Two Runner

マシュウ

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ウエスタンな異世界

親切

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 その後、少女の案内で町の前まで来た兄弟は、急に立ち止まり別の方向へと歩いていこうとするエルフの女性達を止めようとした。

 しかし、少女によると、人間とエルフは別々に暮らしており、実は本当は仲が悪いそうなのだが、今回は例外として町の近くまで協定を結んでいだ事を知った。

 兄は、ふーん、と首を縦に振り、弟は、へぇー、と無関心にスマホを触るのだった。

 そして、町に入った瞬間、兄弟達は町の警察官に取り押さえられた。

 兄は弟に特に抵抗するようには告げず、されるがままに警察署に連れて行かれた。

 兄はクルクルと銃を回す警察官にビビりながらも、女性達に話を聞けばわかると言った。

 すると、何人かが、

『あの兄弟に襲われ掛けた!』

 と言ったらしいが、圧倒的に『助けてもらった』と言う声の方が大きかったという事と、

 助けた女性の中に警察署長の娘も入っていたことが幸いして、兄弟はその日中に無事釈放された。

「いっあー!つっかれたぁー!」

「にーちゃんよーあの人達と話できたよな」

「めっさ怖かったけど、おとーさんに比べたらマシやったわ」

「あー………」

 彼らの父は怒ると、とてもという言葉じゃ表現できないぐらいに怖く、何度もしばかれてきたのが長男としての記憶であった。

「それに、映画で見たことあるような冤罪かけられるかと思ったら、思ってたよりもいい人達でホンマ世の中の暖かさを感じたわぁ」

「そりゃよかたったな」

 兄はウンウンと頷いていると、後方から声を掛けられた。

 それは、鉱石を持って行った少女であった。

「おーい!」

 手を振って兄弟を呼び止めようとしているのだが、兄はあまりの女性経験不足故に、女の人が自分に声をかけるはずなどないと思っているため、幾度となくその声を無視続けてしまった。

 そして、弟は兄が反応しないから反応してないだけだった。

 そして、痺れを切らしてこちらまで走ってきた少女にようやく振り返って、

「俺ら……か?」

「ぜぇ……ぜぇ……そうよ!何で反応してくれないのよ!」

 と、息を切らして少女は少々怒り気味にそう言った。

「ごめんな?いや、女の子から声掛けられるて思ってなかったし……」

「…………」

「にーちゃん……」

 二人は若干可愛そうなものを見る目で兄を見た後、

「……二人共どっかで泊まる予定でもある?」

「いや」

「ないよなぁ?」

「知らんわ、俺に聞くなや、よいち」

「 泊まるところがありません!」

「はは……なら私の家に来ない?おじいちゃん
達が部屋を二つ貸してくれるみたいなの!」

「ほほう」

「いいですなぁ」

 兄と弟は顔を見合わせて、

「じゃあお願いします!」

 と、口を揃えてそう言った。

 そして、トコトコ歩くこと約10分、巨大な倉庫のような所が付いた家に到着した。

「で、でけぇ……」

「にーちゃんこれ何?」

「知るかぼけ」

「知ってた」

「ふーたーりーとーも!おじいちゃんが中で待ってくれてるよ!」

「おっ!ごめんごめん!お邪魔しまーす!っておお!」

「お邪魔しまーす……すげぇ……」

 家の中はそこそこ豪華で、入口の天井には豪華なシャンデリアがあった。

「私の家は鉄鋼業で結構大きなお家なの、それでも特に……」

 そう言って少女は大きな建物へと続く扉を開いた。

「『蒸気機関』の開発で儲かってるの」

 その扉の先には巨大な鉄の化け物蒸気機関車がレールの上で、静かに鎮座していた。

「オゥ……ゴォッド……」

「蒸気機関車?にーちゃん好きそーやな」

 兄は口を開けて感嘆し、弟は兄の反応をニヤニヤしながらスマホで撮っていた。

「すごいでしょ!これ全部おじいちゃんが作り上げたのよ?」

「おぉ、リーチェや、その人達が例の……」

 少女がえっへんと胸を張っていると、下へと続く階段を一人の老人が上ってきて、そう言った。

「うん!助けてくれたんだ!」

「おぉ、それはそれは……うちの孫が迷惑をお掛けしました……」

「あっ、いえ、そんなことは無いですよ……」

 深々と頭を下げるおじいさんを兄はオロオロしながらも、同じように頭を下げた。

「……ほら、お前も謝らんか、リーチェ」

「あ、ご、ごめんなさい……あの時ちゃんと私が言ってたら石なんか投げられなかったのに……怪我は大丈夫?」

「石?リーチェその話は聞いてないぞ?……少しすいません、ちょっと席を外します……リーチェや、こっちにきてその事を話してくれんかの?」

 そう言って兄弟達を残して、おじいさんと、リーチェと呼ばれた少女は兄弟達が入ってきた扉をバタンと閉めてしまった。

「……」

「……」

 すると兄はポケットからスマホを取り出して、ゲームを起動した。

「にーちゃん……」

「お前もやっとるやろ……まだ今日ログインできてへんねん……」

 そう言って兄はかなり手慣れた手つきでゲームを順にログインして、ポケットにスマホを突っ込んだ。

 そして、次の瞬間兄弟達の背後の扉が開いて、

「なんて奴らだ!この街に置いておけん!」

「おじいちゃん!私が悪かったの!」

「あぁ、わかっとるさリーチェ、たしかにお前にも非はある、しかしだな、自分達を救ってくれた恩人にそのような事をするバカモノをワシは放って置けんのじゃ!」

「………お願い……やめて……」

「なに、少し叱ってくるぐらいじゃよ、安心して待っておれ……」

 そう言って、おじいさんはドタドタと階段を降りてこの工場の入り口から出て行ってしまった。

「……あー、見苦しい所見せちゃったね、私はリーチェって言うの、よろしくね」

 そう言ってリーチェは暫く目頭を押さえた後、兄弟に向き直ってそう言った。

「よ、よろしく……俺はよいちや」

「俺はとしあきや……」

「ヨイチにトシアキね……よし、覚えたわ!」

 そう言って両手でグッと握りこぶしを作ると、ニヘッと笑って拳を兄弟の前に突き出した。

「「………」」

 兄弟は何事かと戸惑っていたが、

「もう、知らないの?私達の挨拶はこうやって拳を……」

 と、リーチェは兄の手を持って握りこぶし同士をコツンと当てた。

「ほら、トシアキも!」

 弟もそれに習って、リーチェに拳をコツンと当てた。

 弟は困惑して兄を見て、げんなりした。

「………」

 無言でニヨニヨする兄の膝を軽く蹴った弟はため息を吐いた。

「さ、こっちに来て!」

 そう言ってリーチェは兄弟の腕を引っ張った。

 そしてそのまま階段を降りると、蒸気機関車の前で立ち止まった。

 蒸気機関車は流線型に作られており、しかし、色は黒と赤を基調とした色で、素人の目から見ても一目ですごい物だとわかった。

「かっけぇ……」

「……そぉ?」

 兄の情熱が理解できない弟は首を傾げながらも、蒸気機関車を眺めた。

「これね、まだ完成してないんだ……」

「えっ?」

 兄は驚いたような声を上げた。

「機関部の大切な所……ここなんだけどね、まだ作れてないんだ。ここを作るにはちょっとやそっとじゃ壊れない強度の金属があるんだけど、そんなのは今のところ合金じゃ無いと無いんだけど、その材料がまた私達の工場のお金を全部出しても足りないのよ」

「へぇ」

「だから、昔よくその金属が取れたあの鉱山に今日朝はやくから行ってたんだけど……」

「へぇ、それが理由かぁ……」

 兄はうんうんと頷いた。

「……ん?それやったら、冒険者ギルドとか無いん?」

「あるには有るんだけど……それでもお金がかかるし……」

「街の他の人たちは?」

「幼い馴染みの男の子がいるんだけど……今日はギルドの試験で来れなかったの……」

「なるほどぉ……」

「……何露骨にがっかりしてるん?よいちぃっ!?」

 無言で弟の足を加減なしにふむ兄は、続いて、

「お父さんとお母さんは?」

「都市の方に行ってて、そっちで工場を経営してるの」

「なるほど」

「私は経営とか無理だからさ、どっちかって言うとこうやってここでハンマー振るほうがしっくりくるの」

「ふぅん……しっかし、今日じゃ無いといけない事でもあったん?」

「………明日までにこれを完成させないといけないの……」

「へぇ……はいっ!?」

 兄はポケットからスマホを取り出して今の時間を調べた。

 スマホには16:24と表示されていた。

 この世界と元いた世界の時間が一緒かは知らないけど、そこの所多分ロキ様はよくやってくれてるだろう。

 と、兄は思う事にして、

「時間ヤベェんやないの?」

「うん、まじヤベェの……」

「……何か手伝おか?」

「いいよいいよ!頑張ったら間に合うから!ゆっくりしてて!それで明日私がこれを運転するんだけど、見に来てくれる?チケットは余ってる分のこれ上げるね」

「あ、ありがとう……」

 兄はそれを受け取ると、ポケットに丁寧にそれをしまった。

 そして兄弟は少女が呼んだ使用人(エルフ)のメイドに案内されて自分達の部屋に入った。

 その後、弟の部屋に向かった兄は、少し話をしていた。

「にーちゃん……せっかく神様から貰ったこの能力使ってあげられへんかなぁ……」

「せやなぁ……にーちゃんのモノづくりの能力でどうにか出来へんかなぁ」

「行ってこいくそデブ兄貴」

「まっ!この子おにーちゃんに対してなんてお口を聞くの!めっ!よ!めっ!」

「ウザい!早く行ってこい!」

「とっちーも一緒に行こうよぅ!」

「蹴るで」

「しゃーないなー、行ってくるわ、にーちゃん」

 そう言って兄は弟の部屋を後にした。

 弟は用意されたベッドに寝転がるとスマホを取り出して、親たちに連絡しようと試みたがそのかい虚しく誰とも連絡を取ることができなかった。

「はーつまんな」

 そう言ってスマホを放り出すと、しばらく伸びをして、スマホを拾い直して兄の部屋、自分の部屋の鍵がかかっている事を確認してその足で街に赴いた。
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