Two Runner

マシュウ

文字の大きさ
上 下
49 / 70
向かうは世界の果て

雪の中で一人

しおりを挟む
「はあぁぁぁ……」

 与一はガックリと肩を落としながらワールドと街中を歩いていた。

「そんなにアレに自信があったのか?」

「まぁ……せやなぁ、まさかいらん言われるて考えてへんかったし……」

 与一は背後に立つ工場を見ながらため息をついた。

「地道に稼ぐか……」

「うむ、それが良いであろう」

 ワールドにうむうむと頷かれながら与一は先程の事を思い出した。

『……ええっ!?』

『驚く事は無いだろう?私からすればなぜそんな物で商売が出来るのかと思ったのかそちらの方が驚きなのだが……君は腕っぷしは良いみたいだが、商売とかの頭はからっきしのようだね……出直したまえ』

「いやだがしかし、あの時のお主の顔は中々見応えがあったぞ?」

「いや俺リアクション芸人ちゃうねんけど」

「うむ、『りあくしょんげいにん』が何なのかは分からぬが、むしろそちらで売り出していけば良いのでは無いか?」

「まっさかぁ………いやそれもアリ……」

「どう考えても無しだろ、くっくっくっ」

「またロキ!?」

 与一は突如背後に現れたロキに少しキレ気味で振り向くと、

「これ渡したんロキやろ!?」

 与一はポケットから金貨を出すとロキに見せびらかした。

「お前……人の好意はそっと受け取っとくもんだぞ?」

「いやめちゃくちゃ有難いねんけどな!?いきなり明らかにやべぇ額渡してくんのはどうかと思うんよね!?」

「出た、オタク特有の早口、よく噛まないで最後まで言えて偉いでちゅねー」

「わー、うれちー……ちゃうちゃう」

 与一は頭を撫でるロキの手を退けると、ロキの手に金貨を返した。

「……私もこれ要らないんだがどうすればいい?」

「では我が使おう」

「「それは不味い」」

 ロキと与一は同時にそういうと、金貨をほぼ半分に分け合うと互いのポケットにしまった。

「……流石の我も今のはどうかと思うぞ」

「だって、お前金使うってなったら女だろ?」

「抱くだけ抱いて後はポイやん?」

「我の金遣いと女に対しての扱いについて、貴様らがどう思ってるかよく分かった、が、それは見当違いという物だ」

「「ふーん」」

 二人は疑問げにワールドの方を向いた。

「先ずは奴隷市場に行く」

「「うん」」

「我好みの女を買う」

「「……うん」」

「後は其奴を我の一人目の妻として」

「はいアウト」

「うーん、これは男の俺から言えば色々問題あるやろうからロキにパース」

「おうよ、先ずワールド、お前さん女を出来る限り連れて全員幸せにしてやるつもりだろうが……断言しておく、それをやれば後悔するぞ?」

「なぜだ?我のマ「はいそこから先は言わんでええで」むぅ……で満足させてやる事が出来るぞ?それに我ならば一国の主になる事もできよう」

「まぁ、国を運営するという点ではお前は間違いなく才能がある、神である私がいうんだから間違いない、だが、考えてみろそんな一国の主にたかる女はお前のことを愛してると思うか?」

「愛など関係ない、互いに貪り合う仲なのだからな」

「じゃあ聞いてやろう、お前は家を持っている、家に帰ると子供と妻がいる、そこには笑顔があって、暖かさがあって、笑顔がある、お前は妻に言われて食卓に座るとそこには温かなスープがある、そしてお前は妻と子供と談笑しながらそれを食う……想像できたか?」

「……うむ、いや、もう構わん」

 と、ワールドがそう言いって両手を上げた。

「我には微塵も理解できん話だな」

「そうか……」

 ロキは少し残念そうにそう言うと、与一の方を向いた。

「さて、この話はここまでだ、次はこのお馬鹿な与一君をどうするかの話だな」

「一々煽ってくんのやめてくんね?」

「やだ」

「あそ」

 ロキは与一から金貨の半分を受け取ると、それをどこからか取り出した袋の中にしまった。

「さて、どしよっかな……皆んなにプレゼントしたかってんけど」

「まぁ、金がなくなった今それはもう無理な話だけどな」

「せやなぁ……ん?」

「どうした与一?」

 与一はふと、鶏のような生き物に与えている餌をじっと見つめた。

「……あれ、コーン?」

「ん?」

 ロキは与一の指差した方向をじっと見つめた。

「確かに……コーンだな……あっ」

 その瞬間ロキは何かを察したらしく、与一の方を向いた。

「そうや……俺らこっちの世界で知られてへんうまいもん知ってるやん……」

 与一は顔を輝かせると、リーチェの父がいる工場に走って行った。

 しばらくするとユウラビ達のギルドの中に与一とロキとワールドが立っている出店が出来た。

「ワールドは兎も角、ロキも手伝わんでも良かってんで?」

「バカタレ、お前が面白いことしようとしているのにそれを間近で見るのを逃すと思うか?」

 と、ロキはニヤリと笑って与一がつくった鍋のようなところに乾燥させたコーンをザラザラと放り込んだ。

「バターと塩をよこしな!」

「うぃ!」

 与一からロキにバターと塩が渡っている間に、ワールドは買い占めたソーセージにパン生地のようなものを巻きつけてそれを油の中に放り込んだ。

「あっ!ワールドこいつも!」

 そして与一はそこに細切りにした芋をそこに放り込んだ。

「む、これも食えるのか?」

「YES!」

 良い声で発音よく与一は親指を立てて、目の前の機械にザラメを突っ込んで削った木の棒をそこでかき回し出した。

「………よし!与一!こっちは良いぞ!」

「おっさ!じゃあ開店や!」

「「らっしゃあーい!」」

 与一は店の前に出ると声を張り上げて呼び込みを開始した。

「ラッサイラッサイ!んまいもんそろってるよーぉ!」

 と、そこに談笑をしながらユウラビ達がやって来た。

「おっ!ユウラビ!」

「あっ!ヨイチ!ちょっと目を話した隙にどっかいっちゃうなんて酷いじゃないか!」

「まぁまぁ!これ食って落ち着け」

 と、与一はユウラビに綿飴を差し出した。

「な、何コレ?雲みたい……」

「ホレ」

 与一は少しちぎってユウラビの口に綿飴を突っ込んだ。

 ユウラビは抗議的な目をしながらもモムモムと咀嚼していると驚いたように目を見開いた。

「あ、甘ーい!」

「うぃ!そらよきよき!セツ!リーチェお前らもほれ!」

「うむ」

「ありがと」

 二人はそれを美味しそうに口に運んでいると、一人の子供が駆け寄ってきた。

「おにーちゃん!何それ!」

「これか!?ワタアメつってな!あめーぞ!」

「ふーん……あっ、安いねー一個ちょうだーい!」

「うぃ!毎どぉ!」

 そして綿飴をもらった子供が美味しそうに食べているのを見て、他の人たちも続々と集まってきた。

「あーい!よってらっさい!見てらっさい!うまーい甘ーいワタアメに、ポティトゥ!それにポッポコーンはいかがぁ!?」

「与一!良い感じに集まってきたからお前も中で手伝え!」

「あいよぉ!」

 与一は出店の中に滑り込むと、服を変形させて触手を作ると、それを使って仕込みを始めた。

 そして、意外にも売れ行きの良かった与一達の店は開店から三時間が経つと店の前に行列が出来ていた。

「あ"ー!!お金儲れるのは嬉しいけどこんなにしんどいのは知らん!」

「口動かさずに手を動かせぃ!」

「んなもん、二つ以上の手ぇ動かしとるわ!」

「おい!そこな二人!」

 すると、頬を伝う汗を拭いながらロキは近くで喋っていたユウラビ達に声をかけた。

「お前ら与一がお小遣い出してくれるって言ってるがやるか!?てかやれ!」

「はーい!」

 すると、ユウラビは嬉しそうに飛び上がると店の中に入ってエプロンと三角巾を装備した。

 フンスと鼻息を荒げながらユウラビはロキの指示を仰いだ。

「じゃあ客に注文されたやつどんどん届けてくれ!」

「はーい!」

「セツは与一の仕込みを手伝え!」

「……良いだろう」

「サンクス!」

 与一はそう言ってお礼を言うと、セツに仕込みの仕方を教えた。

「……それよりこうした方が良くないか?」

「あっ………さては天才?」

「お前が愚かなだけだ」

「ぐぅの音もでねぇなぁ!?」

 与一はそう言いながらもセツの考えた効率の良い方法で仕込みを再開した。

「お前手先器用やねんなぁ……」

「……タクミから裁縫を教わっていたからな」

「アイツ裁縫できたん!?」

「いや、正確にはタクミから指示を受けたカミラが私に教えただけなんだがな」

「ふぅーん……あっじゃあその服も?」

「あぁ……私が作った」

「天才や……」

「……そう言えば貴様がさっきから言っている『テンサイ』とは何なんだ?」

「うぇ?あぁ、天才は……めっちゃすげぇって事や」

 余りにもザックリとした説明にセツは目を丸くした。

「……具体性に欠ける説明だな」

「え?俺アホやで?」

「自分でそれを言うのは、どうかと思うが……」

「笑うわ、自分で自分アホて……アホやなぁ……」

「……お前の頭は一体どうなっているのだ?」

「知らん」

 与一はそれだけははっきりと言うと、セツ程ではないがテキパキと仕込みを進めた。

「……で、結局のところ『テンサイ』とは何なのだ?」

「ん?天才はなぁ……普通の人やったら努力しやなあかん様なことでも努力しやんでもできる様な人ちゃう?」

「……自分で調べた方が早そうだな……」

「うーん、語彙力皆無オタクは悲しいなぁ」

 セツが呆れる中、与一は笑いながら仕込んだ物をフライヤーの中に放り込んだ。

「あっどぅ!?」

「何をしたいんだか……」

 セツは与一に呆れ首を横に振った。

 与一は少し顔をしかめてムスッとすると、ため息をついた。

 そして、夕方ごろになると遂に材料も丁度底をついて店を閉めることにした。

「あーい!ありござっした!」

「滑舌が悪いぞ」

「えいえい」

 与一は最後の人が離れていくのを見守ると、ロキの方を向いた。

「でで?今日の売り上げは?おいくらで?」

「すげぇ……結構儲かってんぞ……よし、じゃあ給料な」

 そう言ってロキはいくつもの袋にパンパンに入った硬貨を取り出して、ロキが出した原価を差し引いた値をそれぞれ渡していった。

「わーい!どれどれ……うぇぇ!?」

 ユウラビは袋の中身を覗き込んで叫んだ。

「どったん?そんなに多いん?」

「すごいよこれ……私達が一番良いお仕事した時よりは少ないけど良い勝負するよこれ……」

「そない!?」

 与一は目をキラキラとさせて袋を開けた。

「うぉ……いっぱい……で、幾らぐらいの価値あんのこれ?」

「大体そうだな……お前たちの感覚で言うと25万ぐらい?」

「は?」

 与一は余りの額に目玉を飛び出さんとばかりに見開いた。

「え?え?なに?そんなに俺ら仕掛けた値段ぼったくりやった?」

「違ぇよ……まぁ、少し高い様な気がしなくもない値段だが、買えなくはない値段にしたからな」

「ロキの言う通り確かにちょっと高い気はしたけど……それでもあれだけ美味しかったら……」

「まぁぶっちゃけ、コーンと鶏肉代以外は天文館から貰えるからな……まぁ、それ用の値段差し引いてもこれだがな」

「どうしよう……私これで食べて行こうかな……」

 と、ユウラビが考えているうちに何やら遠方から賑やかな雰囲気が近づいてきた。

「いやー!流石トシアキさん!一瞬で仕事全部してくれるとは!」

「いやー……それ程でもあるけどな!」

「アホ、今度は何したん……」

「あ?あーにーちゃんか、ほらお小遣い要るやろ?」

 と、俊明は与一に親指でピンと5000円程の価値のある硬貨をほった。

「どーも、ありがたく頂いとくわ、因みに今日で幾らぐらいの稼ぎが?」

「こんだけ」

 俊明は与一の目の前に袋を出した。

 与一はそれを受け取ってそれをロキに渡した。

「幾らぐらい?」

「あーん……三十万弱だな……よくこれだけ稼げたなぁ」

「はっ、今日でクエストいくつやって来たおもとんねん」

「ふーんあそ」

 与一はロキから袋を返してもらうとそれを俊明に渡した。

「で?にーちゃんは今日何してたん?」

「ん?唐揚げとか売っとった」

「へー!ちょっと食べさせてぇや」

「んー……ええよ、にーちゃんの分やるわ」

「サンキュー……ふーん、まあまあ美味しいやん、皆んなも食べてみぃや」

 俊明は取り巻きの人達にも唐揚げを分けると、ゴミを与一に渡した。

「ごちそーさん、あっ、にーちゃん何か奢ったろか?」

「えーや、ええわ」

「そう遠慮すんなよー!なぁ?」

「はいはい、にーちゃんはまだやらなあかんことあるから、先いっとき」

「……あそ、じゃあ皆んな行こかー!今日は俺奢ったるわ!」

『イエーーィ!』

 と、騒がしく俊明たちは去っていった。

「……与一は怒らないの?」

「何で?」

「あんなにもバカにされてさ……」

「まー、どうにも思わん分にはどうにもならんやろ」

「……本当に不思議だねー」

 ユウラビは興味深そうに与一のことを覗き込むと、ニコッと笑った。

「まぁ、それは置いといて皆んなで打ち上げしようよ!」

「あ、すまん、さっき言った通りやらなあかん事があるから……な?」

「なにさ」

「それは秘密や」

「………いーよ!じゃあ私達だけで食べよ!」

 ユウラビはプンスカと怒るとリーシェ達を連れて唐揚げなどを食べに向かった。

「……ふぅ、さて、行くか」

 与一は踵を返すと、リーシェの父の工場へと向かった。

「すみませーん!」

 リーシェの父はもう服を着て出ようとしているところだった。

「何だね、また君か……君の言ったものは成功したのかい?」

「はい、おかげさまでこの通りに」

 与一はロキから渡された袋をリーシェの父の前に置いた。

「……何っ!?」

 リーチェの父は驚いた様に目を見開くと、与一が置いた袋の中身を見た。

「これで全部かね?」

「いえいえ、あと……それが六人分?ぐらいになりますね」

「マジか……なぁ君、そのレシピ……」

「それは後で上の者に確認するので「いいぞ」……ロキ……マジでぇ……」

 与一はいつのまにか隣でフワフワ浮いている自分の神を見て、ため息をついた。

「あー、取り敢えずいいみたいなんで……」

「そ、そうか……これぐらいでどうだろうか?」

 リーチェの父は手近にあった紙にサラサラと数字を並べた。

「……ロキ?」

「お前いい加減に文字が読めるように……えぇぇぇ!?」

「多い?少ない?」

「……お前はもうちょっと言葉を……まぁいいか」

「で?どっちなん?」

「めちゃクソ多いわバカ」

「日本円で?」

「ゴニョゴニョ……円ぐらいだな」

「あ"あ"!?」

 与一は目を見開いて驚くと、リーチェの父の方を向いた。

「……まぁ、正直謝礼金を出すのを渋っていた感から少し申し訳なく思ってな……」

「あ……そっすか……」

 与一はそう言って苦笑いを浮かべると、リーチェの父から差し出された手を握った。

「さて、明日にまたその金額を用意させておこう」

「それはこいつに半分、私に半分で頼む」

「半分ずつだね……分かった」

 与一はそれに関して特に言及することもなく、頷くとロキと一緒にリーチェの父のいた部屋から出た。

「……さて、一杯飲むか?」

「俺まだ未成年やぞ?」

「はっ、ほとんどの世界じゃあ18から成人だっつーの」

「俺日本人やから、外国の法律とかわかりませーん」

「付き合いの悪い奴だな」

「すまんなぁ、ただ、まぁ、これなら飲めるけどな」

「……お前はいつも何本コーラのストック持ってやがんだ?」

「正確には数えてへんからわからんでよ」

「そうかい」

 そう喋りながら二人はすっかり暗くなってしまった街中を歩いていた。

「そういえばユウラビ達は?」

「この街に自分の家があるって言って、そっちに戻っていったよ」

「……フォール達ともここでお別れかぁ……」

「女と離れるのは寂しいか?」

「女とかやなくてさ、なんかさ、ある程度顔見知りになった人らと離れるのは少しばかりやけど、寂しいんよな……」

「女々しい奴だなぁ」

「あーへいへい、女々しい19歳ですまんなぁ」

 そう言ってひらひらと与一がため息をついた瞬間に与一の頭の上スレスレで箒に乗った誰かが飛んで行った。

「っっっぶ!」

「当たってねぇのかよ……」

 ロキは頭を抑えて蹲る与一のそばに寄って小突いた。

「何やってんだ、とっとと帰るぞ」

「………」

 しかし、与一からの反応はほぼなく、しばらく震えていると、唐突に立ち上がって頭から!や?を吐き出して、訳の分からない言葉を立て続けに話すと、急に与一の周りの空気が変わった。

「……ふざけてないで帰るぞ」

「あーい」

 与一は反り返りながらロキの方を向いた。

「気持ち悪いぞ、私以外にそれはよしとくんだな」

「そうだなぁ!うん!それがいいえ!うんうん!」
 
 そう言いながら与一はステップを踏みながら歌った。

「戦いのにおっいー!誰が鎮魂歌の用意を!なるはやよろぉぉぉ!」

 ロキは与一を細目で見ると、遠くで爆発音がするのを聞いてため息をついた。

「全く!何であの人は私のところに問題児しか置かないんだ!」

「あっ!ごめんロキ!もう行ってくるわ!」

 そう言って与一は服を変形させてホバーボードにして、空に舞い上がった。

「はぁ……どうやって見つけたんすか?」

「それは勿論、ボクたちの誇るソウヤ達の技術力だよ」

「糞食らえっすね」

 ロキはそう言って暗闇から見てくる、人影に毒を吐くと、杖を取り出してくるりんと回って消えた。

「誰がドンパチしとんねんオルゥアァン!?」

 与一は昼間走り回っていた娼婦街に降り立つと、目の前に立つエルフの男と馬に乗ったカウボーイもどきの盗賊が居るのに気がついた。

「あらぁ!また会ったねぇ!」

「貴様……あの時の!」

「ほら、言ったでしょ?うん、また会えるって」

「なぁんの為にここ来たん?」

「……それ聞いちゃう?」

「ふん!もういい!」

 エルフの男は額に血管を浮かばせながら与一の方向けて剣を突き立てた。

 すると、与一のはるか後方で爆発音が鳴ったかと思うと、男の剣がへし折れた。 

「なにっ……そう言う事か……くそっ!」

「とっちーおっそーいぃ!」

「テンション爆上げにーちゃんは死んでどうぞ」

「あーん、ひーどーいー!」

 与一はクネクネと動きながら服を変形させて鎧にした。

「ひーばーしてあげるから勘弁してね?」

「死ね」

 与一は高らかに笑いながらポケットからチケットと改札鋏を取り出してチケットを切った。

「ひーばーたーいむ!」

 二人を黄金の光が包み込むと、与一が、

「とっちー、にーちゃんの周り死ぬ気で回ってー」

 と、言った。

「なして?」

「竜巻ー」

「りょーかい」

 俊明は一瞬で理解すると、鎧を装着した瞬間に与一の周りを爆速で走り出した。

 エルフの男と盗賊の男は眉をしかめた。

「うーん……そこかな」

 盗賊の男は狙いをつけて銃を撃ったが、銃の玉は俊明に届く前に突風によって起動が変わってしまった。

「あっ、こりゃダメだ俺逃げるわ」

「なっ!?貴様!」

 盗賊の男は馬を反対に向けて、全速力で走り出した。

「お前らも捕まりたくなかったら逃げなー」

「お頭!?」

 盗賊達の半数は盗賊の男について行ったが、エルフ達と何人かはその場に残った。

「クッソ……おい!貴様ら!生きたくば私達を援護しろ!」

 すると、エルフの男はどこからか連れてきた奴隷達に向かって叫んだ。

「……ん?」

 与一は中に見覚えのある顔があるのに気がついたのか、とてつもなく顔を歪ませて笑った。

「ええやぁん!俊明ぃ!そろぼちええどぉ!」

「あいあい」

 俊明は足を止めて、建物の影に隠れた。

「あれ?お前暴れんの?」

「お前絶対手加減せぇへんもん」

「だよねー!」

 与一は最後のダメ出しと言わんばかりに竜巻の目である所から上に向かってドローンを放り投げた。

 すると、竜巻は一層強烈になっていき、周りの建物を巻き込んで徐々に大きくなって行った。

「あははーはは!」

 すると、竜巻から少し離れたところにエルフ達と竜巻を囲う様に円柱状の結界が出てきた。

「全く、手加減をしれバカ!」

「あいたーい、ロキィ、助かるわぁ?」

「とっととかたせ」

「あいあいよー」

 与一はロキに片手で応じると、スタッとジャンプして、飛んできた建物を足場にして竜巻を登って行った。

 そして、上空で飛んできたエルフや盗賊達を片っ端から殴る蹴るの暴行に及んだ。

「空だぁ!ああ!自由だ!」

 与一は頭を下にしながら落ちて行って、途中で建物をつかんでまた上に上がった。

「あーーーーーーはっはっはっは!」

 与一は盛大に笑いながら宙に舞って浮いてきたエルフや盗賊達をボコボコに打ちのめした。

「おのれ……おのれぇぇぇ!!」

 すると、エルフのリーダーらしき男は叫びながら自ら竜巻の中に突っ込んで、与一と同じように建物に捕まりながら空へ舞い上がった。

「あらぁ!きたのぉ!」

「貴様は殺す!」

「いやーっ!殺意増し増しー!」

 与一は叫びながら持ってた建物を腕力任せにエルフの男に放り投げた。

「ぐっ………うおぉぉぉぉ!」
  
 エルフの男はおよそ人のものとは思えない怪力で、その建物の破片を投げ返した。

「すっげぇー!!!」

 与一はそれを右手で殴り砕くと、男の周りに薄い膜が出来ているのに気がついた。

「あらぁ、魔法?」

「ぬぅぅぅ!!貫けぇぇぇ!!」

 男は掌が焼け焦げるほどの雷を手に溜めると、与一に向けた。

 与一は男の手にある雷を見て下から急上昇してきた足場に飛び乗ると、雲海の外に飛び出た。

「にがすかぁぁぁぁ!!」

 そして、男が飛び出てきて、与一が雲海に入った瞬間男は与一目掛けて雷を放った。

 そして、一瞬で雷が雲に届くと、雷は雲の中で拡散してしまった。

「なにっ!?」

 しかし、雲の中を走った電気は与一を直撃した。

「っっっったくない!?」

 電気は与一の鎧を伝ってまた空中に放散された。

「っしゃらっきぃぃ!!」

 そう言いながら与一はガッツポーズをして落ちて行った。

 そして、与一はパンと手を叩いた。

 すると、与一の背後に穴が開いて、与一は地面からうつ伏せに飛び出した。

「あーーーーっと!楽しかった!」

 与一は地面に右手をついて着地すると、満面の笑みで立ち上がった。

 しかし、背後で誰かが立つ音が聞こえた。

「まだだ………貴様を殺すまでは………死なんぞぉぉぉぉ!!」

 男のエルフが手足をぐちゃぐちゃにしながらも立ち上がった。

「なんで生きとん!?」

「ふぅ……ふぅ……ガッ!?」

 与一が立ちすくみ、呆気に取られていると、男の後ろから俊明がいつのまにか近づき、男の顔目掛けて後ろから蹴りをかました。

「はい、俺のおかげな」

「はいはい……あーっ!たのしかっつぁ!」

 与一が指をパキパキと満足げに鳴らしていると、結界が溶けるのと同時に竜巻が解除された。

 与一は竜巻から帰ってきたドローンを椅子に変形させると満足げに座って、周りを見渡した。

「……………………」

「あ、今気づいた?」

 与一が椅子に座って頭を抱え出したところで、俊明はニヤニヤと笑い出した。

「やったったぁぁ……」

「ほんま、にーちゃんストレス溜まって爆発するタイミング絶妙に訳わからんのよねぇ」

 と、俊明は与一をからかいながら、瓦礫の上に座った。

 すると、その瓦礫が動き出して、俊明は地面に顔から落ちた。

「ぶっっ………何してん」

「いったぁ………は?」

 与一と俊明は目の前で起こり出した異変に目を丸くした。

 瓦礫が一人でに動き出して自分で修復を開始したのだ。

「今回だけだからな」

「いや、それでもマジで助かる……」

 ロキは宙に浮かんだ籠にエルフ達を突っ込みながら、与一を責める様な目でそういった。

「ごめんて……」

「謝るのは私じゃないだろ」

「へっ?」

「後ろだ」

 与一は後ろを振り返ると、すっかり衰弱してしまっている娼婦達が目に入った。

「なっ!大丈夫!?」

 与一は彼女達に駆け寄ると、鎧を解除してもうふにすると、彼女達に掛けた。

「ロキ!」

「……私にそいつらを助ける義理はない、それに、そいつらを助けたところで私達になんの得がある?」

「人として……」

「人として、私は神だ、人じゃない、何かするならお前が自分でやれ」

「…………ぬぅむ……」

 与一は出来損ないの頭を使って考え出した。

「……しゃーない」

 与一はポケットに今日の稼ぎである小銭の入った袋をさすって、諦めた様に呟いた。

 与一は残った鎧の残りを使ってホバーボードを作ると、フォール達のギルドむけて飛んで行った。

「すまん!」

 与一がギルドの中に入ると、そこでは何やら揉め事が始まっていた。

「この街が攻め込まれてるんだぞ!?出なくてどうする!」

「今できるやつらは企業の護衛に行っとるわ!」

「だから私が出れば!」

「お前が出れば最後ここを守る奴はどうする!?」

「だから私が今出て止めれば!!」

「……あの、すんません……ちょっと依頼したいんすけど……」

「すいません……今はちょっと……」

「娼婦街の人たちなんすけど……俊明が全滅させたんであの……中の人たち弱ってるんで助けてくれませんか?」

 与一は受付嬢にそう言って頭を下げた。

「トシアキさんが……?確かにトシアキさんなら……しかし、ギルドへの依頼となるとお値段が……」

「幾らぐらいっすかねぇ……」

「ええと……これぐらい……」

 与一は書いてある値段がわからなかったので袋を取り出して、どれぐらいで足りるか聞いた。

「あっ!大丈夫ですよ!これぐらいあれば!」

「ん?全部ですか?」

「ええ?そうですが?」

「……おなしゃす……あ、あと匿名でおなしゃす……」

 与一は袋を丸々受付状に渡すと、ひっそりとギルドを後にした。

「みなさーん!緊急クエストでーす!」































 与一は列車の中の娯楽部屋でゲームをしていた。

 すると、与一の隣に俊明が座ってきた。

「どしたん?街を救った英雄様?」

「しばくで?」

 俊明は無言でゲーム機に自分のコントローラーを繋げると、与一と対戦する様に設定した。

「珍しいやん、自分からするなんてやぁ?」

「気分や気分」

「あそ」

 そして、二人で遊び始めた時、フォール達が部屋の中に入ってきた。

「や、トシアキじゃないか、私たちの街を救ってくれてありがとう……」

「………」

「……さて、トシアキが街を救ってくれている間、ヨイチは何をしていたのだ?」

「さぁ?」

 フォールは与一の前に立った。

「見えへんねやけど?」

「隙あり」

「……負けてんけど……」

「貴様は弟が街を救ってる間、何をしていたのだと私は聞いているのだが?」

「俺じゃあ足手纏いになるんで戦いが終わるまで隅っこで待ったましたよ」

「貴様という奴は……!」

 フォールが与一の胸ぐらを掴もうとした時、俊明がフォールを蹴った。

「……トシアキに感謝「まてや」」

 フォールが与一に舌打ちして、去ろうと捨て台詞を吐いている時に被さる様に俊明がフォールに話しかけた。

「な、なんだ?」

「……俺さぁ、ちゃんと話そうとしたんにさぁ、話聞かんかったんは誰よ?」

「え?いやでも、トシアキが全滅させたんじゃあ?」

「ちゃうわボケ、俺の方が遅れて行って、にーちゃんがほぼほぼやっつけたんや……」

「しかし、依頼主の話では……」

「その依頼主がにーちゃんやったんちゃう?なぁ?」

「……せやで」

 フォールは信じられないと後ずさった。

「しかし、じゃあ何故匿名で依頼なんかを……そして、嘘の報告を……?」

「じゃあ俺が『全滅させたんで後片付けよろしく』って言ったらギルドの受付の人に言うたらどんな返しが来ると思う?ギリギリギルドの試験に受かった超ラッキーなだけの俺がさ?」

「少しは人を信じようとしなかったのか?」

「しいへんかったなぁ」

「何故だ?」

「あれ?これ俺怒られてる?………じゃあ問題、遠くの国から明らかにへぼそうな男が街に攻めてきた盗賊達を全滅させたんと言えばどないなると思う?」

「笑われるか、怒られるととっちーは思います」

「俺もそう思うけど、フォールは?」

「………」

 フォールは唇を噛んで、

「知るか!」

 と、怒って出て行ってしまった。

「……ごめんね?ヨイチ」

「いや、もべつにええよ」

「まぁ、どっちもどっちって事で……」

「もうそれでええよ」

 与一は息を吐いて、手を震わせながらコントローラーを手に取った。

「それじゃあ私達はまたギルドに戻るね?」

「ん」

 そう言ってリーシャとユウラビは列車から出て行った。

「……結局私の出る幕は無かったな?ビビリ君?」

「できれば早めに出てきて欲しかってんけど?」

「……にーちゃん慣れすぎちゃう?」

 俊明は飛び上がって椅子から転げ落ちた状態でそういった。

「念のために我らも居たのだがな……」

「それはわからんかったわ」

 俊明と同じように椅子から転げ落ちた与一はため息をついた。

「アンタもバカねぇ」

「せやけど何か?」

『開き直るな』

「あーい」

 与一は起き上がると、コントローラーを握り直した。

「………で、かくいうお前らは何したったん?」

『ロキに手を出すなって』

「……」

 与一はロキのことを細めで見た。

「いや、幾らなんでもお前がカス過ぎるあまりに能力検定をと思ってな?」

「もう俺泣いてええよな?」

「キモいからやめぇ」

「あいはい」

 再びゲームを始めた兄弟の周りにロキ達は集まると、それぞれお菓子などをかじりながら兄弟の対決を見た。

「そーいやロキさぁ、やっぱり俺もうこの列車降りた方がええかなぁ?」

「どうした急に!?」

「いやぁだってさぁ、人傷つけて楽しんでたんだ俺?」

「……あっ、娼婦街の奴らのことか?」

「そうそう」

「それなら、衰弱したたのはあの男が魔力を無理やり繋いで再生能力とか筋力とか向上させたから、あいつらの魔力無理やりぶんどる形になったからだが?」

「!?」

「あっ、そうそう、私がああ言ったのはお前があそこでどう言う対応するのか気になったからだが?」

「…………」

 与一は明らかにがっかりした様子でコントローラーを操作した。

「さ、流石に同情するわ与一」

 ノヴァが与一に同情の視線を送りながら、与一の作ったポップコーンを口に放り込んだ。

「……もうええわ……明日ちょっと色々しやなあかんからな……」

 与一は風呂に入って寝ると宣言すると、娯楽室から出て行った。

「まぁまぁ、男同士の付き合いというやつをしようではないか」

 ワールドとビートと俊明は与一の後について風呂へと向かった。

「やってられるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「はっはっはっはっはっは!いいぞ!その調子だ!」

「なぁにが能力検定じゃ!んーなんしるかぁ!」

「アヒャヒャヒャヒャ!!にー、にーちゃんサイコー!」

「フォールもフォールや!一々ネチネチネチネチと!さすが女!こっわいわぁ!」

 与一は風呂場で叫びながらバシャバシャと風呂の中で暴れ倒した。

「ぜぇ……ぜぇ……あー、疲れた」

「くっくっく!いやー、よもや優しさの塊と思っておった与一にこんな一面があるとはな!」

「んーなもん知るかボケェ!優しさだけでやってけるかぁ!」

「アヒャヒャヒャヒャ!!ええでええで!その調子やん!」

 与一は暫く叫んだ後疲れたように湯船に大の字で浮かんだ。

「……上がるか」

「せやな」

「そうだな」

「………」

 与一は三人と風呂から上がって別れて、部屋に戻ると見せかけて服を着込むと列車の外に出て、街の外の針葉樹林に向かった。

 そして、先日列車が止まっていた所に向かってそこに小さく火を起こした。

 そして、安楽椅子を作ってそこに座ると、ココアを一つ入れて、先日セツが獲物を追いかけるのを見せてくれたあの瞬間を思い出すようにずっと続く森を眺めた。

 しかし、その場所に誰も現れる事はなく、ただしんしんと雪が降り積もるだけだった。

 静かな森の中、与一はココアをゆっくりと飲んで、時々目を閉じて考えるようにして、またココアを飲んでを繰り返した。

 そして、暫く時間が経ってくると与一はだんだんと降りてくる目蓋を与一はそのままに目を閉じた。
しおりを挟む

処理中です...