Two Runner

マシュウ

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向かうは世界の果て

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「おっさ、これで全員分やな……」

「意外と多かったね……」

「だけどこれで全部なんだろ?それにしてはだいぶまだ時間があるけど」

 ユーリの言った通り与一はポケットからスマホを取り出して、時間を見ると昼の三時を示していた。

「ビミョーやな……」

「いいや、そんな事もないよ?……そう言えばロキさんに奴隷市場を案内してって言われていたんだけど……」

「あぁ……そういえば……」

 二人は非常に嫌な顔をしながら頷いた。

「い、いやいや、これ以上は悪いって……」

「そうにも行かないんだよね……ロキさんからこれ貰っちゃったし……」

 二人はポケットからジャラジャラとなる袋を取り出した。

「あー……察したわ」

 与一は気の毒そうに頷くと、二人に触手にこっそり作らせていた物を渡した。

「あいこれリーチェの分……耐熱性の手袋や」

 与一は自分の世界で覚えている限りの知識を総動員して作った薄いの手袋を渡した。

「……これ本当に耐火性が……」

 与一はリーチェに渡した手袋と全く同じ手袋を取り出すと燃え盛る炉の中に放り込んだ。

「あちょっ!」

 与一はリーチェを手で止めると、トングで手袋を取り出した。

「……うっそ……」

「まぁ、言うて消えかけの炉やからこれぐらいやったら大丈夫や……はいこれもあげるわ」

 与一はトングでとった手袋をリーチェの近くにそのまま置いた。

「まだ熱いやろから触りなよ……んでこれがユーリのやつ……興味津々やったからまぁ、魔法使うんに必要ないと思うけど、ほい、刀っぽいやつ」

 と言って与一は日本刀に瓜二つな刀をユーリに簡易な鞘に入れてわたした。

「あ、ありがとう……いや、十分使い用はあるさ……斬れ味を試していいかい?」

「まぁ、お好きにどうぞ」

 与一は肩を竦めた。

 ユーリはキョロキョロと周りを見回した。

「ちょっと、私の工房の何か壊すつもりなんじゃないわよね?」

「いやっ!ちがっ!」

「やるなら外でやって!」

「は、はいー!!」

 ユーリはそう言うとリーシェから逃げるように工房から逃げていった。

「……はぁ、ありがとうね?」

「お礼言わなあかんのは俺や、ここ使わせてもろてありがとな……」

「いいのいいの!」

 リーチェは照れながら与一の肩を叩いた。

「……んで、どーする?」

「どーするって……市場行くなら行くけど?」

「やったらば悪いけど行こか……ちょっと気になる事もあるしなぁ……」

 与一はそう言って額の汗を拭うと立ち上がった。

「………その前に一回シャワーでも浴びて来たら?外寒いよ?」

「せやな……湯冷めせん?」

「仕方ないよ、取り敢えず入ってきなよ、私ユーリ呼びに行ってくるからさ?」

「あいよ、そういやさ、こっから市場ってどっちの方?」

「あー、列車とここからと同じぐらいの距離のはずだけど……」

「この近くにシャワー浴びるところあったりする?」

「うーん…………」

 リーシェはしばらく唸って黙ってしまった。

「……じゃあ俺一旦列車戻ってええ?コイツら渡しときたいからさ?」

「うん、分かったじゃあ……そうだね次の鐘が鳴る時に列車の所に行っとくね」

「悪いなぁ」

「いいのよ!……さて、逃げちゃったユーリ探さなきゃ……全く世話が焼けるなぁ……」

 与一は若干ユーリはの事を気の毒に思いながら、リーチェにお礼を言って触手達を元の服に戻した。

 外に出ると、与一はブルリと身を震わせた。

「さっむいなぁ……」

 そう言って与一は両手一杯に梱包された荷物を抱えて、軽くスキップをしながら車庫の方へと向かうのだった。

「たっだいまぁー!」

 与一は列車に着いて荷物地場の部屋に荷物を下ろすなり、指を鳴らして歌を歌いながら風呂場へと向かった。

「あー!何ていい日だ!」

 そう言って与一は風呂場に滑り込んでシャワーを浴びて頭と体と顔を洗って風呂に入った。

「あーーーーーー♪幸せなら手を鳴らそっ!」

「……偉くご機嫌だな」

「………………………………」

 与一は女風呂から聞こえて来た声に黙って湯船にゆっくりと肩まで浸かった。

「ぶっふ!そこで黙るのかよ!」

「人が悪いぞー……」

「あっひゃっひゃっひゃっひゃ!」

 ロキが壁の向こう側で爆笑する声を聞きながら与一はいそいそとサウナの方へと向かった。

「……ふいー……」

 与一は誰もいないサウナに入って、何も考えていない様にリラックスしていた表情だったが、それは隣からロキの声が聞こえてくるまでだった。

「よお」

「あっっつ!?」

 与一は驚いた拍子にもんどりを打ちながらサウナの中の木造の階段から転げ落ちた。

「あはははははは!お前は私をはは!笑い殺す気か!!」

 ロキは腹を押さえながら与一を笑った。

「ななな、何で男湯におるんや!」

「は?ここ女湯だぞ?」

「……………」

「………ぶっふ!」

 与一の青ざめた顔を見て再び吹き出したロキは、またもや笑い出した。

「お前らお前ぇ!本当に面白いなぁ!」

「……俺お前の事キライ」

 与一はそう言って出来る限りロキの方を見ない様にして、自分の下半身をタオルで隠しながらサウナから出ようとした。

「ロキ?」

 蚊が鳴くような声で与一が与一が言ったのに対してロキはと言うと、

「待ち合わせまだ後40分はあるだろ?なぁに悪い様にはしないぞ?」

 口元に指を当てて舌舐めずりをした。

「やめれ、いやほんと、後悔するんお前やで?」

「大丈夫だぞ、私はお前のソ○ンの事なんて眼中にないあらよ?」

「そ、ソ○ンちゃうわ!」

 与一はドアノブから手を離さずロキの方を見ないでそういった。

「………ふーん……じゃあこっちに見せてみろよヘタレ」

「これはアレやぞ?いわゆるセクハラちゃうけ?」

「女から男に対してのセクハラなんかはございませーん」

「………弁償代は後で払うから取り敢えずごめん!」

「させると思うか?」

 与一がドアを破壊しようと拳を突き立てる瞬間、ロキは目を光らせた。

 ゴスっと乾いた音が扉部屋に響いた。

「………はぁ、もうええわ」

 与一は諦めたようにため息をつくとロキの隣に腰を下ろした。

「……で?話って何?」

「……もう少しからかってもいいか?」

「やめて」

「くっくっくっ、冗談だよ」

 ロキはそう言って笑うと、自分に巻いていたタオルを杖を振って長くした。

「最初からそうしてや」

「脱いだほうがいいか?」

「何でそうなんねん……冗談でもやめて」

「……分かったよ、つまらねぇな……」

 ロキはそう言って杖をしまった。

「さて、この後奴隷市場に向かう与一君だが?どう言った奴を買う予定なんだ?」

「それここで話す必要ある?」

「はー、やっぱり熱いな脱ぐか……」

「ちゃんと話すから!……自分大切にしてや?」

「大丈夫だぞ、ヘタレ君」

「俺そろそろ泣くで?」

 与一が深々もため息を吐いて、続けた。

「……取り敢えず戦えそうかつ、常識ありそうな奴……もしくは話がわかる奴……せやな……子供がええんとちゃう?」

 それを聞いてロキはニヤついた。

「性癖こじらせたど変態のロリコン野郎が」

「いい加減怒るで?」

「襲ってこようもんならお前のそこを去勢するぞ?」

「……俺やっぱり家帰りたい」

「……………」

 ロキはそろそろ暑くなって来たのか顔を少し赤らめて、与一に謝罪した。

「悪い悪い……「1ミリたりとも悪い思てへんくせしやがって」そんな事ないぞ………分かった分かったそんな顔するな、もうしない……本当だって……ここに私の名前に誓ってお前をもう何度も執拗にからかったりしない事を宣言致します……これでいいだろ?」

「………はぁ、んで理由?そら、ある程度教養とか自分の信念がある奴らを買ったとしても、それを曲げようにない堅物だったりしたら、使い物にならんからな……せやから時間は掛かってもじっくり教育していけば中々の使い物になるやろ」

「………そうだな」

「聞いといてその反応は……俺もたまにするか……」

 与一はそう言って少し項垂れるロキの方をチラリと見て、ドアに手をかけた。

「……じゃあ俺は上がるわ」

「おう……すまなかったな……」

 ロキは与一がサウナから出ていくのを確認すると、ボソリと呟いた。

「私が気づかないとでも思ったか?」

「……人のアニキクソ呼ばわりしといてええ度胸やないけ?」

 サウナの端の方から俊明がそうやって鋭い目つきで、ロキのことを睨んだ。

「いつの間に隠れる能力なんて身につけたんだ?」

「……さぁ?」

 ロキはおかしそうに笑うと、自分の前にかけているタオルを解こうとした。

「やめとき、お前みたいなババアに俺は興奮せえへんからな」

「……神様の事をババア呼ばわりとは……お前も中々やるなぁ……」

 と、言っているうちに、俊明がロキに近づいた。

「……にーちゃんは優しいから何も言わへんけど……チョーシのってたら例え神様やろうとブチのめすで?」

「分かった分かった……肝に銘じておくとするさ」

 と、ロキは鼻で笑った。

「……その言葉聞いたからな?」

 と、そう言って俊明はサウナから出ていった。

 そして、俊明が締めた扉が暫く開かない事を確認すると、ロキは杖を取り出して、周りに水やら氷やらを巻き散らかした。

「し、……死ぬかと思った……今……なん……ど」

「はいお水」

 ロキの意識が途切れる寸前に、いつのまにかやって来ていた体にタオルを巻いた姿のシルヴィがロキに冷や水を差し出した。

「す……すんません……」

 ロキは一気にその水を飲み干すと、プハーッと息を吐いた。

「最高温度は3000度……よくがんばったね」

「全く……嫌われ役はあんまりっすよ……」

「うん、今ので解放されたね……でも危なすぎるからやっぱり鍵は掛けておこう……」

 シルヴィは気持ちよさそうにサウナを堪能しながら、ロキに何か紙を渡した。

「これ、欲しがってたやつでしょ?それと彼らの鍵ね」

「……ありがとうございまさす」

 ロキは鍵とその紙に書かれた内容に目を倒すと、それを亜空間に放り投げた。

「……さて、私はもう少しこの君が作ったサウナを堪能させてもらおうかな?君は?」

「……私はもうくたくたっすから休みに行きますよ」

「そう……あんまりいじめると嫌われるよー?」

「誰のせいだと思ってんすか!」

 さっきと打って変わってロキの方がシルヴィに笑われていた。

「……じゃあ失礼しますっす」

 そう言ってロキは杖を振ってくるりと回って消えた。

「……ンフ~楽しくなりそう」

 そう言ってシルヴィは一人楽しげに鼻歌を歌うのだった。

「……お待たせ」

「どうしたの?与一元気ないけど?」

「ええや、何もあらへん……って言ってもバレバレやろから、あー……まぁ、ほっといてくれたらしばらくしたら治るわ」

 与一はそう言いながら、空を見上げた。

「ふ、ふーん……じゃあいこっか」

 リーシェがそう言って歩き出すのと同時に、ユーリが与一に近寄って来て小声で話しかけて来た。

「ヨイチ君、君も相当な苦労人だと見受けられるね?」

「まぁ……なぁ」

 与一は疲れたようにため息を吐いた。

 すると、ユーリもわかるわかると言ったように首を縦に振った。

「かくいう僕もねぇ……まぁ、色々と大変なんだよ……ここはほら、ちょっと話さないかい?」

「そこ二人、早くいくよ」

「分かってるよ」

 そう言って三人は市場の方へ歩きだした。

「……そうだね言い出しっぺの僕から言おうかな……まずはそうだねユーリとの事なんだけど……」

「あーはいはい……」

「……ユーリとはゆくゆく結婚させてもらおうとは思ってるんだけどね……いかんせんお父さんが厳しくって……」

「そこは頑張れよ」

「まぁまぁ、最後まで話を聞いてくれよ、お父さんがね……『私の娘が欲しいなら、この世で一番の魔導師になって見せろ、それが無理ならせめて博士号ぐらいは取れ』ってね……正直な所僕はそんなに頭は良くなくってね……はぁ」

「……がんばれ」

「うん……さて、次は君の番だよ……」

 与一はユーリから迫られて少し引き気味に話し出した。

「まぁ、俺には……」

 と、話し合っていると気がつけば与一達の周りの人達の身なりがどんどん高価な物へと移り変わっているのに気がついた。

 そして、

「一応……ここから先が奴隷を扱う市場だよ……この先からは紹介じゃないと入れないけど、一応私のお父さんがここの会員だからね……」

 そう言ってリーチェは門番らしき男達に手形を見せると二人を手招きして、奴隷売り場に入って行った。

「ここは市場の中でも一番お金が動く場所だから、街の中で一番警備が強い場所だよ、それにまあ、警備が強い理由は他にもあって……」

 と、言ったところで奴隷の列に並んでいた一人の男が、手枷からどうやってか流れて走り出した。

 と、その瞬間、その奴隷は取り押さえられ、暗がりに連れられて行った。

 そして、暫く警備の男達と商人が何か話し合っていると、ボロボロになった男が再び枷に繋がれて歩いていくのが見えた。

「……まぁ、今みたいなのは稀なんだけど、逃げ出した奴隷の人達とかを捕まえたり、鎮圧する為……かな」

 そう言ってリーチェはため息をついて与一達を更に奥の方へと連れて行った。

「ロキに『一番いい奴らが揃う場所を頼む』って言われたからね……一応値段はする事は伝えたけど……ロキがそれでも良いって言ったからね……」

 そう言いながら与一達は人が檻の中に入れられて、他の人に買われていく様を横目に見ながら歩いて行った。

「本当に……この世の中は馬鹿しかいないと思うわ……明日、あそこに入っているのが私達かもしれないのに……でも、本当に運の良い人達はいい人に買ってもらってほとんど自由な生活をする事が出来る人が居るみたいだけど……殆どは馬とか牛とかとほとんど変わらない扱いを受けたりするのね」

「まぁ……そっか」

 と、リーチェが話しているうちに与一達は一番豪華で大きな建物の前に着いた。

「ここよ……普通の人たちは一般の席から何だけど……私のお父さんがここの……株って分かる?」

「まぁ、ある程度の仕組みなら」

「そう、私のお父さんがここの株主で、VIPの席から見る事が出来るの、そっちに案内するわ」

 そう言ってリーチェは建物に入って行った。

「こんにちは」

「おやおや、リーチェお嬢様、お久しゅうございます」

「ええ、久しぶり、早速で悪いんだけど私の友達がここの人が必要みたいなの」

「あぁ、お父様からお聞きしております、何ともお嬢様をお助けなさったそうで」

 身なりの良いひょろりとした口髭をはやした、執事の様な男はうむうむと頷きながら与一を見つめた。

「随分と見慣れない顔つきのご様子で……何か住んでいたお国で問題でも?」

「バーナビー……!」

「ええよ、まぁ、ちょっと大人数で旅をする事になって俺の……僕の上の人からある程度人数を集めて来いって言われたんで……」

「成る程……ならば傭兵を雇えば良い話なのでは?」

 リーシェが何かいう前に与一は手を上げて制した。

「まぁ、そうなんすけど、ウチの上の人が傭兵よりも奴隷の方が扱いがいがあるってきかなくって……」

「成る程成る程……分かりましたご案内致しましょう」

 そう言ってバーナビーとリーチェから呼ばれた男は、大広間から少し離れたすだれのある通路へと向かった。

「ごめん!ヨイチ!」

「ええんよ……さて、凶と出るか吉と出るか……出来れば吉がええなぁ……」

 そう言って男に続いて行くと、少し薄暗いバックヤードの様なところに出た。

「こちらに並んでいるのが本日入荷された分の奴隷達になります」

 与一はそこに並んでいる様々な人種の檻に入れられた奴隷達を眺めた。

「出来れば説明して行って欲しいんやけど……」

「ええ、構いませんよ、こちらは元伯爵令状のノーリア、お買い上げの後、貴方がお楽しみして頂くのも結構ですが、こちらをお買い上げしていただきましたらもれなく屋敷と土地がついてくると言うおまけ付きになります、まぁ、屋敷は焼け落ちそこの住人はこの令状一人だけになってしまっておりますが」

 そう言って意外にも暖かそうな服を着た美女が、檻の隅で蹲っていた。

「おや?この服がお気に召しませんかな?脱がすこともできますが?」

「いや、いいっす」

 奥で美女がビクビクと怯えているのを見て、与一はため息をつきながらその男を止めた。

「おや、作用で……続いては……」

 と、一通り値段とその理由を軽く説明しながら檻をぐるっと一周した。

「うん……成る程成る程……これでどれぐらい買えそう?」

 そう言って与一は懐からリーチェの父にもらったお金を取り出した。

「あっ……えっ!?そんなに大金だったの!?お父さん今度は何買ったの……?」

 リーシェが背後でため息をつく中、バーナビーは袋の中身を数えて目玉を飛び出しそうになっていた。

「こ、これはこれは……これは一応ご忠告なのですが……これ程の大金を持ち歩くのは危険ですので……あー、我々どもはその場で現生を渡して頂くのは結構なのですが……今後からお気をつけなさるよう、お願いいたします……」

「は、はい……これ……」

 バーナビーが与一に袋をかえすと同時に、

「す、少しお待ち下さい……」

 と、言って更に奥の段幕の方に行って何かヒソヒソと話し始めた。

 そして暫くすると、額に汗を流して、若干手を震わせながら、

「あー……これは大変失礼いたしました……手違いがございまして……まだ上物の商品がご用意出来るみたいですので少々お待ちくださいませ……」

 と言って、奥に目配せすると、そこから更にあれよあれよと先程よりも多くの奴隷が運び込まれて来た。

「……バーナビー?」

「いやはや……流石にお父様からのご紹介とは言え、初めていらした方に最上VIPの扱いをする訳には行きませんので……」

「……まぁ、一理あるわね……さて、じゃあ今度こそ全部?」

「ええ……もう少し待って頂きましたら、追加がご到着するはずですが……明日がセリの日になりますので今日が一番商品が揃う日になりますね」

「……だって、どうする?」

「取り敢えず今追加した人らの説明と、少し話させてくれたら嬉しい」

「え、ええ、もちろんですとも」

 そうして、二時間ほど説明と奴隷の人達との話し合いをしている頃に奥の方から追加の人達が追加されて来た。

「おい!追加の商品の説明書を!……よし……では参りましょう」

 そして、バーナビーの説明のあと更に一時間ほど話し合った結果与一は取り敢えず袋の中身分買う事を決意した。

「そうですね……出したら、VIP様対応の更に株主優遇で4割引になりますね……でしたら……あの……」

 そう言ってバーナビーは額の汗を拭った。

「なによ、濁さないでハッキリ言いなさいなバーナビー」

「え、ええと……ここにある商品は全てお買い上げ頂けます……」

「分かりやした……」

 すると、その瞬間与一を囲むように置いた檻の中から五十人ほどの目線が一斉に向いた。

「……はぁ、正直お前らの面倒一人で見ようとはおもてへん」

 その瞬間その場の空気が騒ついた。

「じゃかましい」

 与一がそう呟くと周りは静まり返った。

「ここにおる12人はこれから、もう二度と家にも帰られへんし、会いたかった人に会えることもあらへん……それは理解してもろといて」

「ヨイチ………」

 静かな中、与一はだが続けた。

「やけど、まぁ安心しとき、まぁ全員話してみたけどええ子ばっかりやし年も俺の方が上やし!年上の気前のええニーサンがどないかしたるからさ、とりあえずは安心しときぃ!」

 そして、暫くシーンと誰も言葉を発する事なく場が鎮まり返ったのち、一つの檻の中からすすり泣きが聞こえて来た。

「……と言うわけで全員お買い上げで……」

「え、ええ……あの……そうですね……あの……」

「バーナビー?」

「い、いえ……その場で大変申し上げにくいのですが……4割引はやはりやめさせて頂いても……?」

「バーナビー!?」

 その瞬間檻の方からとリーチェ達から疑問の声が上がった。

「あ、いえ!4割引を取り消しても……まだ……お釣りが……来ますので……」

「ヨイチ君、君は本当に一体何をリーシェのお父さんに売ったんだい!?」

「え、ええ………ま、まぁ、バーナビーさん、4割引はしやんでええからそのかわりおまけをもろてええ?」

「は?お、オマケですか?」

「おん、もしさ、この子らと一緒に来た子らとかさ幼なじみとかおったら一緒に連れて行ったりたいねんけど」

「さ、さようでございますか……少しお待ちくださいませ……」

 バーナビーは汗を拭きながら奥にまた戻ると、話し合いを始めた。

「そういあさ、君らに直接聞こっか!さ!何か行き別れた弟的なサムシングはあらへん!?」

 と、与一は両手を広げながら服を変形させてお立ち台を作ると、その上に乗ってそう言った。

「お、俺の妹が!」

「はい!君!えーと……11番君!妹ちゃんの名前は?」

「アーリア!」

「アリーアちゃん!はいお次は!?」

「私の弟!ノース!」

「ノース君!いいねぇ!どんどん行こう!」

 と、12個の檻の前で演劇者の如く身振り手振りをする与一のところにバーナビーが戻って来た。

「え、ええ……お待たせいたしました……あの……お値段が1.1倍に……」

「いい加減にしなさい!バーナビー!!」

「私も首が掛かっているのです!」

「ええよ!足りるんやろ?」

「え、ええ……余裕でお釣りが来るぐらいに……」

「おっし!じゃあお買い上げで!」

 その瞬間幾つかの檻の中で歓声が上がった。

「えーえーえー……さて、バーナビーさん……契約書にサインを書かせていただきますね?」

 目を爛々と輝かせた与一はそう言ってバーナビーが渡した書類に目を通そうとしたが、字が読めないのを思い出してリーシェに渡した。

「あっ」

 リーチェはそれを受け取って読み始めるとだんだん、眉を潜め出して遂に……、

「……ん?…… バーーーーナビーーーーーーーー!これ!どう言うことよ!」

「んっ!!」

「んっ!じゃないわよ!何よこれ!1.5倍!?6ヶ月の借用!?ざっけんじゃないわよ!」

 ついに怒りが頂点に達したリーチェが髪を逆立たせながらバーナビーに掴みかかろうとした。

「おおお、落ち着くんだ!リーチェ!」

「離しなさい!ユーリ!!コイツだけは一発ぶん殴らないと気が済まないわ!」

「それをすると危害を被るのはお父さんだろう!?」

「あんな父知ったこっちゃ無いわ!確かに経理とかで尊敬する面はあるけどそれ以外人としてクソ以下の父に被害被ろうと知ったこっちゃ無いわ!」

「……あっ、二人とも?」

 ユーリが必死になってリーチェを止めている間に背後に人影が出来ているのに、二人は与一が声をかけるまで気付かなかった。

「「なに?……あっ」」

「……そう思っていたとは……結構ショックなのだが……」

「……お父さん?先ずは言う事は?」

「何の話だか……」

「ヨイチに渡したあの金額は?」

「やばっ……流石にバレたか……」

「お母さんが知ったらなんて言うかなぁ?」

「……だ、だが!各支部から送られた連絡では既に出した金額以上の利益が……はっ!」

 リーチェがもはや体から炎を出していると錯覚せんばかりのオーラを出している中、与一はバーナビーに変えのキチンとした契約書を持ってくる事をつたえ、もって来させると、それが間違いない事を殆ど二人の間に入ることができずにアワアワしているユーリに書類の確認をさせるとそれにサインをした。

「は、この度は申し訳ございませんでした……」

「あっ!!!ヨイチ!また勝手にサインして……うん、間違いはなさそうだし……バーナビー?誠意を見せてくれるなら……割引券……貰ってもいいわよね?」

「いっ………!?」

 バーナビーはリーチェの勢いに後ずさった。

「し、しかしお嬢様!」

「何もあなたの店の割引券じゃなくても良いのよ?ほら貴方とは縁が深い店があるじゃない?」

「あ、あぁ……あそこですか……」

 そう言ってバーナビーは懐をゴソゴソと探すと、ヨレヨレになった紙を一枚取り出して。

「私共のライバル店になる店の割引券かつ紹介券になります……」

 そう言ってバーナビーはその紙を与一に渡した。

「……な、なんか……いや、ええわ」

 与一はそう言ってその紙をポケットにしまった。

「……さて、私は少しまけて貰えるようにしようと思って来たのだが……バーナビー?」

「は、はい……ダダダ旦那様……」

「……書類を」

「はい……」

 リーチェの父は契約書をバーナビーから貰うと、1.1倍のところを消して4割引にした。

「……正直これでも十分儲かってるだろう?」

「ええ……まぁ……」

 そう言ってリーチェの父はにこやかに席を立つと、与一を檻の前に立たせた。

「覚えておくといい……これから君は彼ら彼女らの命を守る存在になるんだ……言ってる意味分かるかい?」

「……はい」

「彼ら彼女らが助けを求める時は主人として、一番先に助けに行って助ける、彼ら彼女らが幸せならそれを喜んで……な?」

「ええ……」

 与一は体を震わせながら周りのおりを見渡した。

「任せてください……彼ら彼女達を買った以上、お、僕は……責任は取るつもりです」

「……そうか……よし!では彼ら彼女らを一旦ロキ君の所へ連れて行きたまえ!」

「お父さん?お話は終わってないからね?」

「あっ……はい」

 そして、リーチェ達が話し合っているうちに与一は檻から12人を出してもらうと与一は一人一人の顔をもう一度見つめていった。

「……じゃあまず約束をしてもらうで、一つ、俺の仲間に手を出さへん事、手を出したらぶち殺される覚悟で頼む、二つ、仲間内でなんかされたらすぐに俺に報告な、三つ、皆んな仲良くな、今んとここんなもんかな?じゃあ出発で」

 と言った瞬間一人の男の子が与一目掛けて走り出して首元に爪を立てた。

「ネックウォーマー最強説」

 与一は走り出した途端服全体を鎧に変えて男の子を触手で縛り上げた。

「……一つ追加しよか、四つ目、俺に手を出すんは別にええけど面倒いからやめてな?」

 そう言って鋭い目つきのままの男の子は、与一に締め上げられて気絶してしまった。

「……まぁ、正当防衛という事で」

 そう言って与一はその男の子を担いでその建物を後にした。

「みんなついて来た?はい人数確認するで、んー21よっさ」

 と言ったところで、与一は連れてきた子の一人が手をあげていることに気がついた。

「はい、そこな君」

「妹は?」

「あっ」

「だと思ってたわよ」

 与一が間抜けな声を出した途端、リーシェが呆れた声で後ろに何人かの子供を連れてやって来た。

「……じゃあ皆んな、仲良くね?」

 とリーシェが言った途端、リーシェの背後にいた子たちが走り出して与一の背後にいた子達に抱きついた。

「……助かったわぁ」

「別にいいわよね……正直してやったりな気分だったしね?」

「……そらよかった……んじゃ、皆んな俺の上司を紹介させて貰おかな、基本俺の言う事を聞いてもらうけどそれよりも、この人の事を聞いてくれ、ロキや」

 そう言って与一が示した先の列車の扉からロキが何時ぞやの列車の屋根で見た美しい姿で、与一達が連れてきた子達の前に降り立った。

「はじめまして、私がロキ……今日から貴方達と共に進む者になります……どうぞ宜しく」

 そう言ってロキは上品にお辞儀をした。

「……おさ、じゃあ皆んな列車に乗った乗ったぁ、ロキィ、後ヨロー……」

 ロキは列車に子供達を案内しながら与一に目配せをした。

「んだば、行ってくるわ」

「そうだね、行こうか」

 と、三人は意気揚々と歩き出そうと振り向いた瞬間、俊明とワールドとビート、そしてノヴァが固まってそれぞれ奴隷の人達を連れていた。

「……さて、どこ行ってきたん?」

 与一は頭を押さえながらそう聞いた。

「ん?あー、なんかこの街でトップツーの内の片方行ってきてんけど……何かびっぷ?って奴に案内されてみんなでそれぞれ買ってんけど……なんか結局全部買ってしもたんよ……」

「そうしたら、なんだかんだあって……」

「この子ら一応全員一人っ子らしくてね、もう片方の所まだお金あるから買いに行こうも思ってたんだけど……」

『その必要は無いみたいだなぁ……』

 と、お互いハモると、そこにいた与一達は笑い出した。

「あてあて、雪かき器の完成は明日やけん、それまでこの子たちの歓迎会でも始めようやないけ?」

 そして、与一達はそれぞれ話し合いながら列車の中に入った。

 列車の中は大きく改造されていて、大広間が最初よりも大きくなっていた。

「おっきいなぁ……」

「そうだぞ、私結構頑張ったんだからな?」

 そう言ってロキは一人一人に鍵を渡しながら、(兄弟姉妹は希望があれば一緒の部屋を割り当てたらしい)与一にそう言った。

「さて全員で50人も増えたわけだが……今日からこいつらが私達の身の回りの支度等をしてくれるわけだ、が、こいつらはまだまだひよっこだ、色々と教えなきゃいけなくなるからな、与一!お前はこいつらに数学を!「あいよぉ」ワールドはこいつらに運動をつけてやってくれ「了解した」ノヴァはこいつらに家事とかをな「わかったわ」そして、それぞれが望む事をこいつらに教えてやってくれ」

 そう言ってロキは新たに増えた旅の仲間達を見渡した。

「さて、さっきの喋り方はもう面倒いから辞めるけど、そう言うわけで1日三食!睡眠時間は7時間以上!小遣い制!ビシバシ働いてもらうから覚悟しろよ!」

 と、ロキは笑いながらそう言った。

「さて諸君!早速その薄汚い服から着替えてもらおう!野郎どもは仕事の時は執事服!女どもは仕事の時はメイド服!スカートの丈は長めな!」

 そう言ってロキは杖を振って全員に新しい給仕服を着せた。

 そして満足そうに頷くと、今日はもう飯食って風呂入って寝ろと、全員を食堂車に連れて行った。

 そして、残された与一達はユーリとリーチェと話し合っていた。

「そっか、もう明日か……」

「せやなぁ、明日には出発や」

「残念だよ、君達とはもう少し話し合ったりしたかったんだが……」

「ユーリはヨイチの知識が欲しいだけでしょ?」

「いやそんな事は……あったね……」

「はー……素直な所が本当に……どうしようもないほど好きよ、ユーリ」

「唐突にみんなの前で愛の告白かい!?いやまぁ嬉しいんだけどね!?出来れば場所を考えて欲しかったな!」

 ユーリが顔を真っ赤にしながら、リーチェに反論しているのを見てカミラ達女子とタシトは微笑んで見ていたが、与一と俊明、そしてワールドはそれを鼻で笑った。

「はいはい、今度から気をつけるわよ」

「ぜ、絶対気をつけるしかない言い方だよねそれは!?」

「はいはい……あ、じゃあ私達はこれで……じゃあまた明日」

 そう言ってリーチェ達は列車を降りていった。

「……さてさて、そろそろ時間やけど……ロキィ?」

「分かってる分かってるっての……来たみたいだぞ」

 すると、外から声が聞こえた。

『ここかしら……?』

『そうねぇ……全く、私達買っといてほっておくとかどう言う神経してるのかしらぁ?』

「……言われてるぞ?与一クン?」

「……あいはい」

 与一はロキにそう言われて、列車の扉を開けた。

「よっす、よう来たな、おっしゃ、上がり」

 与一は二人の腕引っ張って列車に乗せると、一人一人紹介した。

「さて、私の命令でまぁ、お前達のことを買った与一の上司のロキだ……お前達以外にもお仲間が居るから仲良くしろよ」

 そう言って、ロキは二人にメイド服を着せた。

「え?え?お仲間って?」

「行けばわかる!」

 そう言ってロキは指を鳴らして開けた空間に二人を突き飛ばすと、パンパンと手を払って満足そうに頷いた。

「お前マジで人のこと雑に扱うよな?」

「我神ぞ?」

「いつか下克上されてもしーらね」

 与一はそう言ってそっぽを向いた。

「はぁ……まだ四時か……さて……もう少し歩き回ってもええけど……おん、ゲームするか」

「にーちゃん俺も行くー」

「ええけど負けて拗ねんなよ?」

「俺負け前提とかなめてる?」

「おん」

「は?」

 と、二人は話し合いながら娯楽車の方へと歩いていった。

 そして、その頃洞窟では、

「うーん……使えそう?」

「いや全く訳わかんねぇっすね」

 盗賊達が頭を降ってくる物体から体を張って助け出した後、彼らはその物体について調べていた。

「何か……ここ開きそうなんすけど……」

「ん?どいてみ?」

「はい?」

 機械に詳しい下っ端がそう言ってその場を退いた瞬間、頭文字はその隙間に向かって弾丸を撃ち込んだ。

「なっ!機械に何してんすか!?」

「えっ?でもお前基本叩いて直してなかったっけ?」

「それは配線が接触不良起こしてたりするから……ってそんな事はいいっすよ!全く……うわぁ!」

「うぉっ!?」

 下っ端が突っ込んでいる間にその部分が開いて、下っ端と頭は地面に落ちた。

「いってて……お頭!大丈夫っすか!?」

「ん?大丈夫よ……あっ、あいてんじゃーん」

「ちょっ!?お頭!?」

 頭は空いている部分を覗き込もうと、その物体を登った。

「ん………何これ?」

「うんしょ……あー……これ……運転席……すかね?」

「動かせるのこれ!?」

「多分……でも何か……ッスーーー壊れてますね」

「あ?」

 頭は下っ端に銃を突きつけた。

「何とか直せよコラ」

「無理っすよ!見たこともない金属に配線!技術!むしろこれバラしてブッ!?」

「馬鹿野郎!そんなことしたらこれ使えなくなるだろ!」

「もともと使えないんですよ!」

「じゃあコレ動いてた形跡があるんだよ!」

「うぐっ……」

 無駄に観察眼のある頭に下っ端は押された。

「よし、動かせるよな?」

「だから無理っすって!」

「よーしお前がそう言うなら俺にも考えがあるぞ」

 そして、頭は下っ端に銃をもう一度突きつけた。

「いいっすよ!そしたらこれ動かす事できなくなりますけどね!」

「なぁにぃ~~?」

 そう言って頭は他の下っ端どもを見た。

「お前ら!動かせる奴いるか!?」

 その瞬間下っ端どもは顔を逸らした。

「おーまーえーらー!!!」

「……はぁ、分かりましたよ、取り敢えず出来るとこまではやってみるっすよ」

「……分かった、どれぐらい掛かる?」

「わかんないっす……取り敢えず全体見た限りじゃあ中の線が切れてるだけっぽいっすからそれを繋げば……よし、工具を持ってきてくれ」

「オラァ!グズグズすんな!とっとと持って来い!」

 その瞬間その場はパニックに陥ったように慌ただしく動き出した。

「はい!持ってきたぞ!」

「よし、じゃあそこ持ってて……」

「俺達は何をすれば良い!?」

「落ちてきて少し埋まっちまったから、少し掘り起こしてくれ!」

「オラ!テメェラ!さっさと掘るぞ!」

『アイサー!』

 そして、頭自身も手にスコップを持って穴を掘る事暫く……。

「一応、ここの線の繋ぎは完了ですねー」

「動くか?」

 下っ端はその中に入っていろいろ出てる何かの文字を見つめていたがため息をついた。

「わかんねっす」

「ぶち殺されてぇのかテメェは!」

「だってこんな事はじめてっすもん!」

 と、言い合っているうちに、その物体から声のようなものが聞こえた。

『@&\?!&&&/-;56?\&@\(5?&@&??;,,!&&』

「は?コイツ生きてんのか?」

「さ、さあ?」

『\;)@@&/-?!&-/@“\&ます』

「何か言葉っっぽい事話出したぞ」

 そして、遂に、

『言語認識完了、アーカイブに無い未知の言語と判断、センサー起動……』

 その瞬間物体から波動のような物が飛び出してきて、その場にいた人々を包み込んだ。

「な、何だこれ!?」

「いいねぇ!何だこれ!?」

『識別完了、機体適正者を認識……名前を』

 と、頭に向かって光が出てくると、頭は顔を輝かせて叫んだ。

「俺はノマド・グラゴール!!お前の主人だ!!」

『認証、ノマド・グラゴール、機体の修復を』

「あ?動けないのか?」

 そう聞くと、その物体は返事をした。

『機体が深刻なダメージを負っています、稼働限界に到達しています』

「つまり?」

「動けないって事っすよ」

「えー」

『即刻の修復を』

 頭は困ったように頭を掻くと、

「いや、その修復の仕方分からないんだけどね?」

『………近辺に巨大な工廠施設を確認……そこに連絡を』

「いや、ちょっと無理やんだよそれが」

『……敵対関係にあると認識……スキャン……未知の粒子を多量確認……照合……近辺にベクター付近に確認出来ずにいた粒子反応多数あり、逃避の推奨』

「あ?何言ってんだコイツ?」

「多分魔力粒子の事じゃ無いっすかね?」

「ん?……まぁいい、おい、それは俺達にとってそんな害じゃないから心配するな」

 頭は首を捻らせたが、結局訳がわからないと言って丸投げした。

『……新粒子を[魔粒子]と登録……完了……では応急措置と新たな適正者のテストを実施を推奨、完了後工廠施設を占領、後に機体の修復を』

「まてまて!あの中には強い奴らがいっぱいいてだなぁ……」

『身体構造確認完了……街内部の人間全てを敵に回した場合敗北の可能性大……特に列車構造をとる物体に巨大な反応を探知』

「……それってアレじゃねぇか?中がやたら広くなってたりしないか?」

『肯定』

 その瞬間頭は、部下の一人が帰ってきたことに気がついた。

「よし、報告を」

「アイツらは明日の鐘四つの時に出るみたいです!」

「上出来、よしポンコツ新しい情報だ、その列車に乗ってる奴らは全員明日の鐘四つの時にはそこを出る」

『列車の内部の脅威を排除して計算……完了、街の現場での戦力での占領……可能』

「お頭!」

「………よし!じゃあ早速修理に取り掛かるか!お前の名前は?」

『機体番号……「番号じゃなくて名前つってんだろ?」……では当機体は現時刻より[メネシス]となります』

「メネシス……いいじゃん……ロマンじゃん?」

「あー、メネシスさん?」

『不適合者の質問の許可をノマド』

「あーもう!一々許可取らなくてもいいから返事しろ!」

『回答者の対象を搭乗者から全対象に変更……どうぞ』

「あー……どれぐらい修理に掛かりますっすかね……」

『道具が無い状態で計算した場合、11時を予定』

「じ、じゅういちじ……?」

『……推測、日の出の時を鐘一つと呼ぶ?』

「その通りだ」

『ならば鐘5つの時に完了予定』

「ちょうどそんなもんじゃ無いっすかねぇ」

「だなぁ、よし!お前ら!メネシスの言う通りに動けぇ!」

『アイサー!』

 そして、現場は再び慌ただしく動き出すのだった。
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