Two Runner

マシュウ

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向かうは世界の果て

そして彼らは待った

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「タクミィィィィ!!!!」

「……がはっ!」

 男は腹を貫いている触手を信じられないと言う目で見つめると、触手をがっしりと掴んだ。

「まだだ………まだ終わってない!!」

 そう言って触手を引き抜こうと引っ張って、最後まで触手を引き抜いた。

「タ………クミ……」

「お前ら……」

 そして、自分の他にも腹を貫かれている仲間を見て、男は怒りに震えた。

「………っまってろ!!」

 そう言って男は腹の傷のことなど構うことなく、フラフラの与一に近づくと、与一の首を掴んだ。

「……やってくれたな……!」

「元はと言えば……お前が……悪いやろ……!」

「黙れ!」

「ぐっ!」

 男は全力で力を込めていたが、どんどん力が抜けていくのがわかった。

「……く……そ……」

 そして、男は意識を失ってその場に倒れた。

「タクミ!!」

 取り巻きの女はワールドの足を離すと、這いずってタクミと呼ばれたオーガ……竜人に縋り付いた。

「お願い……起きて……!」

「……クソッ!」

 ワールドは与一が地面に倒れるのをギリギリで首根っこを捕まえて止めた。

「……勝ったな」

「……これで俺も人殺し……や……な」

 と、そう言った与一は自嘲げに笑うと、気を失った。

「お主は凄い奴だ……」

 そう言ってワールドは与一を地面に寝かせた。

「……出てこなくていいのか?」

 すると、タクミの本拠地らしき所とは別の暗闇にワールドは声をかけた。

「いやー、いいもの見せてもらったよ?」

「治すなら早く治せ……シルヴィ」

「あはー……いつからわかってたのかなぁ?」

 そう言いながらシルヴィは縋り付くタクミの取り巻きの女を引き離すと、タクミの体に空いた穴にワールドにかけたものと同じ赤い液体を振りかけた。

「そこに吹き飛ばされた時だ」

「ありゃー……見えちゃった?」

「いや……明らかに敵意のない気配があったからな」

「そう言うときはボクだって?」

「そうだ」

 シルヴィは笑いながら他の男の取り巻き達から与一の鎧に繋がっている触手を引き抜くと、赤い液体を振りかけた。

「お主達の目的は何だ?明らかに『神の落とし物』を拾わせるだけが目的ではない」

「それは君たちの知らなくていいことだよ」

「………」

 そう言ってワールドの方を向いたシルヴィの目は、キラキラと輝いていたがそれは……形容し難い恐怖をワールドに覚えさせた。

「お主……」

「……これ以上のお話は無駄だね……あ、そうそう」

 そう言ってパンパンと膝の埃を払って立ち上がると、シルヴィは倒れているボロボロの与一に向かって微笑んだ。

「おめでとう、君はまた、新しい力を手に入れたよ。何度も何度も体がボロボロになろうと、例えそれが正義の為ではないと知っていても、一番自分の為に立ち上がった愚かで、それでもって最高にクールな名の無い怪物……君はその力を解放した……それじゃあ……またね?」

 と、そう言ってシルヴィはパチンと指を鳴らした。

「………食えん奴だ」

 砂埃が舞ってワールドが目を逸らして、再び与一の方を見るとそこにはもうシルヴィの姿は無かった。

「……さて、そろそろビート辺りが来てくれてもいいと思うのだが……」

「ビートよりも私が一番に来るに決まってるだろ」

「その割には遅かったな」

「その点はすまなかった、どっかの誰かさんがこの洞窟の中に飛んでくるのを邪魔してたみたいでな?」

「……全く」

 ワールドはため息をついた、その場にどかっと座り込んだ。

「与一の手当てをしてやってくれ、それと、あの奥にいる女子達のもな」

「……またか……ん?アスターじゃないか!」

 すると、ロキは驚いたような声を上げてアスターにも杖を振ろうとして慌てて液体を振りかけた。

「……これでよし、さて……本当にヨイチは面倒ごとに首を突っ込むからなぁ……」

 ロキは頭を抱えながらも杖を与一に一度振って、奥の女達のところへフワフワと向かった。

「……さて、我は戻るか」

 そう言ってワールドは立ち上がった。

「……もっと強くならねばな……」

 そう言って不適に笑うと、そこに転がっているアスターを担ぎ上げると、のっしのっしと洞窟から出た。

「ワールド!!」

「む、フォールか」

「ヨイチは!?」

「安心しろ、ロキが先に行っておる」

「そうか……勝ったのか?」

「まぁ、な」

 そう言ってワールドはビート達が用意していた車にアスターを乗せると、後部座席に寝っ転がった。

「我は少し寝る」

 そう言うとワールドは盛大にイビキをかいて寝てしまった。

「聞きたいことがあったのだが……まぁいい」

 フォールはため息をついて、ロキからの通信を受けてやってきたユウラビ達の方を見た。

「フォール!ヨイチ達は!?」

「ワールドはそこで寝とるわ、与一は……あれ?ワールド与一連れてこやんかったん?」

「ホントだ……何でだろ?」

「……まぁ、大丈夫よ……きっと」

「えっ?唐突にどうしたの?ノヴァ?」

「あ、え?な、いや、何でもないわ?」

『………』

「あぅぅ………」

 リーシャのツッコミにもじもじとするノヴァを、その場にいる全員可愛いと少し顔を紅潮させた。

「……私達も中に入ろうではないか」

「お嬢?でも与一が全部終わらせたって」

「……何かまだある気がする」

「出たわね、フォールの確証のないカン」

「まぁ、そんなデタラメでも殆ど当たってたことがあるんだからさ?」

「……ユウラビ、それは微妙にフォローになってないと思うねんけどなぁ……」

 フォールは深々とため息を吐きだすと、ツカツカと洞窟に向かって歩き出した。

「……まっ、にーちゃんの事も結局見ないかなあかんみたいやし」

 そう言って俊明もフォールの後について行った。

「………」

「貴方も行くのね」

「……」

 コクリと頷くビートにノヴァはふーん、と頷くと、ノヴァもビートの隣に着いて洞窟に向かった。

「……グガゲ?」

「そりゃ私も行きたいけど、流石に誰か残ってないとねぇ?」

 そう言ってため息をついて残念そうに車のクラクションをプップクプーと鳴らしてユウラビはうなだれた。

「まあまあ……でも何だかヨイチ達と会ってからフォールは変わったわね?」

「まぁ、お嬢にも色々ありますからね?」

「君は行かなくて良かったのかい?」

 ユウラビは細目でバーゲンの事を見た。

「まぁ、俺より頼りになるビートって言うやつがいやすしね」

「……ウソつき」

 バーゲンは肩をすくめると、ちゃっかり拝借していたコーラを飲み始めた。




















 一方場面は変わって、洞窟の奥。

「……さて、この世界の神とはもう話はついてんだ」

「………」

 ロキが男の前でフワフワと浮かびながら男の前で胡座をかきながら、腕を組んでいた。

「だんまりか?」

「……俺はこの世界に来たいとは願ってない」

「散々好き勝手しておいて出てくる言葉がそれとは……もはや呆れを通り越して感心するな」

 ロキはため息を吐いた。

「……お前の言葉が本当なら、お前を今から殺す」

「は?」

「だってそうだろう?この世界に来たくなかったんだろう?知ってるか?死者の中から選ばれなかった奴らは粉々にされるって」

「まてまてまてまて!それじゃあまるで、何かを選んでいるような……」

「は?聞いてなかったのか?『お前は選ばれた』ってよ」

「…………」

「その様子じゃあ聞いたことはあるようだな」

「だ、だがアイツは何に選ばれたかまでは……!」

「おまえ、もういいよ」

 そう言ってロキは男に向かって杖を振った。

 すると、男は腕を後ろに組まされて、いつのまにかギロチンに固定されていた。

「ま、まて!それはないだろ!くそっ!なんでだよ!」

 そして、ロキが杖を振ろうとした瞬間に男の仲間達がロキに組みついた。

「逃げて!タクミ!」

「逃げろ!」

 そして、一人がタクミの縄を解いて自由にした。

「今まで……ありがとう」

 そう言って縄を解いた女もロキにしがみついた。

 それをロキはめんどくさそうに見ると、杖を離して細い腕とヒョロヒョロの体からは想像できないような勢いで身の回りの取り巻きを剥がしていった。

「邪魔だ!」

「くっ!早く逃げろ!タクミ!」

「くそっ……くそぉっ!!」

 そう言ってタクミは仲間達の声とは反対にロキに向かって殴りかかった。

「見下げ果てた奴だが大した男だ」

 そして、ロキは男の殴りを片手で止めると、そこに膝を着かせた。

「全く……アイツもとんだハズレくじを引かされたもんだ」

「…………!!」

 ロキはもう一度杖を掴むとタクミの眉間に押し当てた。

「くっそぉぉぉ!!」

 すると、ロキの背後から吸血鬼がロキの首筋を噛んだ。

「……………っ」

 ロキは目線を少し与一の方に向けた後、少し笑って膝をついた。

「……やってくれたじゃねぇか」

 タクミはロキの頭を掴んだ。

「……俺は何かを食べるとそのレア度などによって新しい力を取得できるスキルがある……神であるロキ、おまえを食えば俺は、神に復讐ができる……!」

「……ふっ」

「何を笑ってんだ?」

 ロキはタクミのことを鼻で笑うと、

「元の世界で虐められて、優しくしてやれると思えば、今度は力を手に入れて支配者気取りか……全く器の小さな男だなってなぁ?その様子じゃああそこも小さいんじゃねぇのか?」

「………前言撤回だ、お前に俺の子供を潰れるまで産ませて、それからお前を食う」

 そう言ってロキを嘲笑するタクミの仲間達の目の前で、タクミはズボンに手をかけたが、その瞬間タクミは背中に熱気を感じて振り返った。

 そこには倒れた与一がいた。

「……念のためにコイツを先に殺しておくか」

 そう言うとズボンにかけた手を離して、ゆっくりと与一に近づいた。

 そして、脚を上げて与一を踏み潰そうと脚を振り下ろした。

 その瞬間どこからかレーザーが飛んできてタクミの脚を切断した……ように見えた。

 実際はタクミの脚を貫通しただけで、タクミの足は切れていなかった。

 しかし、タクミは脚を押さえて転がっていた。

「グオォォォォォォ!!」

「どこ!?どこから!?」

「ここや……アホタレが……」

 砂埃が上がる中から、与一が立ち上がるのがタクミの目にはっきりと映った。

「ば……化物が!」

「うぃー………化物はどっちやねん、ほんま……」

「何を訳のわからないことを!」

 与一は額から右手をゆっくりと顔を隠すように顎まで下げた。

 そして、手を退けたよいちの顔には口元まで裂け、目がつり上がったモンスターの仮面が作られていた。

 そして、与一はその口をガパッとあけると、そこからレーザーを発射した。

 先ほどとは比べ物にならない極太のレーザーだ。

 洞窟一帯を明るく照らしたそのレーザーはタクミとその取り巻き達を吹き飛ばしただけで、ロキやその奥の女の人たちには何も危害を及ぼしてないようだった。

「フシュゥゥゥゥゥ……あらら?」

「……こうなるとマジで怪物だな」

「ま、まぁ……こ、こんぐら、こんぐらいになるなぁておもてたし……?」

「分かりやすい嘘をどうも」

「……やっちったぁ……」

 そう言って与一が肩を竦めていると、背後から誰かが走ってくる音が聞こえた。

「ん?」

「ヨイチか!無事か……うおっ!?」

 フォールは大剣を構えたまま驚くと、与一にどう言うことか説明しろと目線を向けた。

「……見たまんま」

「……遺言はそれで良いか?」

「まってまって……!ちゃんと説明……今しやなあかん?」

「……はぁ、そのかわり後で山ほど聞いてやるからな」

「うぃ……」

 与一はため息をついて、顔についていた仮面を外した。

 仮面はサラサラと空中に溶けた。

「……さて、ロキ……あの……」

「コイツらは殺す、それは変わらん」

「うぃ……」

「いや、まさかとは思うが『助けろ』なんて言う訳ないよなぁ?これだけ迷惑かけといてなぁ?」

「いや……その通りでございます……」

 ロキは与一の手を借りて立ち上がると、杖を振った。

「……」

 そして、杖を振り下ろそうとすると、ロキの背後で誰かが動く気配がした。

「またか!今度はなん……」

 ロキは振り返ってキレようと口を開いたが、ロキの方は開いたまま動かなかった。

「お願いします……!タクミを殺さないでください」

『お願いします!』

 そこにはタクミの取り巻き達が武器を捨てて、ロキの前で土下座をしていた。

「……そんなことしたって、お前らのした事はどーにもならんぞ」

「死ねと言うなら私たちが死にます、だからタクミだけは……」

「………」

「……アホやろ……」

 すると突然、タクミを助けようとしていた様子の与一がそんな事を呟いた。

「……ほう?何がアホなんだ?仲間を助けるために命を掛けてるのにか?」

 ロキはそうやって与一に、与一にだけに見えるように試すような目付きでそう言った。

「……まず気に入らんのは、死ねば許されると思っとることや、死んでもそれは許しにならんし、それで終わりにならへん」

「………」

「次に気に入らんのはコイツ」

 与一は白目を向いているタクミを指差した。

「コイツ、俺と同郷とかゆうとったけどそれやったら何で人に優しくできんかってん………俺と同じ世界からやって来といて、更には選ばれて力を手に入れて人に親切にできへんのは無性に腹立つし、同じ国民として恥ずかしいし腹立たしいわ!」

「………」

「まぁ、それをゆうたらお前らは被害者の立場かも知れん、でもな、それでもやってええこととあかん事ぐらい人として区別せぇよ……もう、大人やろ?」

「……………」

 与一の言葉に唇を噛むものもいれば、俯いて反省したような顔をしていた。

「……クハハハハ!おまえ面白な、相変わらず」

「……はひ?」

「もう良いわ、それでお腹いっぱいだ」

「いや俺まだ喋り足りんねんけど」

「いや、これ以上は多分おまえのボロが出る」

「……分かった」

 与一はロキに頷いて納得したようにに頷くと、洞窟の壁にもたれかかった。

「……だとよ?」

「……確かにそうかも知れん……だからと言ってタクミを殺す理由には……」

「じゃあ何だ?お前らはお前らの誰か殺してタクミが改心するのを私らは信じろってか?無理だな、それじゃあ逆に逆上して私らを殺そうとするだろう」

「……じゃあどうすれば!」

「簡単な話だ、改心するまでコイツの大切なもの……まぁ、お前らを預かる」

『!!』

「明らかにコイツは『英雄気質、主人公気質、本当にいたら嫌な奴』だからな、仲間は大事にする、だがそれ以外は大切にしない、だって自分とは関係ないからな」

 そう言ってロキはタクミの脇腹を杖で突っついた。

「『人は皆守るべきだ』つって、でも結局やるのは自分の近くにしか見えていない人間しか助けようとしない、目に見えない不幸なはずの人を助けようとしない、『これは仕方のない事だ』とそう言い聞かせて弱い人間を虐げる、それはコイツみたいな英雄気取りの英雄もどきがやる事だ」

「………」

 それを聞いて与一は気まずそうに明後日の方を向いた。

「お前じゃない与一、まぁお前も……いやこの話は後だな、……結局何が言いたいかと言うとだな、コイツに生きてて欲しかったらお前達で説得しろ、さもなくば殺す」

 ロキはそうはっきりと言い切った。

「猶予は今から一時間……あー、この砂時計の砂が落ち切る時までだ」

 そう言ってロキは杖を振ると、ポンと砂時計をタクミの取り巻き達の前に出した。

「……っ分かった」

 そう言ってサブリーダー的なゴツい男が立ち上がった。

「その代わりに俺たちだけにしてくれ」

「いいだろう、反撃しようとか罠にかけようとか考えよう物なら、今度こそ殺すぞ?」

「分かっている」

「よろしい」

 ロキはそう言って杖をクルリと回すと、フワフワと浮かびながら何人もの女の人たちを浮かばせて洞窟の出口の方へ向かった。

「お前ら、出るぞ」

「うぃ」

「はいよ」

「……わかった」

「はいはい」

 そう言ってロキ達は洞窟から出た。

 ロキはガッチガチに日差しをガードした装備で与一に作ってもらった椅子に脚を組んで座りながら、スマホで電話をしていた。

「そう、やらかした奴がいる、そうそう、いや、待機の状態でいいヤバくなったら突入させてくれ、おう、あぁ、後それと被害者だが……おう、頼む、じゃあ」

 そう言って通話を切ると、ロキはため息をついた。

「……よし、与一洞窟の前にちょっとこれ作ってくれ」

 そう言って手招きして与一に何かの設計図のようなものを見せた。

「まってて、これに読み込ませたほうが早そうやな」

 そう言って与一は服を変形させてロキの設計図をスキャンすると、洞窟の入り口に大口径の砲台を作った。

「……で?」

「あとはどっちに転ぼうと、どうにでもなる、正直一時間は時間をやり過ぎたと思っているぐらいだ」

 と、ロキはそう言って与一からコーラを貰うとそれをグビグビと勢いよく飲んだ。

「けふっ、んじゃ後はアイツの人間性を信じて待つか」
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