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神章
神二十二章 神秘を心臓に秘める者
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「人違いだよ」
そう、気付けば漏らしていた。どうやら長老さんはそれを聞き逃さなかったらしく、そのしわがれた声で応えた。
「何を仰られますか……貴女様こそ原初の神秘、空の青を秘めし神……私めは既に耄碌し、既に視界すら朧気な肉塊です……しかしどうして、貴女様の胸に眠るその色、かつて見えた光を忘れる事ができましょうか……」
どうやら訂正もできないらしい。だけど幸か不幸か、この世界における神の存在は確定した。ここが異世界だったとしても、帰る手段が存在するということだ。それが利用できるかは兎も角として、だけど。
「貴女様はこの世界から、元居た天外の世界へ戻りたいのですよね?」
「うん」
「……でしたら、今日一日はこの村に滞在していただかなければなりません」
何故?と聞こうとして、キューザックさんとの約束を思い出した。もう色々想定外だけど、あの約束は有効だ。
「この世界は箱庭……誰かに開かれなければ永遠に天外と隔絶された世界……しかしここ数日、天外よりこの世界の空を開く者が居ます……その者の行動は規則的で、あの者が今までと同じように動くなら……明日また、この世界の空を開こうとするでしょう」
要するに、その誰かさんと一緒に元の世界へ戻る事ができるかも知れない、という事か。その人の正体も分からない中、あまり軽率な行動は取りたくないんだけど……まぁ、今はこれしか無いか。
「小さな、ただあるだけの村ですが、どうかその目で見ていっていただきたい……それだけで、我々は祝福を得るのですから……」
もう話は無いという事か。キューザックさんは立ち上がり、長老さんへ一礼した。私もそれを真似すると、キューザックさんは小さく合図を出し、外へ出るように指示した。
気のせいじゃないな。キューザックさんは焦っている。そして恐怖している。多分、長老様が私のような、どこから来たかも分からない小娘に頭を垂れたという事実にだろう。魔法を使わなくてもこれ位は分かる。
その答え合わせのように、部屋から出たキューザックさんは直ぐに振り返り、私の肩を掴みながら視線を合わせた。観察する目だ。気分の良い物じゃない。
「……やっぱり分からないな」
「長老様の発言ですか?でしたら私も何が何だか……」
「違うよ。いや、正確に言えば違わないんだけど……うん。やっぱり話そう」
そう言うと、キューザックさんは私の肩から手を放し、地上への階段を進んで行く。
「僕の魔法が、魂を操る事に長けているというのは言っただろう?」
「はい」
「その魔法のお陰か、僕は触れて、目を合わせると、その人の魂の形を知る事ができるんだ」
魔法の副次的効果のような物かな。知覚できない物は操れない。道理だ。
「さっきのは、私の魂の形を?」
「あぁ。断りも無く触れてしまって済まない」
「いえ、気にしてません」
「そう言ってくれるならありがたいよ。続きだ。魂というのは不思議な物でね。どんなに性格、体格、身分が違っても、その魂は殆ど同じ形をしているんだ。勿論、個人によって微妙な違いはあるけどね。同じ種類の動物を見比べるような物さ」
太陽の光が見えて来た。どうやらもう直ぐ出口のようだ。話もそろそろ終わるだろう。
「それで、何が分からないんですか?」
「君が何者か、だよ。君の魂の形は、僕が知る人のソレとは大きく異なっていたからね」
キューザックさんは自嘲するように笑いながら、話を冗談ぽく締め括る。
「もしかしたら君は本当に、神様なのかも知れないなと思っただけさ」
時は、ライラが森へ転移した直後へ遡る。
「大聖!居る!?」
騒がしい声で、俺は読んでいた書物から顔を上げた。どうやら緊急事態らしい。俺は相当走って来たらしい忍に顔を見せる。
「何があった?」
「王都の北東、廃村があるんだけど、そこで強力な魔力反応と共に、謎の魔法陣が確認されたって」
北東。何とも微妙な方向だ。敵の追撃なら既に大打撃を受けている東から来るだろう。ライラとアステリアが移動した先が、その魔法陣が発生した場所だったという可能性はある。それなら二人への攻撃という事で理解できる。しかしそれでも……やはり、わざわざ目立つ行動をする理由が分からない。
「今の状況は?」
「魔法陣と共に魔法反応が消えてる。調査の名目で、騎士が派遣されるらしいよ」
目的は陽動か?北東という、敵からの攻撃だと考えられなくもない方角。派手な演出。こちらの気を引こうという事なら、様々な事に納得できる理由が付く。だとすると、向こうの狙いに乗せられるのも癪に障る。
「俺が偵察に行って来る。他の奴らは王都を離れないよう、適当な人間に伝えておいてくれ」
「待って大聖。一人で行くつもり?」
「心配要らねぇよ。見て、俺にできる事が無ければ戻って来る。騎士を送るよりも手っ取り早いだろ?」
「そうだけど……ま、大聖なら大丈夫か」
「ありがとう。じゃ、頼んだぞ」
俺は部屋の窓を開け、そこから飛び出す。飛行魔術で姿勢を安定させながら、北東の廃村とやらへ向かった。
そう、気付けば漏らしていた。どうやら長老さんはそれを聞き逃さなかったらしく、そのしわがれた声で応えた。
「何を仰られますか……貴女様こそ原初の神秘、空の青を秘めし神……私めは既に耄碌し、既に視界すら朧気な肉塊です……しかしどうして、貴女様の胸に眠るその色、かつて見えた光を忘れる事ができましょうか……」
どうやら訂正もできないらしい。だけど幸か不幸か、この世界における神の存在は確定した。ここが異世界だったとしても、帰る手段が存在するということだ。それが利用できるかは兎も角として、だけど。
「貴女様はこの世界から、元居た天外の世界へ戻りたいのですよね?」
「うん」
「……でしたら、今日一日はこの村に滞在していただかなければなりません」
何故?と聞こうとして、キューザックさんとの約束を思い出した。もう色々想定外だけど、あの約束は有効だ。
「この世界は箱庭……誰かに開かれなければ永遠に天外と隔絶された世界……しかしここ数日、天外よりこの世界の空を開く者が居ます……その者の行動は規則的で、あの者が今までと同じように動くなら……明日また、この世界の空を開こうとするでしょう」
要するに、その誰かさんと一緒に元の世界へ戻る事ができるかも知れない、という事か。その人の正体も分からない中、あまり軽率な行動は取りたくないんだけど……まぁ、今はこれしか無いか。
「小さな、ただあるだけの村ですが、どうかその目で見ていっていただきたい……それだけで、我々は祝福を得るのですから……」
もう話は無いという事か。キューザックさんは立ち上がり、長老さんへ一礼した。私もそれを真似すると、キューザックさんは小さく合図を出し、外へ出るように指示した。
気のせいじゃないな。キューザックさんは焦っている。そして恐怖している。多分、長老様が私のような、どこから来たかも分からない小娘に頭を垂れたという事実にだろう。魔法を使わなくてもこれ位は分かる。
その答え合わせのように、部屋から出たキューザックさんは直ぐに振り返り、私の肩を掴みながら視線を合わせた。観察する目だ。気分の良い物じゃない。
「……やっぱり分からないな」
「長老様の発言ですか?でしたら私も何が何だか……」
「違うよ。いや、正確に言えば違わないんだけど……うん。やっぱり話そう」
そう言うと、キューザックさんは私の肩から手を放し、地上への階段を進んで行く。
「僕の魔法が、魂を操る事に長けているというのは言っただろう?」
「はい」
「その魔法のお陰か、僕は触れて、目を合わせると、その人の魂の形を知る事ができるんだ」
魔法の副次的効果のような物かな。知覚できない物は操れない。道理だ。
「さっきのは、私の魂の形を?」
「あぁ。断りも無く触れてしまって済まない」
「いえ、気にしてません」
「そう言ってくれるならありがたいよ。続きだ。魂というのは不思議な物でね。どんなに性格、体格、身分が違っても、その魂は殆ど同じ形をしているんだ。勿論、個人によって微妙な違いはあるけどね。同じ種類の動物を見比べるような物さ」
太陽の光が見えて来た。どうやらもう直ぐ出口のようだ。話もそろそろ終わるだろう。
「それで、何が分からないんですか?」
「君が何者か、だよ。君の魂の形は、僕が知る人のソレとは大きく異なっていたからね」
キューザックさんは自嘲するように笑いながら、話を冗談ぽく締め括る。
「もしかしたら君は本当に、神様なのかも知れないなと思っただけさ」
時は、ライラが森へ転移した直後へ遡る。
「大聖!居る!?」
騒がしい声で、俺は読んでいた書物から顔を上げた。どうやら緊急事態らしい。俺は相当走って来たらしい忍に顔を見せる。
「何があった?」
「王都の北東、廃村があるんだけど、そこで強力な魔力反応と共に、謎の魔法陣が確認されたって」
北東。何とも微妙な方向だ。敵の追撃なら既に大打撃を受けている東から来るだろう。ライラとアステリアが移動した先が、その魔法陣が発生した場所だったという可能性はある。それなら二人への攻撃という事で理解できる。しかしそれでも……やはり、わざわざ目立つ行動をする理由が分からない。
「今の状況は?」
「魔法陣と共に魔法反応が消えてる。調査の名目で、騎士が派遣されるらしいよ」
目的は陽動か?北東という、敵からの攻撃だと考えられなくもない方角。派手な演出。こちらの気を引こうという事なら、様々な事に納得できる理由が付く。だとすると、向こうの狙いに乗せられるのも癪に障る。
「俺が偵察に行って来る。他の奴らは王都を離れないよう、適当な人間に伝えておいてくれ」
「待って大聖。一人で行くつもり?」
「心配要らねぇよ。見て、俺にできる事が無ければ戻って来る。騎士を送るよりも手っ取り早いだろ?」
「そうだけど……ま、大聖なら大丈夫か」
「ありがとう。じゃ、頼んだぞ」
俺は部屋の窓を開け、そこから飛び出す。飛行魔術で姿勢を安定させながら、北東の廃村とやらへ向かった。
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