Two Runner

マシュウ

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向かうは世界の果て

矛盾

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 与一は少しずつ血の跡が残る洞窟の前に車を止めると、変形させて周りの石を動かしてそれとなく隠した。
 
「はぁっといしょっと!」

 与一は首を鳴らしながら最後の岩を置くと、俊明達の方を向いた。

「ど?」

「うむ、中から血の匂いが漂ってきとるな、芳しい女の血の匂いだ……ガッ!?」

「はぁ、貴様がヨイチ達の仲間ではなかったらここで拳骨ではなく、叩っ斬ってやっていたのだがな」

 頭を抱えて転がるワールドの前に腰に手を当てて、フォールは拳の先からシュウゥと煙を出しながら呆れた様にため息をついた。

「……程々にしときや……ビート?」

「…………」

 与一はビートに手招きをすると、何やら耳元で囁いた。

「………」

 コクリと頷いたビートに与一は満足そうに頷くと、車から取り外した路肩の無線機の中継機を洞窟の前にこれまた分かりにくい様に細工をして置いた。

「ロキ、中継機の設置完了したで」

『よし、じゃあビートが先頭で中に入っていってくれ、もしかすると洞窟の中で魔物との戦闘になるかも知れん、その時は俊明の銃で何とかしろ、俊明以外は一撃が強すぎて洞窟を崩しかねんからな』

「俺も一応銃使えるけど……」

 そう言って与一はあのおばあちゃんに貰った未だ一回も使ったことのない銃をさすった。

『……下手に撃つなよ?』

「気をつけるわ」

 ロキから念押しされつつも与一も銃での戦闘が許可れた。

『与一、無線をスピーカーにしてくれ』

「ウィ」

 そう言って与一は無線機をみんなに聞こえる様にセットした。

『あーあー、聞こえるか、お前ら?』

「おお、ロキ!聞こえるぞ」

『リアクションどーも、フォールちゃん』

「……ちゃん?」

『さて、さっき与一にも言ったが中での戦闘は与一と俊明の二人で基本行ってもらう、それ以外は一撃が強すぎて洞窟を崩しかねんからな』

「それを言えば与一もであろう?」

『与一にはあの特別な鎧の他に銃を一丁持ってるからな、それを使ってもらう』

「ロキ、ちょっといいか?ヨイチに質問なんだが」

『なんだ?』

 与一はフォールに声をかけられる事が珍しいく思い、驚いた様に振り向いた。

「ヨイチのその鎧で私たちにも使いやすそうな銃を作れないのか?」

「あー、それは……無理やな」

「何故だ?」

「まず、銃自体は作へんことはない、ただレーザーガンにってまうけどな、薬莢とかは作れてもこの鎧の一部を使い捨てにすることは出来へんのが一つ」

「いや、もういい、その理由だけで十分だ」

「あ、そう?」

『……いいか?じゃあ続けるぞ、洞窟が落盤したら抜け出せないことはないだろうが正直時間がかかり過ぎる、だから今回は慎重に行動してくれ』

「ウィ」

「「わかった」」

「りょーかーい」

「…………」

『よし!じゃあビート、先導してくれ』

 ビートは頷くと全員が揃っているのを確認して洞窟の中に入っていった。

「……アレは?」

 入ってしばらくすると、何か動物の死体が転がっていた。

「……斬られている、腐臭もそんなにしない……1日ぐらい前のものだな」

「あいつらか……」

「ここを通ったことは確からしいな」

「何かの動物?」

 俊明は不思議そうに屈むと、その動物を覗き込んだ。

「……でっかい蝙蝠みたい……やな」

「……死体は処理しておかないとゾンビ化したりするからな、焼いておこう」

 そう言ってフォールは動物の前に跪くと、懐から何か皮の水筒の様なものを取り出して、栓を取って中の液体を死体にふりかけ、マッチを擦って火をつけ、それを死体に放った。

 すると、死体は勢いよく燃え上がり、辺りを暖かく照らした。

『馬鹿野郎!一酸化炭素中毒で死ぬぞ!』

 その瞬間与一は鎧を変形させて、巨大な扇風機を作り出し、勢いよく燃える火を物ともせずに風を送り出した。

 そしてしばらくすると、火の勢いは収まり動物の骨だけとなったものがそこに転がっていた。

『……しばらく回しておけ、まだ空気が淀んでるだろうからな』

 無線の向こうからため息を吐く声が聞こえ、

『フォール、火をつけると無臭の毒ガスが出るのは知らなかったのか?』

「……すまん」

『今度から気を付けるんだな……まぁ、終わったことだしそんなに気にするな』

 何故だか少し優しげなロキの声に与一は首を傾げつつつも、空気の淀みがなくなったことを確認して、扇風機を元の鎧に戻した。

「いこか」

『アスターが言っていた横穴までもう少しだな……』

 そして、血の滴った跡がある道を与一達は歩いていた。

『……びっくりするぐらい魔物がいねぇな』

「ヤバいんやない?」

「ヤバくない、全くそう言う洞窟が一つや二つあったって不思議じゃなかろう?」

「全くヨイチは心配症だな、我を見習うといい」

 そう言ってワールドはビートの横を走り抜けようとしたが、ビートがワールドの首根っこを捕まえて引っ込めた。

「うぐっ!?」

 そして、ワールドが後ろに引っ込んだ瞬間、ワールドがいたところにヌタヌタした触手が地面を突き刺した。

「い、いやぁぁぁぁぁぁ!」

 その瞬間耳をつんざく様な悲鳴がフォールの口から放たれた。

「うっさいわボケ!」

 与一は腰からおばあさんから貰った銃を引き抜くと、その触手に向かって三発打ち込んだ。

 思ったよりも太い触手に二つ穴が空いて、触手は暗闇の向こうに消えていった。

『与一!早く明かりをつけろ!』

「あいよ!」

 そう言って与一は鎧の一部をライトに変換させると、前方を照らした。

「………うっそぉ」

「……冗談……だろう?」

 与一とワールドは前半に見える魔物の姿の、あまりの醜悪さに後退りをした。

 そのままのはナメクジとタコを合わせて危険そうなまだら色にした様な姿をしていた。

 全身がヌタヌタしていて、時々口らしきところから白い液が垂れていた。

 そして、その魔物はとてつもなく……臭った。

「うぉぇ!くっさああああ!!」

「にーちゃん下がって!」

 そして、俊明が息を一気に吸い込んでビートの隣まで転がり出ると、アサルトライフルを連射した。

 ノズルが瞬いて魔物に無数の穴が開くと、あっけなくその場に倒れた。

「……ふぅ、おへっ!」

 与一は鎧をガスマスクに変形させて、全員に配って回った。

 すると、フォールが与一に飛びついて小さく何か呟き出した。

「な、なんやねん?」

「………無理」

「は?」

「無理無理無理無理!あんなヌメヌメしたやつ!気持ち悪すぎる!」

「あ~は~?」

 与一は俊明達の方を振り返った。

 それに対して俊明達は肩を含めるだけしかなかった。

『……フォール、どんなトラウマがあったか知らんがこれ以上進むのが無理なら洞窟の入り口で待ってろ』

 すると、ヨイチの無線機からロキの声が聞こえて、フォールはそれに対して首を横に振りながら、プルプルと立った。

「ふふふふ、わた、わたひ、私はまだまだ、いけるぞ?」

『かみかみじゃねぇか』

「フォール無理しなや?」

「にーちゃん女の子にだけ優しくすんのはどーかと思うでー」

「……!」

 俊明に与一は握り拳を作って見せると、ため息をついた。

「いけるか?っておお!?」

 与一はファールの方を振り返ると、ファールの後ろに先ほどと同じ様な魔物がフォールを捕まえようと触手を伸ばしていた。

「フォール!伏せろ!」

 与一は銃を持とうとしたが、唐突に切り替えて服を触手に変形させてそれを止めた。

「むん!」

 ワールドは大股でフォールに歩み寄ると、ビートの前にファールを放り投げた。

 ビートは片手でフォールをキャッチすると、ゆっくりと地面に下ろした。

「あ、ありがとう……」

「……」

 ビートは微かにお辞儀をして、与一が絡めとっていて触手に大股で近づくと、本体を触手を引っ張って手繰り寄せると、その大きな拳で殴った。

 べチャリと音がして魔物の体が弾け飛ぶと、その一帯に魔物の残骸が散らばった。

「べとべとやがな、ビート」

 そう言って与一は持ってきていたリュックの中から水を取り出すとビートにぶちまけながら、布で拭いてやった。

「帰ったら洗濯やなそれ」

 そう言って布をくるんで直すと、与一はフォールにこう言った。

「戻っとき、このままやったらフォール自身が危ない間に合うわ」

「……舐めるなよ……私だってギルドの内では上位に入る実力がある……これぐらいでへこたれていては私の誇りに傷がつく!」

「いや、すでにボロボロやろ……」

「何か言ったか?」

「いや、なんも言ってないっす……このくっ殺騎士姫様……」

「聞こえてるぞ?」

「その辺にしーへーん?やないとほら、アレ」

 与一とフォールがバチバチと睨み合う中で俊明が間延びした声を出して、先ほどの魔物達を指差した。

「中から何が出てきてへん?」

「「ん………?」」

 与一とフォールはじっと魔物を見つめた。

 すると、魔物の残骸から先ほどよりも小さな魔物がウニョウニョと這い出ていた。

「わったふぁっ!」

「ヨイチヨイチヨイチヨイチヨイチ!!」

「わぁっとるわ!」

 与一はポケットから何か白い粉の入った瓶を取り出して、それを魔物に振りかけた。

 すると、ゆっくりと動いていた魔物は次第に動かなくなり、溶ける様にいなくなってしまった。

「よ、ヨイチ?一体その粉は?」

 与一はバックから野菜を取り出してその粉を振りかけて食べてみせた。

「おやつに食べようと思っていた野菜にかけようと思うとった塩」

「「「塩」」」

 俊明とフォールとワールドは口を揃えてそう言った。

「そうや、透析……お前らは知らんやろけど……あれ?凝析やったっけ?まぁ、どっちでもええわ」

 微妙にアホを晒す与一にその場にいる全員呆れつつ、溶けて消えた魔物を跨いで、五人は洞窟の奥に向かった。

 そして、そんなに歩かないうちにロキが五人を止めた。

『止まれ、そこに何か腕が入りそうな穴が無いか?』

「んーーーーあった、これか」

 与一は明かりを照らして腕が入りそうな穴を見つけた。

『そこの中にレバーがあるらしいから引いてみろ』

「ウィ」

 そして、与一は手を突っ込もうとして………。

「腕が太すぎてはいらねぇっす」

『お前のその服は何のために変形機能がついてんだ?』

「あっ、そっか」

 与一は納得した様に頷くと、服を変形させて触手の形にして穴に突っ込んだ。

「……なあヨイチ」

「なにぃ?」

「貴様のその触手、感覚がわかるのか?」

「分からん、事もない、何となーくわかってるかも?」

「……どっちなんだ?」

「なんかあるぐらいしか分からん……おっ、これか、これをこうして……」

 ガチャリと音がして与一の隣の壁が動いて奥に続く扉が開いた。

「よし、いこか」

 与一はそう言って、開いた洞窟に向かって歩き始めたが、ワールドが洞窟の奥に目をやって動かないのに気がついた。

「どしたん?」

「………すまぬ、ヨイチ我はこの洞窟の奥に少し用ができた、すまぬが四人であの二人と相手をしてやってくれ」

「ええけど……どったん?」

『単独行動か?私が許すとでも……』

「何、すぐに戻っておいつく、これで文句なかろう?」

『……分かった、全くお前らは本当に問題児ばっかだなぁ……』

「ごめんやん、母さん」

『お前本当に一度しばかれたいみたいだな?』

「にーちゃんがママやって!ぷふー!!」

「母が恋しくなるのはわかるが、今はその時ではないだろう?」

「お前ら………!!」

『……残念だったな』

「はぁ………」

 無線の向こうでロキが笑いを堪えた様な声を出しているのに、与一はため息をついて洞窟の奥に歩き始めた。

「ワールド、無事でな」

「バカもん、我がそう簡単に死ぬと思ったら大間違いもいい所であるぞ?」

「……くはっ!」

 与一はそう言って笑う(?)と、振り返らずにさらに奥へと歩いて行ってしまった。

「馬鹿者!先に行くな!」

「ほんまにーちゃんて自分勝手やなぁ!カッコつけたいがばっかりにさぁ!」

「………」

 と、三人も与一の跡をついて行った。

「……さて、我も強くならねばならんのでな、異世界からの訪問者よ、倒させてもらうぞ?」

 そう言ってワールドは与一達とは別方向からやって来た、筋骨隆々のオーガに向かってそう言った。

「へぇ?分かるもんなんだな?」

「貴様も我と同じ匂いがする、性を貪り、頂点に立つ快楽をも貪り続ける者のな」

「まぁ……そう見えるか……」

「貴様がどんな体験があったにしろ、我には関係ないのでな遠慮なく行かせてもらうぞ」

「………」

 そうして、二人は構えた。

「いざ、参る!」
























 場所は変わって分かれ道の最奥、アスターが言っていた隠れ家の中、

「……来ちゃったカナ?」

「……うぐっ!」

 二人の女エルフは傷だらけの体を無理やり持ち上げる様に立ち上がると、ふらふらの状態のままで与一達に武器を構えた。

「おいおい……これじゃあまるで」

「どっちか悪もんか分からへんなぁ……」

 与一はバリバリと頭を掻くと、二人の前にゆっくりと歩いて行った。

 そして、腰から銃を引き抜いて二人の目の前で落とした。

 次の瞬間与一は武器の方に目が行っている二人の武器をはたき落とすと、地面に倒れさせた。

「……話を聞いてくへん?」

「…………問答無用……カナ?」

「………ひどいやつ……カモ……」

 そう言って二人が起き上がれずに、転がっている間に与一はフォールと俊明に目配せをした。

「さて、お話ってのはアスターの事やねんけどな」

「「…………」」

「あいつは、お前らに暴力を振るわれるのが嫌やってんて」

「そんなの知ってるカナ……」

「やったらなんで……」

「仕方なかったカモ!じゃなきゃ私達が殺されていたカモ!」

「ん………?まてまて、暴力を振るわなきゃ殺されていた?どう言う事だ?」

「…………!」

 女はしまったと言う顔をして、目をギュッと閉じて観念した様に話し始めた。

「……アレは私達の村が襲われた時の話……私達は命からがら村から逃げ出すと、近くの森の中の洞窟に隠れていたの……洞窟の中は寒く、暗く、私達は身を寄せ合って暖をとっていたの、喉の渇きは洞窟の中の水たまりで癒し、飢えは変わりがわりに森の中に生えている草と木の実を取って来て食べていた……」

「………」

「数日たったある日のこと、彼女は突然咳き込み出してその咳は一日中止まらなかった……私達は咳の後で気づかれると思って彼女の口に布を当てて、誰も来ないことを祈ったの………そしてしばらくした後、突然狂った様に笑い始めて頭を掻きむしり出して、綺麗だった彼女の青い髪が、白色に変色して……そして……」

 そこまで言うと、女はプルプルと震え始めた。

「思い出すだけでも恐ろしい……森で私たちを探していた盗賊達を次々と信じられない身体能力で皆殺しにした………その時の彼女は笑っていたわ……」

「……それが何であの子を傷つけることに繋がるんや?」

「……そう、これで話は終わりじゃないの、盗賊達を皆殺しにした後、私たちを洞窟から引き摺り出して、狂気に光った目で私達にこう言ったのよ……『私の言う通りにしなさい……そうすればきっと大丈夫よ……なぜなら私は貴方達を愛しているのだからね』って」

「……そして?」

「そして、小さい私達は彼女の言う通りに村から出て街で盗みを働き、金を作ると防具を揃えて森で生きるか死ぬかのサバイバルを始めたの……そして、失敗すると私たちをズタボロにしてこういうの……『次は無いわよ』って……!」

 ガタガタと震える二人を見て、与一はこれは嘘をついている様には見えなかった。

「……くっそ、どう言うことやねん……」

 与一はよくよく見ると、二人の女の体には幾つもの傷跡があるのに気がついた。

 それは素人の与一の目で見ても明らかに人の手で行われたと分かるぐらい悲惨なものだった。

「…………」

 そして、与一は無線機を使ってロキに呼びかけようとしたその時、無線機の向こうからユウラビの声が聞こえて来た。

『ロキ!大変……うわぁ!なんでスッポンポンなの!?』

『ちょっ!おまっ!部屋に入る時はノックをしろ!クッソ!すまん与一!一瞬ミュートにするぞ!』

 ブツッと音がして無線が切れた。

「「「「……」」」」

 その場にいる全員はなんだか気まずくなって目線を合わせようとしなかった。

 そして、1分後ぐらいになると、再び無線がついた。

『分かった分かった!あとにしてくれ!……コホン、与一面倒なことになったぞ……!』

 与一は背後から誰かが歩いてくる気配を感じて振り返った。

 足音からワールドの歩き方では無いことがわかった。

 さらに足音が軽い……。

 そして、二人が話した内容から察するに……。

「ロキ、当てたるわ、アスターがおらんようになったんやろ?」

『あ、ああ、そうだ、ユウラビによると突然……』

「突然笑い始めて部屋から飛び出したんやろ?」

『そ、そうだ……そ、それで向かった先は……!』

「俺の目の前におる」

 そう言って与一は無線機を地面に置いた。

『おい!与一!どう言うことだ!?』

「……どう言うことや?アスター」

「あら、貴方達とは始めましてね」

 与一はロキが騒いでいる無線機を切って、まっすぐと後ろにいる二人と紫色の髪のアスターの直線状を遮るように立って、アスターを睨みつけた。
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