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向かうは世界の果て
暫くすると扉の向こうから悲鳴が聞こえた
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「さて、一時間だ」
ロキはそう言って砂が落ちきった砂時計を掴むと放り捨てた。
「おっと」
「誰も出て来てないな……よし、ぶちかませ」
「え?中で待ってるんちゃうん?」
「馬鹿野郎、中で待ち伏せされてるかもしれねぇだろ?そんなに言うんだったら、お前が言って来たらどうなんだ?」
「……ロキが行くのめんどくさいだけなんじゃあらへんの?」
「それはない」
「……はぁ、わかりましたよ」
与一はロキから受け取った砂時計を車に乗せると、ポケットに手を突っ込んで洞窟の前に立った。
そして、服の一部を変形させてメガホンを作りだすと、思いっきり息を吸い込んで。
「時間や!悪いけど中には入りたくないから出て来てくれ!」
と、初めにキーンと嫌な音を出しながら与一は洞窟内に声を響かせた。
「うっさいわボケ!」
「じゃあお前言うたらええやんけぇ!」
「んなことしやんでも、中入って声かけて来たらよかったやろがぃ!」
「んなことして捕まったら出したらええねん!」
「知るかぁ!」
「うるさいぞお前ら!」
与一と俊明の兄弟喧嘩に痺れを切らしたロキが怒鳴りつけると、ほぼ同じタイミングで洞窟の中から日の当たるところにタクミの取り巻き達が現れた。
「………」
「与一、発射準備をしろ」
「……うぃ」
与一は台座に座ると、レバーを上げてスイッチに手をかけた。
「……さて、話し合いの結果を教えてほしいもんだが?」
「……お前達の条件を飲む」
「賢明な判断だ」
「ただし条件がある」
「あ"?」
ロキは明らかに機嫌を損ねた声をだすと、与一に向かって合図を出した。
「ま、待って!話を最後まで聞いて!」
「……」
ロキは上げた手を下ろすと、ため息をついた。
「……続けろ」
「……一人か二人、タクミの所に残らせてくれ」
「与一、撃て」
「う……」
「まってまってまって!お願いだから最後までちゃんと聞いて!」
取り巻きの一人の女がそう叫びながら地面に頭を下げるのを見て与一とロキ、そして俊明はため息をついた。
「……わかったわかった、与一、レバーは下げるなよ」
「うぃ」
ロキはひらひらと手を振って話を続けさせた。
「タクミを一人にはしておけない、コイツ一人では何をしでかすか分からんからな、最悪の場合後先考えずに街に出て侵略し出すとか言い出しかねんからな」
「……タクミだけ殺すのもありではないか?」
「割とフォールはそうやってぶっそうなことを考えるよね」
「そうそう」
「うぐっ……」
「……まぁ、私はその意見に賛成だ、そんな事になりかねないなら殺したほうが手っ取り早い……だが、それで終わりじゃねぇよな?」
ロキはそうやって納得した様に頷きながら、試すようにタクミの前でロキを見据えるサブリーダーらしき男を見つめた。
「……タクミから聞いたが、お前達も異世界からの訪問者なのだろう?だったら手伝おう」
「何を?」
「お前達の目的を」
「…………」
「…………」
サブリーダーとロキはお互いに睨み合った。
先に動いたのはロキだった。
「はぁ、目的を教えるわけないだろ、それを邪魔されちゃあ本末転倒だ」
「……ならば、お前達の上の者に引き合わせてくれ」
「私が一番上だ」
「いや、それは嘘だ、そこに寝てる男と話していた謎の女、恐らくお前達の上にあたる人物だろう?」
「さて?誰の事だか……?」
「その人物はシルヴィと呼ばれていたが?」
その名前が出た瞬間ロキは盛大にため息をついて、スマホを取り出した。
「いいぞ、出て来てくれ」
その瞬間タクミ達の周りに黒い空間が開くと、そこから何人もの人がバチバチと火花と静電気を放ちながら現れ、タクミ達を取り囲んだ。
「悪いがあの人の失態とはいえ、私達の背後にいる存在を知ってしまった」
そう言っている間にタクミ達はなす術もなくその人達に縛り上げられてしまった。
「残念だが、この世から消えてもらう」
と、その瞬間にタクミ達と謎の人達は黒い穴に飲み込まれてしまった。
「な、なんなん……あれ?」
「ま、お前らの知らなくていいものだ」
ロキはそう飄々と言うと、スマホを取り出した。
「三……二……一……」
そして唐突にカウントダウンを始めたかと思うと、再び目の前に穴が開いてそこに先ほどの人の一人と、ロキの首から血を吸った女吸血鬼、そして、サブリーダーらしき鬼の男が現れた。
「説明は受けただろう?さ、行くぞ」
ロキはそう言って呆然とする与一達を置いて車に乗った。
「……いやいやいやいや!説明して!?俺らにも!」
与一はそう言ってツッコミながらロキの隣の運転席に座った。
「あいあい……何やってんだお前ら、早く乗れ」
『…………????』
完全に頭に?マークが浮かぶ俊明達だったが、二人のタクミの仲間を新たに二台の車は走り出した。
「……で?どう言うことなん?」
走り出して間も無く与一は再び乗せ直した通信機をつけて荒野を走っていた。
「まぁ、そんなに難しい事じゃない、私はあそこの洞窟に飛ぶことが出来ないのはあらかたソウヤ絡みの人物だって事は分かっていたからな、後は誰が来るかって予想したらシルヴィさんしかいないって事だ」
「何で飛ぶことができへんのはソウヤ……って人絡みって分かったん?」
「私は空間移動に関するこの世界での最高権限を与えられているんだが、それを妨害できるのはそれを与えた人物のみ……」
「ソウヤって事……まってまって?その言い方やったらソウヤは人に何かしらの能力を与えることが出来るって訳?」
「そう言うことだ」
「……ヤバ過ぎん?」
「明らかにヤバい」
「……なんっちゅう……」
「馬鹿げた能力だが、現実にあるんだから仕方がない」
「……制限とかは?」
「ない、なんなら作るために本来必要なエネルギーも要らない」
「……ぶっ壊れもええとこやろ……」
「アイツが世界の法則と言っても過言じゃない、アイツがその気になれば全世界を破壊することだって出来る」
「………」
与一は車のハンドルをギュッと握った。
「さて、話が逸れたが、シルヴィさんが来たのを知った私はソウヤに垂れ込んだ。そうしたらなんで返事が来たと思う?」
「……なに?」
「『ちょうど都合がいいから回収しろ』だってよ!」
そう言ってロキはお腹を押さえながら懐から薬を取り出すと水と一緒にそれを飲んだ。
「なんかごめんな?……帰ったらあったかいお風呂とベッドでゆっくりしよか……」
「もう、どこにも行かないでくれ……頼むから……」
側から聞けば愛する男に告白をしたかのような場面だが、これを聞いた与一達は気まずそうにそっぽを向くのだった。
「……まぁ、それはそれとして……アイツらなんで連れて来たん?俺が言うのもなんやけどこれ以上面倒ごと増えるのはロキの思惑じゃないやろ?」
「……いや、私の思惑通りだ……」
「え?」
「アイツらはタクミ達の中でも話のわかる奴らだと見た、そして向こうのほうでちょっとしたテストをしてみたそうだが……」
「結果は期待した通りだったと」
「そう言うことだ、コイツらなら新たに戦力になってくれるだろ」
「戦力だけやったらタクミとかも最悪脅して……」
「バカか?そんなことしてみろ、変に英雄気質のアイツだ散々暴れた後全員寝首がかいて殺して『仕方が無かった』とかほざきかねんぞ?」
「……う……ぃ」
「それに、他の奴らもそうだ、タクミのため!とかほざいて皆殺しルート一直線だぞ?」
「それはこの二人には無いと?」
「ない」
ロキははっきりと言い切った。
「……まぁ、ロキのことを信じるわ」
「好きにしてくれ」
と、そう言いながらもロキは楽しそうに笑うのだった。
「……その話を聞かされる元タクミの仲間である私たちはどーなのでしょーかー?」
「ふん!正直心当たりがあるから口挟まずに最後まで聞いていたんだろ?」
「うっ、まぁ、それはそうだけど……」
女吸血鬼はロキに鼻で笑われ、少したじろいだ。
「……言っておくが忠誠と盲信は違うぞ?忠誠はその人の為に考えて時には厳しい事酷いこと、離れていてもその人の為に尽くすことが忠誠だ。盲信とはその人の為に何も考えずにその場の感情のみで行動することだ。それでいえば他の奴らは盲信、お前らは忠誠をタクミに誓っていると言えるな?」
ロキはそう言って後部座席の方を振り返った。
「そう……かしら?」
「………」
男は腕を組んだまま黙り、女は照れ臭そうにした。
「……さて、列車に戻ったら自己紹介からやってもらおうじゃないか」
それをロキは見ながら与一に向かってニヤリと笑いかけた。
「っウィ」
与一は若干顔を赤らめてアクセルを踏み込んだ。
『ラブラブなところ悪いけど……それで結局、アスターは多重人格者だったって事でいいの?』
すると、さっきまで黙っていた無線機からユウラビの声が聞こえた。
「ラブラブ言うなし……あの二人の話によるとなぁ」
『ふーん、まぁ、色々と大変だったんだろうね?』
「まぁ、な」
『時にロキ、アスターの扱いはどうするんだ?』
すると、無線からユウラビだけでなくフォールの声も聞こえた。
「今は一旦安静にさせて、その後本人と少し話したい」
『分かった、今はぐっすりと寝ている、傷の治りもあったことが嘘のようだ』
「ならよし、傷を残すわけにはいかねぇからな」
『ロキってたまに男の人よりかっこいい時あるよね、そう言うのなんだっけ?男勝りって言うんだっけ?』
「男勝りは余計だ」
『あらら』
無線の向こうで楽しそうに笑う声が聞こえた。
そして、唐突にロキは無線を切った。
「……」
「無理やり過ぎん?」
すると、与一は先ほどよりも声を少し小さくした。
「バレたか?」
「いや、バレるも何もそんな唐突にされ切られたらそう言うやろ」
「……さて、与一ここでお前に二つ謝っておかないといけない事がある」
「え?何唐突に?」
そう言ってロキは前の方を見ながら、別に何事でもないかのように呟いた。
「あの吸血鬼私の血を吸ったろ?」
「せやな」
「アイツに神になる可能性のある性質が付与されました」
「……で?」
与一はそれを聞いて、少し顔を曇らせた。
「私の手元の近くに置いといた方が……」
「アレ、わざとやったん!?」
「おっ!おま!声が大きい!」
ロキは与一に肘打ちすると、ヒソヒソと耳打ちした。
「いやな、ちょっとお前の力を見るのが初めてだったからな、少し……」
「なに?俺の力見たいが為に吸血鬼のあの子に血ぃ吸われたとでも?」
「……まぁ……」
「……」
与一は口を開いて、ため息を吐いて首を横に振った。
「なんだ?何か言いたいのか?」
「いーや、ないですー」
「……正直吸血鬼じゃないって思ってたから……」
「あーあ……」
そうなっては後の祭りだと言わんばかりに、与一はさらに盛大にため息をついた。
「悪かったな!駄女神で!」
「いーや?駄目なところは今回で初めてやし、そんなめっちゃ気落ちする程でもないし」
そう言った与一の顔は嘘を言っているようには見えなかった。
「お前……」
「んで?あの鬼さんを連れて来た理由は?」
「アイツはタクミより強くなるかもしれんからな、ちょっと無理言ってよこしてもらった」
「……ロキさぁ、俺らと旅すんのなんかのRPGゲームとおもてへん?」
「思ってなくもない」
「どっちやねん」
「いいだろ別に!?私神ぞ!?」
「いきなりキレんなや!」
横で暴れだすロキを迷惑そうに見る与一は目の前に迫ってくる列車に気がつくと、目を細めてドリフトを決めながら列車の倉庫の部分に駐車した。
「……っ!お前ぇ!」
「はいはい、ごめんなさいー」
「それが恩人……神に対する態度かー!」
「へまやらかしてそれ隠す為に俺ら巻き込む駄女神の事を恩人なんて思えませーん!」
「なぁにぃ~?」
「……喧嘩はややで」
二人は俊明とワールドいつのまにか起きたとビートと連れて来た二人にガン見されながらも、そんな事は気にせずに睨み合っていると、与一の車の与一が駐車している横に一台車がドリフトしながら入ってきた。
そして、運転していたユウラビがサングラスを上げて、
「……みんなの前でラブラブなんて、やるねぇ~?」
と、ニヤニヤしながらそう言った。
「あっ、やっ!ちがっ!?」
「ユウラビ?あとで一緒に風呂に……入ろうか?」
うろたえる与一とは対照的に、背後からどす黒いオーラを出しながら風呂に誘うロキにユウラビは慌てた。
「あ、や、べ、別にいいかなー?そんなに汗もかいてないし……?」
「入ろうか?」
と、明らかに人の体から出てはいけない音を出しながらユウラビの肩を掴んだロキはそのまま叫ぶユウラビを引きずって、風呂がある列車に向かって行った。
「ちょ!痛いよ!?めっちゃ痛い!」
「悪いなみんな、ユウラビがどうしても風呂に一緒に行きたいって言うからな~」
「言ってない!言ってないって!!」
「あぁ、それと男共……覗いたらミンチにして殺す」
そして、ロキ派与一達を振り返ることもなくバタンと扉を閉じた。
ロキはそう言って砂が落ちきった砂時計を掴むと放り捨てた。
「おっと」
「誰も出て来てないな……よし、ぶちかませ」
「え?中で待ってるんちゃうん?」
「馬鹿野郎、中で待ち伏せされてるかもしれねぇだろ?そんなに言うんだったら、お前が言って来たらどうなんだ?」
「……ロキが行くのめんどくさいだけなんじゃあらへんの?」
「それはない」
「……はぁ、わかりましたよ」
与一はロキから受け取った砂時計を車に乗せると、ポケットに手を突っ込んで洞窟の前に立った。
そして、服の一部を変形させてメガホンを作りだすと、思いっきり息を吸い込んで。
「時間や!悪いけど中には入りたくないから出て来てくれ!」
と、初めにキーンと嫌な音を出しながら与一は洞窟内に声を響かせた。
「うっさいわボケ!」
「じゃあお前言うたらええやんけぇ!」
「んなことしやんでも、中入って声かけて来たらよかったやろがぃ!」
「んなことして捕まったら出したらええねん!」
「知るかぁ!」
「うるさいぞお前ら!」
与一と俊明の兄弟喧嘩に痺れを切らしたロキが怒鳴りつけると、ほぼ同じタイミングで洞窟の中から日の当たるところにタクミの取り巻き達が現れた。
「………」
「与一、発射準備をしろ」
「……うぃ」
与一は台座に座ると、レバーを上げてスイッチに手をかけた。
「……さて、話し合いの結果を教えてほしいもんだが?」
「……お前達の条件を飲む」
「賢明な判断だ」
「ただし条件がある」
「あ"?」
ロキは明らかに機嫌を損ねた声をだすと、与一に向かって合図を出した。
「ま、待って!話を最後まで聞いて!」
「……」
ロキは上げた手を下ろすと、ため息をついた。
「……続けろ」
「……一人か二人、タクミの所に残らせてくれ」
「与一、撃て」
「う……」
「まってまってまって!お願いだから最後までちゃんと聞いて!」
取り巻きの一人の女がそう叫びながら地面に頭を下げるのを見て与一とロキ、そして俊明はため息をついた。
「……わかったわかった、与一、レバーは下げるなよ」
「うぃ」
ロキはひらひらと手を振って話を続けさせた。
「タクミを一人にはしておけない、コイツ一人では何をしでかすか分からんからな、最悪の場合後先考えずに街に出て侵略し出すとか言い出しかねんからな」
「……タクミだけ殺すのもありではないか?」
「割とフォールはそうやってぶっそうなことを考えるよね」
「そうそう」
「うぐっ……」
「……まぁ、私はその意見に賛成だ、そんな事になりかねないなら殺したほうが手っ取り早い……だが、それで終わりじゃねぇよな?」
ロキはそうやって納得した様に頷きながら、試すようにタクミの前でロキを見据えるサブリーダーらしき男を見つめた。
「……タクミから聞いたが、お前達も異世界からの訪問者なのだろう?だったら手伝おう」
「何を?」
「お前達の目的を」
「…………」
「…………」
サブリーダーとロキはお互いに睨み合った。
先に動いたのはロキだった。
「はぁ、目的を教えるわけないだろ、それを邪魔されちゃあ本末転倒だ」
「……ならば、お前達の上の者に引き合わせてくれ」
「私が一番上だ」
「いや、それは嘘だ、そこに寝てる男と話していた謎の女、恐らくお前達の上にあたる人物だろう?」
「さて?誰の事だか……?」
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その名前が出た瞬間ロキは盛大にため息をついて、スマホを取り出した。
「いいぞ、出て来てくれ」
その瞬間タクミ達の周りに黒い空間が開くと、そこから何人もの人がバチバチと火花と静電気を放ちながら現れ、タクミ達を取り囲んだ。
「悪いがあの人の失態とはいえ、私達の背後にいる存在を知ってしまった」
そう言っている間にタクミ達はなす術もなくその人達に縛り上げられてしまった。
「残念だが、この世から消えてもらう」
と、その瞬間にタクミ達と謎の人達は黒い穴に飲み込まれてしまった。
「な、なんなん……あれ?」
「ま、お前らの知らなくていいものだ」
ロキはそう飄々と言うと、スマホを取り出した。
「三……二……一……」
そして唐突にカウントダウンを始めたかと思うと、再び目の前に穴が開いてそこに先ほどの人の一人と、ロキの首から血を吸った女吸血鬼、そして、サブリーダーらしき鬼の男が現れた。
「説明は受けただろう?さ、行くぞ」
ロキはそう言って呆然とする与一達を置いて車に乗った。
「……いやいやいやいや!説明して!?俺らにも!」
与一はそう言ってツッコミながらロキの隣の運転席に座った。
「あいあい……何やってんだお前ら、早く乗れ」
『…………????』
完全に頭に?マークが浮かぶ俊明達だったが、二人のタクミの仲間を新たに二台の車は走り出した。
「……で?どう言うことなん?」
走り出して間も無く与一は再び乗せ直した通信機をつけて荒野を走っていた。
「まぁ、そんなに難しい事じゃない、私はあそこの洞窟に飛ぶことが出来ないのはあらかたソウヤ絡みの人物だって事は分かっていたからな、後は誰が来るかって予想したらシルヴィさんしかいないって事だ」
「何で飛ぶことができへんのはソウヤ……って人絡みって分かったん?」
「私は空間移動に関するこの世界での最高権限を与えられているんだが、それを妨害できるのはそれを与えた人物のみ……」
「ソウヤって事……まってまって?その言い方やったらソウヤは人に何かしらの能力を与えることが出来るって訳?」
「そう言うことだ」
「……ヤバ過ぎん?」
「明らかにヤバい」
「……なんっちゅう……」
「馬鹿げた能力だが、現実にあるんだから仕方がない」
「……制限とかは?」
「ない、なんなら作るために本来必要なエネルギーも要らない」
「……ぶっ壊れもええとこやろ……」
「アイツが世界の法則と言っても過言じゃない、アイツがその気になれば全世界を破壊することだって出来る」
「………」
与一は車のハンドルをギュッと握った。
「さて、話が逸れたが、シルヴィさんが来たのを知った私はソウヤに垂れ込んだ。そうしたらなんで返事が来たと思う?」
「……なに?」
「『ちょうど都合がいいから回収しろ』だってよ!」
そう言ってロキはお腹を押さえながら懐から薬を取り出すと水と一緒にそれを飲んだ。
「なんかごめんな?……帰ったらあったかいお風呂とベッドでゆっくりしよか……」
「もう、どこにも行かないでくれ……頼むから……」
側から聞けば愛する男に告白をしたかのような場面だが、これを聞いた与一達は気まずそうにそっぽを向くのだった。
「……まぁ、それはそれとして……アイツらなんで連れて来たん?俺が言うのもなんやけどこれ以上面倒ごと増えるのはロキの思惑じゃないやろ?」
「……いや、私の思惑通りだ……」
「え?」
「アイツらはタクミ達の中でも話のわかる奴らだと見た、そして向こうのほうでちょっとしたテストをしてみたそうだが……」
「結果は期待した通りだったと」
「そう言うことだ、コイツらなら新たに戦力になってくれるだろ」
「戦力だけやったらタクミとかも最悪脅して……」
「バカか?そんなことしてみろ、変に英雄気質のアイツだ散々暴れた後全員寝首がかいて殺して『仕方が無かった』とかほざきかねんぞ?」
「……う……ぃ」
「それに、他の奴らもそうだ、タクミのため!とかほざいて皆殺しルート一直線だぞ?」
「それはこの二人には無いと?」
「ない」
ロキははっきりと言い切った。
「……まぁ、ロキのことを信じるわ」
「好きにしてくれ」
と、そう言いながらもロキは楽しそうに笑うのだった。
「……その話を聞かされる元タクミの仲間である私たちはどーなのでしょーかー?」
「ふん!正直心当たりがあるから口挟まずに最後まで聞いていたんだろ?」
「うっ、まぁ、それはそうだけど……」
女吸血鬼はロキに鼻で笑われ、少したじろいだ。
「……言っておくが忠誠と盲信は違うぞ?忠誠はその人の為に考えて時には厳しい事酷いこと、離れていてもその人の為に尽くすことが忠誠だ。盲信とはその人の為に何も考えずにその場の感情のみで行動することだ。それでいえば他の奴らは盲信、お前らは忠誠をタクミに誓っていると言えるな?」
ロキはそう言って後部座席の方を振り返った。
「そう……かしら?」
「………」
男は腕を組んだまま黙り、女は照れ臭そうにした。
「……さて、列車に戻ったら自己紹介からやってもらおうじゃないか」
それをロキは見ながら与一に向かってニヤリと笑いかけた。
「っウィ」
与一は若干顔を赤らめてアクセルを踏み込んだ。
『ラブラブなところ悪いけど……それで結局、アスターは多重人格者だったって事でいいの?』
すると、さっきまで黙っていた無線機からユウラビの声が聞こえた。
「ラブラブ言うなし……あの二人の話によるとなぁ」
『ふーん、まぁ、色々と大変だったんだろうね?』
「まぁ、な」
『時にロキ、アスターの扱いはどうするんだ?』
すると、無線からユウラビだけでなくフォールの声も聞こえた。
「今は一旦安静にさせて、その後本人と少し話したい」
『分かった、今はぐっすりと寝ている、傷の治りもあったことが嘘のようだ』
「ならよし、傷を残すわけにはいかねぇからな」
『ロキってたまに男の人よりかっこいい時あるよね、そう言うのなんだっけ?男勝りって言うんだっけ?』
「男勝りは余計だ」
『あらら』
無線の向こうで楽しそうに笑う声が聞こえた。
そして、唐突にロキは無線を切った。
「……」
「無理やり過ぎん?」
すると、与一は先ほどよりも声を少し小さくした。
「バレたか?」
「いや、バレるも何もそんな唐突にされ切られたらそう言うやろ」
「……さて、与一ここでお前に二つ謝っておかないといけない事がある」
「え?何唐突に?」
そう言ってロキは前の方を見ながら、別に何事でもないかのように呟いた。
「あの吸血鬼私の血を吸ったろ?」
「せやな」
「アイツに神になる可能性のある性質が付与されました」
「……で?」
与一はそれを聞いて、少し顔を曇らせた。
「私の手元の近くに置いといた方が……」
「アレ、わざとやったん!?」
「おっ!おま!声が大きい!」
ロキは与一に肘打ちすると、ヒソヒソと耳打ちした。
「いやな、ちょっとお前の力を見るのが初めてだったからな、少し……」
「なに?俺の力見たいが為に吸血鬼のあの子に血ぃ吸われたとでも?」
「……まぁ……」
「……」
与一は口を開いて、ため息を吐いて首を横に振った。
「なんだ?何か言いたいのか?」
「いーや、ないですー」
「……正直吸血鬼じゃないって思ってたから……」
「あーあ……」
そうなっては後の祭りだと言わんばかりに、与一はさらに盛大にため息をついた。
「悪かったな!駄女神で!」
「いーや?駄目なところは今回で初めてやし、そんなめっちゃ気落ちする程でもないし」
そう言った与一の顔は嘘を言っているようには見えなかった。
「お前……」
「んで?あの鬼さんを連れて来た理由は?」
「アイツはタクミより強くなるかもしれんからな、ちょっと無理言ってよこしてもらった」
「……ロキさぁ、俺らと旅すんのなんかのRPGゲームとおもてへん?」
「思ってなくもない」
「どっちやねん」
「いいだろ別に!?私神ぞ!?」
「いきなりキレんなや!」
横で暴れだすロキを迷惑そうに見る与一は目の前に迫ってくる列車に気がつくと、目を細めてドリフトを決めながら列車の倉庫の部分に駐車した。
「……っ!お前ぇ!」
「はいはい、ごめんなさいー」
「それが恩人……神に対する態度かー!」
「へまやらかしてそれ隠す為に俺ら巻き込む駄女神の事を恩人なんて思えませーん!」
「なぁにぃ~?」
「……喧嘩はややで」
二人は俊明とワールドいつのまにか起きたとビートと連れて来た二人にガン見されながらも、そんな事は気にせずに睨み合っていると、与一の車の与一が駐車している横に一台車がドリフトしながら入ってきた。
そして、運転していたユウラビがサングラスを上げて、
「……みんなの前でラブラブなんて、やるねぇ~?」
と、ニヤニヤしながらそう言った。
「あっ、やっ!ちがっ!?」
「ユウラビ?あとで一緒に風呂に……入ろうか?」
うろたえる与一とは対照的に、背後からどす黒いオーラを出しながら風呂に誘うロキにユウラビは慌てた。
「あ、や、べ、別にいいかなー?そんなに汗もかいてないし……?」
「入ろうか?」
と、明らかに人の体から出てはいけない音を出しながらユウラビの肩を掴んだロキはそのまま叫ぶユウラビを引きずって、風呂がある列車に向かって行った。
「ちょ!痛いよ!?めっちゃ痛い!」
「悪いなみんな、ユウラビがどうしても風呂に一緒に行きたいって言うからな~」
「言ってない!言ってないって!!」
「あぁ、それと男共……覗いたらミンチにして殺す」
そして、ロキ派与一達を振り返ることもなくバタンと扉を閉じた。
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「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」
※※※
専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり)
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
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