Two Runner

マシュウ

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向かうは世界の果て

極点での出会い

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 そして、そんなこんなしているある日の晩の事、与一はロキの晩飯を食い尽くした後、トレーニングをして満足げに自分に筋肉がついてきたことを確認すると、いつものセットと少しずつプラスアルファを持って列車の外に出た。

 列車は一時的な点検の為停車しており、与一は腰ほどまである雪をかき分けて、そこにかまくらを作って薪を起こした。

 そこに与一は鍋にある程度の野菜、少し前にセツが取ってきてくれた肉、そして豆腐とロキに買っておいてもらった味噌を入れて作り始めた。

 暫くして良い匂いが立ち込めると与一は読書の手を止め、鍋の蓋を開けた。

 懐かしい我が家の料理に少し感情的な表情をしつつも、レンゲを手に取って取り皿によそうと、少し息で覚ましてから口の中に野菜を放り込んだ。

「………うめぇなぁ……」

 そんな幸せそうな顔をしながらまったりとした時間を過ごしていると、そこに来客がやって来た。

「……何やってんすか」

「ん……えっと……君か、食べる?」

「え………」

「え………」

 やって来たのはワールドから、『良くも悪くも普通の男』と称される彼らの買った元奴隷の一人である。

 与一は謎の反応をされて少し戸惑いの表情を浮かべたが、気を取り直したかの様に中を頬張りはじめた。

「あ、アンタあんだけ食ってまだ食うんすか……」

 少し引き気味の声色に与一は少ししょんぼりした様な雰囲気を醸し出しながらも、黙々と鍋をつっついていた。

「………あーもう!俺にも少し分けてくださいよ!」

「最初からそう言わんかい!俺ニブチンやから分からんど!?」

 与一はそうキレながらもどこか嬉しそうに、当然の如く取り出した追加の皿とスプーンに少年は驚いていたが、そんな事を気にせずに与一は少年に鍋をよそった皿を渡した。

「ほい、くいぃや」

「はむ………」

 少年は野菜と肉を一緒に口に放り込んでもむもむとしていたが、

「……お腹に溜まりますね」

 既にロキのご飯で満腹のところに与一の鍋を食べて、少し食べすぎたらしい。

「まぁ、せやなぁ、食えんかったら俺食うから置いときや?」

 与一のそんな言葉に少年はムッとすると、一気に皿の中の物をかっこんで、

「旨かったです!ごちそうさんでした!」

 と言ってかまくらから出て、少し先の雪の中にボフンと埋まった。

「…………」

 与一は黙ってそれを見届けると、続けてやって来た来訪者のために皿によそった。

「まぁ、この間は悪かったな」

「……もうその話はいい」

「そけ」

 与一はセツに少年とは別の皿とスプーンを渡すと、再び食べ始めた。

「ふむ………」

 セツは意外にもパクッと熱々の具を食べると、ほうっと息を吐いた。

「うん………おいしい」

「そら何よりで……この肉、セツが取って来てくれたやつやで」

「そうか………」

 二人は暫く鍋を囲んで静かな時間を過ごしていた。

 不思議と二人の間にある沈黙はギスギスとした空気ではなく、それよりも落ち着きというか温かみを感じる静かさだった。

「………私も……お前の事をあまり知らないのに、少し言いすぎたかも知れない……」

「ん……」

 そして、二人は頷き合うと再び黙って鍋を食べ始めた。

「なんでよ!」

「「!!」」

 唐突な叫び声がかまくらの中に響き、与一は危うく皿をひっくり返しそうになりつつも、なんとかキャッチして入り口を見た。

 そこにはエリート二人の男女と、エリート女の子の友達の女の子を、エリート男の三人組のもう一人が口を押さえて引っ込めようとしているところだった。

「……どうぞ、お構いなくー……」

「いや構うわ」

 与一は四人にそう突っ込むと、一番手前にいた口を塞がれた女の子に向けて鍋をよそったのを差し出した。

「まぁ、離したりぃや、これやったらちょっと狭いなぁ……ちょっと広するか」

 与一がそういうと、与一の纏っていた防寒具が外れて、かまくらにとりつくと徐々に内部を広げるような形で広げ、六人が入れるほどの大きさになると与一のもとに戻った。

「さ、くおけ?」

 四人は顔を見合わせると、与一が作った椅子に座った。

「先生……ずっと思ってたんですけど、先生は何でそんな凄いものを持ってるんですか?」

「……神器と予想」

 与一はそんな二人の言葉に対してサラッと、

「俺はこれ借りただけやからよう分からんし、あと先生呼ばんといてくれ、先生言われる程の事はしとらん」

 と返し、鍋の中にシメの手前の麺を中に入れると手をすり合わせて楽しそうにした。

「……ロキさんからですか?」

 色々と言いたそうな顔をしながら優等生の少年は与一にそう言った。

「そうとも言えるしそうとも言えへん、ロキから借りたけど実際の所有者はロキやない、ロキは許可を貰ってからコイツを俺に寄越してん」

 と、器に残った汁を飲みながら一息ついた。

「……つまり、貴方は普通の人間……と?」

「せやで、刺されたら痛いし首飛ばされたら死ぬで」

『……………』

 なんとも言えない空気が流れて、彼らは暫くいくつか与一に質問すると、男の三人組の一人の先ほどやってきた少年の居場所を聞いてきたが、与一は健闘も付かへんと返した。

 四人は与一達に礼を言って列車の中に戻ってしまった。

「………良かったのか?」

「何が?」

「アイツ、そこの雪に隠れてるだろ?」

「しらね」

 与一はそんな事はどうでも良いと言わんばかりにぶっきらぼうにへ返事をすると、シメに作った雑炊をポン酢をかけてかっこんだ。

「………そういう所だぞ」

「ごめん」

 素直に謝る与一は、理由を述べ出した。

「俺は何一つ嘘はついてへんで、俺は空間把握能力カスやからさっきアイツが行った所見ても、あるって思われへんだし……ごめん嘘、分かってたけど、なんか理由あってここ来てんから、面倒な事なるんやったら隠したままでもええやろ、アイツら同士で問題が出てきたとしてもこれから先まだまだ時間はあるからな、いずれどうにかなるで……と思ったから」

「……お前、馬鹿じゃないのか?」

「あれ?その言い方やと俺はディスられてる?」

「ちが………ああもう!」

 そう言ってセツは与一の方を向いた。

 そして、ハッと目を見開いて、暫く考え込むと、

「…………ぷっ………くっ………くはははは!」

 と、大声で笑い出した。

「お、お前……!本当に………!うん、そうだな!お前は馬鹿だ!大馬鹿だ!」

 と、笑いながらお腹を押さえた。

「……笑ってんの見た事無かったから見れて嬉しいけど、これはこれで複雑よね」

 大爆笑するセツを横目に、与一は最後の一口を飲み込むと、満足そうに頷いた。

「……ヨイチ」

「なん?」

「私はやっぱりお前の事が大嫌いだ」

「………さいで」

 セツはそう言って微笑を浮かべて立ち上がり、かまくらので口に向かって歩き出した。

 そして、出る際に一度振り返って、

「もっとお前は人を理解しないとな、まあ、それは私もだけどな」

 と言って、吹雪く外へと出て行ってしまった。

「………」

 与一は再びかまくらに一人になると、鍋の片付けを始めた。

「くそぉ………」

 そして、かまくらの中にはそんな声が響いた。

「……」

 安楽椅子に座る与一は目の前でパチパチと音を立てる焚火に眠気を誘われたのか、暫くするとうつらうつらとし始めた。

「………何しとん」

「あら、また来たのね」

 図書館の中を落ちながら与一は彼女に話しかけると、内側から槍に貫かれてその隙間から炎が吹き出し、与一は悲しみに体を丸めた。

「起きたのかしら?」

「俺はお前の事好きやで」

 爆発した与一は下に落ちた自分の身体が女に抱き抱えられるのを見ながら、苦しそうに表情を歪めた。

「まだ眠いのかしら?」

「心の底から好きやねん」

 銃弾が雨のように飛び交う中を走り抜けて、敵を貫き、撃ち殺し、殴り殺し、焼き殺し、頭を撃ち抜かれ、相手を皆殺しにした。

「良いわ、まだゆっくり寝てなさい」

「待って……離れないでくれ……」

 真正面から殴り合い、満面の笑みを浮かべた。

「おやすみなさい、良い夢を」











 与一が目覚めると廊下が何やら騒がしかった。

「……」

 与一はもう一度毛布をかぶるとスヤスヤと眠り始めた。

 もう一度あの夢の続きをと言わんばかりに目を瞑った。

「ーーーーー!?」

「ーーーーー!!」

「ーーーーーー」

『ーー!!!』

「………うっさいわ」

 扉から少し顔を出して小声でそう言うと、与一は再び部屋に戻ろうと扉を閉じたが、扉の間に足を挟まれた。

「………………」

「おや先生ぃ……可愛い生徒達が荷物運びしてる中何呑気に寝てるですかねぇ?」

「先生言うなし、俺は俺、お前らはお前らやし、どうせ極点基地にでもついて、フォール達から頼まれた荷物を下ろす作業をしとるんやろ?」

「そこまで分かってるなら出てきて下さいよ!」

 優秀な少年生徒が顔を般若のように引きつらせながらそう言うのに対して、与一は冷静に時計の時間を見ると、

「わあった………昨日俊明が中に入れてくれたん?」

「いや、ワールドさんですね」

「そけ」

 と言って扉を開けた。

「着替えるから待ちぃ」

 と、再びドアを閉めて30秒後には大きな欠伸をしながらコーラを片手にズカズカと歩いて出てきた。

「全く……ねみぃなぁもう」

「ほら、先生も早く手伝って下さいよ」

「はいはい」

 与一はそう言うと、箱を起動させて台車を作ると、そこに箱をドンドコのせて列車から下ろした。

「俺らの労力は何だったんだろうな……」

「まぁ、仕方ないな、俺らなんだかんだ言ってあの人達に買われた立場なんだからな」

「その通り」

 そんな話を小耳に挟みながら与一は目の前に見えてきた極点基地に目を見開いた。

「………でっけぇ」

 与一達の前には要塞と言うべきほどの巨大な建築物が立ち塞がっていた。

「や、起きたんだねヨイチ」

「や、その声はユウラビか」

 与一は声の方を向くと腕を組んで立ち止まった。

「何サボろうとしてるんですか!ほら、サッサと行ってください!」

「サボりちゃうよ、ええから先いっときちょっとユウラビと話してから行くわ」

「……先生の分はちゃんと残しておきますからね」

「はいはい………にしたってデカいなぁ」

「そうでしょ、ここは世界中の学者とか一流の冒険者、ハンターとかが集められるいわゆる最前線だからね」

 見るからに強固そうな砦を見上げながら与一はため息をついた。

「もしかして、めっちゃ強い奴ら来るとか?」

「んー、ここら辺は少ないけど、ここからちょっと境界に近づけば出て来る筈だよ?」

「そっかぁ……あ、そう言えばロキは?」

 与一は唐突に思い出したかのように周りをキョロキョロと見回すと、何やら白い髭を蓄えた老人と話している姿が目に入った。

「また後でにするか、そーいやユウラビ達はここに何回かきたことあるみたいやな、その口調やったら」

「まぁね、一応私達あのギルドでも上位の人だしね」

 えっへんと胸を張るユウラビに与一は感心していると、背後からワールドの声が聞こえてきた。

「つまりそれは、ここが我にとってとても良い修行の地であると言うことだな」

 と、半袖姿でワールドは体から湯気を出しながらのっそのっそと歩き出てきた。

「さむないん?」

「我はこれも一つの修行と捉えている故……お……いや、よそう……さてユウラビよ」

「な、なに?」

 ワールドはユウラビの頭まで腰を曲げて目線を下げると前屈みの姿で、

「どこから先が最前線だ?」

 と、凄まじい笑顔でそう聞いた。

「え、えっと…………………案内するね?」

 暫く考えた後ユウラビはワールドを連れて行ってしまった。

「……さ、行くか」

 与一は気を取り直したかのように深呼吸すると、ガラガラと音を立てて荷物を載せて運んで行った。

「……はい、ありがとさん、これで最後かい?」

「いや、後……あ、遅いですよ先生」

「なんべん先生言うなしって言わせる気け?」

 与一はため息をつきながら大量の荷物をおじさんの所に納品した。

「………ん、ありがとう、いやー助かった、ここ最近物資の運搬があまり必要なくなったとは言え、たまにはこう言うのも必要だからな」

 と言って、おじさんはポンポンと荷物を叩いた、ら

「……そー言えば何であんな急勾配の線路が?」

「急勾配………?えっ?もしかしてあの線路できたの?」

 与一が頷くのを見ておじさんは目を見開いて、

「うっそだろ……あっちはここに来る奴らを撃退するためのフェイクの線路だぞ?」

「……色々とそれで聞きたいことがあるんですが?」

 おじさん曰く、強大なモンスターなどが徘徊する危険地帯には変わりないのだが、その分出て来る資源は高価なもので密航者や密売人がこっそりとやってきては物資を奪って行くことが昔から多々あった為幾つがニセのルートを作ったそうだが、恐らく途中までは道があっていたのだろうが途中で道を間違えてその線路に入ってしまったらしい。

「しっかし良く生きて来れたな……あそこ通った奴らは死んだか、たまたま近くを警備してる奴らに捕まったかの二択だぞ?」

「オウ……」

 与一は軽く絶句しながらため息をついた。

「ま、無事だったわけだしよかったじゃねぇか、その話ネタに出来るしな!ははははは!」

 そう言うとおっちゃんは笑いながら荷物整理に戻っていった。

「……先生、もしかして俺ら知らないうちに死にかけてました?」

「………断じてノー」

 与一はそう言い切ると、そそくさとその場を後にした。

 与一はポケットに手を突っ込みなら梯子を伝って列車の屋根の上に座った。

 しばらく目の前に開ける賑わった前線基地の様子に見惚れたかのように惚けていると、隣から唐突に声をかけられた。

「綺麗だよなぁ……」

「誰………ですか?」

 唐突に与一の隣に現れて与一と同じように見惚れた眼差しで街並みを見渡す男がそう言った。

「俺はこの列車の主人だ」

「……あーロキが言うとった『タクヤ』……」

「違う違う!アイツとは違うよ」

 男は笑いながら与一にコップを差し出した。

 与一はしばらく躊躇ったような顔をしたが、諦めたように手を差し出して受け取った。

「なら誰っすか?」

「さぁ?俺は俺、それ以下でもそれ以上でもない」

「ここの人ですよねぇ?」

「ちげぇよ!言ったろ?この列車の主人だって」

 男はコップに入ったコーヒーをグイッと飲むと、白い息を吐き出した。

「あんちゃんは日本から来たんだろ?」

「……神様ですか?」

「あっひゃっひゃっひゃっ!ル……ゥォキには敬語使わずに俺には使うのか!」

 男は大笑いをしながら膝を叩いた。

 与一は困惑したように顔をしかめると、服装を変化させてスキャンしようとしたが、男に手で諌められた。

「もう、慌てるなよこっちからちゃんと説明してやる……おいおい、信じろって」

「………」

 胡散臭そうな目で男を見る与一は白いため息をついて、服の変形を戻した。

「……さて、まぁ細かい話だよな、俺はこの列車の主だと言ったが、実際の所は半分正解って所だな、ほれ、お前さんの持ってるコレ」

 男は与一の持っていたチケットをプラプラと見せびらかした。

「これ、大事にしろよ?スッゲー物なんだからよ」

「だったら取らんで下さい」

 与一は男からチケットを取ると、再びポケットにしまった。

「それ、お前さんが繋がる誰かの為の物なんだからよ人助けしたいならちゃーんととっとけよな?」

「???」

 与一は首を捻ったが男は立ち上がると与一になにも言わずに飛び降りた。

 与一は男が飛び降りた方をみたが、案の定男はいなくなっていた。

「……」

 与一は立ち上がると、列車から飛び降りて駅のホームに着地した。

「……ひーらけひらけせかいをひらけー」

 与一はフワフワとした足取りで雪道を歩いた。

 暫く極点基地をウロウロすると、何やら賑やかな声が聞こえてきてそこを覗き込んだ。

 そこは鍛冶場だった。

 しかし、与一の思っていたような地面の上に置いた金床の上で鉄を叩くようなことはせずに、ベルトコンベアーで流れて来たものを機械で金属を叩いて鍛えていた。

「おうぼうず!お前さんこれに興味あるのか?」

 すると、鍛冶場の女の人が声を掛けてきた。

「まぁ、凄いっすね」

「だろう?ここは最先端の技術が実験目的で使われたりしてるんだ!だらが他所の街とは一味違うぜ?」

 そう言ってタンクトップ姿の女の人は、ハンマーを腰のポーチにしまった。

「さて、見たところボウズ、お前さんもかじってるだろ?」

 そう言って女の人は与一を機械の前に連れて行った。

「ここに暫くすると熱々の鉄が運ばれて来るからそれをお前の考えた剣の形にしてみな!じゃ、私はちょっと……」

「えっ!?えっ!?」

 与一が困惑しているうちに、ベルトに乗って鉄が運ばれてきて仕方なく与一は鉄を叩き出した。

「ボウズ!何やってんだ!そんなヘボイ叩き方でいいもの作れると思うな!」

 後ろから飛んできた男の人の怒号に与一は与一は驚きながらも鉄を思いっきり叩いた。

 ガァン!ガァン!ガァン!

 と、下の金床すら破壊しそうな勢いで与一は鉄を叩いて折り返し、叩いては折り返し、を繰り返した。

 そして、ブザーが鳴って与一は形のそこそこ整った鉄をコンベアに乗せると、鉄は別の所に運ばれていった。

 すると、後ろから声がかかって来た。

「だいぶ力任せだけどやるねぇ」

 女の人がいつのまにか厚着を纏って与一の背後で腕を組んでいた。

「ボウズ、アンタ見所があるよ、私のところで働かないかい?」

「……上司に怒られてしまうので」

「だーいじょうぶ、私がその上司とやらに……」

「おい!ガーレイ!さっきの鍛えた奴……誰だそいつ……いや、これやったのお前だな?ガーレイ」

「何さ、私が買った鉄で好き勝手しちゃ悪いのかい?」

「おまえ!何度お前の鉄をここに紛れさせるなと!」

「けちけちするなよ、どうせ私の買った鉄がないとお前さん達暇だろ?」

「うぐっ……」

「それよりも、それちょっと貸しな」

 女の人は与一の鍛えた鉄を受け取り、じっくりと見回すと薄ら笑いを浮かべた。

「……まぁ、こんなもんだろうねぇ……ボウズ私の言う通りにやってみな」

 女の人は与一を有無を言わせずに座らせると、ハンマーを手に取らせた。

「それ、ここ、空気が入っちまってるのがわかるかい?」

 と、女の人は与一を指導しながら与一に剣を作らせた。

「さて、最後にコイツ……お前さんもう分かるだろ?」

 女の人は与一に熱した別の金属を剣の横に置いた。

「あい」

 与一は真剣な目つきで鉄と何らかの金属を混ぜながら鍛えた。

 そして、与一自身が用意した水などで焼き入れ焼きなましを繰り返して満足できるようなものが出来上がった頃には既に朝日が顔をのぞかせていた。

「……はぁ……はぁ……どうですか?」

「うん、そうさねぇ、途中でアンタがやり出したアレはなんだか知らないけど、まあまあの出来じゃないかい?」

 女の人はそう評価を下すと与一にその件を手渡した。

「最後に鞘と柄を付けてやったら完成だよ、ほれ、これは私からの餞別だよ」

 そう言って女の人は使いなと鞘を渡した。

「……なんで俺にこんなによくしてくれるんすか?会ったばっかりなのに」

「そりゃ、私の元で働いてもらう為だよ」

「ズバッと言いますね」

 与一はそう言いながらも柄を剣に取り付けて、鞘に収めた。

「………まぁ、それなりにサマになってるじゃあ無いか」

「それはどうも……」

 与一は鞘に収まった剣を振りながら重さを確かめた。

「少し重いなぁ……」

「お前さん、その体系でそれが重いと言うのかい?どれどれ……軽いじゃないかい」

 女の人は与一と同じように剣を振ったが首を傾げて与一に返した。

 すると、そんな所にロキと髭を生やした恐らくお偉いさんがやって来た。

「ぬ、ここにおったか、コイツがワシら三銃士を継いだうちの一人ガーレイじゃ」

「やめな、私は古臭い呼び方なんて好きじゃないね」

「口は悪いが腕は確かだ……ん?お前さんは?」

 髭のお偉いさんは与一を訝しげに見た。

「コイツは今日から私の弟子だよ」

「お前はそう言って何人の弟子を取って辞めさせたんだ……全く……」

「!?」

 与一が驚いたような顔をしたが、ガーレイと呼ばれた女は、

「あぁん?私がコイツに教えることは無いって思ったからそうしただけじゃないか」

「はぁ……その人は大事なお客さんだから弟子にとるのはやめなさい」

「嫌だね……アンタがコイツの上司だね?」

 ガーレイはロキを見るとにじり寄って肩を組んだ。

「なぁ、アンタ、アイツを私に何ヶ月か預けてみないかい?なぁに絶対に使えるようにはするからさ」

「はぁ、与一その剣を返してとっとと行くぞ」

「うい」

 与一は剣をガーレイに渡すと、ロキの方に歩いていった。

「……ちぇっ、新しい技術取り入れるチャンスだったのにな……」

 しれっと聞き捨てならない言葉が聞こえたような気がしたが、ロキと与一はそれを気にせずにその場を後にしようとした。

 すると、ガーレイがロキに向かって与一の作った剣を投げた。

「……何のつもりだ?」

「やるよ、私が持ってても意味ないからねぇ」

 ロキは受け取った剣をしげしげと見つめると与一に渡した。

「だけど代金は貰うよ、代金はお前さんの知ってる技術だねぇ」

「………僕が知ってる分だけっすよ」

 ロキは与一の言葉にため息をつくと、

「終わったらすぐに出発するぞ」

「あいさー」

 と、与一の適当な返事を聞くとロキはくるりと回って消えて行った。
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