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ウエスタンな異世界
不審侵略者2
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「おい……!おい……!……ったく!」
男は腕についている通信機について悪態を吐くと、二人に向き直った。
「お嬢達にまた問題発生だ」
「まぁ、なるとは思ってたワイナ」
「ガリグリゴコゴゴ!」
「そう言うこった、はぁ……じゃあ行くか……」
男はバリバリと頭をかきながら机で整備していたとてつもなく長い銃を二つ折りにして背負った。
「ガグリゴ?」
「相手の数は分からん、戦力も不明……これってギルドに応援要請した方がいいんじゃねぇのか?」
「それじゃあお嬢達の名前に傷がついちまうワイナ」
「ギギグガギ!」
「わーったわーった、もぅ……全く面倒ごとを引き受けたもんだよ」
「仕方ないワイナ」
「ギグゲ」
銃を背負った男は30~40ぐらいでタンクトップの姿でとても精悍な顔つきをしていた。
「お嬢達にまた説教ワイナ」
口癖に癖のある男は背がとても高く立派なヒゲを生やし、横にも縦にも大きな体と同じぐらいの大きな盾を背負った。
「ググゲギガガガ?」
口元をカチカチと鳴らしながら何かを喋るカマキリとカニを合わして人型にした様な恐らく性別男のそれは、全身にナイフや刃物、ありとあらゆるものを仕込んでいた。
「逆ギレ食らうんじゃないかってか?仕方ないだろ、これが俺らの仕事なんだからよぉ」
そして、三人はすっかり暗くなった夜、宿を出て街の前に広がる荒野と、そのに走る一本の銀色の線路を目印に彼女達の元へと向かうのだった。
一方その頃列車内の食堂として使われる予定であった一室では、
「コヤツらが攻撃してきて捕まえたなら奴隷にでもすれば良いであろう、なんなら予想以上の出費で減ってしまった旅金の資金にすればよかろう」
「あのなぁ、そんな残酷なことできるわけないやろ?」
「なら、奴隷にして調教して……」
「お前はその考えから離れろ……はぁ」
与一とロキは頭を抱えながら、敵意むき出しのノヴァと凄まじい覇気を放っているワールドを見て、すくみあがってしまった三人の捕虜を見た。
「ロキィ………」
「だって想定してないだろ、捕まえた奴らを突っ込んでおく牢屋が列車に突っ込むとかさ」
「どーにもならん?」
「あのなぁ……もうちょっと……考えてんだろうけど考えてくれ……」
「俺はそこらへんにほってったらいいと思うー」
と、俊明は床に寝転んでスマホを触りながらそう言った。
「あほ、それしたらモンスターとかそれこそ他の奴らに捕まって奴隷として売られたらどうすんねん」
「そんなん知ったこっちゃないやん、殺そうとしてきてんで?そいつら」
俊明は三人を睨みながらも、スマホを触り続けていた。
「人としてって事よぉホント」
「なら、人が助けてあげた人を捕まえて奴隷にしようとしていた人は人としてどうなんですかー」
「………ハイハイわかった分かった、悪かったって」
与一は捻くれた俊明に両手を上げながら、そうやないんやけど、と、小さく呟いた。
「やられたらやり返すは、あんまり……俺が好きじゃないからなぁ」
「……だからずっとやられっぱなしやってん……にーちゃんは……」
「はいはい、お前らの事は分かったから、こいつらを少し見といてくれ、上に連絡してくるからよ」
と、ロキは諦めたように手を叩いて二人を宥めた。
そして、一息ついて杖を一振りして目の前から消え去った。
「……貴方……貴様達はホントに難儀な生き物ね」
と、ノヴァは呟きながら手にコーラと干し肉を持って机の上で膝をつきながらクダを巻いていた。
「……それ飲めんの?」
「……ケプッ、………ん、刺激は強いが飲ない事はない……病み付きになりそう……」
と、何があったのか瞳を少し潤ませながらノヴァはグイッと一気に瓶のコーラを飲み干した。
「やるなぁ、俺かて瓶コーラ一気は無理やで……」
と、感心したような言葉を放つ与一に、
「いや、そこ感心するとかちゃうやろ」
と、ケータイから目を離さずに俊明は手だけビシッと兄に突っ込んだ。
「へいへい……俺も飲みたくなってきたな……取ってこーよお」
と、与一は部屋ら出て止まっているおかげで全く静かで暗い廊下を、食料室向けて歩いて行った。
その過程にふと列車の窓を見た。
そこには二人の男と一匹の魔物達がいて、その中の一人のデカイ銃を背負った男と与一は与一が列車から見下ろす形でバシッと目が合った。
「…………」
「…………」
二人は数秒間固まっていたが、魔物が動き出して男を窓から引き離した。
その瞬間与一は窓を開けてそこから飛び降りた。
飛び降りた所には足が食い込み、少し地面にひびを作った。
与一は恐る恐る振り返って線路が無事なことを確認して安心したように溜息をつくと、
「あ」
と、間抜けな声をあげた。
「な、なんだ?」
「ワイナ?」
「ガキョ?」
三人は顔を見合わせていたが、特に何もしてくる様子は無さそうなのでそれぞれ武器を構えた。
「たーすーけーてー!俊明ぃ!」
「なーにぃ!」
すると、凄まじい音量の助け声が与一の口から放たれ列車の中から顔を赤らめて凄い勢いで俊明が顔をのぞかせた。
「恥ずかしいからやめーや!」
「それよりもほれこれ!」
「……だれ?」
「……だれ?」
与一はその質問を前の三人に向けた。
「………」
しかし、質問に応えようとする姿勢は感じられなかった。
「……敵やな」
「やねぇ」
すると俊明は世界を置いて歩き出した。
周りがゆっくりとスローの世界になっている中、一度コーラを食料室の所まで取りに行って列車から降りると、一口飲んで空中にビンを置いて、三人を縛りあげようと紐を取り出してデカイ銃を持っている男と、デカイ盾を持っている男を縛り上げてそして、魔物を縛りあげようとした時、魔物の目が急にギョロリと動いて俊明と目が合った。
「!!」
俊明はその場で伏せると、魔物に向かって足払いをした。
魔物はそれを飛んで避けると身体中からナイフを取り出した。
そして、俊明は世界に追いつかれた。
それと同時に空中に置いていたビンが地面に落下してコーラもろとも、地面にぶちまかれた。
「にーちゃん!こいつ!強い!」
「お、おう、やけど二人は縛り上げてるんやし……」
と言ったところで魔物が二人の縄を軽々と切った。
「……前言撤回や……ワールド!敵襲や!」
与一は先程と同じように大音量の声を出した。
すると、列車から悠々とワールドが降りてきた。
「ふん、貴様らだけいい思いしおって……」
そう言うと、ワールドは両手を斜め上に構えた。
それは相手を覆い尽くさんとするような構えだった。
「……俊明はあの魔物、ワールドはリーダーをやってくれ、俺はあの盾をやるわ」
与一は相手の武器を鑑みてなのか、三人の相手を決めた。
「……俺武器ないねんけど、にーちゃん……」
「……待っとけ……」
与一は俊明の腕に目線を集中すると、自分のアーマーの一部を変形させて両手の指にまとわせて指先を鋭く変形させた。
「……それなりに硬いやろし、それで何とかならん?」
「鎧欲しい」
俊明は真顔でそう言いながら、指をカチカチと鳴らした。
「あのなぁ……」
与一が呆れようとしていると、
「来るぞ!」
と、ワールドの掛け声で男達が突っ込んできた。
与一は息を大きく吐いて突っ込んできた男の盾に強化したパンチを突っ込んだ。
しかし、盾はグニョンと変形して与一の手を飲み込みそのままの力で跳ね返した。
「うわっぷ!」
と、声を出しながら回転して衝撃を流すと、少し後ろに飛んで距離をとった。
そして、耳元で何かが通り過ぎたのか与一は驚いたようにその場に伏せた。
その瞬間与一の上空で魔物の腕と俊明の爪が接触して火花を散らした。
「あっぶ!俊明!もうちっと考えてくれん!?」
「ーー!」
「なんて!?」
とても早口に喋った俊明の言葉が聞こえずに与一は聞き返したが、目の前に盾が迫ってきているのに気づいてその場から転がるように離れた。
そして、さっきまで与一がいたところに盾が深々と突き刺さっているのを見て、与一は更に距離をとった。
「せこない!?」
与一は目を見開いて叫びながらもさっきよりも空いた距離を確認して、真っ直ぐに盾に突っ込んだ。
男は眉間にしわを寄せて腰を低くして構えた。
与一は猛牛が如く盾に突っ込んでいって、ぶつかると思われた瞬間盾を掴もうと手を伸ばしたが、それよりも早く男は与一に硬くなった盾をぶつけた。
与一は勢いを殺しきれずダンプカーに跳ねられたように空中に放り投げられた。
しばらくの間息が出来なくなった与一は痛む全身をどうにか動かそうとしたが、脳が揺れたのかうまく立ち上がる事が出来ないようだった。
そして、男が盾を振りかざして与一にケリをつけようとした時、凄まじい音が聞こえて男は与一の前に倒れた。
そして、その後ろには俊明がぜぇぜぇと息を切らしながら脚から煙を出していた。
「にーちゃん!くたばるんやったら鎧全部寄越せ!」
「……あいよぉ!」
与一は視界が霞む中、俊明に向かって手を伸ばした。
すると、与一が纏っていた鎧がサラサラと砂のようになって俊明の体にまとわりついた。
その間にも魔物から攻撃を受けていたが、俊明は既に付いていた腕の鎧で防ぎながら完成を待った。
そして、与一とはまた違う形状の鎧が俊明の体を纏った。
「最初からこうしとけば早かったんや!」
そう言って俊明はもう一度世界を置いて走り出した。
魔物もそれについて走り出した。
俊明はついてくる魔物に明らかな嫌悪感を出しながら、更にスピードを上げた。
しかし、魔物はそれにまだ着いてこれていた。
「……やったらこれでどうじゃボケェ!」
そして、先程は煙が出て出せなかったスピード以上の速さまで到達した。
が、その瞬間何かに弾かれるように吹き飛ばされた。
吹き飛ばされた俊明はそのまま回転しながら近くの岩に突っ込んだ。
岩は粉々に砕け散って更に何メートルか吹っ飛んだ後、俊明は気を失った。
「全く!何をしてあるのだ!あの兄弟は!」
その様子を全て見ていたワールドは憤慨しながらも銃を持った男の首を後ろから締めていた。
しばらくすると、男は白目を向いて気絶した。
「さて、後は魔物、貴様だけだが……」
「……ゲグゴギギゴゲギガガギグゲゴ!」
何か怒ったようにカチカチと顎を鳴らしていたがワールドにはそれの意味は理解できなかった。
「何を怒っているのかは知らぬが、ほれ、後ろに気をつけるが良い」
「グゲ……ゴッ!?」
何者からか後ろから殴られてほかの男たちと同じように気絶した魔物はピクピクと痙攣していた。
「……あ"あ"!全く!痛いし!吐きそうやし!ホンマ……体吹っ飛ばされた後に……なんて事してくれんねん……!」
「10秒もあれば十分だと思っていたが、まさか5秒で完治とはな」
「完治してへんで……ホンマ……」
与一は体から白い蒸気を出しながら脇腹を押さえていた。
「……治ったか?」
「10秒、……多分完治やわ……ホンマ、ロキには感謝やなぁ……」
「感謝してる割には様とか付けてくれねぇんだな」
すると、列車の窓からロキとノヴァがどこか楽しげに見下ろすようにそう言った。
「……はぁ、付けたほうがいいっすか?」
「くく、いーや、構わねぇよ、そう言って感謝の言葉を述べてくれるだけでも十分だ」
と、そう言いながら列車から降りてくると男達を手枷で繋ぐと、
「それに……こんなにスッキリしそうな生贄用意してくれたんだからなぁ……」
と、非常に恐ろしい笑みを浮かべて与一にそう言った。
「……あんまり酷い事しちゃ嫌っすよ……」
「お主はだから……!」
与一が少し引き気味に口をとがらせてそう言ったのに対し、ワールドは呆れたように何かを言おうとしたがロキが手を上げてそれを止めた。
「……なんでだ?」
ロキはニヤニヤと笑いながら与一に顔を寄せた。
普通なら与一もこれほど綺麗で可愛くて文句の付け所の無い服装をした女性に近寄られたら、顔を赤くして目線をそらして細々と言葉を放っただろうが、今回は違った。
「どれだけ相手が酷い事をしたって、話も聞かずに痛いことするのは何か……嫌やからっす」
「………」
ロキは瞳をシルヴィと同じように光らせて、与一の目を覗き込んだ。
そして、一瞬優しく微笑んだかと思うと、杖を与一の額に押し当てた。
「勘違いするなよ、この世界は優しさだけじゃ生きていけねぇんだよ、そこんとこわかっとかよ?」
と、グリグリと杖を押し当てると、クルリと踵を返すと最後にもう一度与一の方を振り返って悪魔のような笑い顔で、
「返事は?」
と、言った。
「……分かりました……」
与一はそれに対して頷くと、男達をどうするのかロキに聞こうと口を開いたが、それよりも早く別のところから声が上がった。
「ちょっとー、俺頑張ったのに救出とか手当してくれんのー?」
と、ピンピンしている俊明が身体中を払いながら与一達の所に現れた。
そんな呑気な声に毒気を抜かれたのかロキはクスクスと笑うと、先程とは打って変わって元気いっぱいというような言葉が似つかわしい笑顔で与一達の方を向いた。
「よし!そいつらを新しく付けた車両にある檻の中にぶち込んどけ!あっ!お前らは風呂に入っとけよ?泥だらけで汗臭いだろうからな!」
と、そう言って高らかに笑いながら列車の食堂車の中に戻って行った。
「「「………」」」
三人は顔を見合わせると、肩をすくめて大人しく男達を担いでいつのまにか付いていた最後尾の車両の中にある檻の中に優しく壁にもたれ掛けさせておいて、そのままの足でお風呂のある車両に向かった。
男は腕についている通信機について悪態を吐くと、二人に向き直った。
「お嬢達にまた問題発生だ」
「まぁ、なるとは思ってたワイナ」
「ガリグリゴコゴゴ!」
「そう言うこった、はぁ……じゃあ行くか……」
男はバリバリと頭をかきながら机で整備していたとてつもなく長い銃を二つ折りにして背負った。
「ガグリゴ?」
「相手の数は分からん、戦力も不明……これってギルドに応援要請した方がいいんじゃねぇのか?」
「それじゃあお嬢達の名前に傷がついちまうワイナ」
「ギギグガギ!」
「わーったわーった、もぅ……全く面倒ごとを引き受けたもんだよ」
「仕方ないワイナ」
「ギグゲ」
銃を背負った男は30~40ぐらいでタンクトップの姿でとても精悍な顔つきをしていた。
「お嬢達にまた説教ワイナ」
口癖に癖のある男は背がとても高く立派なヒゲを生やし、横にも縦にも大きな体と同じぐらいの大きな盾を背負った。
「ググゲギガガガ?」
口元をカチカチと鳴らしながら何かを喋るカマキリとカニを合わして人型にした様な恐らく性別男のそれは、全身にナイフや刃物、ありとあらゆるものを仕込んでいた。
「逆ギレ食らうんじゃないかってか?仕方ないだろ、これが俺らの仕事なんだからよぉ」
そして、三人はすっかり暗くなった夜、宿を出て街の前に広がる荒野と、そのに走る一本の銀色の線路を目印に彼女達の元へと向かうのだった。
一方その頃列車内の食堂として使われる予定であった一室では、
「コヤツらが攻撃してきて捕まえたなら奴隷にでもすれば良いであろう、なんなら予想以上の出費で減ってしまった旅金の資金にすればよかろう」
「あのなぁ、そんな残酷なことできるわけないやろ?」
「なら、奴隷にして調教して……」
「お前はその考えから離れろ……はぁ」
与一とロキは頭を抱えながら、敵意むき出しのノヴァと凄まじい覇気を放っているワールドを見て、すくみあがってしまった三人の捕虜を見た。
「ロキィ………」
「だって想定してないだろ、捕まえた奴らを突っ込んでおく牢屋が列車に突っ込むとかさ」
「どーにもならん?」
「あのなぁ……もうちょっと……考えてんだろうけど考えてくれ……」
「俺はそこらへんにほってったらいいと思うー」
と、俊明は床に寝転んでスマホを触りながらそう言った。
「あほ、それしたらモンスターとかそれこそ他の奴らに捕まって奴隷として売られたらどうすんねん」
「そんなん知ったこっちゃないやん、殺そうとしてきてんで?そいつら」
俊明は三人を睨みながらも、スマホを触り続けていた。
「人としてって事よぉホント」
「なら、人が助けてあげた人を捕まえて奴隷にしようとしていた人は人としてどうなんですかー」
「………ハイハイわかった分かった、悪かったって」
与一は捻くれた俊明に両手を上げながら、そうやないんやけど、と、小さく呟いた。
「やられたらやり返すは、あんまり……俺が好きじゃないからなぁ」
「……だからずっとやられっぱなしやってん……にーちゃんは……」
「はいはい、お前らの事は分かったから、こいつらを少し見といてくれ、上に連絡してくるからよ」
と、ロキは諦めたように手を叩いて二人を宥めた。
そして、一息ついて杖を一振りして目の前から消え去った。
「……貴方……貴様達はホントに難儀な生き物ね」
と、ノヴァは呟きながら手にコーラと干し肉を持って机の上で膝をつきながらクダを巻いていた。
「……それ飲めんの?」
「……ケプッ、………ん、刺激は強いが飲ない事はない……病み付きになりそう……」
と、何があったのか瞳を少し潤ませながらノヴァはグイッと一気に瓶のコーラを飲み干した。
「やるなぁ、俺かて瓶コーラ一気は無理やで……」
と、感心したような言葉を放つ与一に、
「いや、そこ感心するとかちゃうやろ」
と、ケータイから目を離さずに俊明は手だけビシッと兄に突っ込んだ。
「へいへい……俺も飲みたくなってきたな……取ってこーよお」
と、与一は部屋ら出て止まっているおかげで全く静かで暗い廊下を、食料室向けて歩いて行った。
その過程にふと列車の窓を見た。
そこには二人の男と一匹の魔物達がいて、その中の一人のデカイ銃を背負った男と与一は与一が列車から見下ろす形でバシッと目が合った。
「…………」
「…………」
二人は数秒間固まっていたが、魔物が動き出して男を窓から引き離した。
その瞬間与一は窓を開けてそこから飛び降りた。
飛び降りた所には足が食い込み、少し地面にひびを作った。
与一は恐る恐る振り返って線路が無事なことを確認して安心したように溜息をつくと、
「あ」
と、間抜けな声をあげた。
「な、なんだ?」
「ワイナ?」
「ガキョ?」
三人は顔を見合わせていたが、特に何もしてくる様子は無さそうなのでそれぞれ武器を構えた。
「たーすーけーてー!俊明ぃ!」
「なーにぃ!」
すると、凄まじい音量の助け声が与一の口から放たれ列車の中から顔を赤らめて凄い勢いで俊明が顔をのぞかせた。
「恥ずかしいからやめーや!」
「それよりもほれこれ!」
「……だれ?」
「……だれ?」
与一はその質問を前の三人に向けた。
「………」
しかし、質問に応えようとする姿勢は感じられなかった。
「……敵やな」
「やねぇ」
すると俊明は世界を置いて歩き出した。
周りがゆっくりとスローの世界になっている中、一度コーラを食料室の所まで取りに行って列車から降りると、一口飲んで空中にビンを置いて、三人を縛りあげようと紐を取り出してデカイ銃を持っている男と、デカイ盾を持っている男を縛り上げてそして、魔物を縛りあげようとした時、魔物の目が急にギョロリと動いて俊明と目が合った。
「!!」
俊明はその場で伏せると、魔物に向かって足払いをした。
魔物はそれを飛んで避けると身体中からナイフを取り出した。
そして、俊明は世界に追いつかれた。
それと同時に空中に置いていたビンが地面に落下してコーラもろとも、地面にぶちまかれた。
「にーちゃん!こいつ!強い!」
「お、おう、やけど二人は縛り上げてるんやし……」
と言ったところで魔物が二人の縄を軽々と切った。
「……前言撤回や……ワールド!敵襲や!」
与一は先程と同じように大音量の声を出した。
すると、列車から悠々とワールドが降りてきた。
「ふん、貴様らだけいい思いしおって……」
そう言うと、ワールドは両手を斜め上に構えた。
それは相手を覆い尽くさんとするような構えだった。
「……俊明はあの魔物、ワールドはリーダーをやってくれ、俺はあの盾をやるわ」
与一は相手の武器を鑑みてなのか、三人の相手を決めた。
「……俺武器ないねんけど、にーちゃん……」
「……待っとけ……」
与一は俊明の腕に目線を集中すると、自分のアーマーの一部を変形させて両手の指にまとわせて指先を鋭く変形させた。
「……それなりに硬いやろし、それで何とかならん?」
「鎧欲しい」
俊明は真顔でそう言いながら、指をカチカチと鳴らした。
「あのなぁ……」
与一が呆れようとしていると、
「来るぞ!」
と、ワールドの掛け声で男達が突っ込んできた。
与一は息を大きく吐いて突っ込んできた男の盾に強化したパンチを突っ込んだ。
しかし、盾はグニョンと変形して与一の手を飲み込みそのままの力で跳ね返した。
「うわっぷ!」
と、声を出しながら回転して衝撃を流すと、少し後ろに飛んで距離をとった。
そして、耳元で何かが通り過ぎたのか与一は驚いたようにその場に伏せた。
その瞬間与一の上空で魔物の腕と俊明の爪が接触して火花を散らした。
「あっぶ!俊明!もうちっと考えてくれん!?」
「ーー!」
「なんて!?」
とても早口に喋った俊明の言葉が聞こえずに与一は聞き返したが、目の前に盾が迫ってきているのに気づいてその場から転がるように離れた。
そして、さっきまで与一がいたところに盾が深々と突き刺さっているのを見て、与一は更に距離をとった。
「せこない!?」
与一は目を見開いて叫びながらもさっきよりも空いた距離を確認して、真っ直ぐに盾に突っ込んだ。
男は眉間にしわを寄せて腰を低くして構えた。
与一は猛牛が如く盾に突っ込んでいって、ぶつかると思われた瞬間盾を掴もうと手を伸ばしたが、それよりも早く男は与一に硬くなった盾をぶつけた。
与一は勢いを殺しきれずダンプカーに跳ねられたように空中に放り投げられた。
しばらくの間息が出来なくなった与一は痛む全身をどうにか動かそうとしたが、脳が揺れたのかうまく立ち上がる事が出来ないようだった。
そして、男が盾を振りかざして与一にケリをつけようとした時、凄まじい音が聞こえて男は与一の前に倒れた。
そして、その後ろには俊明がぜぇぜぇと息を切らしながら脚から煙を出していた。
「にーちゃん!くたばるんやったら鎧全部寄越せ!」
「……あいよぉ!」
与一は視界が霞む中、俊明に向かって手を伸ばした。
すると、与一が纏っていた鎧がサラサラと砂のようになって俊明の体にまとわりついた。
その間にも魔物から攻撃を受けていたが、俊明は既に付いていた腕の鎧で防ぎながら完成を待った。
そして、与一とはまた違う形状の鎧が俊明の体を纏った。
「最初からこうしとけば早かったんや!」
そう言って俊明はもう一度世界を置いて走り出した。
魔物もそれについて走り出した。
俊明はついてくる魔物に明らかな嫌悪感を出しながら、更にスピードを上げた。
しかし、魔物はそれにまだ着いてこれていた。
「……やったらこれでどうじゃボケェ!」
そして、先程は煙が出て出せなかったスピード以上の速さまで到達した。
が、その瞬間何かに弾かれるように吹き飛ばされた。
吹き飛ばされた俊明はそのまま回転しながら近くの岩に突っ込んだ。
岩は粉々に砕け散って更に何メートルか吹っ飛んだ後、俊明は気を失った。
「全く!何をしてあるのだ!あの兄弟は!」
その様子を全て見ていたワールドは憤慨しながらも銃を持った男の首を後ろから締めていた。
しばらくすると、男は白目を向いて気絶した。
「さて、後は魔物、貴様だけだが……」
「……ゲグゴギギゴゲギガガギグゲゴ!」
何か怒ったようにカチカチと顎を鳴らしていたがワールドにはそれの意味は理解できなかった。
「何を怒っているのかは知らぬが、ほれ、後ろに気をつけるが良い」
「グゲ……ゴッ!?」
何者からか後ろから殴られてほかの男たちと同じように気絶した魔物はピクピクと痙攣していた。
「……あ"あ"!全く!痛いし!吐きそうやし!ホンマ……体吹っ飛ばされた後に……なんて事してくれんねん……!」
「10秒もあれば十分だと思っていたが、まさか5秒で完治とはな」
「完治してへんで……ホンマ……」
与一は体から白い蒸気を出しながら脇腹を押さえていた。
「……治ったか?」
「10秒、……多分完治やわ……ホンマ、ロキには感謝やなぁ……」
「感謝してる割には様とか付けてくれねぇんだな」
すると、列車の窓からロキとノヴァがどこか楽しげに見下ろすようにそう言った。
「……はぁ、付けたほうがいいっすか?」
「くく、いーや、構わねぇよ、そう言って感謝の言葉を述べてくれるだけでも十分だ」
と、そう言いながら列車から降りてくると男達を手枷で繋ぐと、
「それに……こんなにスッキリしそうな生贄用意してくれたんだからなぁ……」
と、非常に恐ろしい笑みを浮かべて与一にそう言った。
「……あんまり酷い事しちゃ嫌っすよ……」
「お主はだから……!」
与一が少し引き気味に口をとがらせてそう言ったのに対し、ワールドは呆れたように何かを言おうとしたがロキが手を上げてそれを止めた。
「……なんでだ?」
ロキはニヤニヤと笑いながら与一に顔を寄せた。
普通なら与一もこれほど綺麗で可愛くて文句の付け所の無い服装をした女性に近寄られたら、顔を赤くして目線をそらして細々と言葉を放っただろうが、今回は違った。
「どれだけ相手が酷い事をしたって、話も聞かずに痛いことするのは何か……嫌やからっす」
「………」
ロキは瞳をシルヴィと同じように光らせて、与一の目を覗き込んだ。
そして、一瞬優しく微笑んだかと思うと、杖を与一の額に押し当てた。
「勘違いするなよ、この世界は優しさだけじゃ生きていけねぇんだよ、そこんとこわかっとかよ?」
と、グリグリと杖を押し当てると、クルリと踵を返すと最後にもう一度与一の方を振り返って悪魔のような笑い顔で、
「返事は?」
と、言った。
「……分かりました……」
与一はそれに対して頷くと、男達をどうするのかロキに聞こうと口を開いたが、それよりも早く別のところから声が上がった。
「ちょっとー、俺頑張ったのに救出とか手当してくれんのー?」
と、ピンピンしている俊明が身体中を払いながら与一達の所に現れた。
そんな呑気な声に毒気を抜かれたのかロキはクスクスと笑うと、先程とは打って変わって元気いっぱいというような言葉が似つかわしい笑顔で与一達の方を向いた。
「よし!そいつらを新しく付けた車両にある檻の中にぶち込んどけ!あっ!お前らは風呂に入っとけよ?泥だらけで汗臭いだろうからな!」
と、そう言って高らかに笑いながら列車の食堂車の中に戻って行った。
「「「………」」」
三人は顔を見合わせると、肩をすくめて大人しく男達を担いでいつのまにか付いていた最後尾の車両の中にある檻の中に優しく壁にもたれ掛けさせておいて、そのままの足でお風呂のある車両に向かった。
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代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから
渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。
朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。
「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」
「いや、理不尽!」
初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。
「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」
※※※
専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり)
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
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