Two Runner

マシュウ

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向かうは世界の果て

私と彼女を助けて欲しいの

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「……うぅっ……酷いよぉ……」

「ご馳走様でした」

「まって?なにご馳走様て?」

 机に突っ伏してシクシクと泣くユウラビを横目で見ながら、ペロリと舌を出したロキに与一はそう突っ込むと、ため息をついた。

「……まぁ、聞かんほうが良さそうやし、ロキ、はじめよか?」

「おう……じゃあまず、お前から」

 ロキはサブリーダーだった男を指さした。

「……俺はタクミにタシトと呼ばれていた」

 そう言うと男は立ち上がって、お辞儀をした。

「よろしくな、じゃ、次」

「雑いわね……私はタクミにカミラって呼ばれていたわ」

「……アイツ……」

 すると、名前を聞いたロキは深くため息をついた。

「どったん?」

「……いやな、アイツらの名前、元がスペイン語なんだな……」

「……うぃー……」

 ロキはヒソヒソと与一の耳に話しかけると、頭をバリバリと掻いて椅子から立ち上がった。

「まぁ、お前らは人質だ、変な真似に出たらアイツらにも迷惑がかかると思え」

 そうロキは眼光鋭く言ったが、

「「……嘘ね、だな」」

 二人が口を揃えてそう言った。

「な、何がだ?」

「何がってその今言った事よ」

「俺達は自分達でもタクミより強くなれることぐらい分かっている」

「もしかすると、貴方達も超えることが出来るかもしれない」

「いや、既に超えているかもしれんな?」

 そう言って二人はロキに不適に笑いかけた。

「い……な……?」

 ロキはそう言って言葉に詰まっていると、二人はさらに続けた。

「だが、正直そんな事はどうでも良い」

「私達、さっき二人で話し合ったの、これからどうするか」

「そして、俺たちはこう言う結果を出した……」

 そして、二人は少し間を開けると、

「「会うも別れるもの人生、今は自分達のためになる事をやろう」」

 と、口を揃えてそう言った。

「……つまり?」

 ロキは与一に横目で何かサインを出した。

「あぁ、私達を殺すのは損よ?」

 そんなロキの企みをアッサリと見破ったカミラは、与一の方を見た。

「……私達、貴方達に全力で協力するわ?」

「そうすれば俺達のやれる事も増えるだろう?」

「ここはお互いwin-winで行きましょう?」

 と、カミラはロキに手を差し伸べた。

「…………」

 それをロキは苦しげな表情で見ていたが、杖を握っていた手を上に上げようとした瞬間、

「それとだな、勿論ここではロキ、貴方の言う事を一番に聞く」

「ええ、勿論……ね?」

 そう言って二人は恭しくロキの前で膝をついた。

「……タクミと戦うこととなったら?」

「意地悪ね……悪いけどその答えはいま出せないわ」

「お前達の方がタクミ達よりも相応しいと思えば、お前達につく、逆もまた然り」

 そして、ロキは目を細めて心底しんどそうに二人を見下ろすと、盛大にため息をついた。

「今殺せば楽だが……仕方ない……私たちの旅についてくる事を許可する」

 と、挙げた杖でトントンと、二人の肩を一回ずつ叩いた。

「……ようこそ、『WTsワールドトラベラーズ』へ」

 そして、深々とため息を吐いたロキは与一に二人の部屋への案内を命じた。

 与一はコーラを飲みながらロキの前をさると、二人を寝台車の専用の部屋に案内した。

「ここがお前らの部屋や、勿論部屋別々やけど、内装は一緒やからどっち使ってもええてさ」

「「ありがとう」」

「んじゃ、荷物とかあんなやったら入れときよ、それと、後で行先の説明とかあるみたいやから出来ればはよ戻って来てくれると呼びに来やんでええから、頼むわ」

 そう言って列車の連結部分の扉を開けた与一は思い出したかのように振り返ると、

「ヒヤヒヤしたんちゃうんけ?でも、上手くいって良かったな?」 

 と、ニヤリと二人に笑い掛けて出て行った。

「「……っ!!」」

 与一が視界から出た瞬間二人は汗だくになって膝から崩れ落ちた。

「ややや、や、やば、やばっ、やばかったわね」

「……凄まじいプレッシャーだった……特に、竜人と褐色の男……そして……」

「タクミと似たような名前の彼……?」

「あぁ……アイツ、俺達の動きから目を一瞬たりとも離していなかったぞ……」

「そうね………彼は脅威になるわ……」

「うむ……だが味方にすれば……?」

「「………むり……」」

 二人は明らかに自分達を殺すつもりだった彼の目を思い出して身震いしていた。

「だ、だけどあの女……思ったよりもちょろかったじゃない?」

「そうだが……」

「なによ?」

「……いや、気のせいだろう」

 そう言ってタシトは汗を拭うと、立ち上がって自分の部屋の中を見た。

「………ふむ」

「ちょっと、何よ黙って……私にも見せなさ……うっそぉ!」

 カミラは目を丸くしてタシトにあてがわれた部屋を見た。

「ベットあるし……ちゃんとクローゼットもあるし……何これ……中が冷たい……飲み物とかを入れれるのね……」

 カミラは驚いたような表情で冷蔵庫を開けて、中身を見た。

「それに、専用のお風呂場まであるじゃない……私達って一応人質よね?客人じゃないわよね?」

「……そのはずだ……」

「あんたの部屋だけってはずないわよね!」

 するとカミラはハッとしてタシトの部屋から飛び出て自分の部屋に飛び込んだ。

「いやったぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 と、すぐに叫び声が聞こえて、ニコニコ顔でタシトの前に現れた。

「えへへ~」

「……これが狙いなのか?」

「へ?な、何が?」

 タシトはカミラを見て呆れた。

「わからんのなら……ん?」

 すると、机の上に一枚の手紙が置いてあるのに気づいたタシトは、それを拾い上げて読んだ。

「『まぁ、気楽に行こうぜ?ロキより』……」

「「………」」

 二人は顔を真っ青にして顔を見合わせた。

「ど、どっちなんだ?」

「さ、さぁ……?」

「………ま、まぁ、取り敢えず真相はともかくこれから二人、頑張りましょう?」

「そうだな」

 そう言って二人はガッチリと握手を交わした。

 場所は移ってアスターの部屋、

「あっ、目が覚めたみたいだよ?」

「ウィ、一応下がっててくれ」

「それはむりな相談だ」

「おまっ……」

 与一が反論したフォールに突っ込もうと突っ掛かった瞬間、アスターは体を起こした。

「……おはようございます……ふぁ……」

 あくびを噛み殺しきれず少し可愛げにあくびをしたアスターは、周りを見渡した。

「あ……皆さん、おはようございます……」

 と、とても優しげな表情でニッコリとソウヤ達に笑いかけた。

「お、おは……」

「単刀直入に聞く、貴様、あの洞窟での事を覚えているか?」

「……無視かい……」

「ヨイチ、ごめんね?今回はヨイチは優しすぎるから……」

「……優しくて悪かったなぁ……」

「あ、いや、そう言う事じゃなくって……」

「性格の悪さが出とるで、にーちゃん」

「あ、あの……」

 すると、おずおずとアスターは手を挙げて尋ねた。

「洞窟の事って……何……ですか?」

「「「…………」」」

『!!』

 ロキと与一、そしてフォールはやっぱりと言った表情をしてそれ以外は驚いたように目を見開いた。

「やはり覚えてないか……」

「わ……私……何か……やっちゃいましたか?」

「……ロキ?」

「話してやれ、どうせ今の質問で半分以上答えを言ったもんだ」

 与一はため息をつくと、一つ呼吸おいて、

「……アスター、お前は『多重人格者』みたいや」

「……たじゅう……なんですか?」

「……お前の中にもう一人のお前がおって、何かしらのきっかけでそれが出てくるって感じやなぁ」

「もう一人の私……?」

「そ、そいつは自分のことをヴィクトリアって名乗って……お、おい?」

 与一は頭を抱えて俯くアスターの肩に手をポンと置いた。

「ヴィクトリア……ヴィクトリア……」

「ど、どってん?」

「よ、ヨイチ……!」

 すると、ユウラビがアスターの髪を指さした。

 アスターの髪は徐々に赤みのかかった紫色に変わって行っていた。

「……いや……」

「へ?」

「いやぁぁぁ!!嫌!嫌!嫌!嫌!嫌!消えたくない!」

 そう言ってアスターはベッドから転がり落ちるのも構わずに与一にしがみついた。

「な!何が!?」

「消えたくない………!助けて……!」

「???????」

 与一は訳がわからないと言う顔をして、ロキの方を向いた。

「何が起こったか分からんが、ヴィクトリアが『起きる』ぞ!」

「待って!嫌!見捨てないで!」

 そう言って与一は何をしたら良いか分からないのか、ただアスターの手を握ってアスターの背に手を回して支えていた。

「……お願い……お……ね……が……」

 そしてガックリと唐突に項垂れると、すぐさま高らかに笑い出した。

「アハハハハ!!!」

「……ヴィクトリア!」

「あら、ご機嫌よう」

 そう言って与一の顔に手を添えて妖艶に微笑んだ。

「こんな至近距離で起きるのを待ってくれるなんて……優しいわね?」
 
 そして、ヴィクトリアは顔に添えた手を首に回した。

「……あの子に言ったわね?私の存在……」

 ロキ達が動こうとするのを目で牽制しながら与一の耳元に口を近づけた。

「そして、あの子のお願い……叶えられなかったわねぇ?」

 と、ヒソヒソと囁いた。

「は?」

 すると、ヴィクトリアは首にまわした手を少し捻って与一の首をコキッとした。

 与一はヴィクトリアに抱かれたまま糸が切れた人形のように動かなくなってしまった。

「よ、ヨイチ?」

「ごめんなさいね、この子には眠ってもらったわ」

「眠りは眠りでもそりゃあ永眠だろうが!!」

 すると、後ろで控えていたバーゲンが目にも止まらぬ速さで腰のホルスターから拳銃を引き抜いたが、それよりも先にヴィクトリアは与一の腰から銃を引き抜いてバーゲンに突きつけていた。

「あらあら、遅いわね?」

「くっそこのアマァ!」

「バーゲン」

 フォールの一声でバーゲンはフルフルと握った拳銃をホルスターに収めた。

「……お前の観察眼もおちたものだな」

「え?」

 フォールはそう言ってヴィクトリアに近づいた。

「…………」

「説明するために出て来たんだろう?」

「……あらあら、お話を一方的に進めたかったものだけど……仕方ないわね……ほら、起きていいわよ」

「やったらその物騒なナイフしまってくれん?」

「!?」

 ヴィクトリアに話しかけられて普通に動き出した与一を見てユウラビやリーシャ、バーゲン達は驚いた。

「ヨイチ!?なんで!?」

「いや、この人すごいで……人の体ちょっと触っただけでその人の体の仕組み理解できんねんから……」

「褒めてくれるのは嬉しいわ?」

「よっしょいこ!」

 と、勢いよく立ち上がると与一はヴィクトリアから一歩離れてその場に遠隔操作で起動させた箱を変形させて、全員分の椅子を作った。

「全く……不用意がすぎるぞ」

「悪いなぁ……出来損ないで」

「ほんまにーちゃんアホやな」

「うっさいわボケ」

「ちゃうちゃう、ほれ」

 与一は俊明の指差した方を見た。

「……あっらまぁ」

 与一がナイフだと思っていたのはヴィクトリアの少し長い爪だった。

「簡単に騙されちゃって可愛いわね」

「……うぇーい……」

 与一は明らかにガッカリすると、ため息をついて椅子に座った。

「……もうええやろ?早よ話してや……」

「ええ、わかったわ……」

 ヴィクトリアは面白いおもちゃを見つけた子供のように目をキラキラと輝かせながら、与一が作った椅子に座った。

 それを見た全員も黙って椅子につくのをヴィクトリアは見届けると、こう切り出した。
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