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向かうは世界の果て
最高の日
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俊明との対戦を終えた与一は娯楽車を出て、トレーニン車に入った。
「メチャメチャ使う時間なかったからなぁ……まずは50から……」
与一は服を脱いで着替えると、ベンチプレスをセッティングして開始した。
「うっっっっっどぉぉぉ」
与一は何とか十回五セット完了すると、今度はグローブを手にはめてサンドバッグに向かって全力で交互に殴り始めた。
ドン!ドン!とリズム良く、しかし、打ち方は素人同然でゆっくりと力を込めて殴り続けた与一は取り敢えず百回殴り続けると疲れたように座り込んで、暫くすると、ランニングマシーンに乗って走り出した。
しかし、五分も立たないうちに息を切らして、ランニングマシーンから降りると、椅子に座り込んだ。
「……熱心だな」
「ワールドか……」
与一は顔を上げるとワールドが手にグローブをはめているのを見て立ち上がった。
「そうこなくってはな」
二人はリング内に入ると、色々とセッティングをしてボクシングを開始した。
ワールドは素早いステップで動きつつも与一に一撃を叩き込んでいたが、与一はそれを一切無視してワールドに全力で拳を叩きつけていた。
「うぐっ………今のは効いたぞ……」
ワールドは与一からのパンチをくらって怯んでいると、その隙にと、与一が畳み掛けようとしたがワールドはそれを逆手にとって、与一のアゴに的確にパンチを叩き込んだ。
「ん………んん……!?」
そして、与一はふらふらと倒れ込んでしまった。
「今回こそは我の勝ちだな……お前はガードはしないし、無駄な動きが多すぎる……力と見切りだけは悪く無いのだが……いかんせんそこだな」
そう言ってワールドは与一を立ち上がらせた。
「なるへそ……参考にするわ」
そう言って与一は首を鳴らしてリングから出た。
「次はそこでメッチャ殴り合いたそうにしてる、タシトとしたり」
そう言って与一は首からタオルを掛けてトレーニング車から服を持って出た。
すると、その廊下でユウラビと会った。
「あら、来ないところに来るってどしたん?」
「んーーー秘密!」
そう言ってユウラビは天真爛漫に笑って、嬉しそうに与一の前を通り過ぎていくのだった。
「……にーちゃん汗臭い」
「運動した後やからなぁ、しゃーない、にしてもお前も遂に陰キャの波動を覚えたんか?全くどこおるかわからんかったぞ?」
「死ね」
「語彙力の少なさよ……ま、ええわ、はやねぇや」
「あーい」
そう言って二人は別れると、与一は風呂場に、俊明は列車の外に出て行った。
「……おーさぶさぶ」
与一は体を洗って湯船に浸かると、ゆっくりと息を吐き出した。
「ふぃー………」
カッポーンとお風呂桶が鳴る音がして与一は驚いてそちらを見たが、誰もいなかった。
「………」
すると、唐突に与一は口笛を吹き出した。
「あら、上手じゃ無い」
「……………」
与一は黙って湯船から上がろうとすると壁の向こうから声が聞こえた。
「あら、もう上がるのかしら?外は寒いわよ、しっかり温まりなさいな」
「……………………………………………………」
与一は風呂場を行ったり来たりを二回ほどすると、湯船につかった。
「あら、素直ね」
「マジでこっちからは何も聞こえへんのにそっちに音とかダダ漏れなんやめて欲しいわ」
「それは私じゃなくてロキに言って頂戴?」
「……はぁ」
与一はため息をついて、ぼやーっとし始めた。
「……ねぇ、貴方セツのことどう思ってるの?」
「好かれて無いなぁと」
「そうね」
そして、風呂場に謎にしばらくの沈黙が流れた。
「ん………はぁ……これからどうなるのかしらね」
「……」
「返事ぐらいしたらどうなの?ヨイチ」
「こちとら一気に人と会って声すら覚えきれてへんねん!誰!?」
「そこ!?」
与一がキレ気味にそう言い放ったのに対して、壁の向こうにい女は驚いた様でバシャリと水しぶきが上がる音が与一に聞こえた。
「悪いなぁ!俺アホやからさぁ!まーったく分からんのや!」
「開き直る所じゃ無いと思うけど……まぁいいわ」
「……カミラ?」
「今どこで判断したのよ……はぁ、そうよ……全く、絶対にタクミの方が頭よかったのに何で負けたのかしら?」
「さぁ」
与一はため息をついて肩までつかった。
「………ねぇ、思ったんだけどあんなに要らないんじゃ無いかしら?」
「奴隷の子ら?」
「そうよ……殆ど私達と年齢変わらないけど……」
「待って!?お前らそう言えば何歳なん?」
「16よ?」
「タシトも「ええ」マジかぁ……」
与一は驚いて額に手を当てた。
すると、その雰囲気を感じたカミラは与一に、
「貴方達は?」
と質問した。
「俺は19、俊明は16?のはず……ワールドとかの年は知らん」
「貴方私よりも年上なの!?」
「俺はお前が俺よりも年下な事にびっくりやよ!?」
二人の声が風呂場に大きくこだましているのに気がついて、二人は気まずそうに黙りあった。
「あー……見た目の割には幼いねんな……」
「バカにしないで、私達はもう大人よ」
与一はため息をついて両手を上げながら、
「そーやな」
と、言って湯船から立ち上がった。
「……私達はいつでも見てるわよ」
「いや怖い事言わんといてくれる?」
そう言って与一は風呂から上がって服を着込むと前日と同じ様に列車の外に出ようとして、列車が動いているのに気がついた。
与一は運転席まで触手を使って行って、ロキがせっせと石炭を炉に突っ込んでいるのを見つけた。
「どこ行ってるん?」
「お前か、リーチェに取り付けるために列車を移動させといてくれって言われたからな」
「そけ……」
と、言っているうちにツナギの作業着のロキはふぅとため息をついて、シャベルを杖代わりにして休憩し始めた。
「言ってくれたら手伝ったんに」
「私がやりたかったんだ」
「そけ」
ロキにキッパリと言われてしまい与一は肩を竦めて、その場に椅子を作って座った。
「さて、まだホームシックにはなってないか?」
「まだ大丈夫やよ」
「そうか、まあなったとしても帰れないんだがな」
「知っとる」
ロキはクスクスと笑うと、与一を手招きした。
与一は立ち上がってロキに警戒しながら近づくと、ロキが与一の手を繋いでクルリと回った。
回り終わった瞬間与一たちは、雪が降りしきる真っ白な月光の光しか光のない雪原に降り立った。
「……今日のお詫びだ、滅多に見られねぇからその節穴な目ぇかっぽじってしっかり見ろよ」
そう言ってロキは杖でなく、指をパチンと鳴らした。
その瞬間ロキの服装がツナギから月光の色に照らされて、美しい輝きを放つロキのパーソナルカラーの紫色のドレスを着用して、さらに両脇から黒尽くめの何人もの楽器を持った人が現れて、演奏し始めた。
そして、演奏が始まると、それに合わせてロキは踊り出した。
雪を跳ね飛ばしながら踊るロキは時に優雅に、時に美しく、時に力強く、ともかくそれは一言では言い表すことの出来ない美しさだった。
十分ほどロキは踊ると、少し汗を滴らせながら与一に向かってお辞儀をした。
「すっげぇ………」
「……そりゃどうも」
ロキはそう言って笑うと、与一の手を握って再びクルリと回った。
ロキが一回り終わると二人は再び列車の運転室にいた。
「………」
あまりの出来事に与一が言葉を発さずにキョロキョロして目をパチパチしていると、ロキが悪戯っぽく、
「今のは夢じゃねぇぞ、覚えとけ?」
と、そう言って楽しそうに笑うのだった。
与一はその顔を見て形容し難い顔をすると、苦笑いをして、
「覚えとく」
と、そう言った。
そして、すぐに列車の速度が落ちると、列車はどこかの駅のホームの端に止まった。
「……じゃあ私は寝る、おやすみ……あんまり夜更かしするなよ?」
そう言い終わると、ロキは列車から降りて与一の視界から消えた。
与一はそれを追って列車の外に出たが、ロキが降りたホームを見てもどこにもロキの姿は見当たらなかった。
「………おやすみ」
与一は呟いて、薄ら笑いを浮かべて駅の静かなホームに降り立った。
そのまま与一は足取り軽く小躍りしながら、駅のホームから出ていくと、またまた街の外に塀を触手を使って登って行った。
与一は高い塀から飛び降りて昨日と同じように、針葉樹の森へ歩いて行った。
しかし、昨日と違うのは彼は歌を口ずさみながら、楽しげに踊りながら雪を蹴飛ばしながら歩いていた。
彼が歌う歌が終わると彼は満足そうに頷くと、そこにたき火を起こしてそこに安楽椅子を作って座った。
「んふふ~…………」
そして与一はポケットからスマホを取り出して音楽をかけると、それを口ずさみながら安楽椅子を揺らした。
与一が調子良さげに椅子を揺らしていると、背後から何者かが近づいて、与一の椅子を止めた。
与一は驚いて椅子から転げ落ちて火の前でギリギリ立ち直すと、振り向いて服を変形させて籠手を作って、椅子を変形させて止めた手を固定して安楽椅子の足の部分をパイルで固定した。
「………やりすぎだ」
「タ、タシトかい……ビビらせんなや」
与一は警戒を解除して、椅子も元の形に戻して、もう一つ椅子を作ると、与一は再び安楽椅子に座った。
「座ってもいいか?」
「どーぞ」
タシトは与一にそう言われて頷くと、与一が用意した椅子に座った。
「昨日もここに?」
「まぁせやな……」
与一は持ってきていたココアを飲むと、白い息と共にため息をついた。
「そうか……少し立ってくれるか?」
「あぇぇ……なして?」
「まぁ、立て」
与一はとても嫌そうな顔して、拒否をしたが、タシトはもう一度繰り返した。
「立て」
「何でや、理由を言わんかったら俺は立たへんぞ」
与一はそうはっきりと言い切った。
すると、タシトはため息をついて、与一の椅子の背後に回り込んで椅子の後ろから与一を突き飛ばした。
「…………喧嘩か?」
与一は明らかに不機嫌そうな口調で振り返った。
「……そうだ」
そう言ってタシトは剣を握って与一が座っていた椅子を蹴っ飛ばした。
与一は蹴っ飛ばされた椅子を元の服に戻すと、自分に纏わせた。
「嫌やわぁ……まぁ、ええわ、こいや」
するとタシトは真正面から与一に接近すると、真っ二つにせんとばかりの勢いで剣を振り上げて、真っ直ぐに振り下ろした。
与一はその一撃をギリギリでかわすと、振り下ろされた剣の腹を足で踏みつけ体重をかけたが、タシトはそのまま与一ごと剣を持ち上げた。
「うっそぉぉぉ!?」
与一はそのままタシトの背後に吹っ飛ばされると、雪を跳ね飛ばしながら地面に倒れた。
すると与一は何を思ったのか、そのままゴロゴロと横に転がり始めた。
当然の如くタシトはすぐさま与一に接近して、再び剣を振り下ろした。
しかし、剣は与一をそれて地面に突き刺さった。
「……何をした」
与一はそれに応えることなく立ち上がると、掴んだ雪をタシトに向かって何度も投げた。
「何がしたいんだ」
タシトは顔や手足に当たる雪に動じること無く与一に向かって剣を振り上げた。
「せこよ」
そして、与一はそう言って笑うと、開けた右の掌をグッと握った。
すると、与一が転がった跡の轍の所から電気が走ってタシトを貫いた。
「ぐぉぉぉぉ!?」
「ごめんやで、手ぇ抜いてもろといて何やけど」
そう言って与一は電気に拘束されるタシトに向かって、
「チャーオー」
と、言って手を振った。
その瞬間タシトに流れていた電流が止まってタシトは地面に転がった。
すると、タシトの首元や手足、そして、与一が転がった跡からそれよりも二回りほど大きな何匹かのクモのようなドローンが出てくると、与一の服に収まった。
「………いくじなし」
「俺はなぁ、人様から借りたモンでイキリ倒すクソ野郎ですよ」
「なぁんでそうなるのよ」
木の影から出てきたカミラに与一はそう言って自虐的なことを言うと、タシトにもう一度軽い電流を流して叩き起こした。
「うぐっ………お前……もう少し優しくしてくれ」
「お前て……まぁええわ、んで?お前らの思惑通りに行ったわけ?」
タシトとカミラは腕を組んでため息をつきながら、薪の前に再び安楽椅子を作って座る与一を見て、顔を合わせると頷き合って、
「ヨイチ、貴方に話があるの」
と、切り出した。
そして、話が進むにつれて、与一は奇跡的にひっくり返さなかったココアをちびちび飲みながら、徐々に眉を潜めて行った。
「………と言うことなの」
「オチだけで良くない?」
与一は長ったらしい話が嫌いなのか、そう言いつつも、少し怒った様な声だった。
「……何とかならないかしら?」
「お前らがやった事やろ!?俺にそれ押し付けんの違く無い!?」
与一は驚きの表情で二人にそう言いつつも、服の一部を変形させてメガネの形にした。
そして与一は目をキョロキョロと動かしながらため息をついた。
「残念ながら俺にはどーしよーもございません」
そう言って二人をしっしと手で追い払った。
「くっ……確かに都合が良すぎるのは分かってるけど……」
「絶対わかってへんやろ」
と、与一はカミラが話から前に鼻で笑った。
「……何が気に入らないのかしらないが……」
「何が気に入らへんておまえらよ」
与一は少しイラついているタシトに対してもバッサリと切り捨てると、スマホから音楽を流し出した。
「……貴方に話したのが間違いだったかしら……」
「そらせやろあ、俺は生体医学のエキスパートやないねん、俺とかよりもロキに話したほうが良かったやろ、んで、さっきの喧嘩はアレ必要やったか?」
与一は呆れユラユラと安楽椅子を揺らしながらスマホを触り続けた。
「「…………」」
二人は顔を見合わせると、ため息をついて与一から離れて行った。
与一は二人の気配が遠くに行ったことを感じ取ると、ため息をついてメガネをガラパゴス携帯に変えると、電話を始めた。
「もしもし………はい、お久しぶりです、与一です………はい………」
と、与一は電話の向こうの相手に話を続けると、
「はい、可能と……はい、分かりました……ありがとうございます……代金は………はい………」
すると、与一は少し躊躇った後、
「少しおまちください」
と言って、手に持っていた自分のスマホを操作して、俊明と連絡を取り始めた。
「………………………」
すると、俊明からの返事が来ると与一はため息をついた。
「ホンマに……俺はええ弟を持ったわ……」
そして、与一は保留にしていたガラケーを取り直すと、
「はい……お願いします」
と、そう言った。
電話が切れるのを確認すると与一はガラケーを元の服に戻すと、ため息をついて立ち上がった。
「アイツ等の思惑通りで腹立つけど……まぁ……しゃーないか」
と、自分に言い聞かせる様にそう言うと、安楽椅子などを元に戻して、列車に戻った。
与一は自分の部屋に戻ると、用意したプレゼントを持って各部屋にこっそりと服の光学迷彩機能を駆使して、眠っている全員にプレゼントを配った。
そして、最後の一人のセツの部屋に与一は入ると、背後から組み伏せられてバタバタと暴れた。
「誰だ!」
「ちょまっ!タンマタンマ!俺!俺やって!与一!藤原与一や!」
セツは与一の光学迷彩のフードを引っ剥がすとため息をついた。
「お前は女の部屋に忍び込むのに何をやっているんだ」
「いや、夜這いちゃうで、そこは分かってな?」
与一はまず全力で夜這いを否定すると一息ついて、背中に背負ったもう既に薄っぺらくなってしまった袋の中から包まれた箱を取り出すと、にこやかにセツに渡した。
「……これは?」
「俺からのお近づきの印……や無くて、まぁ、プレゼント明日はクリスマスイブやからな?」
そう言ってセツが何かを言い出す前に与一は部屋から転がり出た。
「お、ま、待て!」
「待て言われて待つ奴どこにどこにおるし、ここにおるし!」
そう言った与一は一瞬立ち止まると再び走り出した。
「待つんじゃ無かったのか!?」
「待つったけどお前が来るまで待つとは言っとらん!」
与一はケタケタと笑い声を上げながら服を変形させてブースターを作ると、爆速で列車の外に出て行った。
そして、セツが届かないであろうはるか上空に飛んで行って雲海を抜けると、与一は服を元の状態に戻した。
「…………あああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
腹の底からと言わんばかりに与一は空から叫びながら落ちて行った。
しばらく叫び続けた跡、与一は大笑いして服を変形させて空を高速で移動すると、地面に向かって猛スピードで向かっていくと、雪が積もった森林の中の地面に墜落する様に着地した。
「………あぁ……最高……」
与一が大の字に寝転んで余韻に浸っていると、隣に足音が二つ聞こえてきた。
「……異世界きて頭おかしなった?」
「たぶんねー」
「………バカだ」
「そうやでー、ホンマバカは楽しいで………」
与一は腰にあるはずの無いハンドルを掴む様にすると、それを回す様に動かした。
「ひーばーひーばー……エキサイト……あぁ、楽し」
「はいはい、風邪引かんうちに帰るで」
「私から逃げたかと思えば……お前は本当に気持ち悪い奴だな」
「そらどーも」
与一はよっこらへと起き上がると、俊明と珍しくロキの立ち位置のところにセツがっているのを見た。
「帰ろっか」
与一は満足そうに白い息を吐き出すと、列車に向かって歩き出した。
「所でお前等何しにきたん?」
「俺はアホな兄がアホしでかさんか見にきただけ」
「私は……そう、クリスマスを調べたが、どうしても中身が気になってな見たんだが……」
「え!?嫌やった!?じゃあ明日なんか一緒に買いいこっか!」
「違うバカ………もういい」
そう言ってセツは怒り気味にそっぽを向いてしまった。
「あーん、ええとこ逃した気ぃするぅ」
「うーんキモい」
与一と俊明は笑い合うと、ハイタッチをしようと手をあげると……、
「「イェーイィエビ……………カニ!タコ!フゥゥ!」」
と、謎のジェスチャーを行った。
「はぁ………」
セツはその隣でため息をつくと、列車に着くとすぐさま自分の部屋に戻ってしまった。
「あ、忘れたったわ、にーちゃんサンクス」
と、俊明は部屋の前でそう言って与一に例を言うと照れ臭そうに部屋に入って行った。
「………んふふー」
与一は嬉しそうに小声で歌を歌いながら俊明の部屋の前から、風呂場までステップを踏みながら向かうと、与一はその上機嫌そうなまま、シャワーを浴びると湯船に浸かった。
湯船に浸かった与一は何を思ったのか何も無いところに向かって、手にボタンを持っている様な仕草をしてポチッと押す様にした。
「YES Sir!」
だが、もちろん何も起こるはずはなく与一はしかし満足そうに湯船に浸かった。
そして、与一の服が速乾性と耐水性があるのを良いことに下着などの服以外に変形させていた上着の服を変形させて湯船の上に小さなジオラマを作った。
与一はそこを走る車や電車を愛おしげに暫く見つめていると、急に立ち上がって湯船から上がった。
与一は風呂から出て再びさっぱりした後、濡らした変形性の服を乾燥させると、自分の部屋に戻った。
そして、与一は今日1日と言う日がとても充実した日とで言いたげに満足そうに笑うと、そっと目を閉じるのであった。
しかし、その瞬間与一は夢の世界へと落ちて行ったのを確認すると、部屋の中に入った男は与一が元の箱の状態に戻した機械にチップを挿入して暫くするとそれを取り出した。
「……」
そして男は与一がやっていた様に自分の服の一部を変形させて、空間に穴を開けるとそこに入って行ってしまった。
男が行った後すぐにロキがその男を追う様にして暗がりから出てくると、その穴に入って行った。
「待て!何をした?」
男はため息をついて振り返った。
「まぁ、そうだね、彼がそれなりに頑張ったご褒美かな?」
「嘘をつくんじゃあ無い……さっきシルヴィさんからこの世界に『漂流物』がやって来たって言ってたぞ……」
「……そーなのかい?」
男は面白そうに笑うと、
「まぁ、俺ちゃんからすればもう既に知った内容だった……とだけ言っとこうかな?後それと……ちょっと人多すぎ、後で減らすから誰残すか決めといてね」
そう言って笑うと、男は機械に持ち上げられてはるか上空にそびえ立つ塔の上へと連れられて行ってしまった。
「………クソッ!」
ロキはそう言って踵を返して元来た穴の中に入って行った。
「メチャメチャ使う時間なかったからなぁ……まずは50から……」
与一は服を脱いで着替えると、ベンチプレスをセッティングして開始した。
「うっっっっっどぉぉぉ」
与一は何とか十回五セット完了すると、今度はグローブを手にはめてサンドバッグに向かって全力で交互に殴り始めた。
ドン!ドン!とリズム良く、しかし、打ち方は素人同然でゆっくりと力を込めて殴り続けた与一は取り敢えず百回殴り続けると疲れたように座り込んで、暫くすると、ランニングマシーンに乗って走り出した。
しかし、五分も立たないうちに息を切らして、ランニングマシーンから降りると、椅子に座り込んだ。
「……熱心だな」
「ワールドか……」
与一は顔を上げるとワールドが手にグローブをはめているのを見て立ち上がった。
「そうこなくってはな」
二人はリング内に入ると、色々とセッティングをしてボクシングを開始した。
ワールドは素早いステップで動きつつも与一に一撃を叩き込んでいたが、与一はそれを一切無視してワールドに全力で拳を叩きつけていた。
「うぐっ………今のは効いたぞ……」
ワールドは与一からのパンチをくらって怯んでいると、その隙にと、与一が畳み掛けようとしたがワールドはそれを逆手にとって、与一のアゴに的確にパンチを叩き込んだ。
「ん………んん……!?」
そして、与一はふらふらと倒れ込んでしまった。
「今回こそは我の勝ちだな……お前はガードはしないし、無駄な動きが多すぎる……力と見切りだけは悪く無いのだが……いかんせんそこだな」
そう言ってワールドは与一を立ち上がらせた。
「なるへそ……参考にするわ」
そう言って与一は首を鳴らしてリングから出た。
「次はそこでメッチャ殴り合いたそうにしてる、タシトとしたり」
そう言って与一は首からタオルを掛けてトレーニング車から服を持って出た。
すると、その廊下でユウラビと会った。
「あら、来ないところに来るってどしたん?」
「んーーー秘密!」
そう言ってユウラビは天真爛漫に笑って、嬉しそうに与一の前を通り過ぎていくのだった。
「……にーちゃん汗臭い」
「運動した後やからなぁ、しゃーない、にしてもお前も遂に陰キャの波動を覚えたんか?全くどこおるかわからんかったぞ?」
「死ね」
「語彙力の少なさよ……ま、ええわ、はやねぇや」
「あーい」
そう言って二人は別れると、与一は風呂場に、俊明は列車の外に出て行った。
「……おーさぶさぶ」
与一は体を洗って湯船に浸かると、ゆっくりと息を吐き出した。
「ふぃー………」
カッポーンとお風呂桶が鳴る音がして与一は驚いてそちらを見たが、誰もいなかった。
「………」
すると、唐突に与一は口笛を吹き出した。
「あら、上手じゃ無い」
「……………」
与一は黙って湯船から上がろうとすると壁の向こうから声が聞こえた。
「あら、もう上がるのかしら?外は寒いわよ、しっかり温まりなさいな」
「……………………………………………………」
与一は風呂場を行ったり来たりを二回ほどすると、湯船につかった。
「あら、素直ね」
「マジでこっちからは何も聞こえへんのにそっちに音とかダダ漏れなんやめて欲しいわ」
「それは私じゃなくてロキに言って頂戴?」
「……はぁ」
与一はため息をついて、ぼやーっとし始めた。
「……ねぇ、貴方セツのことどう思ってるの?」
「好かれて無いなぁと」
「そうね」
そして、風呂場に謎にしばらくの沈黙が流れた。
「ん………はぁ……これからどうなるのかしらね」
「……」
「返事ぐらいしたらどうなの?ヨイチ」
「こちとら一気に人と会って声すら覚えきれてへんねん!誰!?」
「そこ!?」
与一がキレ気味にそう言い放ったのに対して、壁の向こうにい女は驚いた様でバシャリと水しぶきが上がる音が与一に聞こえた。
「悪いなぁ!俺アホやからさぁ!まーったく分からんのや!」
「開き直る所じゃ無いと思うけど……まぁいいわ」
「……カミラ?」
「今どこで判断したのよ……はぁ、そうよ……全く、絶対にタクミの方が頭よかったのに何で負けたのかしら?」
「さぁ」
与一はため息をついて肩までつかった。
「………ねぇ、思ったんだけどあんなに要らないんじゃ無いかしら?」
「奴隷の子ら?」
「そうよ……殆ど私達と年齢変わらないけど……」
「待って!?お前らそう言えば何歳なん?」
「16よ?」
「タシトも「ええ」マジかぁ……」
与一は驚いて額に手を当てた。
すると、その雰囲気を感じたカミラは与一に、
「貴方達は?」
と質問した。
「俺は19、俊明は16?のはず……ワールドとかの年は知らん」
「貴方私よりも年上なの!?」
「俺はお前が俺よりも年下な事にびっくりやよ!?」
二人の声が風呂場に大きくこだましているのに気がついて、二人は気まずそうに黙りあった。
「あー……見た目の割には幼いねんな……」
「バカにしないで、私達はもう大人よ」
与一はため息をついて両手を上げながら、
「そーやな」
と、言って湯船から立ち上がった。
「……私達はいつでも見てるわよ」
「いや怖い事言わんといてくれる?」
そう言って与一は風呂から上がって服を着込むと前日と同じ様に列車の外に出ようとして、列車が動いているのに気がついた。
与一は運転席まで触手を使って行って、ロキがせっせと石炭を炉に突っ込んでいるのを見つけた。
「どこ行ってるん?」
「お前か、リーチェに取り付けるために列車を移動させといてくれって言われたからな」
「そけ……」
と、言っているうちにツナギの作業着のロキはふぅとため息をついて、シャベルを杖代わりにして休憩し始めた。
「言ってくれたら手伝ったんに」
「私がやりたかったんだ」
「そけ」
ロキにキッパリと言われてしまい与一は肩を竦めて、その場に椅子を作って座った。
「さて、まだホームシックにはなってないか?」
「まだ大丈夫やよ」
「そうか、まあなったとしても帰れないんだがな」
「知っとる」
ロキはクスクスと笑うと、与一を手招きした。
与一は立ち上がってロキに警戒しながら近づくと、ロキが与一の手を繋いでクルリと回った。
回り終わった瞬間与一たちは、雪が降りしきる真っ白な月光の光しか光のない雪原に降り立った。
「……今日のお詫びだ、滅多に見られねぇからその節穴な目ぇかっぽじってしっかり見ろよ」
そう言ってロキは杖でなく、指をパチンと鳴らした。
その瞬間ロキの服装がツナギから月光の色に照らされて、美しい輝きを放つロキのパーソナルカラーの紫色のドレスを着用して、さらに両脇から黒尽くめの何人もの楽器を持った人が現れて、演奏し始めた。
そして、演奏が始まると、それに合わせてロキは踊り出した。
雪を跳ね飛ばしながら踊るロキは時に優雅に、時に美しく、時に力強く、ともかくそれは一言では言い表すことの出来ない美しさだった。
十分ほどロキは踊ると、少し汗を滴らせながら与一に向かってお辞儀をした。
「すっげぇ………」
「……そりゃどうも」
ロキはそう言って笑うと、与一の手を握って再びクルリと回った。
ロキが一回り終わると二人は再び列車の運転室にいた。
「………」
あまりの出来事に与一が言葉を発さずにキョロキョロして目をパチパチしていると、ロキが悪戯っぽく、
「今のは夢じゃねぇぞ、覚えとけ?」
と、そう言って楽しそうに笑うのだった。
与一はその顔を見て形容し難い顔をすると、苦笑いをして、
「覚えとく」
と、そう言った。
そして、すぐに列車の速度が落ちると、列車はどこかの駅のホームの端に止まった。
「……じゃあ私は寝る、おやすみ……あんまり夜更かしするなよ?」
そう言い終わると、ロキは列車から降りて与一の視界から消えた。
与一はそれを追って列車の外に出たが、ロキが降りたホームを見てもどこにもロキの姿は見当たらなかった。
「………おやすみ」
与一は呟いて、薄ら笑いを浮かべて駅の静かなホームに降り立った。
そのまま与一は足取り軽く小躍りしながら、駅のホームから出ていくと、またまた街の外に塀を触手を使って登って行った。
与一は高い塀から飛び降りて昨日と同じように、針葉樹の森へ歩いて行った。
しかし、昨日と違うのは彼は歌を口ずさみながら、楽しげに踊りながら雪を蹴飛ばしながら歩いていた。
彼が歌う歌が終わると彼は満足そうに頷くと、そこにたき火を起こしてそこに安楽椅子を作って座った。
「んふふ~…………」
そして与一はポケットからスマホを取り出して音楽をかけると、それを口ずさみながら安楽椅子を揺らした。
与一が調子良さげに椅子を揺らしていると、背後から何者かが近づいて、与一の椅子を止めた。
与一は驚いて椅子から転げ落ちて火の前でギリギリ立ち直すと、振り向いて服を変形させて籠手を作って、椅子を変形させて止めた手を固定して安楽椅子の足の部分をパイルで固定した。
「………やりすぎだ」
「タ、タシトかい……ビビらせんなや」
与一は警戒を解除して、椅子も元の形に戻して、もう一つ椅子を作ると、与一は再び安楽椅子に座った。
「座ってもいいか?」
「どーぞ」
タシトは与一にそう言われて頷くと、与一が用意した椅子に座った。
「昨日もここに?」
「まぁせやな……」
与一は持ってきていたココアを飲むと、白い息と共にため息をついた。
「そうか……少し立ってくれるか?」
「あぇぇ……なして?」
「まぁ、立て」
与一はとても嫌そうな顔して、拒否をしたが、タシトはもう一度繰り返した。
「立て」
「何でや、理由を言わんかったら俺は立たへんぞ」
与一はそうはっきりと言い切った。
すると、タシトはため息をついて、与一の椅子の背後に回り込んで椅子の後ろから与一を突き飛ばした。
「…………喧嘩か?」
与一は明らかに不機嫌そうな口調で振り返った。
「……そうだ」
そう言ってタシトは剣を握って与一が座っていた椅子を蹴っ飛ばした。
与一は蹴っ飛ばされた椅子を元の服に戻すと、自分に纏わせた。
「嫌やわぁ……まぁ、ええわ、こいや」
するとタシトは真正面から与一に接近すると、真っ二つにせんとばかりの勢いで剣を振り上げて、真っ直ぐに振り下ろした。
与一はその一撃をギリギリでかわすと、振り下ろされた剣の腹を足で踏みつけ体重をかけたが、タシトはそのまま与一ごと剣を持ち上げた。
「うっそぉぉぉ!?」
与一はそのままタシトの背後に吹っ飛ばされると、雪を跳ね飛ばしながら地面に倒れた。
すると与一は何を思ったのか、そのままゴロゴロと横に転がり始めた。
当然の如くタシトはすぐさま与一に接近して、再び剣を振り下ろした。
しかし、剣は与一をそれて地面に突き刺さった。
「……何をした」
与一はそれに応えることなく立ち上がると、掴んだ雪をタシトに向かって何度も投げた。
「何がしたいんだ」
タシトは顔や手足に当たる雪に動じること無く与一に向かって剣を振り上げた。
「せこよ」
そして、与一はそう言って笑うと、開けた右の掌をグッと握った。
すると、与一が転がった跡の轍の所から電気が走ってタシトを貫いた。
「ぐぉぉぉぉ!?」
「ごめんやで、手ぇ抜いてもろといて何やけど」
そう言って与一は電気に拘束されるタシトに向かって、
「チャーオー」
と、言って手を振った。
その瞬間タシトに流れていた電流が止まってタシトは地面に転がった。
すると、タシトの首元や手足、そして、与一が転がった跡からそれよりも二回りほど大きな何匹かのクモのようなドローンが出てくると、与一の服に収まった。
「………いくじなし」
「俺はなぁ、人様から借りたモンでイキリ倒すクソ野郎ですよ」
「なぁんでそうなるのよ」
木の影から出てきたカミラに与一はそう言って自虐的なことを言うと、タシトにもう一度軽い電流を流して叩き起こした。
「うぐっ………お前……もう少し優しくしてくれ」
「お前て……まぁええわ、んで?お前らの思惑通りに行ったわけ?」
タシトとカミラは腕を組んでため息をつきながら、薪の前に再び安楽椅子を作って座る与一を見て、顔を合わせると頷き合って、
「ヨイチ、貴方に話があるの」
と、切り出した。
そして、話が進むにつれて、与一は奇跡的にひっくり返さなかったココアをちびちび飲みながら、徐々に眉を潜めて行った。
「………と言うことなの」
「オチだけで良くない?」
与一は長ったらしい話が嫌いなのか、そう言いつつも、少し怒った様な声だった。
「……何とかならないかしら?」
「お前らがやった事やろ!?俺にそれ押し付けんの違く無い!?」
与一は驚きの表情で二人にそう言いつつも、服の一部を変形させてメガネの形にした。
そして与一は目をキョロキョロと動かしながらため息をついた。
「残念ながら俺にはどーしよーもございません」
そう言って二人をしっしと手で追い払った。
「くっ……確かに都合が良すぎるのは分かってるけど……」
「絶対わかってへんやろ」
と、与一はカミラが話から前に鼻で笑った。
「……何が気に入らないのかしらないが……」
「何が気に入らへんておまえらよ」
与一は少しイラついているタシトに対してもバッサリと切り捨てると、スマホから音楽を流し出した。
「……貴方に話したのが間違いだったかしら……」
「そらせやろあ、俺は生体医学のエキスパートやないねん、俺とかよりもロキに話したほうが良かったやろ、んで、さっきの喧嘩はアレ必要やったか?」
与一は呆れユラユラと安楽椅子を揺らしながらスマホを触り続けた。
「「…………」」
二人は顔を見合わせると、ため息をついて与一から離れて行った。
与一は二人の気配が遠くに行ったことを感じ取ると、ため息をついてメガネをガラパゴス携帯に変えると、電話を始めた。
「もしもし………はい、お久しぶりです、与一です………はい………」
と、与一は電話の向こうの相手に話を続けると、
「はい、可能と……はい、分かりました……ありがとうございます……代金は………はい………」
すると、与一は少し躊躇った後、
「少しおまちください」
と言って、手に持っていた自分のスマホを操作して、俊明と連絡を取り始めた。
「………………………」
すると、俊明からの返事が来ると与一はため息をついた。
「ホンマに……俺はええ弟を持ったわ……」
そして、与一は保留にしていたガラケーを取り直すと、
「はい……お願いします」
と、そう言った。
電話が切れるのを確認すると与一はガラケーを元の服に戻すと、ため息をついて立ち上がった。
「アイツ等の思惑通りで腹立つけど……まぁ……しゃーないか」
と、自分に言い聞かせる様にそう言うと、安楽椅子などを元に戻して、列車に戻った。
与一は自分の部屋に戻ると、用意したプレゼントを持って各部屋にこっそりと服の光学迷彩機能を駆使して、眠っている全員にプレゼントを配った。
そして、最後の一人のセツの部屋に与一は入ると、背後から組み伏せられてバタバタと暴れた。
「誰だ!」
「ちょまっ!タンマタンマ!俺!俺やって!与一!藤原与一や!」
セツは与一の光学迷彩のフードを引っ剥がすとため息をついた。
「お前は女の部屋に忍び込むのに何をやっているんだ」
「いや、夜這いちゃうで、そこは分かってな?」
与一はまず全力で夜這いを否定すると一息ついて、背中に背負ったもう既に薄っぺらくなってしまった袋の中から包まれた箱を取り出すと、にこやかにセツに渡した。
「……これは?」
「俺からのお近づきの印……や無くて、まぁ、プレゼント明日はクリスマスイブやからな?」
そう言ってセツが何かを言い出す前に与一は部屋から転がり出た。
「お、ま、待て!」
「待て言われて待つ奴どこにどこにおるし、ここにおるし!」
そう言った与一は一瞬立ち止まると再び走り出した。
「待つんじゃ無かったのか!?」
「待つったけどお前が来るまで待つとは言っとらん!」
与一はケタケタと笑い声を上げながら服を変形させてブースターを作ると、爆速で列車の外に出て行った。
そして、セツが届かないであろうはるか上空に飛んで行って雲海を抜けると、与一は服を元の状態に戻した。
「…………あああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
腹の底からと言わんばかりに与一は空から叫びながら落ちて行った。
しばらく叫び続けた跡、与一は大笑いして服を変形させて空を高速で移動すると、地面に向かって猛スピードで向かっていくと、雪が積もった森林の中の地面に墜落する様に着地した。
「………あぁ……最高……」
与一が大の字に寝転んで余韻に浸っていると、隣に足音が二つ聞こえてきた。
「……異世界きて頭おかしなった?」
「たぶんねー」
「………バカだ」
「そうやでー、ホンマバカは楽しいで………」
与一は腰にあるはずの無いハンドルを掴む様にすると、それを回す様に動かした。
「ひーばーひーばー……エキサイト……あぁ、楽し」
「はいはい、風邪引かんうちに帰るで」
「私から逃げたかと思えば……お前は本当に気持ち悪い奴だな」
「そらどーも」
与一はよっこらへと起き上がると、俊明と珍しくロキの立ち位置のところにセツがっているのを見た。
「帰ろっか」
与一は満足そうに白い息を吐き出すと、列車に向かって歩き出した。
「所でお前等何しにきたん?」
「俺はアホな兄がアホしでかさんか見にきただけ」
「私は……そう、クリスマスを調べたが、どうしても中身が気になってな見たんだが……」
「え!?嫌やった!?じゃあ明日なんか一緒に買いいこっか!」
「違うバカ………もういい」
そう言ってセツは怒り気味にそっぽを向いてしまった。
「あーん、ええとこ逃した気ぃするぅ」
「うーんキモい」
与一と俊明は笑い合うと、ハイタッチをしようと手をあげると……、
「「イェーイィエビ……………カニ!タコ!フゥゥ!」」
と、謎のジェスチャーを行った。
「はぁ………」
セツはその隣でため息をつくと、列車に着くとすぐさま自分の部屋に戻ってしまった。
「あ、忘れたったわ、にーちゃんサンクス」
と、俊明は部屋の前でそう言って与一に例を言うと照れ臭そうに部屋に入って行った。
「………んふふー」
与一は嬉しそうに小声で歌を歌いながら俊明の部屋の前から、風呂場までステップを踏みながら向かうと、与一はその上機嫌そうなまま、シャワーを浴びると湯船に浸かった。
湯船に浸かった与一は何を思ったのか何も無いところに向かって、手にボタンを持っている様な仕草をしてポチッと押す様にした。
「YES Sir!」
だが、もちろん何も起こるはずはなく与一はしかし満足そうに湯船に浸かった。
そして、与一の服が速乾性と耐水性があるのを良いことに下着などの服以外に変形させていた上着の服を変形させて湯船の上に小さなジオラマを作った。
与一はそこを走る車や電車を愛おしげに暫く見つめていると、急に立ち上がって湯船から上がった。
与一は風呂から出て再びさっぱりした後、濡らした変形性の服を乾燥させると、自分の部屋に戻った。
そして、与一は今日1日と言う日がとても充実した日とで言いたげに満足そうに笑うと、そっと目を閉じるのであった。
しかし、その瞬間与一は夢の世界へと落ちて行ったのを確認すると、部屋の中に入った男は与一が元の箱の状態に戻した機械にチップを挿入して暫くするとそれを取り出した。
「……」
そして男は与一がやっていた様に自分の服の一部を変形させて、空間に穴を開けるとそこに入って行ってしまった。
男が行った後すぐにロキがその男を追う様にして暗がりから出てくると、その穴に入って行った。
「待て!何をした?」
男はため息をついて振り返った。
「まぁ、そうだね、彼がそれなりに頑張ったご褒美かな?」
「嘘をつくんじゃあ無い……さっきシルヴィさんからこの世界に『漂流物』がやって来たって言ってたぞ……」
「……そーなのかい?」
男は面白そうに笑うと、
「まぁ、俺ちゃんからすればもう既に知った内容だった……とだけ言っとこうかな?後それと……ちょっと人多すぎ、後で減らすから誰残すか決めといてね」
そう言って笑うと、男は機械に持ち上げられてはるか上空にそびえ立つ塔の上へと連れられて行ってしまった。
「………クソッ!」
ロキはそう言って踵を返して元来た穴の中に入って行った。
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