Two Runner

マシュウ

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ハロー!異世界!

ロキ

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「……なぁ、とっちー」

「ええ!?なんで!?画面圏外なった!なんで!?」

「馬鹿なの!?周り見てみ!?」

「は!?………は?」

 画面にばっかり注意が行っていた弟は、ようやく周りが暗くなっていることに気がついたようだった。

「……違う家に入った?」

「馬鹿なの?」

 兄は弟の馬鹿さ加減に呆れて一つため息をついた。

 すると、暗闇から一人、ボロボロの白い貫頭衣を着た人が出てきた。

「……うるさいなぁ……お前ら」

「……弟、ちょいちょい」

「…………えーっと?」

 二人はそいつに背を向けて、コソコソと話し出した。

「おにーちゃん、あれ誰?彼女?」

「んなわけあるか!……って、アレ女なの?」

「えっ?」

「えっ?」

「………だから、よっちーは……」

「なんだその目は」

 相手の性別を見抜けなかった兄を、弟は呆れた目で見ると、声を掛けてきた女の方へ向いた。

「おにーちゃんが声かけてよ」

「おまっ、都合のいい時だけおにーちゃんて……すいませーん」

 そう言いつつ声をかけるあたりはやっぱり馬鹿だろう。

「なぁに……」

「お名前は?」

 聞くべき所はそこじゃないだろうと、この二人はそう思わないところがやはり馬鹿だろう。

「……お前ら……やるなぁ……」

「「やりますねぇ!!」」

「!?」

「「……イェーイ!エビ!カニ!タコ!フゥー!」」

「何やってんのお前ら?」

「あっ、お気になさらず、これは僕達の儀式みたいなもんなんで」

 兄はそう言って朗らかに女に笑いかけた。

「いや、気にするわ、普通」

「そーっすか?まー、そーいうならそーなんでしょー」

「よっちーは馬鹿なだなぁ」

「あんだと?アホ!」

「デブ!」

「やんのかコラァ!?」

「やったろやないけぇ!」

「「エビ!カニ!タコ!フゥー!」」

「「イェーイ!」」

「もぅやだぁ……」

 女は顔を手で覆うと、フルフルと首を横に振った。

「あー!にーちゃんなーかせたー!」

「えっ!?あっ!そのっ!ごめんなさい!すいません!ちゃんとお話聞きますから……」

「ほんとだな?」

「は、はい……」

「にーちゃんヘンターイ」

「お前は一回くたばれ」

「あん?」

「やんのかこら?」

「…………グスッ」

「「はい!どうぞ!」」

 兄弟は二人同時に並んで頭を下げた。

「……お前らは運がいいよ……ほんと……」

 すると、女は何処からかハリ○タで使ってそうな杖を貫頭衣の中に手を突っ込んで引っ張り出して、杖の先を自分の頭の上でクルクル回した。

 すると、ボロボロの貫頭衣が綺麗なドレスに変わって、とても美しい女性がそこに立って…。

「なぁ、にいちゃん?あの人目つき悪ない?」

「うーん……でも、顔立ちとか整ってるし、すらっとしてるから、にーちゃんはアリだと思うぞ?」

「目つきが悪くて悪かったな!」

 ひそひそ声ではない会話を聞いた女はキレた。

「もう!ちゃんと聴くって言ったでしょ!?ならそれ守れよ!」

「おい、にーちゃん」

「俺!?俺が悪いのか!?すいませんでした!」

「………貴方達二人にここに命じます、この私『ロキ』の神名において世界中に散らばる『神様の落し物』を探してきなさい!」

 そして、そう威厳たっぷりに上から目線で反り返って、女はそう言ったが、

「えっ、やです」

「は?」

 兄は笑って即答した。

「だって?俺ら金ねぇし」

「めんどくさいし?」

「「帰って大○したいし」」

「金は出すわ!流石に!ってか名前聞いて驚かない訳!?私言っちゃなんだけど有名だぞ!?」

「………ロキ?」

「にーちゃん、ロキやって………」

「「………………すっげぇぇぇぇ!!」」

 遅れて反応が来るあたり本当にこいつらで良かったのかなぁ、と思わずにはいられないロキだったが、

「……まぁ、そうなら話を聞きましょう」

 と、兄が笑って眼光鋭くそう言った。

「……お前らが住む世界以外にも世界があるのは知ってる……知るはずなかったな……」

「あったんですね」

「……にーちゃん、異世界転生すんの?俺たち」

「さぁ?」

「……それは話の最後にしようじゃないか。頼むから私の話を最後まで聞いて……」

「へいへい」

「……で、『神様の忘れ物』なんだけどな、それは誰かが持ってるかもしれないし、何処かに落ちてるかもしれない。それを探して欲しいんだが……ほらよっ」

「まな板から何を取り出すかと思えばコンパスか……いや、ちょっとどころじゃないぐらい無理ねぇか?」

「にーちゃん、それは言っちゃあかんやつだわ」

「お前ら本当に殺すよ?」

「「やりすまかぁ!?」」

「もういい!………はぁぁぁぁぁぁ……そのコンパスが探し物を指してくれるはずだ。……あぁ、そうだったな、終わった後だったな、探し物が見つかったらお前らが呼ばれた所、時間に記憶をそのまま、何かしら願い事を一つ叶えれるというご褒美付きで、返してやるよ。まぁ、お前らが望むなら、向こうの世界に住むことも可能だが……」

「それは無理だな、俺らの郷愁が耐えかねない」

「郷愁ってなんなん?」

「ふるさとが恋しいって気持ちだな」

「なるー」

「……まぁ、全部終わってからゆっくり考えな……」

 そして、女は話は終わったとばかりに杖を兄弟に向けたが、兄はそれを見て右手を挙げた。

「はーい、質問です」

「……しょーもないことだったら、殺す」

「何か向こう行くときのオプションとかは……具体的には特別な能力とか……」

「あー、それか、忘れてたな……で、何がいい?全部は聞いてやれないけど、出来る限りは叶えてやるよれ

「ありがとうございます。それじゃあ僕は筋力増加と不死と超再生能力と、あとは物作りの能力と、料理ができる奴とあとは後は……!」

「おまっ……」

「じゃあ俺も筋力増加と不死と超再生と、魔法とあとは持った銃の弾薬を無限にする能力と相手を回復させる能力を、他には……」

「そんなの通る訳ないだろ!一つに絞りやがれ!」

「じゃあせめて五つで」

「………四つだ!」

「四つでいいんだ……じゃあ僕は、筋力増加と超再生と料理が上手になりやすい能力と、ものづくりができる能力を」

「じゃあ僕は、二つは筋力増加と超再生で、もう二つは相手を回復させる能力と、持った銃の弾薬を無限にして、その銃をちゃんと扱えるようになる能力で!」

「……いや……それは……だが……!」

「ダメっすか?」

「………わかった……上の人に聞いてみる……からちょっと待ってろ……」

 すると女は兄弟に背を向けて、少しかがみこんでスマホを取り出して何かゴニョゴニョと話し始めた。

「おい……いいのか?……わかった……いいってよ」

「「いえっす!」」

 兄弟は二人揃ってガッツポーズをした。

「「ありがとーございます!」」

 そして、二人はロキに深々と頭を下げて、

「……そして、最後にすみませんが一つよろしいでしょうか?僕の悪い癖なんですが……」

「……なんだ?」

 兄は手を後ろに回して、右手の人差し指を一本立てて少し笑いながらそう言ったが、その仕草が彼の好きなドラマの刑事のポーズだと気づくのは、まぁ当たり前だが弟以外いなかった。

「そこまでしてお悩みになられるのであれば、なぜ貴方が取りに向かわれないのですか?」

「………そこは聞くな」

「…………」

 弟は兄の顔を不安そうに覗き込んだが、兄の表情は少し笑った状態から変化しなかった。

「わかりました、では、お願いします。あっ、今度一緒に三人で大○しませんか?またこちらにいらして、僕が色々頑張って向こうでも出来るようにしますんで」

「……気が向いたら行く」

「わかりました!心待ちにしてます!」

 そうロキと名乗った女は、顔をプイッとそらすと、早く消え去れとばかりに兄弟に杖を向けた。

「では、しばしサヨナラだ!あが愛しの世界よ!」

「我がじゃないの?にーちゃんキモい」

「ひどくねぇ!?」

 そうして、光に包まれ兄弟は行く先々でどんな事が起こるのだろうとワクワクしながら、暗闇の中を飛んで行った。
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