Two Runner

マシュウ

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向かうは世界の果て

世界の果てのコースター

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 そして翌日、与一がロキの手作りの朝食をいつも通りに食べ終わると、教習車に向かった。

 与一は大きな欠伸をしながら教習車を開けて中に入ると、部屋の中にマイクを出して、

「はぁ~い、これから授業を始めまーす……5分後に前から5両目の車両に集合ー……受けたく無い奴は好きにしてー、ちなみに内容はお買い物する時に使うような計算とかやから、役には立つと思うでー」

 と言って、車両内に放送を流した。

 与一の放送から5分後、全員の元奴隷とカミラ、タシト、ユウラビ、そしてゴジガジにノヴァにワールドに……ともかくトシアキとセツを除く列車の中の住人が、ほぼ集まっていた。

 与一は集まったメンツを教壇の上から見渡して、教壇に手を置いて、

「多いなぁ……んじゃ先ずは、自己紹介からやな、みんなもう各々自己紹介とかしとると思うけど、俺が分からんから一人ずつ名前と、趣味、特技を教えてちょ」

 与一がそう言うと、ユウラビが手を上げた。

「……はい、ユウラビ」

「まずは先生からしたらいいと思いまーす」

「せやなぁ、んじゃ俺からやな……フジワラヨイチ……年齢も言うとくか、19の趣味はゲームと食事、それとのんびり過ごす事、特技は……太る事、あい、じゃあ俺から見て一番右前の君からどぞ」

「……ドリカ・ナイデュー、16歳、趣味は本を読む事、特技は……早寝です」

 と、言った具合に順番に与一が名簿を覗きながら、進めていき、最後の一人の紹介が終わると、

「はい、ありがとさん……んじゃあ、ひと段落したところで、始めっか……あ、後この授業は40分やるけど20分は強制な、後の20分は自由参加でええよ……ほいだら、コレ……今配った紙とペンで今から俺が描く問題を解いてくれ、見えんかったら手ェ上げぇ」

 与一が白紙の紙とペンを配り、全員に行き届いたのを確認すると、与一は黒板に白のチョークで簡単な足し算を幾つかと、掛け算、割り算を黒板に書き出した。

 与一は教壇の椅子に座ると、全員の手の動きに注目した。

「…………これ制限時間はお前らの机に表示されてる砂時計の中身が無くなったらや、がんばれ」

 そして、砂時計で約3分経過すると、与一は全員の答案を回収した。

「ふむふむ……成る程なぁ……」

 そして与一は全員の答案用紙を裏返して教壇の上に置くと、

「じゃあ次からはクラス分けするわな、三クラスでな……んじゃあ今日はもう20分たったし、やりたい事ある人は解散」

 ……しかし、皆んなは顔を見合わせるだけで動こうとはしなかった。

「……んー、じゃあ算数はとりあえず終わったから、科学やろっか」

 そう言って与一は黒板に『この世を構成する物について』文字を書いた

「はーい、じゃあ皆んなこれ、なんやと思う?」

 与一はそう言いながら教卓の上にH試験管と電源機と同線を取り出した。

「んー手ぇ上がらんなぁ……ほいだら、そこな君」

「は、はい……」

 与一は近くにいた金髪のいかにもお嬢様と言った感じだが、目に大きなくまをしている疲れ切った様な表情の女の子に声をかけた。

「世の中を構成する物……なんやと思う?」

「……私が習った本では水、土、火、空気、エーテルの五つの元素から成り立っているとされています」

「ほーん……他は?」

 他の人も同じなのかうんうんと頷いていた。

「なるへそ、じゃあ、少しずつその常識を解明していこか」

 そう言って与一はH試験管をある程度用意すると、机の上にドンと液体を入れたビーカーを出した。

「これなーんだ?」

 与一はザワザワとざわつく教室を見渡して、

「あい、これはただの水やね、うん、混じりっけなしのただの水」

 ただの水という言葉に更に教室はざわついた。

「まあ落ち着きぃや、んで、これをここに入れると」

 と、その様な感じで与一は自身で操作しながら水を水素と酸素に分解させた。

「あーい……みんなもやってみそ?」

 と、机の上に隣同士で使う分の装置を用意すると、与一は皆んなの机の周りをグルグルと回り始めた。

「……ねぇ与一、さっきのアレどういう魔法?」

「魔法ちゃうよ、水を……まぁ言い方語弊あるけど空気に分解したのよね」

『!?』

 ユウラビが与一に話しかけてその質問の答えに関して、教室の中がまたまたざわついた。

「あーもう何ぃ?何か文句あるぅ?」

「いや……無いけどさ……きみ、この世界の学者さん達敵に回してるの自覚してるの?」

「じゃあ俺は俺の世界の学者さん達敵に回したらええの?」

「いや……そういうわけじゃ……」

「はいはい!皆んなも原理は後で説明するから!……あら、みんな出来たの?」

 与一は皆んなの出来具合を見ると、満足そうに頷いて、黒板に『原子』と書き出した。

「結論から話すと、さっき話してくれた五つの元素の説、あれこの世界でもちゃうのよね」

『………??』

「あー……うん、そう、この世界は全て原子という小さな粒から出来とるんよね、はい、嘘やろと思ったそこの君、じゃあその水から出た空気、五元素の話やと多分今俺らが吸うとる空気と同じ性質の筈ちゃうか?」

 与一はそう言いながら街で買ったマッチを擦って火をつけた。

「あい、普通の空気じゃあこの火、こんな感じに燃えアッチ!」

 与一はマッチをブンブンと振って火を消すと、指にフーフーと息を吹きかけた。

「……燃えるよな?」

 教室に殆どは口を押さえて肩をひくつかせていた。

「はい……んじゃあこっから検証な、その試験管の中に空気さ1:2で出来とらん?あー大体な?」

 教室にいる殆どの人が納得した様に頷くのを見ると、与一はその2の所を指差して、

「じゃあコイツな、空気が入っとるところにマッチ突っ込んだらどうなるべ?」

 そう言って与一はマッチをもう一本付けて、ゴム栓をとってそこにマッチを突っ込んだ。

 すると、教室中にポン!という音が鳴り響いた。

「……まぁ、もしかしたら俺だけかも知れんから、皆んなもやってみて」





















 そして、暫くして教室から元奴隷の子供達が出ていくのをみて、与一はげんなりした様子で見送っていた。

「……君、この世界で学者すれば?」

「嫌や、俺は家に帰りたいのよね、もう既に、ホームシックがすんごいのよ」

「えぇ……」

 ユウラビが困惑した様な声を出して、与一を困惑の目で見ている中、タシトとカミラ、そして何人かの子供達が与一の周りに集まっていた。

「質問なんだけど……」

「よってたかって虐めないで、俺叩いたりされるのやなのよね」

「しないわよ!……さっきの原子って奴、詳しく教えて」

「ん、君らは?」

「私は彼女らと同じ事を質問するつもりでした」

「私達も、でしょ?」

 何だか感情を読めない目の女の子?とその子に対してジト目で腰に手を当ててため息をつく茶髪の特に特徴のない女の子、そして、

「僕も……入ってるよね?」

「入ってるだろ流石に……入ってるよな?」

「普通に考えれば入ってるだろ、そこ自信持てよ」

 と、高校生くらいの男どもとでグループを作るようにしていた。

「……あーい、今何時よ……10時40分まだ俺おねむ……まぁええわ、んで?どう話しするよ?」

 与一は残った人達に椅子に座るように促すと、困ったように顎に手を置いた。

「うーん……元素表は次見せたいし……酸化の話も……あ」

 与一は黒板にグラフを描いて、空気の成分の話をし始めた。

 そして、その頃俊明は、自分の部屋でゴロゴロとしながら怠惰な生活を謳歌していた。

「………んー……つまらんなぁ」

 そんな事を言っていると、彼の目の前にいつも兄がロキと慕っている女神がトシアキの前に現れた。

「なに?夜這い?」

「お前は相変わらずぶち殺したくなるような事サラッと言ってくるよな?」

「ジョーダンやん……ほんまに変わってへんなぁ」

「お前もな、兄貴に言わなくていいのか?」

「何を?」

「しらばっくれるならまぁ、それで良いけどさぁ」

「……ま、にーちゃんがええ思いするんかやから別にええやろ」

「あっそ、お前は本当に10年前経っても、かわらねぇなぁ」

「お前も、ボンキュッボンになっとるおもて期待してたんに……」

「んーな事したら男どもから狙われるだろ?」

「俺の彼女になったら狙われへんようにするけど?」

「くたばれ」

「へいへい………んで?そんな事話に来たわけちゃうやろ?」

「そうだな………ブランクは取り戻せそうか?」

「大体な、にーちゃんから殆ど借りてるからな」

「本当に兄貴は大変だなぁ……それと……新しい能力は?」

「無いなぁ……あっでもにーちゃんが使っとったアレ、やっぱり半分以上貰ったったみたいやわ」

「アイツ……何というか……」

 と、ロキが遠くを気の毒そうに見つめると、ため息をついて杖を振って椅子を出すとそこに座った。

「返す気は?」

「あるわけ無いやろ?」

「さいで………そんだけだ……じゃ、失礼しやしたー」

 ロキはそういうとくるりと回って消えてしまった。

「……何やったんや……いまの……」

 俊明はため息をついて立ち上がると、伸びをして部屋から出た。

 部屋から出てトレーニングルームに向かうと、そこには与一がいた。

「おっっっっっっ…………あ"い!」

「ど下ネタか?」

「ちがわい」

 与一がベンチプレスの100キロを持ち上げているのを見て俊明は引いたような目で見た。

「お前……そろそろ本物になるんちゃうん?」

「望むところよ」

 与一は腕に力瘤を作ろうとしたが、下手くそすぎて腕を曲げただけにしか見えなかった。

「……デブが」

「デブは最強よ?舐めんなよ?」

 与一は腹を叩いたが、吹き飛んだときに使われた肉は無くなっており、平たいお腹をペチペチと叩いただけだった。

「「…………」」

 二人は何だか微妙な空気になって気まずそうにしているとそこにワールドがやってきた。

「ヨイチ!ヨイチはいるか!」

「ここにおりまんがな」

「む、少し外に出てこい」

 与一はあからさまに嫌そうな雰囲気を醸し出しながらも、俊明とともにワールドに連れられて外に出た。

 すると、そこでは何人もの子供たちが剣などで軽い試合をしていた。

「あそこを見てみろ」

 ワールドが指差した方向には与一に質問してきた無表情そうな女の子と、少し鼻につくが優秀そうな少年が剣や魔法をバチバチと撃ち合っていた。

「わーお」

「さて、ヨイチよ」

「ややで?」

「お前ら、コイツをこの砂時計が落ち切る前にのせば次の時間は面白い技を教えてやるぞ」

「あら、お兄さんガン無視はしょげまっせ?」

 二人はすぐさま打ち合うのをやめて与一の方を向いて突進して来た。

「もう!俺筋トレしたいんに!」

 と言いながら与一は二人の剣を掴むと、グリグリとひねった。

「オラッ!離さんかい!オラッ!」

 その間二人は互いに顔を見合わせると、同時に与一の足を払った。

「のぉわ!?」

 与一は剣を掴んだまま倒れ込んで、剣が与一の頬をかすめる様な形で地面に突き刺さった。

「あっぶ!」

 与一は二人の手を掴んで地面に叩きつけると、そのまま服を変形させて地面に打ち付けた。

「はい、終わり……ホンマにお前はなにすんねん!」

「うむ、やはり無理か」

「おーい、聞いとんけー?」

 与一はワールドに話しかけたが無視され、ため息をついてそこに座った。

 そして、二人が何とかして手についた機械を外そうとしていると、砂時計が落ち切ってしまった。

「……はい勝ち」

「ううむ……あの二人ならもしやと思ったのだがなぁ……」

「デブをあまり動かすんや無いで、動けんくなるぞ?」

 与一は二人の機械を取り外すとため息をついた。

「……にしてもさっむいな……」

 与一は腕をさすりながら白い息をはいた。

「うむ、寒中水泳などどうであろうか?」

 それを聞いた訓練をしてる少年少女達の顔がギョッとするのを見て与一は、

「やめたりーや?」

 と突っ込んだ。

「そうか……うむ、そうだな」

 ワールドは納得したように頷くと彼らに向かって、

「それでは本日はここまでである!」

 と、号令をかけた。

 彼らはバラバラに箱に剣などを戻していくとわいのわいのと、騒ぎながら列車に戻っていった。

 しかし、絶対に剣を返そうとしない先ほど与一にしてやられた二人は与一を睨んだまま動こうとしなかった。

 そんな二人を仲の良さそうな友人らしき少年少女が中に入ろうと誘っていたが、二人は首を横に振り与一に剣を突きつけて、

「その鎧無しで、お前の剣だけで勝負だ!武器の差だ、さっきのは!」

「彼の言い分に同意します」

 と言った二人の眼差しを見たワールドは面白そうに笑うと、

「うむ、思う存分にやると良い!」

 と、快く許可を出した。

「え?負けるから嫌やけど?」

『……え?』

 与一はそんな口を開けたまま塞がらない二人に、

「んなもん、勝てる勝負しかせえへんやろ普通、だって君達結構本気で俺のことしばくつもりやろ?嫌やぁ、俺痛いのいやぁ!」

 と、子供のような事を言い出した与一にワールドは笑いながら剣を投げ渡した。

「諦めろ、ここは死地では無い故、構わんだろ?」

「えー……それ言われたらしゃーないよねって話なんよね」

 暫しの沈黙の後与一は剣を投げ捨てて、鎧を変形させてただの籠手を手に纏った。

「剣はいらん、かかってきぃ」

「素手か……舐められたもんだな、それともバカなのか?」

「バカですが」

 与一がそう言ったことに対しては二人とも目をキッとして二人は剣の構えを無言で取った。

「………はじめぃ!」

 ワールドがそう言った瞬間、二人は与一目掛けて剣を繰り出した。

 与一はそれを一歩飛び下がって避けると、同じように来た攻撃を同じようなステップで避けた。

 そして、それに対してもう一歩踏み出そうとして来た二人に向かうような形で与一は一歩踏み出して二人の剣を持っている腕を掴んだ。

「はい、取り敢えずここまではね行けるよねって………ちょ!お前ら何なん!?めっちゃ力強いやん!」

 与一が掴んだ腕が少しずつ動くのに対して驚いていると、二人は剣を手放して与一に向かって関節技を決めにかかった。

「あーーーーそこそこ痛たたた」

 与一は少し顔をしかめると、腕に力を入れたのか凄まじい顔で腕を曲げ出した。

 力では勝てない事を悟ったのか二人は与一の腕から離れると、再び剣を素早く拾い上げ与一の首元に向けて繰り出したが、与一は逆に剣に向かって拳を突き出すと言う暴挙に出た。

「ちょっ!」

「!!」

 二人は一瞬剣の速度を緩めたが、与一は剣を殴るような事をせずに二人の内側から剣を掴んでそのままひん曲げ剣同士を結んだ。

「うぎぎぎぎぎ……コレでええやろ」

 息を切らしながら剣を投げ捨てると、与一は右肩をぐるぐると回して首をコキッと鳴らした。

「ダッサ」

「うっさいわボケ」

 与一は俊明の言葉にすぐさま突っ込むと、腰に手を置いて、

「もう勝ちでええ?えや、この際これやったら負けでもええわ、終わりにせん?しんどいし」

「くっ………」

 少年が悔しそうに唇を噛む中、少女はそんな言葉とは関係なしに与一に突っ込んでいって与一の腹を殴った。

「うっっっったぁぁぁぁぁ!」

 と、叫びながら与一は少女の腕を取って背後に捻ってねじ伏せた。

「いったぁ………完全に油断したったわぁ……」

 そう言いながらも何度かさすって余裕そうにしている与一にワールドと俊明はため息をついた。

「貴様……『あにめ』とやらで見た『ニホンジン』とはかなり違うようだな」

「……一応何見たか聞いてええ?」

「センゴクのサムライが……」

「あー、アレな、うん、アレかー……うん、見たのがちょっとピンポイントすぎたなぁそら」

 与一は最後まで聞く事なく頷くと、少女を離した。

「…………」

「どっか痛めてへんか?」

「特に問題はありません」

「…………さいで」

 微妙な表情をして与一はワールドの方を向いた。

「んじゃ俺は撤収よ、ちょいと空飛んでくる」

「む、我も………」

「だぁめだめ!今回は特別やから……な?」

「ならば後で我も連れてゆけ」

「そぉんなに気に入ったの?空」

「うむ」

「あそー………」 

 そう言いながらも与一はワールド達に背を向けて巨大な箱のある倉庫車の方へと向かって行っていた。

 そして、その前に立つと中から箱を動かしてそこに置いた。

 ワールド達が何事かと見守る中与一は箱に手を触れると、箱が変形して戦闘機の姿へと変貌した。

 それに与一は飛び乗ると、垂直に離陸して轟音と凄まじい風圧を放ちながら空へと飛んでいった。

「な、何だアレは?」

「…………」

「すっげぇ………」

「……あほらし」

 俊明は白けたのか列車の中に戻っていったが、ワールドや少年少女二人は与一が飛んで行った空をずっと眺めていた。

「…………」

 無言でスマホを触りながら列車の通路を歩いていると、ノヴァが俊明の前に立ち塞がった。

「………なに?」

「ちょっと、話したいことがあるんだけど」

「……………嫌」

 俊明はそれだけ言うと世界を置いて何処かへと行ってしまった。

「………逃げられた」

 残されたノヴァは一人悔しそうに呟くと、スタスタと再び歩き出した。





 そして、この日と同じような日々がしばらく続いたある日、与一は列車があまり進んでいないことに気がつき、先頭の列車にいるロキに話しかけた。

「どったん?」

「ん、与一か、いやな、線路に氷が張っちまって塩撒きながら進むしかねぇんだが……食用の塩取っておこうとしたらそろそろ限界が来そうでなぁ……あっ、そうだお前あの大っきい箱動かして列車の先頭にブースターがなんか付けろよ」

「あいよ」

 与一が手を伸ばして黒い箱が列車の先頭に付くと凄まじい音を出してジェットを噴射し始めた。

「うるせぇなぁ………ん?」

 ロキは何かに気が付いたかのように目を見開くと与一の襟を掴んで揺さぶった。

「止めろ止めろ止めろ!!!」

「な、なにぃ?」

「はやくしろぉぉ!!」

「はいはい」

 与一はブースターを逆噴射させて列車を急停車させた。

「どわっ!」

 与一は慣性で軽く吹っ飛んでロキを巻き込むかに見えたが、ロキは宙にふわりと浮いて与一を軽々とかわした。

「………あーたた……どしたん?」

「線路の先が……」

「うおっ………」

 与一とロキは窓から顔を出して列車の線路の先を見て、目を見開いた。

「……なぁ、めっちゃ高いし、なんこれ、ジェットコースターでもここ走っとったん?」

「そう言いたい気持ちは凄くわかる」

 与一は列車から落ちないように縁を掴みながら、列車から身を乗り出した。

「全く……おい、ブースターを逆噴射しながら……ダメだな……この線路反りくり返ってるからゆっくり行こうもんなら後ろが浮くぞ……」

「突っ切るしかないん?」

「他に案があるなら聞くぞ?」

「……無いことも無いっすね」

 与一は3秒ほど考えた後ため息をついてそう言った。

「なんだ、言ってみろよ」

「ロキさん魔法でこの列車浮かせる?」

「……あーしはそれ専門外なんでね、攻撃特化なんで」

 ロキの白けたような言い方に与一は鼻を鳴らすと、

「じゃあノヴァに空飛んで1両ずつ降ろしてもらいやしょうぜ?」

 と言った。

「割とありだな」

 と言い合っている、それと同時刻、列車最後尾では、

「うむ、やはりコレのせいか?」

「…………」

 コクリとうなずくビートの前にワールドは腕を組み、白い息を出しながら線路の氷を顎で刺した。

「うむ、どうやら氷に足を取られて進まぬようだ」

 コクリと二回うなずくビートにワールドは真顔で、

「我らが後ろから押せば動くのでは無いか?」

 と言った。

 ビートは小さくうなずくと、列車が軋むほどの勢いで押し始めた。

「うむうむ、流石の剛力よな、我も負けておれぬな!」

 と、ワールドも列車が軋む勢いで押し始めた。

「うわっ!?何や!?えっ!?えっ!?列車!動いとるやん!」

「と!止めろぉ!」

 与一は慌てて列車の先頭に付けていたブースターを点火したが、列車はさらに勢いを増して進み出した。

「何で何で何で!?」

「いやだいやだいやだ!私こーゆーのにがてぇぇぇぇぇ!!」

 ロキの絶叫を皮切りに列車は凄まじい速度で崖を降り始めた。

「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

「ぎぃやぁぁぁぁぁ!!!死ぬ!死ぬ!死ぬ!」

 二人は絶叫していたが、与一は最初の下りの途中にすぐさまブースターの向きを列車と線路が垂直に向くようにして、上りの最中に腰が抜けて立てないであろうロキを椅子に運転席に固定して、さらにもう一度の自由落下を利用して触手を使って窓から運転席の上の屋根に乗った。

「ううううう!!」

 そのまま、触手で体を固定して与一は凄まじい風圧に顔をマスクで覆うと、叫び続けて動けないロキの代わりに列車の制御を始めた。

 暫くのアップダウンの間、与一は何とか列車が浮かないように何度も肝っ玉が冷えるような思いをしながら、運転していたが、唐突に視界が広がったと思うと、列車が横滑りに滑り出し、完全に停止すると膝から崩れ落ちた。

「あ、ああぁ…………」

「はぁ……はぁ………あっあっあっ……」

 与一は下でロキが何か言おうとしているのに気が付いて、運転席を息も絶え絶えで覗き込んだ。

 すると、ロキはいつの間にか運転席から離れて、窓につかまって真っ青な顔で与一達が降りてきた線路の方を指差していた。

「な………な……?…………なっ………!」

 与一はロキのその指先を追ってロキと同じように顔を青くさせると、ふらふらとしながら先ほどと同じように触手で体を固定して、ロキを掴んで席に座らせると、列車を動かし始めた。

「や、や、やば……はようごけっ!動かんかいコラァ!」

 与一は目を見開きながら列車を何とか前向きにして動かし始めた。

「もっと!もっとはよ動け!」

 すると、列車の後方の線路のところから、亀裂が入るような音が響き始めた。

「お願いいいいいい!もっとはよ動かんかいボケェ!」

 涙目になりながら与一は左右に首を振る列車を何とか動かしていたが、全く吹雪のせいで前が見えなくなってきた。

「……ロキィ!?」

 すると、唐突に与一はロキに向かって話しかけ始めた。

「ロキと過ごしたこの少しの時間、メッチャ楽しかったでぇ!?」

 完全に死を覚悟したような感想を述べる与一だったが、

 下からロキの何かを言う声が聞こえてきて、与一は半ばヤケクソに運転をしながら、運転席を覗き込んだ。

「あ、あそこだ……あそこに線路の続きが……!」

「ま!?どどどこ!?」

 与一は必死に目を凝らしたが、何も見えなかった。

「よ、よっさ!ロキ!線路の方向光かなんかで示せ#@&_?!?&#!?」

「な!?なん……こうか?」

 素直にロキは与一に列車の先頭に光の矢印のようなものを出した。

「#@?#/@、出来れば距離と!」

 その瞬間、亀裂の音が増して聞こえてきた。

「ッウェーイ!!」

 矢印の上にメートル表示で数字が出てくるのを確認すると、与一は屋根の上に乗ったまま列車を動かし始めた。

「ほら!頑張れぇ!」

 与一は列車とブースターに喝を入れて、再び目に炎をともして、動かし始めた。

「右………左………右……左ぃ……」

 かなり横ブレが無くなってきて、そろそろ数字が二桁に突入すると言うところで、与一は最後に深呼吸をした。

「ふー……行くで!」

 一気に息を吐き出して、目をかっぴらいて集中すると、列車の横ブレが止まり一直線に矢印の方向に向かって進み出した。

 そして、残り数十メートルと言うところで急に列車が降下し…………たかと思えば列車が黄金に輝いて黄金に輝くレールに乗って残りの数十メートルをほんの数秒で駆け抜けて、列車の全体が普通のレールの上に乗って止まった。

 あまりの出来事に完全に与一もロキも吹雪の中だと言うのに、汗だくになっていた。

 与一は転がるように運転室に落ちると、ロキが息を切らしながら手を握って祈っているところを見た。

「はぁ……はぁ……もう、暫くはジェットコースターはええわ……」

「………終わったのか?」

「終わったよ………はぁ………うん、終わった」

 与一は満足そうにうなずくと、列車の壁にもたれかかるようにして座り込んだ。

「………ごめん」

「なぁにがぁ?」

「私がしっかりして無いと駄目なのに……」

「マジで、まぁ、苦手なんは誰にでもあるからな、うん、しゃーないしゃーない……ちょっと待って、何で急に動き出したん?」

「………あそこ少しだけ上り坂になってて、あの止まってた付近だけ平らになってたから、前の方に重心が来る様にしてて……多分……それが原因……」

「………何言うとるか全くわからんけど、まぁ、事故やったらしゃーないしゃーない」

 与一はゆっくりと立ち上がると、ロキのそばまで歩み寄って、

「立てるで?」

 と、聞いた。

「……うん、立てる」

 ロキは立ち上がろうと椅子を持って立ち上がったが、途中で手が滑って、転びそうになった所を与一が触手を伸ばして受け止めた。

「……気が利かん男ですまんな」

「……いや、いい」

 ロキは与一の触手からゆっくりと離れると、周りをキョロキョロと見渡して頭を下げた。

「すまなかった、そしてありがとう」

「ん、別にいーよえーよ、んじゃ進めるけ?」

 与一はロキに背を向けるとそう言って、客車に向かって歩き始めた。

「………そうだな……進むとしよう」

 そう言って、ロキも与一に背を向けると列車のブレーキを解除した。

 列車はゆっくりと再び雪を跳ね飛ばしながら、進み始めた。

 





 その次の日、与一は授業の用意をしようと、10分前に教室に入ると、そこには女教師の姿をしたロキがいた。

「………今度は何のイタズラ?」

「いやな……私も教える側に回ろうかなって思ってな」

「ふーん……俺の先する?」

「いや、後でいい……それよりも、昨日は有難な」

「いやホントよ?おれ頑張ったと思うでホンマ……」

 列車の中にいた人達は、シルヴィか誰かが掛けていた無振動魔法で全く何が起こったのかは理解していなかった。

 そして、ことの発端となったワールド達は列車が動き出した後すぐに中に入ってしまった為、何が起こったのかは理解していなかった。

 そして、結局ワールド達が押したということは与一達にも分かっていなかった。

「……それで一つ言っておきたいことがあってな」

「な、なんよ………」

 与一は少し鼻の下を伸ばしながら、後ずさった。

「……お前のことを私が好きになる事は無いぞ?」

「………あっそ」

 与一は拍子抜けしたと言わんばかりにため息をつくと、手を二回叩いた。

「そんだけっすか?じゃあ俺授業の準備あるので」

「まあ、そう怒るなよ、なぁ、ちょっと期待してたろ?」

「………3ミリほど」

 正直に答えるあたり、与一は筋金入りのバカである。

「3ミリねぇ………そっか、まあそりゃそうだよな、お前も男だしな」

「なん、その言い方?」

「べっつにぃ?私は神様だから今日も人をおちょくるだけだ」

 そう言って、グラマラスな女の体からいつも通りの貧相な少女の姿へと戻った。

「じゃあな」

 与一はそう言って去っていくロキの後ろ姿を見ながら、少し考え事をする様に顎に手を置いた。

 そして、ため息をつくとチャイムを鳴らした。

『五分前やぞー、授業始めんでー』










「君の方から誘ってくれるなんて珍しいね」

「まぁ、そうですねぇ………」

「……それはそれとしてキミィ、いくらなんでもアレじゃあ与一くん生殺しよ?」

「そうですねぇ………」

 ロキは列車の先頭でシルヴィと紅茶を飲みながら話し合ってた。

「彼自身、『耐えやすい方向』だけど、溜まりに溜まったものが噴火する時それはもう凄まじいことになると思うよ……多分一瞬だけだけど」

「………私が『いい事』してあげなくても彼は良い人見つかるでしょう?」

「……そんなの知るわけないじゃん、私達デモ未来は見れないんだよ……ただ、君と彼がくっつく可能性もない事は無いだろう?」

「……そうですねぇ……」

「……まぁ、どちらにせよ君が最終的には選択する事だからねボクがどうこう言う筋合いは無いからね」

「…………」

 ロキは黙ったままカップの中の紅茶をジッと見つめていた。

「……それで、今回ボクを呼んだのはそれだけじゃ無いでしょ?」

「えぇ、俊明についてです」

 ……暫く二人は話し合うと、シルヴィはフッと笑ってロキへ一度ワンピースの裾を掴んで一礼すると、くるりと回って消えてしまった。

「本当に上手く行かないもんだなぁ……」

 ロキはそうしみじみと言うと、列車の炉へと向き直った。
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