Two Runner

マシュウ

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向かうは世界の果て

そしてビジネスの話をしよう

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「ここがこの街のシンボル、『大鐘楼』だよ」

「うぃ……でけぇ………」

「………大きいな……」

 二人の目の前には与一の起床を促した大きな鐘の塔がそびえ立っていた。

「これを中にいる人が砂時計を見て朝日が登ってから一定時間おきに鳴らすんだ」

「成る程なぁ……時計は無いん?」

「トケイ?………何それ?」

「あー………アレ?」

 与一はスマホを取り出そうとして考えるような仕草をした後、服のポケットに身に覚えのない違和感を感じてそれを取り出した。

「それがトケイ?」

「………せやけど……んーで………あー……」

 与一はポケットから出て来た懐中時計を見ていると、それに心当たりがあるような反応をした。

「あん時のお土産……なして……」

「どうしたの?」

「ん?んーや、んーでもないで」

 と、首を少し傾げてユウラビに渡した。

「何か書いてあるね」

「60秒で1分、60分で一時間、24時間で一日、大きい針が分数を、短い針が時間を、この細い針が秒をしめしとるんや」

「……取り敢えず時間がわかるって事?」

「そゆこと」

 ユウラビとセツは興味深そうに懐中時計を弄り回した。

「壊さんといてや、一応俺のお父さんからのプレゼントやからさ」

「へぇ!お父さんからの!………そう言えばヨイチ達のお父さんってどう言う人なの?」

「ウィ……案内してもらいがてら話そかな?」

「うん、分かった、じゃあ次は……あっそうそう、カナとカモの事なんだけどね?」

「そー言えば見てへんかったなぁ……何してん?」

「うん、フォールが団長に紹介して今丁度試験を受けてる所だよ?」

「……それって魔物退治したり?」

「うーん、それもあるけど基本的には記述の問題かな」

「紙そんなあるん?」

「ないよ、だけど白い粉を固めたペンみたいなやつと、それを擦り付けて文字を書くことができる板があるからそこに書いて試験をするんだ」

「黒板にチョークか……」

「ヨイチの国じゃそう言うのかな?まぁ、それと後は軽い運動試験だね」

「うへぇ………」

 与一は運動試験と聞くと明らかに顔をしかめた。

「何でそんなに顔をしかめるの?」

「だってしんどいやん絶対」

「ヨイチがしんどくなる程の試験じゃないとは思うんだけど……」

「そぉ?」

「うん、ホントに軽い運動だからさ……良かったら受けて行く?」

「あれ?そんな手続きなしで受けれるもんなん?」

「まぁ、運動試験だけは公開してるからね、普通の人とかが運動がてらに使ったりもするよ」

「へぇ………じゃあ行ってみよかな……」

「よし!そうと決まればシュッパーツ!」

 と、ユウラビが元気よく腕を振り上げた瞬間、セツのお腹から可愛らしい音が聞こえた。

「……腹が減った」

 恥じらいもなくそう言ってのけたセツに二人は苦笑いすると、

「あはは……じゃあ先ずは腹ごしらえだね!任せて!ロキの料理に負けないぐらい美味しいお店知ってるんだ!」

「ふーん……もしかして……」

「だーいじょうぶ!そんなに高く無いからさ!」

「じゃあ遠慮なく」

「………」

 セツは無言で頷いて与一の言葉を肯定した。

「ふふっ、じゃあ道すがらにお父さんのお話でもしてもらおうかな?」

「………俺話し下手やぞ?」

「な、何でそんな自信たっぷりに言うのさ……」

 と、三人はトコトコとユウラビのギルドの酒場へと入ったのであった。

「おじちゃーん!いつものアレ三人分よろしくー!」

「あいよぉ!」

 と、鉄板に向かう男にユウラビは声をかけて適当な机に座った。

「へぇーギルドの中ってこんな感じになっててんや……思ったよりも……城やな」

 与一がそう言って見回したギルドの中は天井がそれなりに高く、頭上で明かりが煌々と輝いていた。

「アレはね、石なんだけどある一定の温度以上になるとああやって発光するんだ」

「へぇ、成る程なぁ……ありゃ?アレ俊明?」

「あっホントだ、おーい!」

 与一が目をつけた先では俊明がワールドとリーシャと何かを話しながら、腕をぶんぶんと振り回している所だった。

「何してんアイツ……おい!俊明!」

「ふっざけんなよ!こんなんよゆーやし!よゆーよゆー………あれ?にーちゃん………?」

 俊明は与一の方を見ると、中指を立ててクイクイと近寄るようにジェスチャーをした。

 それに対して、与一は無表情で中指を立てたあと、親指を下に下げた。

「……はっ!」

「ふっ!」

「あーん?」

「へっ!」

「……君たち何してるの?」

 二人のジェスチャーの意味を知らないユウラビは呆れながら与一にそう言った。

「ん、アイツに向かって『ボケカスタコナスアホナスビ』ってやってただけやけど?」

「妙な語幹がいいのが何とも……って言うかトシアキも呼びなよ、それとも私と二人きり……じゃ無いけど女の子に囲まれて「おい俊明!とっととこっちこいよ!肉おごったるわ!ワールドもきぃや!」……反応早すぎない?」

 ユウラビが最後まで言う前に与一は俊明達を呼ぶと、ウェイターに更に二つ注文を追加した。

「……でなにぃ?デート中やったから悪いなぁ思っててんけど?」

「デートちゃうし……それで、お前らは何してたん」

「ん?にーちゃんがあの雪だるまの前から逃げた後、ビートはサウナに入って出てこやんくなってしもたから、暇つぶしにカナとカモ達の試験見に来てんけど……」

「そこで私がお手本を見せてあげたらね、トシアキビビっちゃって」

「ビビってましぇーん」

 と、トシアキが運ばれて来た水を飲みながらリーシャに嫌味を返した。

「そんなヤバイん?」

「にーちゃんがやったら死ぬ」

「………ごちそうさんでした」

「まだ君何も食べてないよね!?」

「突っ込む所そこ!?いやまぁ、間違ってないけどさぁ!」

 与一は一度立ち上がるも、もう一度椅子に座った。

 すると、そのタイミングで与一達の料理が運ばれて来た。

「ほら、食べてみて?」

「う、まそうやないけぇ」

 与一は目の前には広がる肉とチーズのサンドイッチに、目を丸くしながら大きく口を開けてかぶりついた。

「……やっぱりうまい」

「でしょー!!」

 と、なぜかユウラビが誇らしげに胸を張る中、

「すまない、もうひとつくれ」

 と、セツが早くも食べ終わり追加の注文をしていた。

「はっやいなぁお前……」

「そう言うヨイチだってもう後一口じゃ無い」

 と、リーシャが二人のことを引き気味にそう言った。

「せやでにーちゃん、もっと俺みたいに味わってくわな!」

「そう言うトシアキだって、もう半分じゃん、私まだ四分の一しか食べてないよ?」

「私も」

 と、与一に嫌味を言った俊明にユウラビとリーシャは突っ込んだ。

「あれ?」

 と、俊明が首を捻ると同時に与一は、

「ごちそーさん、美味かったわ、セツ食う量これで払える分だけにしときや」

「いや、もう行くのなら食べ終わる」

 と、言いつつもいつの間にか三つは食べ終えているセツに与一は呆れたように笑うと、ユウラビが言っていた、運動試験の所に向かうことにした。

「はえー……ここが試験場か……確かにアスレチックって感じやな……」

 建物の中に擬似的に森を再現したその場所では至る所で爆発音や、剣戟の音、悲鳴などが聞こえて来た。

「あー……セツ帰ろっか……セツ?」

 与一はため息を吐きながらセツに問いかけたが、セツの反応がなかったので、セツの方を向いてみると、セツはその森の方を見て、体をブルブルと震わせていた。

「……セツ?」

「……あ、あぁ、すまん……そうだな……帰るか……」

 耳が項垂れるのを見て、与一は感心しながら、

「いや、やっぱりちょっと遊んでから帰ろっか」

 と、言った。

 そして、与一はこの言葉を公開することをまだ知らなかった。

「……どしてこうなったし」

 与一は試験場のど真ん中で旗を守りながら、迫りくる危機に震えていた。

「絶対そうやんなぁ……セツ……めっさSやん」

 与一は今、ジワジワと木々の間を飛びまわるセツに神経を裂かれながら、独り言を呟いていた。

「ほら、振り返らないと私が取るぞ?」

「むん!」

 与一はノータイムで振り返ってセツを掴もうとするも、セツはそれよりも素早い身のこなしで、スルリと逃げ出すと、また木々の間を飛び回り始めた。

「………あーやだやだ……俊明交代してくれんかなぁ……」

 と、ここに居ない弟に想いを馳せつつ、与一は意を決したように立った。

「遊ぶからには全力以上の全力や!!」

 と、気合の入った掛け声を出して、耳をすませた、

「…………はいそこぉ!」

「………危なかったぞ?」

 与一が手を伸ばした先ではセツが悪ーい笑顔で、与一のことを嘲笑った。

「せいやぁ!」

 与一は伸ばした手をそのままに今度は体ごと、セツにせまって抱きつくような形で押さえ込もうとしたが、セツの動きはそれよりも早かった。

「残念だったな、ほら、私の勝ちだ」

 と、与一の目の前で旗を抜いたり刺したりした。

「くっっっっそ、この天才めぇ………」

「そうだな、私には最強の遺伝子と頭脳の肉体がある、だからお前は私には勝てない、わかるな?」

 と、恍惚とした表情で与一を見下すセツに、与一はため息をついた。

「はいはい……負けですよ、俺の負け」

「もう一度」

「は?」

「もう一度……」

「俺の負け」

「違う、さっきみたいに」

「………俺の負けやって……」

 セツは与一のため息交じりの、敗北の宣言を聞くと、自分の体を抱いて震えた。

「………もう一回やろう」

「いやもう帰るで?」

 と、与一が嫌々と立ち上がって埃を払っていると、そこにご飯を食べ終わったユウラビ達がやってきた。

「何してるの?」

「セツにボコボコにされた所やわ」

「へぇー……与一って強いって思ってたんだけど」

「俊明より……えーや……」

「なに?」

「……まぁ、そこそこ強いけど負けるときは負けるってキャラちゃう?俺」

「そっかぁ……セツ?」

 与一の自虐交じりのコメントにユウラビは微妙な顔をして頷くと、何やら様子のおかしいセツに声を掛けた。

「ど、どうしたの?具合悪いの?」

 すると、自分を抱いて震えていたセツは目を赤々と輝かせて、

「……全員でかかって来い……!!」

 と、顔を赤くして、ゴワゴワの服を脱ぎ捨てて、スラリとした体を曝け出した。

「ちょっ!セツ!?」

 ユウラビが慌ててセツに服を着せようとした瞬間、セツはユウラビを柔道の投げ技のように投げ飛ばした。

「ちょっ!」

 与一はセツがユウラビを掴んだ瞬間にユウラビを捕まえて、地面に激突しないように引っ張った。

「っっっっあい!」

 と、声を出して与一はセツの投げからユウラビを救い出すと、訳の分からない表情をしているユウラビを優しく地面に下ろした。

「怪我してん?」

「だ、大丈夫だよ」

 そして、与一がポケットからチケットと改札鋏を取り出して、チケットを切った。

「セツ、どう言うことや?」

 与一に箱がまとわりついて鎧を形成した。

「あぁ、いいぞ……本気で来い……!」

「……ロキに相談案件やな」

 と、与一は一歩足を踏み出したが、背後から膝カックンされてその場に崩れ落ちた。

「待てぃ、我も少し遊ぶ故な」

 と、与一の前にワールドが立ちはだかった。

「……怪我しなや」

「抜かせぃ!」

 と、ワールドは地面に足を食い込ませながらセツに向かって走り出した。

「カァッ!」

 セツは獣のような声を出して、ワールドの腹に掌底を当てたが、ワールドはそれをものともせずにセツの腕を掴むと、セツとはまた別の投げ方でセツを投げた。

 が、セツは受け身を取ってワールドから距離を置いた。

「ヴゥゥゥ……」

 と、セツは狼のように唸って、

「シュゥゥゥ……」
 
 と、ワールドは魔人のように口から煙を出して相対し合っていた。

「いやどこの怪獣映画よ」

「いや、これは怪人同士の戦いやな」

 と、与一が入れたツッコミに俊明は片手にコーラを持って返した。

「にーちゃんこれいる?」

「ポップコーンか、ええなってこれどこにあったん?」

「列車からパチってきた」

「ふーん売ってへんかったん?」

「へぇ」

 与一はそこに二つ分椅子を作ると、俊明と並んでワールドとセツはの戦いをポップコーンとコーラを食べながら観戦し始めた。

「き、君たち私がやられたのに結構冷静だね……」

「だって絶対あの間入ったら両方から攻撃されて怪我するで?」

「間違いあらへん」

 と、俊明の意外にも冷静な判断と言えるのかはさておき、その判断に賛同した与一はウンウンと頷いて、握ったコーンを口に放り込んだ。

「それにいざとなったら俺と俊明と二人がかりでどうにかするし」

「えっ?」

「えっ?やあらへんねん、お前も手伝えや?」

「えー………よ」

 と、二人が取り止めもない話をしている間に、セツとワールドの攻防はますます激しいものになっていった。

「アハハハハ!!!」

「ふはははは!!!」

 狂ったように笑いながら二人は血を流し、そして、フラフラになっていた。

「……そろそろ頃合いちゃう?」

「やな」

 と、俊明がそう呟くと、与一は立ち上がってセツの背後にズカズカと歩いて行くと、手を握って頭を殴った。

「カッッッッ!!」

 と、声を出してセツは倒れ込むと同時にワールドが残念そうにつぶやいた。

「もう少しで勝てたのだが……」

「お前勝ったらそのままお持ち帰りするやろ」

「む、そんな事は……しない保証はないな」

「そこは否定しぃや……ふっ」

 と、与一はワールドにツッコミつつ傷薬を手渡した。

「ほれ、傷に塩塗っとけ」

「どう言う意味だ?」

「知らんねやったら自分で調べぇ」

 そして与一はセツを箱を変形させて担架の足の部分にコマを付けると、それを手で押しながらその場をさろうとした。

「ちょっとちょっと!どこ行くのさ!」

「いや、流石に置いとかれへんから今ちょうどロキが話しあっとるから送ってもらおうかと……」

 と、与一が戸惑うユウラビに説明している間に担架の上のセツの姿が黒い球体に吸い込まれると、そこからロキが現れた。

「……そら、服を貸せ」

「あっへい」

 与一はセツが脱ぎ捨てた服をロキに渡すと、気まずそうにそばを離れた。

「……さて、話していた雪かき器の事だが……」

 と、ロキがセツの服の匂いを嗅いで首を傾げながら話し始めた。

「ここで話すの!?」

「何か問題でも?」

「ないんやったらええねんけどさぁ……」

 ユウラビの疑問に帰ってきた返答に与一が反応すると、その場にいる全員がウンウンと頷いた。

「……じゃあ続けるぞ、さっき話したやつだが、丁度リーチェの親御さんがここで大きな工房を構えてるらしくてな、そこでそいつを作ってもらうことにした、かかる日数は大体そうだな……長くて3日だな」

「長くて3日なぁ………」

 与一はそう言って呟くと、考え事をするかの様にアゴに手を当てて考えるそぶりを始めた。

「それまで基本自由行動だ、小遣い稼ぐなら小遣い稼いで、奴隷買いたいなら好きにしろ、ただし買うなら何人買うか報告しろよ、出発までにな」

 と、ロキがそう吐き捨てる様に言うと杖を取り出してくるりと回って消えてしまった。

「……ってさ」

 与一はそう言ってみんなの方を向いて肩を竦めた。

「……そう言えばさ、皆さんや」

「なぁに?」

「なんか欲しいもんとかない?」

「……何?告白するつもりならこのまま投げ飛ばすよ?」

「違うで!?……………………………ちょっとな」

「何さ今の間は」

 与一は気まずそうに目を逸らした。

「いや………何でもあらへん」

「めんどくさいんでしょ」

「めんどくさいなぁ」

「~~~~~~~っっっっ!!」

 与一はどうどうと、顔を真っ赤にしてポコポコと怒るユウラビを宥めながら歩いていると、向こうの試験場からカナ、カモ、そしてアスターが歩いてきた。

「おっ、おつー」

「まぁ、余裕カナ?」

「流石に目を瞑っても出来るカモ」

 と、ドヤ顔でアピールをする二人に反応したのはワールドだった。

「ふん、どうせ細い丸太の上を歩くなどだったのでは無いか?」

「「……じゃあ受けてみれば?」」

「よし、受けてたとうではないか、我々三人でな」

「よっしゃ、とし、逃げるぞ」

「ヨーイドン!」

 俊明と与一は巻き込まれる事を確信した瞬間走り出したが、

「おっと、ここで逃げるのは男が廃るんじゃないってのか?」

「大人しく受けるワイナ」

「グゲゴゴギゲ」

 バーゲン達が与一と俊明の二人の前に立ちはだかった。

「「クッソ!」」

「まぁまぁ……いいか?ここだけの話、お前らはちょっとだけ優遇してやれるんだなこれが……」

「なして?」

「……俺らが試験官だからだよ」

「あそう、じゃっ!」

「じゃっでは無い……全く………」

 すると、三人の後ろからフォールが出てくると、与一と俊明の肩を掴んだ。

「「おっっっっっ」」 

 二人はそこで踏ん張る様にして耐えた。

「……なぁ、受けて行くよなぁ……?」

「い、イエスマム」

「クッソ……俺は諦めへん……!はっなっせっ!」

 与一はその場に膝をついたが、俊明は目を見開いてフォールから逃げようとしていた。

「なぁトシアキ、私達の団は周りからの評判も良くてな、依頼先ではチヤホヤされる事請け合いなんだが……」

「にーちゃん何してんねん、早よ受けるで、あっ、俺優しいから先にーちゃんでええで」

「お前……お前ぇ………」

 与一は憎らしげに俊明を睨んで立ち上がると、首を鳴らしてため息をついた。

「しゃーない、行きまっか」

 そして三人はフォール達に連れられるがまま試験会場へと足を運んだ。

「……ホンマにアスレチックや……ただこれ忍者様やない?」

「『ニンジャ』が何を意味するかは知らんが、まだ優しい方だぞ?」

「………あい」

 与一は誰にも言われずともスタート場所に立った。

「よし、それじゃあルールだが、道からそれたり落ちたり明らかな反則行為をした場合がアウト、ゴールはあそこの鐘を鳴らしたタイミングだ」

 バーゲンがそう言ってルールを軽く説明すると、与一は頷いた。

「よし!それじゃあ始め!」

 バーゲンが砂時計をひっくり返したのと同時に与一はアスレチックを走り始めた。

「先ずは崖上り!」

 与一はそびえ立つ壁を見て若干顔をしかめたが、崖に手をついて、意外にもサクサクと登り始めた。

 三十秒ぐらいで5メートルの壁を上り切ると、次は細い丸太の道だった。

 そこまは臆する事なく走り抜けると、次は狭い足場の上を飛び越えて、振り子のように触れている鉄球の間を走り抜け、狭い道を匍匐などで通り抜け、最後に塔を登って与一は鐘を鳴らした。

「ぜぇ……ぜぇ………」

「よし、ここらか次は戦闘テストだ」

 そう言ってバーゲンは壁についているボタンを押すと、中から牛に鹿のようなツノが生えた魔物が出てきた。

「こいつを捕まえな」

「倒すんや無いん!?」

 与一は息を切らしながら塔から駆け下りると、牛に走り寄った。

「あっ」

 すると牛はヨイチの方を向いて、突進して与一を空高く舞上げた。

「のっっぼぉぉ!!」

 地面と盛大に激突した与一はフラフラと立ち上がると、突進してきた牛の頭のツノを掴んで暫く後退した後止めた。

「これでええ!?」

「いいわけないだろ!ロープか何かで縛り上げろ!」

「うぇー!?」

 与一は叫びながらも牛を離してロープを探した。

「………ロープないやん!?」

「自分で調達しろ!」

「うぇぇぇ!?」

 そして、暫く周りを見渡したのち、与一は一般の枯れ木に駆け寄ると、それを地面から引き抜いて突っ込んできた牛をかわして、足を引っ掛けてこかせるとその木をそっと横になった牛に乗せた。

「………これでどぅ?」

「……まぁいいだろう、一応合格だ」

「はっっっえーーーー」

 と、与一はその場に座り込んだ。

「つ、疲れ申した」

「にーちゃんクソザコなめくじやな」

「おぉ?じゃあお前やってみろよ」

「えーお、みときぃ」

 俊明はニヤニヤと笑いながらスタートの位置に着いた。

「よし!それじゃあよーい……どん!」

 その瞬間凄まじい破裂音と施設が崩壊する音と、金属が連続で鳴る音と、牛の鳴き声が聞こえた。

「ごっほごっほ…俊明!無事……ぉまこのアホ!」

 与一は砂埃が舞う中、だいたい起こった事を理解してしまい、慌てて服を全て総動員して施設の修復に当てた。

「な、何が起こったんだ!」

「トシアキ!無事か!」

 と、バーゲン達がそれぞれ動き出すのとほぼ同時に与一の見た目上の修復が完了して、与一は縛り上げた牛に乗ってドヤ顔をする俊明の頭をしばいた。

「いっ!何すんねん!負けたからって八つ当たりはどうよ!?」

「お前!なぁに本気出しとんねん!お前なぁ!お前が走った後のやつ全部ぶっ壊れてんぞ!?」

「いや、壊れてませんけど?」

「俺が今直しとるんじゃボケ!」

「はぁ?」

 と、言い合っているうちにバーゲン達がやってきて、俊明の姿を見て目を丸くした。

「……トシアキ……お前、あの鐘一瞬で鳴らしてもしかしてその牛……」

 俊明はドヤ顔で背後の空いた檻を指差した。

「す、すげぇ……ゴジガジに続くレコーダーだ……見えたか?」

「ガグゲ」

 ゴジガジは頷いて俊明に向かって親指を上げた。

 俊明はそれで何か気が付いたのか納得したようなそぶりを見せたが、頷いただけで他は何もなかった。

「よし!お前は超一級の称号が付与されるぞ!」

 すると、バーゲン達は俊明を囲って様々な称賛の言葉を浴びせた。

「………おめっとさん」

 与一は意識を施設に集中させながら俊明にサラッと称賛や言葉を投げかけた。

「………わんもーあ?」

「おめっとさん」

「負けました?」

「おめっとさん!」

「流石俊明様?」

「くたばりもうせ」

 与一は俊明に中指を立てて、ため息をついた。

 そして、そのタイミングで漸く施設の修復が完了した。

「………んで、次ワールドやろ?」

「うむ、任しておけ!」

 と、意気揚々とワールドは位置についた。

「あぁ、そうだったな!ワールド!行くぞー!よーい……どん!」

 バーゲン以外は俊明に賞賛を送っていたが、ワールドはそれを気にする事なく、スルスルとアスレチックをクリアして、用意された牛を自分の服を使って縛り上げた。

「……よし!全員合格だな……ワールドはまぁ、普通だな、俊明は超一級!そして与一だが……ギリギリだな……」

「あそ」

「ふっ」

 与一は俊明の嘲笑を無視すると、奥からやって来たリーシャから鉄のような金属のプレートを渡された。

「それはこのギルドのカードよ、それがあれば大体の人が『あぁ~』って言って話を聞いてくれるわね」

「へー」

 与一は何と書いてあるか文字が読めなかったが、それを与一はポケットに滑り込ませた。

「まぁ、才能ある弟を持つのは辛いわよね?」

「そか?」

 と、与一はそう言ってポケットに手を突っ込むと、そろそろ起きたであろうセツを迎えに行った。

「あ、ヨイチ……その……ごめんね?」

 すると、後ろからユウラビが追いかけて来て与一の隣に並んだ。

「何が?」

「私がさ、ここに来ようなんて言わなかったら……」

「はっはっはっ!んーな事!俺より俊明の方が運動出来るのは知ってたし、これから鍛えたらまた勝てるようになるわ!」

 と、与一はゆかいそうに笑った。

「……本当に言ってる?」

「マジよ?」

「………本当に君は不思議だね」

「ふーん」

 与一は首を捻っていたが、ちょうどそこにセツがやって来た。

「おっ、起きたみたいやな」

「……自分より下のものに負けるのは屈辱じゃ無いのか?」

 与一はケラケラと笑った。

「いやいや、今更よ!俺どんだけ年下の子らに負けて来たと思てるん?もうプライドもへったくれもないがな!」

「……分からんな……」

 与一は結構結構コケッコーと笑うと、悪戯っぽく笑った。

「んでさ、ちょっとおもろい考えあんねんけど……一緒に来る?」

 と、二人の方を向いてそう言った。

「「内容によるな(ね)」」

「あそう、じゃあこの世界に電気を呼ぼか」

「「……魔法?」」

 与一は首を横に振った。

「ちゃうちゃう……磁石って知ってる?」

「しらないね」

「……タクミが話していた事があるな」

「……アイツと同じ思考回路してんのは腹立つけど、まあええわ」

 与一は背後で俊明を祝福する賑わいを見せるギルドから出ると、工場地帯の方へと歩き出した。

「待て」

 すると、三人を止めるように背後からワールドが腕を組みながらやって来た。

「何か新しい事をするみたいだな?」

「まぁ、出来るかどうかは分からんけど」

「我も同行しよう」

 と、ワールドは至極当然のようにそう言った。

「ふーん、そのこころとは?」

 ワールド達三人は首を傾げた。

「あー……それは何で?」

「ふむ、確かに体を鍛えるのは強きものに成るのには当然、しかしそれはその体に値する頭脳をもってこそ成り立つものである、それは何であれ、新しき事は我が頭腦を刺激する故な」

「成る程強くなる為と?」

「そう言う事だ」

 与一は納得したように頷くと、再び歩き出した。

「さて、まずは……どしよっか」

「あれだけ言っといて考えてなかったの!?」

「まぁ待て待て……アレや……車のバッテリーのやつ思い出せたら………ん?」

 すると、ヨイチのポケットが光出して、与一はポケットに恐る恐る手を突っ込んだ。

 するとそこから手帳が出てきた。

「『棚』……随分とシンプルな題名で」

 与一はふふっと笑って最初のページを開くと、そこにはちょうど知りたかった車に使われていたバッテリーの仕組みが、ご丁寧に絵付きで載っていた。

「スゥー………………あ待って、これ……なぁ?」

「なに?」

 与一はリーシャの方を向いた。

「亜鉛……って知ってる?」

「は?」

「………この世界で雷の魔法使える人……あ」

「私が使えるよね」

 与一は一瞬頭を抱えたが、そういえばとユウラビの方を向いた。

「おし、じゃあ出来るな、あ、直流か交流か……まぁどうにかなるやろ」

 と、与一は頷きながら目の前で売られている金属線の束を買った。

「おし、こいつで磁石を作ろう、あいや、もうユウラビの電気使った方が早い?」

「……何するつもりか知らないけど、雷出すの結構しんどいんだよ?」

「雷………まぁ、多くて二回やって貰うことになるわ」

「あ、思ってたよりも少ないや」

 与一の独り言にユウラビは反応しつつ、与一の持っている手帳を取り上げた。

「何書いてあるのこれ………何書いてあるのこれ?」

「なして同じこと二回聞いたし」

 与一はユウラビから手帳を取り返すと、ロキから教えられたリーチェの親が経営する工場に向かった。

「あっ!ヨイチ!」

「おーリーチェ、久しぶり……って事ないな」

「そうだね、えへへ……って随分と知らない顔が増えたね?」

「つっても二人やけどな」

 リーチェはセツとユウラビに挨拶をし始め、そして何故かセツですら盛り上がった雰囲気で話始めるのを見て、与一は頭を掻いていると、

「ヨイチ、ワールド」

 と、ユーリが二人に声をかけた。

「何かようかい?」

「ん、ちょっと場所を貸してもらわれへんかなって」

 と、与一は金属線を示した。

「あ、後ついでに何か丸い棒みたいなやつもくれへん?」

「いいよ、彼女のお義父さん達に話してくるよ……いや、君達も一緒に来た方がいいね、お義父さん達も与一達にお礼がしたいって言ってたからね」

「「あー」」

 ワールドと与一は二人ハモると、顔を見合わせた。

「ほら、行くよ」

 与一は肩を竦めると、ユーリの後ろについて歩き出した。

 ワールドはそれを見て首を傾げながら後ろについて歩き出した。

「そーいやさぁ、俺からばっかりで悪いねんけどさぁユーリ」

「ん?なんだい?」

 与一はプレスや金属を削る音の中を歩きながら声を張り上げてユーリに尋ねた。

「何かお前の言い方やったら結婚したっぽいねんけど、マ?」

「いーや、まだだよ」

「あそ、いつ式あげるつもりなん?」

「そうだなぁ、お義父さん達に何か認められるような事をしてからだなぁ」

「計画は?」

「うーん、僕が入っているギルドの超一級になる事かな」

「ふーん……」

 与一は俊明があっさりとなってしまったことに対して少し、申し訳なく思ってしまったのか、ため息をついた。

「どうしたんだい?」

「えーや、あんでも……ここけ?」

「そうだよ」
 
 かなり立派な扉の前で三人は立ち止まると、ユーリはドアをノックした。

「失礼しますユーリです」

「入りなさい」

 大きな扉がゆっくりと開かれ、逆光で与一は少し目を細めた。

「君達が私の娘を助けてくれたのか?」

「はい、結果的にはそうなります」

 ワールドは急に敬語になった与一に驚きの眼差しを向けつつ、頷いた。

「そうかい、ありがとう、何かこの街とかで手伝えることがあったら多少のことは口が効くんでね、お手伝いは出来るはずだよ」

 与一は頷くと、

「ではいきなりで申し訳ないのですが、金属が少なく広い所と、これぐらいでいいんで丸い棒をお貸しいただけないかなと」

 リーチェの父は朗らかに笑うと、快く引き受けてくれた。

 与一は礼を言って下がると、父は部下にことつけてすぐに案内してくれた。

「ここです、何をするかは知りませんがここなら条件に一致すると思います、それとこちらが御所望の丸い棒です

「……はい、十分すぎるほどです、ありがとうございました」

 与一はお礼を言うと、セッティングを始めた。

「……何をするのだ?」

「電気を作る……装置を作る……装置を作ってそれを売る」

「金儲けか?」

「まぁ、それもせやけど……上手くいけばいいんやけど……」

 と、与一は金属線の殆どを棒に巻きつけて、コイルにした。

「おし………で、肝心のユウラビは?」

 与一は周りを見渡したが、それらしき影はなかった。

「ヨイチ、すまぬが一つ試させてもらっても良いか?」

 と、ワールドが唐突にそういうと、体に何か力のようなものを溜め出した。

「な、な、な、何してん!?」

「コォォォォォ……………むん!」

 と、金属線を巻きつけてコイルにした物の線の両端を掴むと、力を入れた。

 すると一瞬線にバチンと音がして、何かが流れた。

「お前……今まさか……」

「この間ユウラビがフォールに対して行っていたことであろう?アレを今見様見真似でやってみたのだが、成功しただろうか?」

「待ってて………」

 与一は買い足していた金属の棒を引き抜くと、地面に少し擦り付けた。

「……おし、どや!」

 と、与一は棒を地面から離してその先端を見た。

「……おっさ!成功や!」

「よく分からんがやったな」

 ワールドは与一の肩に手を置いた。

「おう!ありがとな!さすが天才!」

「……うむ」

 少し満足げな表情を浮かべるワールドに与一は笑いかけると、もう一つ買っていた金属線を同じようにして、コイルの中の棒を引き抜いて、今作った電磁石を入れた。

「おしおし……これで……コイルと磁石の完成や」

 そして、与一は意気揚々とそれを持ってリーチェの父の所へと向かった。
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