Two Runner

マシュウ

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向かうは世界の果て

対戦後

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「今度は二人ともイケメン、美少女に囲まれて幸せに暮らせよ……」

「………」

 セツと与一は二匹と子供狼を地面に埋めて、棒をさして墓を使った前で手を合わせていた。

「……お前は本当にバカだ」

「あいあい、さいですよ」

 与一は軽くそれを流すと立ち上がって、深呼吸をした。

「俺は一旦街に行くけど、どーすん?」

「……こうなったらお前の全部を見ておく……今度こそ、間違えないように」

「ある程度は好きにしてちょ」

 与一は巨大な箱となった槍を変形させてオフロード電気自動車に変形させた。

「ほら、乗りや」

「……」

 セツは無言でそれに乗り込むと、与一が慣れた手つきでオートマ車のレバーを操作するのを見ていた。

「なぜそれの操作の仕方を知っている?」

「俺が元いた世界でこれの運転の仕方習ったから」

 ぶっきらぼうに応える与一を横目で見ながら、セツはため息をついた。

「コーラ飲む?」

「いらない」

「あそ」

 与一は片手に鎧を器用に変形させてコーラの栓を開けると、コーラを飲みながら街の方へと車を運転させた。

「……ごめんな?」

「はぁ……」

 与一は気まずい雰囲気に耐えられなかったのか、取り敢えず謝れと言わんばかりに謝罪をした。

「もういい、私が甘かった……あ、そう言えば交渉したと言っていたが、お前は何を差し出したんだ?」

「……それは、言わなどうなる?」

「もう一度お前を殴る」

「じゃあ言わん」

 セツは与一の脇腹を軽く殴った。

 与一は脇腹をさすると、痛そうに顔をしかめた。

「いっっっったぁ………まぁ、もう治ったけど」

「だろうな」

 与一は痛みに顔を顰めながらも、ハンドルを誤って操作することなく、キチンと前を向いて走っていた。

「……お前は分からない……本当に分からない……お前は……何を考えているんだ?」

「……さぁ?俺も俺がよー分からんのや、正直な話」

「はぁ……聞いてるのは私とロキだけだ、もう少し考えて答えろ」

「ロキも聞いてんのかい……せやなぁ……基本的にやる事に大体の理由はあるけど、基本的に感情的な事が多いなぁ、損得勘定俺苦手やし」

「いい加減二発目になるぞ?次はもう少し痛くするぞ」

「うーん……うーん……感情で動いた事柄に後からそれっぽい理由を付けてんのかなぁ……」

「はぁ……もういい……私が自分で判断する」

 と、そんなことを言っていると、街の入り口に着いた二人は車から降りると、与一はそれを街に入った列車に向けて飛ばして、ポケットに手を突っ込むと二人は中に入っていった。

 街の中はロボットが暴れていた周辺のみが深刻な被害を被っていたようで、街角では炊き出しなどが行われていた。

 二人がそんな中を歩いていると、フォールがやってきた。

「ヨイチにセツ……だったか?」

 セツは不機嫌そうに頷くと、厚着のジャケットのパーカーをかぶった。

「………私が彼女に何かしたか?」

「俺がしたから不機嫌だと思われ」

「………そ、そうか、それはともかく、よくやってくれた、私個人として礼を言わせてくれ」

「あいあい……んで、最高のガンナーさんは?」

「あー……リーシャか……うむ、その……なんだ、与一が作ったとか言っていたあれだな……うむ」

 フォールの明らかに誤魔化すような物言いに与一は少し首を傾げた。

「リーシャがどったん?」

「……まぁ、来ればわかる」

 諦めたようにため息をつくと、フォールは与一たちを引き連れて、工場の端の部屋の方に案内させた。

 すると、そこではリーシェ達が誰か見覚えのある男の治療をしていた。

「………なんか見たことあるような……」

「お前の頭の中は鳥程度の脳しか入ってないのか?コイツは列車を襲った盗賊のリーダーだ」

 セツは辛辣なことを口走りながらも、きちんと最後まで与一に説明をした。

 そして、腕を組んで与一に目線を送った。

「………んで?なしてあんさんがここにおるわけ?」

「………あー?あー……君かい……ちょっとどいて」

 男はリーシャを手でどかすと上半身を起こした。

「……これ、返すね」

「………ん」

 与一は男から機械を受け取ると、服にそれを同化させた。

「凄いな……くくく……ぐふっ」

 男はお腹を抑えて口から血を吐き出した。

 リーシャ達が動こうとすると、目にも止まらぬ速さで銃を取り出すとリーシャに突きつけた。

「……さて、その様子だとアイツをぶっ殺してくれたみたいだな?」

「トドメはこの子がやってくれたんやけどな」

「あそう……」

 男は懐から葉巻を取り出して先を銃で撃って火をつけた。

「ふぅー……アレはどうなった?」

「あのロボットけ?」

「ロボット……君らの呼びかはどうでもいいけど、そうだな……中に女がいなかったか?」

 与一は首を傾げた。

「いや、乗っとったのは男だけ……ぐぇ!?」

 セツが与一の頭に拳を振り下ろしたのを見て、男はニヤリと笑った。

「夫婦か……いいもんだ……」

 セツが男に向かって凄まじい視線を投げかけていたが、男はそれに気付いていないのかそれともフリなのかは分からなかったが、男は楽しそうに笑った。

「………メネシス……やったっけ……そんなAIの子が俺の鎧の殆どを持ってっちゃったのよね……」

「生きてたのか!?」

 男は驚いたように声を張り上げたが、興奮しすぎたのか更に口から血を吐き出した。

「ぐっ……なぁ、君に……頼みがあるんだ……」

 男は与一を手招きして呼んだ。

 与一はなされるがままに男のそばに近寄ると膝をついた。

 すると、男はガッと与一の肩を掴んで、

「アイツを……アイツを君にやるよ……ただ……絶対に大切にしろ……いいね?」

「………分かった」

 与一は男の手を握ると大きく頷いた。

「そうか……ゲホッゲホッ……」

 そして、男は仰向けに倒れると、口から葉巻を落としてそれからしゃべらなくなってしまった。

「……んで?なしてこの人がアレを?」

 与一は担架に乗せられて布を掛けられて運ばれていく男を見送りながらフォールにそう聞いた。

 曰く…………

 俊明に与一が作った機械をリーシェに渡した後、頭を撃ち抜かれたにもかかわらずフラフラになってやってきた男がリーシェから機械を奪い取って信じられないくらいの正確さであのロボットを狙った、らしい。

 与一は納得したように頷くと、少し腕を組んで考えるような素振りをすると、

「じゃあ」

「待て」

 頭を叩かれて頭を抱えてうめく与一にセツは追い討ちをかけるように、

「一言あるだろう?」

 と、与一を睨んでそう言った。

「……ほんまにめちゃくちゃな計画は、フォールらとかなりの運で上手く行ったから……ありがとうな」

「お前ぇ……!」

 セツは握り拳を作ってワナワナと震えていたが、諦めたようにため息をついた。

「………行くぞ」

 セツはオロオロする与一にそう言うと、工場から出た。

「あっちょっ!」

 フォールにリーシャが二人の後を追うようにして出て行った後、四人は町の中央の広場を通って、恐らくロキが止めたであろう列車が駅のホームに止まっていたので、そこへ向かった。

「……ただま」

「ん、戻ったか、じゃあめんどくさい事に巻き込まれる前に出発するぞ」

「あいお」

「ま、待った待った!復興の手伝いをしろとは言わないがせめて街を救ってくれたお礼などを……」

「与一?」

「ロキに任せるわ」

「じゃあいい……いや、どうしても礼をしたいと言うならここに金を送っておけ」

 そう言ってロキはどこからか紙とペンを取り出すと、スラスラと何かを書いてフォールに渡した。

「いや、それはちょっと……」

 フォールは引きつったような顔をするのをロキが見ると、納得したように頷くと与一とセツを列車の中に入れた。

「じゃあしゅっぱーつ」

「あっちょっ!」

 汽笛を鳴らして走り出した列車の横にフォールは並びながら、

「すまんが街の復興が長くなりそうだから、予定よりも長くなりそうだ!!」

 と、徐々に列車から遠ざかりながら叫んでいった。

「………やってさ」

「んな事言われなくてもわかる」

 ロキはシッシと手を振って与一を退けろと追いやった。

「……結構おしゃべりになったみたいだな?」

「………!!」

 セツがロキに向かって構えると、与一はセツに向かってヘッドロックをした。

「お前!何を……痛い痛い!待て!何だそれは!」

 与一がセツのこめかみに拳をグリグリと押しつけてロキに顎で先に行けと指した。

 ロキは薄ら笑いを浮かべてフワフワと飛び去るのを見届けると、与一はセツを離した。

 離れぎわにセツは与一の腹に拳を叩き込んだが、与一は少し抑えさすっただけで普通に歩き出した。

「フーッフーッ!」

「獣みたいな声上げなさんな、気に入らんかったらすぐに暴力はアカンで」

 そう言いながら与一はコーラを服の裏側から取ると、栓を抜いて飲み始めた。

「……それを言えばお前もだろう」

「せやなー」

 セツはむくれっ面になると、与一の肩をどついた。

「ほいだら、ゲームでもしよっかね」

 コーラを飲みながら歩き出した与一の後にセツは続くと、二人は娯楽車の方まで進んでいった。

 娯楽車につくと、与一の目は見慣れない広さになった施設の内容だった。

「……広なったなぁ、おっ、将棋にチェス、オセロに麻雀、トランプに双六……そう言うのも増えたかぁ」

 与一は嬉しそうにそれらを眺めると、その奥の暗めな部屋の中にドンと置かれたビリヤード台とその奥にあるボーリングの設備を見つけた。

「……じゃあセツ、ビリヤードでもする?」

 ……………………

 与一がテレビゲーム以外でボコボコに負けるまでセツに付き合わされた後、与一は走る列車の屋根の上に乗った。

 まだ昼過ぎで与一のスマホでは14時23分を指していた。

「……んー……」

 与一は雪が積もり、風が吹き荒れる中その上に横になって伸びをしていた。

 どうやら雪の冷たさが心地よいのであろう。

 目を閉じて体を服で固定すると、体に雪が積もるのも構わずに、与一は息をゆっくりとさせて夢の世界へ……。

 与一は落ちていた。

 図書館の中を、上から下に。

 途中何人かの人と目を合わせたような気がしたが、与一は地面に溶けるように墜落した。

 体が煙のように再構築されると、与一は目の前で本棚を整理する中世の貴族のような服を着た黒色の髪の長い美女に目を奪われた。

「あら、めんどくさい人が来たわね」

 与一は声を出そうと口を開けたが、喉から息が出て喉が震えているはずなのに声が出なかった。

「あらそう………でももうそんな事は関係ないわ」

 与一は目を回しながら叫ぶように口を開けて、美女に掴みかかったが、美女は与一にされるがままに押し倒された。

「………死ねば?死なないけど」

 与一は傷ついたように顔をしかめて、今自分がしている事に気がついたのか、逃げるように後ずさった。

「……死ね、死ね、死ね、死ね、死ね」

 美女の口から真顔で放たれる言葉に、与一は首を振って倒れるように落ちて行った。

 そして、もう一度地面にぶつかりそうになった瞬間、与一の目は覚めた。

「………」

 与一は無言で起き上がると、立ち上がって目を窄めながら列車の中に戻った。

 与一はフラフラとしながら列車の中を歩いていると、後ろから何かを投げつけられて倒れ込んだ。

「前に仕留めた奴の肉だ好きに使え」

 セツがそう言いながらそっぽを向いて与一をわざわざ踏んで歩いて行った。

「あ"あ"………」

 めんどくさそうに立ち上がると、与一は服を一枚脱いで背中の部分を叩くと、肉を持って食堂車に向かって行った。

 すると、そこではロキが買った奴隷達の前で何かを説明していた。

「……という訳で、それ以外は自由にしろ、以上解散……あ、アイツがバカの与一だ」

「どーもバカです、俺が教えるのは『化学ばけがく』、『物理』、んでもって生物学や、まぁ、全部軽くやし実験大目でやるからそこんとこよろしく」

 与一がそんな事を言いながら、コーラを煽っている姿を見て奴隷達は白い目で与一のことを見た。

「馬鹿野郎、お前はそれに算数もだ」

「あらぁ、俺どんだけ教えなきゃいけないの?俺ゲームしながらダラダラ旅を楽しみたいんやけど?」

「お前なぁ……どこの誰が『可哀想な奴隷を助けよう!それはそれとして、助けた奴隷は恩を感じるだろうし、めんどくさい仕事させようぜ』って言い出したのは?」

「間違いなく俺や無いなぁ……思うにその言い方やと俊明か?」

「弟の発言の責任はもちろん兄も取るよなぁ?」

「アイツ……三億回くたばり申しやがれ」

 ロキはやれやれと首を振ると、与一に鍵を渡した。

「教習車の鍵だ、昼に一回、夜に一回で列車を止めるからその時にワールド達に実習させるから、それ以外の時間はお前が自由にしろ」

 と、そう言ってロキは奴隷の子たちに解散と言って消えてしまった。

 残された奴隷の子達はなかった与一に目線を移した。

「……自分の部屋にもどりんさい、今日はまだ疲れとるやろ、勉強は明日からや」

 そう与一がいうと、奴隷の子達は椅子から立ち上がって居住車の方へと何か話し合いながら向かって行った。

「………」

 与一は手に持っていたコーラを飲みきったのを確認するとため息をついて、二本目を飲み出し、冷蔵庫に肉を突っ込んだ。

「………何人か貰ってもいい?」

「アカンに決まっとるやろ」

 カミラの危ない発言に与一はカミラを向くことなくそういうと、貰った鍵を使って列車の扉に鍵を差し込んだ。

「ちょっと、何でそんなところに鍵を差し込んでるのよ?」

「思い当たる節があるからや」

 与一がそう言って鍵を回すと、ガチャリと音がして与一は扉を開けると、そこは黒板がある大きな教室だった。

「………机と椅子は……」

 そう言うと、机と椅子が壁から出てきて与一の前に並んだ。

「……ふーん、ビーカーとフラスコ」

 さらに試すようにそう言うと、机と一緒にビーカーとフラスコが一つずつ与一の前に並べられた。

「しまう時は?」

 与一がそう言って机やフラスコなどを調べていると、カミラが後からやってきて、

「こうすればいいんじゃ無いかしら?」

 と言って、部屋の壁にあった赤色のボタンを押した。

 すると、出したものが全て壁に再び吸い込まれて行った。

「………へぇ」

 与一はそう言って感心していると、カミラが窓を指さした。

「み、見なさいよこれ……」

 与一はカミラが指を指した方を向くと、窓の外の景色がこの列車の外の景色と同じ事に気がついた。

「ええやん……ん、ええやん」

 与一は満足そうに頷くと、黒板についていたチョークを取って、黒板に数字を書き始めた。

「何を書いてるのかしら……あ、それ……数字ね」

「この世界の数字はコレとは書き方っていうか……文字が違うやろ……やから、先ずは数字をすり合わせとこおもてなせっかくやし……じゃあ先ずは……」

 そう言って与一はスマホを取り出すと、カミラから数字の書き方を教えてもらった。

「へー……やっぱり面倒いなぁ……」

「私からすると、あなたたちの方がよっぽど面倒くさいと思うんだけど……」

 なんだかんだ言いつつも与一は黒板に書いた字を、スマホのカメラで撮るとため息をついてポケットにしまった。

「……私もそれ欲しい」

「ロキに言うて、俺はコレ自分の世界から持ってきたもんやからな」

「そう……かして?」

「嫌な予感しかしないからややけど?」

「ちっ」

 与一はカミラが舌打ちするのを見て、やっぱりと呟いて、部屋から出た。

「……で、今日はどうするの?」

「知らん、風呂、飯、寝る」

 そう言って与一は手を振りながらカミラの前から去って行った。

「全くもう……」

 カミラは呆れてため息をつくと、踵を返して自分の部屋へと戻っていくのだった。
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