ。
僕らの組からは、勿論ヒッキーが代表として選ばれた。足は速いし体力もある。選ばれるのは必然だろう。しかし、相手方も陸上部員を選出している。良い勝負になりそうだ。
勝負は一分。審判の腕が再度上に掲げられる。引き金が引かれ、ピストルの音が響く。僕らは一斉に走り出し、玉を拾いながら、自分達の籠に向かう。
しかし速い。陸上部の名は伊達ではないという事か。だが、鬼ごっこの要素があるというだけで、鬼ごっこのように捕まえる必要は無い。僕らは籠に向かって玉を投げ、得点を入れようとし続ける。投げて、外れて、弾かれて、偶に入ってはまた投げて……
そして、終了のピストルの音が鳴った。僕らは玉を投げる手を止め、自分達の待機位置に戻る。
『では、各組、得点を数えてください』
係の人が、それぞれの組の籠から玉を取り出し、宙に放り投げる。僕らはそれに合わせて、加護に入った玉の数を数える。どの組も、ぱっと見では大きく差があるようには見えない。果たして、どこが勝つんだ?
最初に声が上がったのは、青組だった。得点は十八点。そして、その次は僕ら赤組と緑組。十九点。最後まで残ったのは黄組で、なんと二十三点。黄組の人達が喜んでいる脇で、僕らは黄組に拍手を送った。
ああ悔しいな。まだたったの六種目目だけど、それでも少し悔しい。そして楽しい。僕は自分の席に戻った後、またヒッキーと話し始めた。どうやらヒッキーも、多少の悔しさが残るようだ。
「いや~負けちゃったな」
「やっぱり全勝とかは無理だね。今の所は、緑組が一番多いみたいだけど、アレ当てにならないんだよね」
「この時点ではな。それに、最後の方は得点を伏せるから尚更だ」
競技の勝ち負けで得点を入れるらしいけど、今の時点では役に立たないよな。ていうか、ああいうのを出す必要ってあるのかな。運動会で賭博でもする気だろうか。いややっぱり無いな。なんかの法律に引っ掛かりそうだし、何より道徳的な問題もある。
「なあハル、どこの組が総合優勝するか、賭けないか?」
「お前だったのか」
ヒッキーは「え?」と言って首を傾げる。いやまさか、こういう事を誘われるとは少しも思っていなかった。まあ楽しそうだし、乗っかってみよう。
「何くれるの?」
「当てたらジュース一本奢りな」
大した賭けじゃないな。まあ高校生のお遊びだし、こんな物だろうな。僕は今までの競技の様子とそれぞれの得点を考えて、普通に賭けを始める。
「やっぱり緑組かな。運動部の中でも優秀な人が揃ってるみたいな話だし」
「俺は大穴狙いで青組だな」
「ギャンブラーですなあ」
「そうだろうそうだろう」
辺りを見回してみると、やはり友人同士で集まっている人が多く見受けられる。先生の監視がある以上、あまりバカな事はしていなようだ。してくれたら少し面白そうなんだけど。まあやらないだろうな。僕もやらない。
賭けると決まれば、ちょっと競技の方にも興味が湧く。僕らはそれぞれの席に戻り、上級生の奮闘を見届ける事にした。やはり、緑組が有利だろうか。
その後、僕らは午前中の競技を全て終え、昼休みに入った。僕らは教室で弁当を広げ、昼食を食べ始める。
「から揚げ一つちょうだい」
「やだよ三つしか無いんだから」
「ケチ」
「好きに言うが良い。俺は揺らがないぞ」
まあ確かに、三つしか無かったら渡さないか。そもそもヒッキーは、具体的な数が分かっている物は人に渡そうとしないのだ。弁当のおかずとかお菓子とかは特に。元々無理だろうなとは思っていたし、残念でもなんでもないな。
「午後は……ヒッキーは借り物競争あるよね」
「そうだな。面白いお題が当たったら良いんだけど」
「例えば?」
「そうだなあ……魅力的な異性とか?」
僕は「それは良いね」と言って笑う。もしそんなのがあったら、この年の学校行事はとても面白い物になるだろうな。ヒッキーは「もしあったら誰にしようかな」と真剣に悩んでいる様子だ。悩むだけ無駄だろそんな事。
「でも実際、そういうのは見てて面白いだろうな」
「だろ?今年の実行委員がアタリなのを祈るかな」
「アタリなのかな」
ある意味外れじゃないか……そう言おうとして、僕は言葉を飲み込んだ。理由は、教室の外から、部長が僕に手招きしているからだ。僕はヒッキーに「ゴメン。なんか部長が話あるっぽいわ」と言って、少し席を外した。
「何かありましたか?」
「午前終わって、どう思った?」
色々と唐突だな。教室に来たのも問いかけも唐突だ。何の為にそんな事を聞くんだろう。
「まあ……楽しかったです」
「そうか。それは何より。じゃ、俺昼飯まだだから。またな」
部長はそう言って、教室から離れて行った。本当に何だったのだろう。まあ、気にかけてくれてるんだろう。僕はヒッキーの方に戻り、また話を始める。
「何だって?」
「午前終わってどうだったかだって」
「何の為に?」
「さあ」
結局よく分からない人だな。優しいのは確かだけど。まあ、気にする程の事でもないか。僕らはその後も暫く話をして、残り十分程の休み時間を潰した。
午後の部の一番最初には、応援合戦がある。今まで練習した応援の皮を被ったパフォーマンスを見せて、それぞれの出来の良さを競うらしい。
この学校では、三つの部門で優勝が決められる。競技優勝、応援優勝、総合優勝の三つだ。競技優勝と応援優勝は分かるが、総合優勝はどういう基準で決められるのか分からないので、なんか腑に落ちない。
声を出したりパフォーマンスをしたり、各組が趣向を凝らした物をやるので、外から見る分には見ごたえがあるらしい。あと応援の中にある、各組で自由に決める部分は何故か、皆流行りの奴とかをやろうとするので、ここは内側から見ても、少し面白かったりする。
それが終わると、また競技に移る。だが午後の種目で僕が出るのは、組対抗全校リレーだけなので、最初の方は比較的気楽に見ていられるだろう。
「じゃあハル、そろっと行くわ」
「おう。頑張ってな」
「お題何かな」
「そこも含めて、楽しみにしてるよ」
ヒッキーは集合場所に向かって走り出した。午後の一番最初から出番とは、そこそこ面倒そうな役割だ。まあ楽しそうだし良いか。
『第十種目、借り物競争です。皆さん、応援しましょう』
そう言えば、絶対に持ってこれないような物とかが当たったらどうなるんだろう。『無理は嘘吐きの言葉だ』とか言い出したら流石に声出して笑うけど。
選手たちがスタート地点に着く。司会のアナウンスに合わせて、ピストルの音が鳴り響く。選手達は五十メートル先の箱に向かい、お題が掛かれた紙を手に取る。そしてそれを持っていそうな人の所に向かい、審判の所に向かう。
簡単な競技の筈だ。それなのに、選手は皆、悩んでいるように前へ進めない。一体どうしたのだろう。まさかヒッキーが言っていたような、『面白いお題』なのか!?今年の実行委員はアタリだったのか!?
ヒッキーは少し悩んだ末に走り出し、周囲の選手もそれに負けるまいと走り出す。ヒッキーは集まっている観客の方へ向かい、何かを言っている。距離もあって聞こえないが、中々出て来ない。どうやら、相当難しいお題のようだ。他の選手を見ても、誰もお題の物を調達できていないようだ。
暫くして、なんとか見つけた選手が現れる。どうやら黄組のようだ。連れているのは……同じ黄組の女子だと!?どんなお題でそうなるんだよ!?
ヒッキーは仕方が無いという風に、僕ら赤組の方へ走って来た。そしてヒッキーは、自身のお題を叫ぶ。
「この中でぇ!ネカマやった経験がある奴居るぅ!?」
そりゃ出て来ない訳だ。多分この場に居る人全員がそう思っただろう。大多数の人間がその事をカミングアウトするのに、多大な羞恥心と抵抗を抱くだろう。
しかし困った。僕はネカマをしていた訳ではない。このお題で僕はなんの役にも立たない。誰か居ないだろうか。ネカマをしていて、それを晒す事ができるメンタルを持った、都合が良い人間が。しかし、誰も席から立ち上がらない。コレは時間切れ濃厚かな。
そう思った時だった。誰も立ち上がらない集団から、たった一人立ち上がった。多分先輩だろう。誰だろうと目を凝らすと、その人は我らが部長、高橋葵先輩だった。ヒッキーは部長に感謝の言葉を良いながら走り出した。黄組の人に続いて、二番目になった。
そしてそのまま、青組と緑組の選手がゴールに辿り着かないまま、時間切れとなった。これからは各組のお題発表だ。どんなお題だったんだろう。ヒッキーのがアレだし、多分面白いのだろうな。最初に、黄組のお題だ。司会は選手からお題の紙を受け取り、そこに書かれたお題を見る。
『黄組のお題は、『万人受けしない程度の美人』でした!皆さん!拍手をお願いします!』
会場から笑いと拍手、そして少しの非難が同時に起こる。やっぱり今年の実行委員はアタリだ。今年は面白い年になるかもな。
『では選ばれた、二年四組浅山諒子さん!ご感想をお願いします!』
『結構嬉しいです!』
会場のあちこちから拍手が起こる。ていうか『万人受けしない程度の美人』って、結構審判の好みとかに左右されそうな上に、結構シビアな範囲になりそうなお題だけど、よく一発で通したなあの人。
『赤組のお題は、『ネカマをした経験がある人』でした!皆さん!拍手をお願いします!』
しかし、部長にネカマ経験があったとは知らなかった。まああの人について詳しい訳じゃないんだけどさ。ていうかどういう感情であそこに座っているんだろう。表情はよく見えないな。
『では選ばれた、高橋葵さん!ご感想をお願いします!』
『まさかこんな所でネトゲの経験が役に立つとは思わなかった!』
ネトゲやってた事あるんかい!今更だけどかなり面白い人だなあの人!
因みに青組と緑組のお題は、それぞれ『直近一か月で恋人と別れた人』、『幽霊が見える人』だった。うん。こればっかりは運が悪かったとしか言えない。そりゃ言い出せないよな。ていうか緑組のは無理だし。ここで大胆なバランス調整が成された。これじゃ賭け事してる人達大盛り上がりだろうな。
競技が終わって少しすると、ヒッキーが席に戻って来た。どうやら、相当気疲れしたようだった。
「大丈夫かヒッキー」
「なんかどっと疲れた気分だぜ……面白かったけど、当事者からするとキツイんだな」
そうだろうな。まあ僕は当事者じゃないからよく分からないんだけども。
その後も競技は進み、遂に僕ら一年の、組対抗全員リレーが行われる事となった。司会の声がスピーカーから響き、観客と僕らに、残された競技がもう三つしか無いのだと知らしめる。
『次は一年生の、組対抗全員リレーです。皆さん、応援しましょう』
因みに僕は五番目。かなり前の方だ。お陰で早めに出番が終わって、高見の見物ができそうだ。ついでに、ヒッキーはアンカーを任されている。
僕らはグラウンドに、事前に決めていた走順で並ぶ。転んだりとかが無ければ良いんだけど。
もう何回目かも分からない程聞いたピストルの音と共に、第一走者が走り出した。一番前から、緑組、青組、赤組、黄組の順に、この時点で少し差が開く。とは言えまだ第一走者。ここから順位が変わるなんて普通にある。
第二走者では順位の変動は無く、第三走者で青組が緑組を追い越し、第四走者では赤組が緑組を追い越す展開になった。
そして次は僕の番だ。僕はスタートラインに立ち、後ろから渡されるバトンを取る体勢になる。赤組の第四走者が近付いて来た所で、僕は少し走り始める。そしてバトンを受け取ったタイミングで、一気に速度を上げる。前に見えるは青組の人の背中。追い越すまで行けなくても、せめて間を縮めたい。
しかし、そう上手くは行かなかった。なんと黄組が一気に追い返した来たのだ。僕が次の人にバトンを渡す時、既に黄組と赤組は、ほぼ同じ所まで近付いていた。
第六走者。一番前の青組は変わらないが、黄組と赤組はお互い越されまいと走っている。そして緑組も伸びを見せ、少しずつではあるが、前の組の人達との差が縮まって来ている。第七、第八、第九走者と変わらなかったが、第十走者で、遂に動きを見せた。
バトンが渡され、後半分という所で、青組の走者が転んだのだ。青組の人達から、落胆するような声が上がる。青組の第十走者は素早く立ち上がったが、黄組と赤組に越され、緑組にもかなり近づかれてしまった。
第十三走者。バトンの受け渡しが少しもたついた結果、赤組は黄組と少し差が生まれた。第十七走者。赤組が黄組を追い越した。第二十三走者。緑組が追い上げを見せ、青組、黄組を追い抜いた。第三十五走者。遂に緑組が赤組を追い越した。第四十三走者。赤組が緑組と並び、更に青組も直ぐ後ろに着いた。
そしてアンカー。第五十走者。ヒッキーはビブスを身に着け、バトンを受け取った。緑組の人と並んで走る。青組も追い上げを見せ、前二人に並ぶ。黄組も追い上げるが、間にある差は依然開いたままだ。
そして、ゴールテープが切られる。青、赤、緑の三組がほぼ同時にテープを切った。そして判定は、審判である教師に任される。生徒が息を飲んで、その判定を待つ。数十秒程度間が空いて、審判が判定を言い渡した。
『判定の結果、一着緑組、二着青組、三着赤組、四着黄組になりました』
その結果に、緑組からは歓声が上がるが、その他三つの組からは、落胆の声だけでなく、判定を下した教師への文句の声が上がった。僕も少し、『同着じゃ駄目か?』と思った。
僕らは自分達の席に戻され、後は二、三年のリレーを眺めるだけとなった。
「なあハル、あの判定に納得行くか?」
「正直同着で良いよな。黄組以外は」
「どうせ映像確認とかも無いんだしな~」
とは言え、もう下された結論が覆る事も無く、僕らは少しの不満を抱えたまま、閉会式に進んだ。
閉会式でやる事と言えば、精々が結果発表とそれぞれの組の代表の乾燥発表程度だろうな。後先生方のお話。僕らはさっさと閉会式の配置に並び、早くこの退屈な時間が終わる事を祈った。
『では、校長先生から、トロフィーの授与です。代表は、前へ出てください』
各組の代表が、校長の前に並ぶ。どうやら、校長がそれぞれの賞のトロフィーを、勝ち取った組の代表に渡して、結果を発表する形式らしい。
校長の形式的な「おめでとう」の一言と共に、三つのトロフィーが、それぞれの賞を取った組に配られる。結果は、競技優勝は緑組、応援優勝は赤組、総合優勝緑組となった。この結果に不満そうな人も居れば、満足している人も居る。
トロフィーの授与が終わると、次は各組代表の感想だ。だけど、僕は殆ど上の空で、何を言っていたかをあまり覚えていなかった。覚えていた事と言えば、青組の代表が泣いていた事位だった。
その後、後片付けが終わった僕らは、『さっさと帰るように』と指示を出された。今日は部活も無いので、僕は久し振りに、ヒッキーと一緒に帰る事にした。
日が傾いて来た頃、僕らは軽く教師の悪態を吐きながら、帰路を歩いていた。
「やっぱりあの判定、納得行かねえ!」
「まあまあ。僕もそう思うけど、もう過ぎた事じゃんか」
納得するしないではなく、どういう結果になったかの方が大事な気がする。なってしまった事は、もうどうしようも無いのだから、気にしない方が楽だろう。
「たかが学校行事だし、そこまで気にするなって」
「まあそうだけどさあ……でもやっぱりさあ……」
「そうだよね。まあ気にするなって。どうしようもない事だろ」
結局ヒッキーは、最後まで納得していないような顔だった。僕が「また火曜に」と言って手を振っている間も、ブツブツと何か悩んでいるようだった。
家に入るが、やはり家の中には誰も居なかった。テーブルの上には、やはり置手紙と一緒に、今日の夕飯が置いてあった。
『体育祭行けなくてごめんね 母より』
あの人はいつ休んでいるんだろう。少しはまともに休んだ方が……とは言え、説教できる立場じゃないな。ここまでにしよう。
テーブルに置いてあるソレをよく見た時、初めて自身の状態に気が付いた。なんでだろう。食欲が無いな。コレは明日頂く事にして、今日はさっさと寝よう。風呂は沸いてあるようだし、さっさと入ってさっさと寝よう。
その日はそのまま、課題もせず寝てしまった。
今日は体育祭の当日だ。皆、自分の体操着に着替え、それぞれの陣営のハチマキを着けて、この後の戦いに備える。自分の組を勝たせるべく、皆、自分自身を鼓舞する。
これから行われる競技に向けて、準備体操を始める人も居れば、友人と語り合って談笑している人も居る。まあ殆どの人は、この一年にたった一度しか無い行事に、胸を躍らせている事だろう。
無論、僕もその一人だ。僕は自分の体操着に着替え終わり、教室に戻り、体育祭の話を始めた。
「ついにやって来たな!この時が!」
「そうだね。振り付け、ヒッキーもギリギリ覚えられて良かったよ」
「この一か月、苦労したぜ……」
ヒッキーは遠い目をしながら、これまでの事を思い出している様子だった。僕はその様子が面白くて、少し吹き出してしまった。
しかし、本当にこの一か月、それはもう苦労した。放課後の練習だけじゃ足りなかったヒッキーは、部活が終わったその後、そして予定が無い休日までも、僕と練習をする事にした。それでも中々覚えきれなかったヒッキーは、結局リハーサルギリギリになって、なんとか覚えられたようだった。
「感謝してるぜハル」
「どうって事無いよ。僕ら親友だろ?」
「ありがてえ……後光が差して見えるぞ……」
そんなにか。感謝されるのは嫌いじゃないけど、そこまで言う事なのか。まあ、分からない部分を教えてくれるのはありがたい事だ。実際勉強とか教えて貰えるのはありがたかった。
体育祭は午前の部と午後の部の二部に別れている。午前は基本全員参加の競技で、午後はリレーを除いて、選ばれた生徒だけが参加する競技に別れているらしい。因みに、僕は午後の競技に出る予定は無いので、楽そうで助かる。
「そう言えば、ヒッキー手袋持って来た?擦り剥くから綱引きの時は着けろって……」
「……あ」
やっぱりね。まあ代わりを持って来た訳じゃないんだけども。
「どうしよう」
「仕方無いし、誰かから借りれないか聞いてみれば?持って来てるでしょ」
この後、社交的なヒッキーが手袋を借りて来るまで、然程時間が掛からなかったのは、言うまでもない事だろう。
よく晴れた春空の下、僕ら生徒は、校長先生のお話を聞いていた。
『天気にも恵まれ、気持ちの良い日です。誰も怪我する事の無いよう……』
よくぞここまで話を長ったらしくできる物だ。わざわざ全ての生徒を立たせながらやる事でもないでしょ。どうせ内容も薄いんだから。
だが、そんな事を言えばお呼び出し待った無しで、この長いお話よりも面倒な事になる事は火を見るよりも明らかな事なので、僕は何も言わず、ただぼーっと、時間が過ぎるのを待った。
三分もすると、校長先生のお話も終わり、僕らは準備体操をする事になった。午前も午後もやるのに、これ一回切りとか、自己満足でしかないだろ。まあ無いよりかはマシか。
それも終わると、一旦それぞれの競技に移った。綱引きまでは少し時間があるので、僕らはやっと、教室から持って来るように指示されていた椅子に座り、一息吐ける。
「いよいよ始まったって感じするな」
「そうだね。そう言えば、ヒッキーは借り物競争に出るんだったっけ?」
「そうだぜ。応援よろしくな」
ヒッキーは社交的なだけでなく積極的なので、こういう事にもよく手を出す。中学の時も、生徒会長に立候補して、七票差で敗れて悔しがっていたっけ。積極性があるのは良い事だ。少なくとも、学校からの評価は上がるだろう。僕には無い部分だ。
僕らは『集合しろ』という指示が出るまで、自分達の席で話して、時間を潰した。集合が掛かるまでは、三十分程度時間があるので、僕らは少しだけ余裕を持って話ができた。
「一年!集合!」
教師の合図で、ぞろぞろと席から人が立ち上がる。皆、ほんの少しだけ怠そうに見える。話をしていた所だったのだろうな。ま、僕もそうなんだけど。
しかし、うだうだ言ってもいられない。僕らも椅子から立ち上がり、集合場所に集まる。
「事前に決めて置いた並びに並んで~」
「あれ?こっちだっけ?」
「春樹くんは私の後ろだから合ってるよ」
僕は所定の位置に収まり、綱引きが始まるのを待つ。一年に一度の行事なのだし、頑張ってみよう。
そしてピストルの音と同時に、綱引きが始まった。僕らは腕と足と腰に力を入れて、声を出して、それぞれの方向に綱を引く。少しでも自分の方に進むように、全力で。勝負はたったの三十秒。やってみると一瞬だ。体感ではたった数秒経った後、終了のピストルの音が響いた。
『一回戦は、赤組、緑組の勝ちです』
勝負の結果、一回戦は僕ら赤組と、僕らとは別の組み合わせでやっていた緑組の勝ちだ。二回戦では、もう片方の勝った組、つまり緑組と戦う。この時点で少し疲れるな。だけど負けたくはない。次も勝てるように頑張ろう。
次の準備をする為に、多少時間を置いた後、もう一度僕らは、所定の位置に立った。綱を持ち、ピストルの音を待つ。審判の腕が挙げられ、引き金に指が掛かる。指は引かれ、ピストルの音が再度響く。
再度、僕らは綱を引く。地面と靴が擦れる音が、自分だけでなく、周囲の人達の足元からも聞こえる。僕らは負けじと力を込め、声を張り上げ、相手に対抗する。
もう一度、三十秒。綱を握り締め、それを精一杯引っ張る。体感での、それも精一杯力を込めたその時間は、変わらず一瞬で過ぎ去ってしまう。ピストルが再度宙に向かって撃たれ、僕らはそこで、綱から手を離す。審判が僕らの真ん中辺りに立ち、勝敗を決定する。
一部の人間が手を合わせ、自分達の勝利を神に祈る。僕は目の前の人の背に隠れ、僅かにしか見えない審判の顔を見ながら、その人間の判断を待つ。
一瞬、間が空く。審判は手に持っている旗の内、片方を上に掲げる。その旗の色は、少し色褪せた赤だった。
『第三種目綱引きは、赤組の勝ちです』
周囲から声が上がる。歓喜する声が上がる。僕もそれに混じり、声を出して、両腕を上に揚げる。単純に嬉しい。
その後、次の種目に移る為に、僕らは自分達の席に戻った。まあ、戻ったというのは全体の流れの事で、殆どの生徒は立ち上がって、それぞれの友人と話している訳だけども。勿論、僕もヒッキーと話している。
「綱引きは余裕だったな」
「余裕……まあそうだね」
ヒッキーは手袋を外しながら、僕の席に近付いて来た。どうやら、誰かに借りた手袋は大いに役立ったらしい。僕も席を立ち上がり、取り敢えず木の陰に向かう。
「次何だっけ?種目さ」
「確か二つ空いて玉入れじゃなかったっけ?」
「そうだっけ?」
「質問で返さないでくれよ」
でもまあ、二つ空いていたのは確実だし、多少時間が空くのは嬉しいな。楽しく話が……じゃなくて、少し休む事ができる。
「そう言えば、あの手袋誰から借りたの?」
「隣のクラスの赤城。良い奴っぽかったぜ」
「あれ?仲良かったっけ?」
「いんや~あんま話した事無かったな。でもなんか、『困ってるなら良いよ』みたいな感じでくれたんだよね」
どうやら、本当に気の良い人らしい。僕も今度話してみようかな。人の性格に敏感なヒッキーが、手放しで『良い奴』って言う位だし、本当に良い人なんだろう。そういう人と言い関係を築くのは、僕にとっても得になる。
僕らは次の競技が始まるまで、適当な事を話したり水筒の中身をチビチビ飲んだり、偶に競技をやっている先輩方を応援したりして、適当に時間を潰した。そして暫くすると、また競技が始まった。
「一年!集まってー!」
「お、もう玉入れか」
「手袋置いて来なよ。要らないでしょ」
僕は手袋を置きに戻ったヒッキーを尻目に、集合場所に向かう。中学の頃から疑問だったのだが、わざわざ入場の練習までして、動きを揃える理由って何だろう。揃えた方が何かと便利なのは分かるけど、練習まで必要かな?
玉入れは、本来とても簡単なルールの筈だが、この学校ではそうではないらしい。それぞれの籠を用意して、それにそれぞれの組の色の玉を入れる所までは同じなのだが、それ以上に一つ、面白いルールがある。
『では、各組の代表は、位置についてください』
スピーカーから司会者の声が聞こえると、それぞれの組の集団の中から一人、前に出る。そして係の人間はその人達に、長い竹の棒の先に取り付けられている籠を背負わせる。それぞれの人の組とは違う色の籠だ。
この学校の玉入れの変な所は、正にここだ。先ず、各組の代表が、自分以外の組の籠を背負って、会場を走り回る。生徒は自分達の組の籠を背負った人を追い掛け回し、背中の籠に玉を入れる。つまり、少し鬼ごっこの要素が含まれているのだ。
僕らの組からは、勿論ヒッキーが代表として選ばれた。足は速いし体力もある。選ばれるのは必然だろう。しかし、相手方も陸上部員を選出している。良い勝負になりそうだ。
勝負は一分。審判の腕が再度上に掲げられる。引き金が引かれ、ピストルの音が響く。僕らは一斉に走り出し、玉を拾いながら、自分達の籠に向かう。
しかし速い。陸上部の名は伊達ではないという事か。だが、鬼ごっこの要素があるというだけで、鬼ごっこのように捕まえる必要は無い。僕らは籠に向かって玉を投げ、得点を入れようとし続ける。投げて、外れて、弾かれて、偶に入ってはまた投げて……
そして、終了のピストルの音が鳴った。僕らは玉を投げる手を止め、自分達の待機位置に戻る。
『では、各組、得点を数えてください』
係の人が、それぞれの組の籠から玉を取り出し、宙に放り投げる。僕らはそれに合わせて、加護に入った玉の数を数える。どの組も、ぱっと見では大きく差があるようには見えない。果たして、どこが勝つんだ?
最初に声が上がったのは、青組だった。得点は十八点。そして、その次は僕ら赤組と緑組。十九点。最後まで残ったのは黄組で、なんと二十三点。黄組の人達が喜んでいる脇で、僕らは黄組に拍手を送った。
ああ悔しいな。まだたったの六種目目だけど、それでも少し悔しい。そして楽しい。僕は自分の席に戻った後、またヒッキーと話し始めた。どうやらヒッキーも、多少の悔しさが残るようだ。
「いや~負けちゃったな」
「やっぱり全勝とかは無理だね。今の所は、緑組が一番多いみたいだけど、アレ当てにならないんだよね」
「この時点ではな。それに、最後の方は得点を伏せるから尚更だ」
競技の勝ち負けで得点を入れるらしいけど、今の時点では役に立たないよな。ていうか、ああいうのを出す必要ってあるのかな。運動会で賭博でもする気だろうか。いややっぱり無いな。なんかの法律に引っ掛かりそうだし、何より道徳的な問題もある。
「なあハル、どこの組が総合優勝するか、賭けないか?」
「お前だったのか」
ヒッキーは「え?」と言って首を傾げる。いやまさか、こういう事を誘われるとは少しも思っていなかった。まあ楽しそうだし、乗っかってみよう。
「何くれるの?」
「当てたらジュース一本奢りな」
大した賭けじゃないな。まあ高校生のお遊びだし、こんな物だろうな。僕は今までの競技の様子とそれぞれの得点を考えて、普通に賭けを始める。
「やっぱり緑組かな。運動部の中でも優秀な人が揃ってるみたいな話だし」
「俺は大穴狙いで青組だな」
「ギャンブラーですなあ」
「そうだろうそうだろう」
辺りを見回してみると、やはり友人同士で集まっている人が多く見受けられる。先生の監視がある以上、あまりバカな事はしていなようだ。してくれたら少し面白そうなんだけど。まあやらないだろうな。僕もやらない。
賭けると決まれば、ちょっと競技の方にも興味が湧く。僕らはそれぞれの席に戻り、上級生の奮闘を見届ける事にした。やはり、緑組が有利だろうか。
その後、僕らは午前中の競技を全て終え、昼休みに入った。僕らは教室で弁当を広げ、昼食を食べ始める。
「から揚げ一つちょうだい」
「やだよ三つしか無いんだから」
「ケチ」
「好きに言うが良い。俺は揺らがないぞ」
まあ確かに、三つしか無かったら渡さないか。そもそもヒッキーは、具体的な数が分かっている物は人に渡そうとしないのだ。弁当のおかずとかお菓子とかは特に。元々無理だろうなとは思っていたし、残念でもなんでもないな。
「午後は……ヒッキーは借り物競争あるよね」
「そうだな。面白いお題が当たったら良いんだけど」
「例えば?」
「そうだなあ……魅力的な異性とか?」
僕は「それは良いね」と言って笑う。もしそんなのがあったら、この年の学校行事はとても面白い物になるだろうな。ヒッキーは「もしあったら誰にしようかな」と真剣に悩んでいる様子だ。悩むだけ無駄だろそんな事。
「でも実際、そういうのは見てて面白いだろうな」
「だろ?今年の実行委員がアタリなのを祈るかな」
「アタリなのかな」
ある意味外れじゃないか……そう言おうとして、僕は言葉を飲み込んだ。理由は、教室の外から、部長が僕に手招きしているからだ。僕はヒッキーに「ゴメン。なんか部長が話あるっぽいわ」と言って、少し席を外した。
「何かありましたか?」
「午前終わって、どう思った?」
色々と唐突だな。教室に来たのも問いかけも唐突だ。何の為にそんな事を聞くんだろう。
「まあ……楽しかったです」
「そうか。それは何より。じゃ、俺昼飯まだだから。またな」
部長はそう言って、教室から離れて行った。本当に何だったのだろう。まあ、気にかけてくれてるんだろう。僕はヒッキーの方に戻り、また話を始める。
「何だって?」
「午前終わってどうだったかだって」
「何の為に?」
「さあ」
結局よく分からない人だな。優しいのは確かだけど。まあ、気にする程の事でもないか。僕らはその後も暫く話をして、残り十分程の休み時間を潰した。
午後の部の一番最初には、応援合戦がある。今まで練習した応援の皮を被ったパフォーマンスを見せて、それぞれの出来の良さを競うらしい。
この学校では、三つの部門で優勝が決められる。競技優勝、応援優勝、総合優勝の三つだ。競技優勝と応援優勝は分かるが、総合優勝はどういう基準で決められるのか分からないので、なんか腑に落ちない。
声を出したりパフォーマンスをしたり、各組が趣向を凝らした物をやるので、外から見る分には見ごたえがあるらしい。あと応援の中にある、各組で自由に決める部分は何故か、皆流行りの奴とかをやろうとするので、ここは内側から見ても、少し面白かったりする。
それが終わると、また競技に移る。だが午後の種目で僕が出るのは、組対抗全校リレーだけなので、最初の方は比較的気楽に見ていられるだろう。
「じゃあハル、そろっと行くわ」
「おう。頑張ってな」
「お題何かな」
「そこも含めて、楽しみにしてるよ」
ヒッキーは集合場所に向かって走り出した。午後の一番最初から出番とは、そこそこ面倒そうな役割だ。まあ楽しそうだし良いか。
『第十種目、借り物競争です。皆さん、応援しましょう』
そう言えば、絶対に持ってこれないような物とかが当たったらどうなるんだろう。『無理は嘘吐きの言葉だ』とか言い出したら流石に声出して笑うけど。
選手たちがスタート地点に着く。司会のアナウンスに合わせて、ピストルの音が鳴り響く。選手達は五十メートル先の箱に向かい、お題が掛かれた紙を手に取る。そしてそれを持っていそうな人の所に向かい、審判の所に向かう。
簡単な競技の筈だ。それなのに、選手は皆、悩んでいるように前へ進めない。一体どうしたのだろう。まさかヒッキーが言っていたような、『面白いお題』なのか!?今年の実行委員はアタリだったのか!?
ヒッキーは少し悩んだ末に走り出し、周囲の選手もそれに負けるまいと走り出す。ヒッキーは集まっている観客の方へ向かい、何かを言っている。距離もあって聞こえないが、中々出て来ない。どうやら、相当難しいお題のようだ。他の選手を見ても、誰もお題の物を調達できていないようだ。
暫くして、なんとか見つけた選手が現れる。どうやら黄組のようだ。連れているのは……同じ黄組の女子だと!?どんなお題でそうなるんだよ!?
ヒッキーは仕方が無いという風に、僕ら赤組の方へ走って来た。そしてヒッキーは、自身のお題を叫ぶ。
「この中でぇ!ネカマやった経験がある奴居るぅ!?」
そりゃ出て来ない訳だ。多分この場に居る人全員がそう思っただろう。大多数の人間がその事をカミングアウトするのに、多大な羞恥心と抵抗を抱くだろう。
しかし困った。僕はネカマをしていた訳ではない。このお題で僕はなんの役にも立たない。誰か居ないだろうか。ネカマをしていて、それを晒す事ができるメンタルを持った、都合が良い人間が。しかし、誰も席から立ち上がらない。コレは時間切れ濃厚かな。
そう思った時だった。誰も立ち上がらない集団から、たった一人立ち上がった。多分先輩だろう。誰だろうと目を凝らすと、その人は我らが部長、高橋葵先輩だった。ヒッキーは部長に感謝の言葉を良いながら走り出した。黄組の人に続いて、二番目になった。
そしてそのまま、青組と緑組の選手がゴールに辿り着かないまま、時間切れとなった。これからは各組のお題発表だ。どんなお題だったんだろう。ヒッキーのがアレだし、多分面白いのだろうな。最初に、黄組のお題だ。司会は選手からお題の紙を受け取り、そこに書かれたお題を見る。
『黄組のお題は、『万人受けしない程度の美人』でした!皆さん!拍手をお願いします!』
会場から笑いと拍手、そして少しの非難が同時に起こる。やっぱり今年の実行委員はアタリだ。今年は面白い年になるかもな。
『では選ばれた、二年四組浅山諒子さん!ご感想をお願いします!』
『結構嬉しいです!』
会場のあちこちから拍手が起こる。ていうか『万人受けしない程度の美人』って、結構審判の好みとかに左右されそうな上に、結構シビアな範囲になりそうなお題だけど、よく一発で通したなあの人。
『赤組のお題は、『ネカマをした経験がある人』でした!皆さん!拍手をお願いします!』
しかし、部長にネカマ経験があったとは知らなかった。まああの人について詳しい訳じゃないんだけどさ。ていうかどういう感情であそこに座っているんだろう。表情はよく見えないな。
『では選ばれた、高橋葵さん!ご感想をお願いします!』
『まさかこんな所でネトゲの経験が役に立つとは思わなかった!』
ネトゲやってた事あるんかい!今更だけどかなり面白い人だなあの人!
因みに青組と緑組のお題は、それぞれ『直近一か月で恋人と別れた人』、『幽霊が見える人』だった。うん。こればっかりは運が悪かったとしか言えない。そりゃ言い出せないよな。ていうか緑組のは無理だし。ここで大胆なバランス調整が成された。これじゃ賭け事してる人達大盛り上がりだろうな。
競技が終わって少しすると、ヒッキーが席に戻って来た。どうやら、相当気疲れしたようだった。
「大丈夫かヒッキー」
「なんかどっと疲れた気分だぜ……面白かったけど、当事者からするとキツイんだな」
そうだろうな。まあ僕は当事者じゃないからよく分からないんだけども。
その後も競技は進み、遂に僕ら一年の、組対抗全員リレーが行われる事となった。司会の声がスピーカーから響き、観客と僕らに、残された競技がもう三つしか無いのだと知らしめる。
『次は一年生の、組対抗全員リレーです。皆さん、応援しましょう』
因みに僕は五番目。かなり前の方だ。お陰で早めに出番が終わって、高見の見物ができそうだ。ついでに、ヒッキーはアンカーを任されている。
僕らはグラウンドに、事前に決めていた走順で並ぶ。転んだりとかが無ければ良いんだけど。
もう何回目かも分からない程聞いたピストルの音と共に、第一走者が走り出した。一番前から、緑組、青組、赤組、黄組の順に、この時点で少し差が開く。とは言えまだ第一走者。ここから順位が変わるなんて普通にある。
第二走者では順位の変動は無く、第三走者で青組が緑組を追い越し、第四走者では赤組が緑組を追い越す展開になった。
そして次は僕の番だ。僕はスタートラインに立ち、後ろから渡されるバトンを取る体勢になる。赤組の第四走者が近付いて来た所で、僕は少し走り始める。そしてバトンを受け取ったタイミングで、一気に速度を上げる。前に見えるは青組の人の背中。追い越すまで行けなくても、せめて間を縮めたい。
しかし、そう上手くは行かなかった。なんと黄組が一気に追い返した来たのだ。僕が次の人にバトンを渡す時、既に黄組と赤組は、ほぼ同じ所まで近付いていた。
第六走者。一番前の青組は変わらないが、黄組と赤組はお互い越されまいと走っている。そして緑組も伸びを見せ、少しずつではあるが、前の組の人達との差が縮まって来ている。第七、第八、第九走者と変わらなかったが、第十走者で、遂に動きを見せた。
バトンが渡され、後半分という所で、青組の走者が転んだのだ。青組の人達から、落胆するような声が上がる。青組の第十走者は素早く立ち上がったが、黄組と赤組に越され、緑組にもかなり近づかれてしまった。
第十三走者。バトンの受け渡しが少しもたついた結果、赤組は黄組と少し差が生まれた。第十七走者。赤組が黄組を追い越した。第二十三走者。緑組が追い上げを見せ、青組、黄組を追い抜いた。第三十五走者。遂に緑組が赤組を追い越した。第四十三走者。赤組が緑組と並び、更に青組も直ぐ後ろに着いた。
そしてアンカー。第五十走者。ヒッキーはビブスを身に着け、バトンを受け取った。緑組の人と並んで走る。青組も追い上げを見せ、前二人に並ぶ。黄組も追い上げるが、間にある差は依然開いたままだ。
そして、ゴールテープが切られる。青、赤、緑の三組がほぼ同時にテープを切った。そして判定は、審判である教師に任される。生徒が息を飲んで、その判定を待つ。数十秒程度間が空いて、審判が判定を言い渡した。
『判定の結果、一着緑組、二着青組、三着赤組、四着黄組になりました』
その結果に、緑組からは歓声が上がるが、その他三つの組からは、落胆の声だけでなく、判定を下した教師への文句の声が上がった。僕も少し、『同着じゃ駄目か?』と思った。
僕らは自分達の席に戻され、後は二、三年のリレーを眺めるだけとなった。
「なあハル、あの判定に納得行くか?」
「正直同着で良いよな。黄組以外は」
「どうせ映像確認とかも無いんだしな~」
とは言え、もう下された結論が覆る事も無く、僕らは少しの不満を抱えたまま、閉会式に進んだ。
閉会式でやる事と言えば、精々が結果発表とそれぞれの組の代表の乾燥発表程度だろうな。後先生方のお話。僕らはさっさと閉会式の配置に並び、早くこの退屈な時間が終わる事を祈った。
『では、校長先生から、トロフィーの授与です。代表は、前へ出てください』
各組の代表が、校長の前に並ぶ。どうやら、校長がそれぞれの賞のトロフィーを、勝ち取った組の代表に渡して、結果を発表する形式らしい。
校長の形式的な「おめでとう」の一言と共に、三つのトロフィーが、それぞれの賞を取った組に配られる。結果は、競技優勝は緑組、応援優勝は赤組、総合優勝緑組となった。この結果に不満そうな人も居れば、満足している人も居る。
トロフィーの授与が終わると、次は各組代表の感想だ。だけど、僕は殆ど上の空で、何を言っていたかをあまり覚えていなかった。覚えていた事と言えば、青組の代表が泣いていた事位だった。
その後、後片付けが終わった僕らは、『さっさと帰るように』と指示を出された。今日は部活も無いので、僕は久し振りに、ヒッキーと一緒に帰る事にした。
日が傾いて来た頃、僕らは軽く教師の悪態を吐きながら、帰路を歩いていた。
「やっぱりあの判定、納得行かねえ!」
「まあまあ。僕もそう思うけど、もう過ぎた事じゃんか」
納得するしないではなく、どういう結果になったかの方が大事な気がする。なってしまった事は、もうどうしようも無いのだから、気にしない方が楽だろう。
「たかが学校行事だし、そこまで気にするなって」
「まあそうだけどさあ……でもやっぱりさあ……」
「そうだよね。まあ気にするなって。どうしようもない事だろ」
結局ヒッキーは、最後まで納得していないような顔だった。僕が「また火曜に」と言って手を振っている間も、ブツブツと何か悩んでいるようだった。
家に入るが、やはり家の中には誰も居なかった。テーブルの上には、やはり置手紙と一緒に、今日の夕飯が置いてあった。
『体育祭行けなくてごめんね 母より』
あの人はいつ休んでいるんだろう。少しはまともに休んだ方が……とは言え、説教できる立場じゃないな。ここまでにしよう。
テーブルに置いてあるソレをよく見た時、初めて自身の状態に気が付いた。なんでだろう。食欲が無いな。コレは明日頂く事にして、今日はさっさと寝よう。風呂は沸いてあるようだし、さっさと入ってさっさと寝よう。
その日はそのまま、課題もせず寝てしまった。
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