Two Runner

マシュウ

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ワンダーワールド

鯨戦

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 ガーレイに大学で習った焼きなましなどの技術を提供した後、与一は黒いオーロラが地面に降りてきたかのようなモヤモヤを防護壁の上から眺めていた。

「……おっ、アレが」

 モヤモヤから何やら恐竜のような魔物が出てくるのを見ると、その恐竜が点になるまで見続けると防護壁から触手を使って降りると、ロキ達が集まろうとしている薪の前に降り立った。

「満足か?」

「うぃーよ、満足満足」

 ロキにからかわれるようにそう言われた与一は溜息をついて薪の前に座った。

「……あら、子供達も呼んだのね」

「うむ、いい実戦の機会かと思ってな」

 意外にも大人数が集まっているのに与一は引いたような表情をした後、揃っているメンツを見渡して微妙な表情をした。

「どったん?」

「んや、何もなし」

 与一はそう言ってため息をつくと、箱を起動して全員分の椅子を出した。

「さて、全員集まったな?」

 それを見届けると、ロキが中心に立って杖を振って中央に立体地図を出すと、それを使って話し始めた。

「今回の目的地はここ、ギリギリあのオーロラの近くにある湖『妖精湖』だ、そこからは与一達が『落し物』の回収を行う」

 ロキは砦からオーロラの方の森を指し示すと、そこにポツンとある湖を杖で指し示した。

「ロキ様質問です」

「様はやめろくすぐったい」

「何だロキよ、恥ずかしがりおっておぬしそんなガラでは無いであろう?」

「お前は後で殺す、んで、何だ?」

 ロキは質問して来た優秀な少年に対して質問の内容を問いた。

「はい、湖といってもここは極寒の地です、湖は凍っているのでは?」

「そこに関しては問題にならないから安心しろ、お前達の今回の目的はこの極地で生き残る事術を学ぶ事だ、そこに関してはユウラビとゴジガジ、そしてアスター、メネシスの言う事はしっかり聞くんだぞ」

『はい』

 ロキのどこか間の抜けたような声にも関わらず、子供達はしっかりとした返事をした。

「ええ子らや……」

「何感動してんだ……よし、それじゃあ全員また後で会おう………加護を」

 ロキは杖を振ると、全員に光の粉を振りかけた。

「………よし、それでは全員出発である!」

 ワールドの掛け声で全員立ち上がると、それぞれバラバラに動き出した。

「んじゃ行きますか、ワールド、一人で突っ込んで食われなさんなよ」

「分かっておる、与一こそ背後に気をつけるのだぞ」

「わぁってやすよ、トッティー!」

「うっさいなボケ!かまってちゃんか!?」

「はいはい」

 俊明は与一に向かって蹴りを入れると、与一が作った蒸気バギーに乗った。

 そして、与一はやれやれと首を振ってため息をつくと、バギーのエンジンをかけ、門から基地の外に出た。

「やっほー!」

 雪原を滑るようにバギーを走らせていると、与一たちの隣にワールド達がやってきた。

「あまり離れすぎぬように離れよ、集まりすぎると一発何か貰えば全員死ぬぞ」

「はいはい」

 与一はバギーの速度を上げると、周りの景色を見回してため息をついた。

 空にはオーロラが昼だと言うのにも関わらずにかかり、雪原と氷がそれを反射して幻想的に輝かせていた。

「すっげぇ……」

 背後で俊明が感嘆の声を漏らすのを与一は運転しながら聞くと、少し嬉しそうに鼻で笑った。

 しかし、そんな感情も束の間のことで、突然地鳴りが始まった。

「な、なんや!?」

「あー!!!!!うっそー!!!!」

 ユウラビが信じられないと言ったように叫び出した。

「ヤバイよ!これは!一旦戻ろう!」

「ワールド!」

「全体反転!」

 ワールドはすぐさま指示を下すと、与一達はバギーを基地に向けて反転させて走り出した。

 すると、与一達が向かう先だったところの氷が割れて下から鯨のような生き物が飛び出した。

「なんじゃありやぁぁぁぁ!!」

「でっか!」

 馬鹿みたいにデカいモンスターの姿を見た与一はバギーの速度を一段と上げた。

「アレはここらへんでもなかなか見ないヤバヤバモンスターだよ!どれくらいかって言うと、最初にあの基地作った人が一回見たぐらい!」

「はーっ!もってねぇぇぇ!!」

 そんなこんなを言いつつも鯨は与一達の後を雪原だろうと関係あるかと言わんばかりに追ってきていた。

「アイツ!陸の上も泳げ……泳いでんのアレ!?」

「知らないよ!だって初めて見るし!」

「もうすぐ基地だ!ロキ達に中に戻らせろ!」

 ユウラビは閃光弾を上に打ち上げた。

 鯨は基地を見ると諦めたように反対を向くと去って行った。

 与一達は滑り込むように基地に戻ると、すぐさま作戦会議を始めた。

「なんじゃあら!」

「デカすぎるな」

「まず剣などでどうこうできる相手なのか?」

「いや、私が吹っ飛ばせるし」

「………」

「この基地にも一応撃退出来るような設備はあるけど、それでも出来るのは撃退だから……」

「レールガン作って吹っ飛ばす?」

「だから私がぶっ飛ばすって」

「俊明、行けるか?」

「さっき蹴って来たけど、硬すぎてどうにもならんかったわ」

「ねぇ、聞きなさいよ」

「ワールド何か策ない?」

「もう一度与一に槍を降らせるか?」

「うーん、それやったら行けるか……」

「アンタ達いい加減にしなさいよ?」

「グゲグギゲゲゲ」

「あっ、おじちゃん!」

 すると、この基地の責任者らしき人がやって来た。

「先ほどからこのお嬢さんが何か言いたげにしていらっしゃいましたが……」

 と、ノヴァを指した。

「………そう言えば」

「表でなさい、一度殺してあげるわ」

「意外とやんちー成分あるのね、お嬢様成分100やと思ててんやけど」

 与一のそんな戯言をノヴァはため息をついて軽く流すと、

「……取り敢えず私に任せなさい」

 そう言って不敵に笑うのだった。








「んで、俺は生贄になりましたとさ、コレまじで?」

 与一は自分の後ろにありったけ積まれた生肉の塊を指差した。

「一度痛い目にあった方が貴方も反省するでしょう?」

「あらー、アスターまでー、俺の事どう思ってるかよーく分かったよー」

「ヨイチィ……お前いつか後ろから刺されて死ぬぞ?」

「ほんまにぃ?」

 与一のそんな棒読みな言葉とは裏腹に何かを考えるように与一は門の片隅をじっと見つめていた。

「そ、それではもう一度門を開きますが……本当に私達はここに残っていて良いのですか?」

「うむ、恐らくここから支援してもらった方が良い、大人数で向かって行ったら恐らく一網打尽にされるのみよ」

 ワールドが腕を組んで頷きながら与一の方を向いた。

「ビート、おぬしもヨイチと共に行くが良い」

「……………」

 ビートは無言で帽子を近くの少年に渡すと与一の乗っている蒸気車の助手席に乗り込んだ。

 車は少しギシギシと音を立てて揺れ治った。

「………では開門!」

 ワールドの掛け声と共に与一はアクセルを踏み込んだ。

 車は凄まじい音を立てて門から飛び出ると、雪原を再び走り出した。

「はぁ……全く、こう言う状況やなかったらこの景色楽しめんねんけどなぁ……ビートは花より団子派?実は俺もやねん」

「……」

 ビートは与一の方をじっと見たまま何も話そうとしなかった。

「……お前、声帯でも取られてんのか……?」

 ため息をついてハンドルを離して少し鼻歌を歌い出した頃、車の無線機から声が聞こえた。

『ちょっと、緊張感ってものは無いの?』

「ブルブル緊張したった方がええ?」

『その方がからかいがいがあるわ』

 与一がそれを鼻で笑ったのを聞いて無線の向こうにいるノヴァはため息をついた。

「貴方、本当に与一?」

「なぁ、前々から思っててんけど昔俺と会ったりあまってあれ丘やなくて鯨やん!」

 与一はハンドルを切って丘の丁度手前でカーブして丘に沿うようにして、車を走らせ始めた。

 ビートは前の入れ物の所を開けて双眼鏡を取り出して丘を覗いた。

「……………」

 ビートは納得したように首を振って、シートベルトを取って立ち上がり、与一に耳栓用の耳当てを何も言わずにスッと取り付けると、まさしく顎が外れたと思うぐらいに口を開いて、魔物の叫び声の様な声を上げた。

「うっさ!?なんじゃ今の声!?鯨くん起きた!?」

 その声を鯨の声と勘違いした与一は少し驚いて手を震わせながらもしっかりと未だハンドルを握っていた。

 すると、地面が波打ち、丘だと思っていた所が隆起してそこから巨大な鯨が現れた。

「にしてもでっけぇなぁおい!」

 与一はアクセルを完全に踏み込むと、森の方へと逃げ始めた。

『見つけたみたいね!与一!急いで目標地点まで!』

「あいよー!」

 与一は車から腕を外に出して何かをジェスチャーすると、車の両脇にブースターが付属された。

「飛ばすでー!」

 与一がそう言うとブースターが点火されて鯨のと詰まっていた距離が徐々に離れ始めた。

「んー!よきよき………っあ"ぁい!」

 与一は何処からか飛んできた氷塊を片手でハンドルを操作しながら砕くと、腕を震わせながら一頻り暴言を吐くと、

「ビート!また飛んでくるやろから全部たたき壊せ!」

 ビートは無言で顎を外した様な形のまま先を立ち上がると、飛んでからたまに向かって口から空気砲の様なものを発射した。

 圧縮された空気は氷塊にあたると、氷塊ごと砕け散った。

「やるぅ!」

 与一はハンドルを右へ左へと回しながらそんな軽口を叩きながらも、なんとか目標地点まで到着した。

「ついたど!」

「オッケー!後は任せなさい!」

 すると、上空から声がして上を見上げるとノヴァが翼を羽ばたかせながら腕を組んでいた。

 すると、側にあった岩陰からクラクションが聞こえ、与一はそちらの方に車を寄せた。

 ワールドがハンドルを握る車の隣に与一は停めると、ワールドは真顔で手を一度叩いて、指でニを作って、円を描いてノヴァの方に向けて遠くを見る様な仕草をした。

「ホンマや………丸見えやし……」

 ワールドが懐から出したスマホで撮影しているのを与一は呆れた目で見ながら、鯨に向かって拳を突き出したノヴァを見た。

 ノヴァの拳は鯨の眉間部を確実に捉えて、鯨は尻尾から跳ね上がって、派手に雪を撒き散らしてその場に沈んだ。

「やるぅ~……まって?」

 与一は列車に乗せている大きな黒箱を起動すると、槍の形にして上空に打ち上げた。

「ノヴァ!まだ止めさせてへんぞ!」

「は?コイツはもう死んで……」

 すると与一は納得のあった様な顔をしたのと同時にヤケクソ気味に、

「はぁーい!鯨の生態知ってるしとー!!!」

 全員与一に向かって怪訝な顔をしたが、与一は反乱狂になりながら続けた。

「鯨は群れで行動しまーす!ボーイズアンドガァールズ!ここは逃げるべきデェース!」

 その瞬間鯨の群れが雪原から幾つも跳ね上がった。

「ひゃー!!!!!」

 与一は車を走らせ始めると同時にノヴァに向かって、

「倒せるぅ!?」

「こんだけいっぺんに倒せるわけあべしっ!」

 ノヴァが頭に氷塊をくらうのを見て与一は触手を伸ばして肉塊を落とした後ノヴァを後ろに乗せた。

「死んだ!?」

「生きてるわよ!」

「さいで!」

 車をかっとばす与一はバックミラーで迫りくる鯨達を見ながら渋い顔をした。

「あの数どうやってしばき倒すよ!?」

「一匹ずつ釣り出すしか無いんじゃ無い!?」

「しょっぺー!もっと何か方法ないの!?」

「あるなら案出して頂戴!」

「うーん!なーいから片っ端からしばき倒す?」

「アンタ今一匹ずつ倒すのしょっぱいとか言ってなかった!?」

「三秒前の事は忘れました!どーも鳥頭です!」

「鳥でも三秒以上覚えてるわよ!」

「まぁ!?それでもやるしかもうなく無い!?」

「……そうだけど!」

「あいよっ!」

 与一は何を思ったのか車を反転させると、車から飛び降りた。

 するとそれと同時に鯨の群れの一匹に空から槍が降ってきて刺さった。

「やぁりー」

「アナタねえ……」

「まぁ、ヨイチの案も一理ある」

「無いわよ?」

 気がつけばワールドも車を走らせて与一の隣に立っていた。

「アナタ達嘘でしょう?」

「そう言いながらノヴァもやる気満々やんけ?」

「……もうどうなでもなれば良いわ……」

 ノヴァはため息を吐きながら車から飛び上がると鯨達の方向けて一直線に飛んでいった。

「………」

「ビートも動けるけ?」

 ビートはゆっくりと頷くと、腕をまくった。

「ほいだらば、出来るとこまでやりまっか」

 そして与一は切符を切ると、体に黄金の鎧を纏わせた。

「ヨイチ、我にもそれを分けろ」

「へいへい」

 与一はビートとワールドにも切符を切った。

 ビートは足と胴に、ワールドは腕をと足に鎧がつき、二人は一直線に鯨の群れに向かって突撃した。

 二人がぶつかった鯨が盛大に早上がり、地面を揺らして横たわった。

「やーるー」

 与一はそれを遠目に見ながら、隣に黒箱が着陸するのを確認すると、黒箱に飛び乗って黒箱の形を徐々に変えながら中に侵入した。

「おーし!武器つよで無双さんは不本意……でも無いか!」

 与一は二回りほど大きな蒸気機関車を模した鎧と巨大な籠手を装着した状態で鯨に突っ込んだ。

 鯨の口元に着くと、与一は鯨の外殻に指を突っ込んで空に投げた。

 鯨は空高く打ち上がると、与一は鯨の腹に向かって引き絞った拳を突き出した。

 明らかに生物に当たった時に鳴る音では無い音が辺りに響き渡ったが、鯨はまだ動こうとした。

「んぁぁぁぁい!」

 与一は続けて二発目を放ち、鯨の体は冗談抜きに半分に折れる様にくたびれた。

「まだまだぁぁぁぁ!!」

 与一は鎧から蒸気を発しながら迫りくる鯨達に向かって走り出した。

 そして、日が暮れる頃最後の一匹を四人で倒すと、四人はその場にへたり込んだ。

「ぜぇ……ぜぇ……な、何とか勝ったわね……」

「ひゅー……ひゅー……」

「鎧付きでこんだけへばるとか……俺弱ぇぇ………」

「まだまだ強くならなくてはな……だが、こんな眼福が有れば少しは気も安らぐな」

 ワールドは何やら地べたに座り込むノヴァの事を凝視しており、与一はワールドの目線の先を見て、手を一度叩き丸を作って遠くを見渡す様な仕草をした。

「貴様………」

 ワールドはグッと親指を立てた。

「アンタたち何を………あっ」

 その瞬間ノヴァの顔は真っ赤になってスカートの裾を押さえて立ち上がった。

「む?何だ?ヤる気か?ならば脱ぐか」

 ノヴァはワールドの股間に凄まじい勢いで遠慮なく蹴りをかまして戦闘不能にすると与一の方を向いた。

「………そーりー」

「じゃあ死にますか?」

「痛い?」

「………もういいです……」

 ふっと目を逸らしたノヴァはそう言ってため息をつくと、与一に向かって手を差し出した。

「あ、立ち上がんの手伝って「そんな訳ないでしょ?」あそう……」

 与一はノヴァの服装のスカートの下をズボンの様な物に鎧の一部を使って変えた。

「どうも」

「いたしまして」

 与一はコーラを少し飲むと、立ち上がった。

「んじゃ、いったん戻りますか」

「そうね」

 与一はバギーに乗ろうとすると、ビートが与一の肩を掴んで鯨の方を指差して自身の口を指差した。

「……あれ食いたいの?」

 ビートは頷いた。

「ど、どうぞ……」

 ビートはのっしのっしと鯨の死体に大股で近づくと、殻のない柔らかいところからかぶりついた。

「おぅ……」

 ムシャムシャと鯨をみるみるうちに平らげていくビートを三人は見ていると、三人同時にぐーとお腹が鳴った。

「ま、まぁ……ちょっと腹ごしらえするか……」

「う、うむ」

「いや、待ちなさいよあれ食べる気?」

「え?鯨のお肉って美味しいんやろ?」

「そうなのか?」

「え?貴方達食べ物安全なのか知らないですこれ食べようとしてたの?」

「まぁ」

「大丈夫であろう?」

「はぁぁぁぁ………」

 ノヴァは盛大にため息をついた。

 すると、そこにタイミングよくロキが回転してその場に現れた。

「ちょっと待ってろ」

 そう言ってロキは鯨の死体に近づいて色々と調べた。

「……うん、こいつスゲェぞ」

 そう言って笑うロキは何匹か鯨を浮かべると四人に身振りで帰るぞとすると、ビートはいつのまにか一匹丸々綺麗に骨も残さずに食べ尽くし、四人はロキに続いて車に乗り込んだ。

「んで?あんだけの鯨の死体どうするよ?」

「あぁ、この地の極寒の気候と、他のモンスターによってある程度は片づけられるだろうが、しばらくはアレを食わないと行けなくなるな」

「肉ずくしかぁ……」

 与一は明らかに不満そうな声を漏らした。

「まぁそう不満そうにするなよ、私が寿司握ってやるからさ」

「前々から思っててんけどロキの料理のレパートリー多すぎん?」

「そうか?」

「それは私もそう思ってたわ、今度また教えてよ」

「時間があればな……あぁ、その時はガキどもも呼んで料理教室でも開くか」

「悪くないわね」

「それよりも、ロキよ、この後はどうするのだ?」

「ん、あの鯨達を片付けてないと行けなさそうだからな……暫くは拠点で修行ついでに滞留するだろうな」

「そうであるか」

「………ぐぉう!」

 すると、ビートが唐突にくしゃみをして四人は一瞬固まると顔を見合わせて笑い合った。

「あひゃひゃひゃひゃ!ビートお前そんな声やったんけ!」

「くっくっく!声を聞いたのは初めてだもんな」

「ふははは、そうであるなぁ」

「ふふっ、ビートはあんまり喋ろうとしないからね」

「………」

 ビートは少し照れ臭そうにするのを見て四人は微笑を浮かべながらユウラビ達が待つ拠点に帰るのだった。
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