Two Runner

マシュウ

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向かうは世界の果て

そして彼は勝利する

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「はじめまして、やとぉ?」

「ええ、貴方達とは……ね?」

 与一はさっきまでのアスターとは雰囲気が違うと言うことに心当たりがあるように、目の前のアスターを見た。

「……アスターは?」

「だからアスターは私よ……?」

「……そうやなくってやなぁ……」

「うふふ……」

 コロコロと笑うアスターに与一は困ったように頭を掻くと、

「アレや、お前、アスターの……アレよ……名前がパッと出てこんのや……」

「アスター?ここでなにしとん?」

 と、そんな与一を他所に俊明は敵意たっぷりに、妖艶な笑みを浮かべるアスターにそう問いかけた。

「あらあら、お兄ちゃんのことを待ってあげなさいな、全くせっかちさんね?だから女の子と仲良くできないのよ?」

「あ"?」

 俊明は瞬間湯沸かし器のごとく一瞬で頭に血が上ると、アスターに向かって走り出した。

「待つカナ!」

「おっしゃらぁい!」

 女の静止も虚しく、俊明はアスターに蹴りを放った。

 アスターはそれを表情を変えることなくアッサリと片手で受け止めると、ひょいと俊明を壁際に放り投げた。


 ドゴォン!

 と、音がして俊明が壁にめり込むのを見て、フォールとビートは戦闘態勢に入った。

「まってまって!コイツ………そう!『多重人格者』や!」

「うふふ……どうかしらねぇ?」

「なんやそれ……呼び方は同じアスターでええんか?」

「うふふ……そうね……じゃあ『ヴィクトリア』とでも呼んでもらおうかしら?」

 与一はそれを鼻で笑うと、

「なんや?元魔王さまやったりすんけ?」

「いーえ?」

「じゃあサキュバス?」

「いーえ?」

「………天使?」

「ぷっ…………ええ……そうよ………」

 プルプルと口を押さえて震えながら、体をくの字にしてヴィクトリアと名乗ったアスターの顔をした女は、与一を面白いものでも見つけたかのように目元を歪ませて見つめた。

「……はいはい、じゃあ天使がなんで女の子の体入って元々の友達をボコボコにしてたりしたんですかぁ?」

「それは、彼女の意思だったからよ?私はそれのお手伝いをしたに過ぎないわ?」

「私達を傷つけるのが……」

「アスターの望み……?」

「あら、知らなかったの?あの子、貴方達がいつもいつも憎くて仕方がなかったのよ?村にいる時から……」

「「………っ!」」

「……なんや、まぁ昔何があったかは知らんけど、昔は昔、今は今やろ?そんなことしたらあかんやん?」

「……貴方も、私を否定するのかしら?」

「まぁ、必要やったらなぁ?」

 そして、ビートとフォールは二人が話し合っている間、ヴィクトリアの隙を伺っていた。

「ビート……不味いぞ……この女……間違いなく私と与一達より……強い!」

「………」

 ビートはゆっくりと頷いた。

 実際、彼女達が動こうとした瞬間にヴィクトリアの目線が二人の方を向いて『動くな』と笑いかけていた。

「……しかし、ヨイチのやつ一体何が目的なんだ?」

「………」

 ビートはしばらく二人のことを見つめると、戦闘態勢を解いて、床に寝転がっている女二人を担ぎ上げた。

「……本気か!?ヨイチ!」

「………んで?」

 与一はフォールの質問に答えずに、ヴィクトリアの話を続けさせた。

「…………」

 ビートはフォールの方に手を置くと、首を横に振った。

「………っっっっ!!」

 フォールは唇を噛んで、何かに耐えるようにすると、踵を返して俊明を抱えて、出口に向かって走り出した。

「…………」

 ビートもそれに続くと、入ってきた道に戻る前に与一の方を振り向いて、山高帽のつばに手を添えるようなそぶりをして出て行った………。

「……それで?貴方一人でどうやって私を止めるつもり?」

「まぁ、10秒後の俺がなんとかしてくれるやろ」

 クスクスと笑ってポーチから短剣を引き抜いたヴィクトリアに、与一は震えながらもポケットからチケットを取り出した。

「あら?それは……」

「……いややなぁ~」

 と、与一は呟きながらチケットを一度切ろうとして、切符を改札鋏の間に入れた瞬間、与一の右の方の壁が吹き飛んで、そこからワールドが転がってきた。

「……何だよ、そこそこつえぇじゃねぇか……だが、それよりも俺の方が強かったみたいだな……」

 と、巨大な人影が砂埃の中から現れた。

 それは頭から二本の角を生やして、腕が鱗に覆われていた。

「あら、お久しぶりね?」

「おう、アスターさん……ん?」

 その男は与一に気がついたようにすると、

「コイツもしかして邪魔っすか?」

 と、自分よりも背の低い与一を見下すように指差した。

「そうね、これからあの子達にもう一度再確認しに行くんだけど、この人が邪魔してくれちゃってね?」

「なるほどね……じゃあ敵ってことで?」

「いいんじゃ無いかしら?」

 すると、男はゆっくりと与一の方を見た。

「……わりぃな、同郷の仲とはいえ、所詮この世界じゃあ俺達は他人同士、大人しく死んでくれ」

 そう言って目にも止まらぬ速さで与一のお腹に拳をたたき込んだ。

 与一は口から血を吐き出しながら壁際に叩きつけられて、崩れた岩の下敷きになった。

「………グェホッ!カハッ!ゲッホゲッホ!!」

 与一は瓦礫の隙間からなんとか顔だけ出して、息ができなかったのか、暫く目を見開いた後そこに大量に血反吐を吐いた。

「……お前、弱いな」

「そうねぇ、この子、弱いわ」

 二人に見下ろされながら与一は初めて、命の危険を感じたのか、目から涙を流しはじめた。

「じゃあな」

 と、意外にもあっさりとした言葉で男は与一の頭を殴って潰した。

「あーあ、全く、きたねぇなぁ」

 そう言って男は近くに転がっていたワールドを拾ってその服で手を拭いた。

「あら?そういえばあの子達は?」

「ああ、それは……」

「あっ、終わってるみたいね?」

「さっすが!相変わらず強いねえー?」

「流石……」

 男が開けた穴からゾロゾロとさまざまな種族の男女が入ってきた。

「早く帰って、ほら、子作りしましょ?」

「あー!また抜け駆けしてる!」

 すると、何人かの女がその男に駆け寄って腕を引っ張りはじめた。

「あ、あー、すまんすまん、さぁ、戻ろう」

「ちゃんと開けた穴直してね?」

「あ、すんません、アスターさん」

 そう言って男は穴に近づいて行ったが唐突に後ろを振り返った。

 そして、その瞬間腕で顔を防御したが、攻撃はそこを狙っていたわけではなく、股間と鳩尾に命中した。

「………ぜぇ……ぜぇ……なに……寝ぼけておるのだ………」

「……タクミ、私がやってもいい?」

「いや、お前らが手を汚す必要は無い」

 そう言ってタクミと呼ばれた男は、手で女達を押さえた。

「寝ぼけてるのはお前だろ、まだ俺に勝てるって思ってんのか?」

「………ぜぇ………はなから貴様には話しかけておらん………そうだろう?………ヨイチ!」

「?」

 ワールドはそう叫んだ。

「うるさい!」

 すると、蝙蝠のような翼の生えた女の一人がワールドに突っ込んで、胸に風穴を開けようと、腕を突き出した。

 しかし、その腕がワールドの胸に突き刺さる前に、誰かの腕に掴まれて止まった。

「えっ?」

 女は目の前のワールドから目線を外して、その隣に立つ顎から上の無い人を見た。

「………はっ?」

 女は訳がわからないと言うように声を出した。

「よせ!逃げろ!」

 その瞬間男は叫びながら、目にも止まらぬ速さで走り出したが、頭のない与一は腕を上げて……。

「よせ!!!!」

 女を持ち上げて男の方に放り投げた。

 そして、徐々に頭部が回復していって元の形に戻ると、

「……やってくれたや無いけぇ……」

 と、あまり怒っていないように見えるぐらいの表情でそう言った。

「遅すぎるぞ……バカもん………」

「お前こそ、すぐ戻るゆーといてこれかい」

 二人は横に並んでヴィクトリアと男は達を睨んだ。

「あらあら、まだ生きていたのね……頭を潰しても死なないなんて……面白いことに使えそうね?」

「大丈夫か?」

「ええ……」

 男は女を下ろして、ゆっくりとヴィクトリアの隣に並んだ。

 そして、それに続くように取り巻き達も男の周りに並んだ。

「……食えば消化されて流石に死ぬだろうな」

「それに、タクミの新しい力にもきっとなるわ……」

 与一はワールドにポケットから取り出した赤色の液体を振りかけた。

「ロキからもろた、『ポーション』や、どれぐらい効くか知らんけど、ちっとはマシになるやろ」

 与一の言葉通りにワールドの傷はみるみるうちに回復して、どこに傷があるのかわからないぐらいになった。

「さて、今度こそちゃんと殺してあげるわ」

「もう、お前らは死ね」

 そう言ってヴィクトリア達はそれぞれ武器を構えた。

「丸腰相手に武器て……」

「ヨイチ、一ついいか?」

「なにぃ?」

「我はなぜか全く負ける気がせんぞ?」

「………アホやなぁ……」

 与一はそう言って不適に笑うと、ポケットから再びチケットを取り出して、カチカチカチカチとチケットを切りまくった。

 そして、腕を胸の前でクロスさせた。

「な、何だこれは?」

「アイツ!何かするつもりだ!」

 男の仲間達は辺りに何か波のようなものが浮かび、洞窟が唸るのを聞いて狼狽し、おそらく元凶である与一に襲い掛かった。

「変身」

 そして、与一は嬉しそうに腕を前に突き出して、何かを迎え入れるように手を開いた。

 その瞬間、与一だけでなくワールドにも黄金の鎧が作成されて、襲い掛かってきた男の仲間を吹き飛ばした。

「……さ、チャオろっか」

 と、与一が言った瞬間にヴィクトリア達が襲い掛かってきた。

 与一はまず剣を流して地面についたところを足で、踏み折ると、次に来たハンマーを殴って吹き飛ばし、銃を撃ってきた女に向かってホルスターの銃を引き抜いて弾を三発宙に向かって撃った。

 ワールドは、投げられてきた槍を掴んだが、持ち主のところに戻ろうとするのをに気がついて、ニヤリと笑うと一気に投擲者の近くまで近寄ると、拳を一気に叩き込み、後ろから襲いかかってきた吸血鬼の女を振り向きざまに掴むと、全力で振り回して、襲い掛かって来ようとする相手への牽制に使った。

 そして、二人は背中合わせになってぶつかった。

「はぁ……はぁ、案外……動けるモンやなぁ……」

「お主、息が切れるのが速すぎんか?」

「アホ抜かしやがれ……」

 と、二人で笑い合っている所に急に横から衝撃が走って吹き飛ばされた。

 二人は男が開けた穴に吹き飛ばされて、ふらふらと立ち上がった。

「クッソ………みえへんど……」

「ヨイチ、明かりをつけろ……」

 与一は鎧の一部を少し変形させて、洞窟を明るく照らし出した。

 そして、左右を確認した与一は先に見える何かに目を凝らして驚いた。

「な、何で……何でこんなに女の人おるん?」

 そこには裸当然の姿で、折に入れられて虚な目で俯くさまざまな種族の女性達の姿が見受けられた。

「あぁ、俺らの繁栄のために、連れてきたんだが……まぁ、気分悪かったらすまんな」

 と、男は二人の前に立って、悪びれずにそう言って頭を掻いた。

「……あの人らって自主的に………」

「いや?ここに迷い込んだり、俺ら討伐目当てにきたりした奴らだったり……まぁ、色々だな」

「………そか………」

 そして、与一はゆっくりと男の方を見た。

「まぁ、そう思われても仕方ないとは思ってるからな」

「あっそ、もうええわ、お前は殺す」

 そう言って初めて与一は手にただの籠手ではなく、明らかに人を殺すような形状をした刺々しい籠手を作った。

「……そうか、まぁ、頑張れ」

 と、男は与一に拳を振り下ろした。

「『オーバーフロォーウ』」

 与一はそう口ずさんで、男の振り下ろした拳を初めて全力で殴った。

 その瞬間、男の腕は弾け飛んで男は尻餅をついた。

『タクミ!!!』

 すると、倒れていたはずの男の取り巻きが起き上がって、与一に向かって突撃し高速で攻撃を繰り出した。

「ぐっ!」

 与一はそれぞれの衝撃に怯みながらも辛うじて致命傷を避けながらそれらの攻撃を流していた。

「ヨイチ!」

 ワールドは与一に加勢に入ろうとしたが、

「だめよ、今のあなたの相手は私がよ?」

 と、ヴィクトリアが与一とワールドの間に入った。

「ヴィィクトリアァァァァァァァァァァァァ!!」

 そう叫びながらワールドはヴィクトリアを退けようと、攻撃を繰り出した。

 しかし、笑いながら軽々と信じられない体の動きをしながらワールドの攻撃を避けるヴィクトリアだったが、唐突にワールドの視界から消えた。

「なっ!?」

 しかし、気がつくとヴィクトリア頭から血を流しては地面に倒れていた。

「あ……あらあら……もう少し楽しめそうだったのに……ね……」

 と、いってヴィクトリアは気を失った。

 すると、徐々にヴィクトリアの髪の毛の色が赤色の強い紫色から青色に戻った。

「………はっ!ヨイチ!」

 我に帰ったワールドは与一の方を向いた。

 すると、ワールドの横をかすめて男の取り巻きの一人が壁に埋まった。

「なっ!?」

 ワールドは振り返って取り巻きの女が無事なことを確認して、もう一度夜市の方を向いた。

 すると、与一の鎧の機関車の前の部分にあったはずのネームプレートの部分が吹っ飛んでいた。

 ワールドはハッとしてヴィクトリアの近くを探すと、吹っ飛んだネームプレートが落ちていた。

 恐らく、何らかの拍子でネームプレートががぶっ飛んでヴィクトリアの頭に直撃したのだろう。

 そして、与一はと言うと、黄金に輝いていたあの鎧は見る影もなく削られ、与一の血か、それともオーバーフローしているのかで真っ赤に染まった鎧を着て、与一はたった一人で何人からも高速で繰り出される攻撃を捌き切っていた。

 そして、男が取り巻きの一人に治療してもらっていたのを終えて、その場にいた恐らく錬金術ができる女に義手を作ってもらって立ち上がると、与一にその拳を振り下ろした。

 唐突に視界の外から降ってきた攻撃に与一はなす術もなく吹っ飛ばされ、地面に転がった。

 そして、ヨロヨロと立ち上がると、再び拳を構えた。

 その時、与一の顔を覆っていたフェイスプレートが崩れて、中の与一の顔が明らかになった。

 その顔はまさに鬼の如く、まさしくの怪物モンスターの如く、そこにいた見る物の喉を鳴らせた。

「……ほらぁ、はよせんかぁい……まだ、殺せてへんやろぉ?」

「……わかった、お前のことを今から全力で殺す」

 そう言って男は初めて剣を手に取った。

「モネは背後から、ヴァイとキュルナは左右から俺は前から行く」

『了解』

 男達は与一を取り囲み、逃げ道をなくした。

「ヨイチ!」

 ワールドは与一に助太刀しようと立ち上がったが、いつのまにか目が覚めていた取り巻きの女に、足を掴まれて一瞬遅れてしまった。

「……かかれ!」

 男の声で一斉に与一に四方から与一に向かった。

 だが、与一は何もせずにただ突っ立っていた。

 誰もが与一の負けを確信した次の瞬間、与一の体から四本の触手が伸びて、男達の胴体を貫いた。

「タ………タクミィィィィ!!!!」

 そして、女の悲痛な叫び声が洞窟の中にこだました。
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