Two Runner

マシュウ

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向かうは世界の果て

余計なことしたがり

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 率直に言えばそこは地獄だった。

 人々が悲鳴を上げながら殺し合うその現場はあまりにも、現実離れしていた。

 顔見知り程度に見ていた顔が若干白くなりながら体から赤い液を流しながら地面に横たわっているのを見た与一は目を細めた。

 そして、小刻みに震える手を前へと持っていくと、この地獄を作り出した元凶に向かって指差した。

「あったま来たわ!お前は絶対にぶん殴らせて貰うでぇぇぇぇ!」

「バカ!隠れろ!」

 俊明が与一の首元を引っ張って物陰に引っ込めた。

「何すんねん!離しやがれ!」

「アホか!アレ見てへんかった!?」

 俊明は機体の向こう側に見える、火をあげる真っ二つに割れた建物を指差した。

「分かっとるわ!それぐらい対策済みや!」

 そう言って与一は鎧を少し指で弾いた。

 すると、鎧の表面が揺れた。

「エネルギーシールドや、この箱の中にデータが入っとってそっから俺はそん時使えそうなやつを使っただけや!ええか?逆に、あるもんは全部使ったらええってことや!」

 そう言って馬鹿な与一は全体に均一にしていた鎧を両腕にある程度集中させた。

「じゃあ殴ってくる」

「馬鹿者、そういう話ではない、その攻撃自体が先ずあの化け物には効かんと言うことだ……避けろっ!」

 三人はその場から飛び退いた。

 三人が飛び退いたには若干のガラスと化した地面だけが残った。

「くっそ!ギルドの人らまでおるやんけ……フォール達の姿は見えへんけど……」

「恐らくあの工場地帯にいるのだろう、あそこから特殊な魔力を感じる……」

 ワールドは自分達を探してさまようギルドの人物達に悪態をつきながら、もう一度物陰に隠れ無線越しに与一に話しかけた。

「そーいやにーちゃん俺らはなんで無事なん?」

「そのイヤンホホのおかげよ」

「あーはいはい」

 俊明は自分の右耳についているイヤホンを押さえて頷くいた。

「魔法のキャンセリングまでかけて来とるし……殴っても撃っても再生するし……」

「だから炎が有効つったろ?」

 すると、無線越しにロキの声が聞こえた。

「炎使おうにも近づかなあかんし、近づいたとして燃やしたとしても、表面に何でかエネルギーシールドあるし!どしたらええねん!」

 すると、与一は暫く考えた内に、

「掴んでめっちゃ上から叩き落としたったら!それこそ成層圏から!」

「無理ね、掴もうとすれば取り込まれるわ、現に私の腕一本取り込まれたからね」

「ウィ!?それ大丈夫なん!?」

「大丈夫よ、また生やしたから」

 ノヴァの新たな特技に与一は舌を巻きながら、考えた。

「考えろ考えろ……いつも妄想してるんやからええの一つぐらい出てもええやろ!」

 すると、唐突に空を切り裂く音が聞こえて機体が少し破損した。

「命中!すごいです!ビートさん!」

 無線の向こうからアスターが喜ぶ声が聞こえた。しかし、すぐに悪魔の機械は再生してしまった。

「……考えろ考えろ……敵自身の手で……どないしてやんねん……」

 そして、悶々としている内に与一の目がギョロギョロ動くと、フッと唐突にどこか吹っ切れたようで、どこか人が変わったような笑いを浮かべると、

「もーええわ!とりあえず叩いたれ!」

 そうして与一は悪魔の機械に向かって駆け出すと、連続で機械に拳をたたき込んだ。

 与一の手に装着した大きな籠手は機械に当たるたびに爆発を引き起こした。

 すると、徐々に装甲が剥がれていってロボットの胴体にあたる部分の装甲が弾けると、そこには、

「おのれおのれおのれ!我に逆らうつもりか!」

 と、与一に向かって肉の塊の中に半身を埋めたエルフの男が叫んだ。

「おい!私の神眼によるとアレがコアになる部分だ!」

 と、与一の目の前に現れたものをどうにかして見ていたロキは無線越しにそう言った。

「畳み掛けろー!」

 ワールドの号令でありったけの攻撃が始まろうとしたが、それを白目を向いた町の人達やギルドの人達が肉壁になって止めようとしてきた。

「じゃ、邪魔くさい!」

 与一は自分につかみかかってくる人たちを軽く払いながら大きく後ろに飛んだ。

 与一は手をニギニギしながら苛立ったように歯を食いしばった。

「めんどいなぁ!まったく!もう!ほんまに!キレたで!」

 そう言って与一はパンと手を叩いた。

 すると、遠くの街の環状線を回る列車から何かが空高くに飛び出していった。

 与一は手に何かの計測機を作ると、それをロボットに向けた。

「衝突よーい……ドン!」

 と、言った瞬間与一の背後から凄まじい勢いで巨大な槍が飛んできてロボットの右腕を吹っ飛ばした。

 目に見えないほどの勢いで突っ込んできた槍はロボットが立っていた通りを抜けてまた上空に飛んでいった。

「お、おのれぇぇぇぇぇ!」

「おいよ、こいよ!」

「バカタレ!何でそんなん有るんやったらさっさと使わんねん!」

「これ使っとる間俺の鎧が使い物にならんからやー!!」

 与一はそう叫んで計測機を片手に持ったまま走り出した。

「ば、バカ!大声で叫ぶ奴があるか!」

 俊明とワールドは一瞬で与一に追いつくと、与一に並んで走り出した。

「ぜぇ……ぜぇ……この町でアレ地面にぶっ刺したら被害が大きいから……ってかこの街の基盤ごと叩き割ってまあやらから……やべっ!」

 与一はそう言って横に飛んだ。

「貴様!何度我を殺せば気がすむ!」

 与一はそれを答える事なく、街の崩れている塀から飛び出た。

「……やばっ!早すぎた!……俊明……いやノヴァ、ワールド時間稼ぎ出来るか!?」

「……何考えてるか知らないけど時間稼ぎって何の?」

「今地形スキャンしたら周りに何も無いところがあってそこでアレをブッ刺す!」

「ふーん……アレねぇ……何だか懐かしい気がするわね」

「ええから出来る!?」

 与一はもはや悲鳴を上げながらそう言った。

「はいはい、任せなさい、龍の力伊達じゃ無いって見せてあげるわ」

「我もノヴァ程ではないがそれなりに時間を稼げるだろう」

 二人は頷くとロボットに向かって行った。

「……で?役立たずの弟は何したらええん?」

「お前は街の人らを取り敢えずあの工場に連れてけ!」

「……あの魔力がどうとか言ってた所?あー……理解」

 そう言って俊明は世界を置いて走り出した。

「さて……ただ今上空20キロ……まだまだ上がれ!」

 与一は空を駆け巡る槍を見上げながら目標地点まで走り続けた。

 そして、その頃工場地帯では、

「やはり私が行く!」

「何度言ったらわかるんですかお嬢!ただ無闇に出て行って帰ってこなかった奴ら何人いるんすか!」

「遠距離でスコープを覗くぐらいなら……」

「で、出た瞬間に精神支配されるワイナ、分かるワイナ」

「ならどうしろと!」

「まぁ、落ち着きたまえ……もしもの為に置いていたアーティファクトが役に立つなんて……」

 そう言ってリーチェの父は機械に接続された光る四角の箱に、手を置いた。

「……事態が事態では無ければあなたには色々と聞きたいことがあるのですがね……」

 と、フォールがリーチェの父に問い詰めようとしていると、凄まじい勢いで入り口が開かれて、全員悲鳴を上げて伏せると、その入り口を開けた張本人は気まずそうに首を傾げた。

「……流石に急ぎすぎたか……」

「トシアキ!」

 フォールは俊明に駆け寄ると、俊明が担いでいた人を見て驚いた。

「ここに入れたら治るかおもてさ……」

 そう言って俊明は地面に運んできた人を転がした。

 すると、転がされた人は暫く唸ると、頭を押さえて起き上がった。

「うっ………ここは……フォール?」

「おまえ……状況の説明を!」

 と、俊明の方を向いたときには既に人が山積みにされていた。

 そして、俊明がゆっくりとさらに持ってきた人を下ろすとため息をついた。

「これで多分最後やろ……んじゃ、あ、後これ与一が『何か飛んだのが見えたらおっきい方をこれで狙え』やってさ」

「ま、待って!?貴方達は無事なんだ!?」

 俊明はリーシャに向かって何かを投げ渡すと、自分の耳についているイヤホンをコンコンと二回叩いて、再び世界を置いて走り出した……と思えば、近くで凄まじい衝撃が起こった。

「な、何事だ!」

 フォールはとうとう堪えられなくなったのか外に飛び出ると目を見開いた。

 そこは丁度血塗れの与一とロボットが真正面から勝負している所だった。

「アラララララララァーイ!」

「うぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 二人は体を吹き飛ばし、再生させながら周りに衝撃波を放ちながら戦っていた。

 しかし、体格差で負けている与一は重い一撃を喰らうと錐揉み回転をしながらまだ稼働中の工場に突っ込んでいった。

「っっっっっっっあ"…………」

 与一は体を瓦礫から起こすと、声にならない声を上げて周りを見回した。

「工場……」

「ヨイチィィィィィ!ギザマハゴロズ!」

 最早人の領域から離れてしまった男の慣れ果てを見上げながら与一は耳を澄ました。

「……聞こえんなぁ……」

「ア"?」

「ガッシャンガッシャン、トントンカン……」

 そう呟きながら与一は立ち上がった。

「これぞ正にファクトリー……ちゃうけ?」

 与一は両手を開いて肩を竦めた。

 そして、与一がロボットの方に向けて手を伸ばすと、工場の機械達が一斉に動きを止めた。

「……え?そんな物使えたの……?」

 空を飛べるノヴァが一足先に与一の事を確認してそう言ったが、与一はそれを気にする事なく手を前に突き出した。

「ガッシャーン」

 そう言って腕を前に突き出した与一のそれに連動するように工場の機械達が人が操作していないのにも関わらず一人でに動き出して、大きなプレス機を凄まじい勢いで作り上げてロボットの方に向けると、そのままロボットを吹き飛ばした。

「……さぁて、新しい力が目覚めたみたいだね……祝おう、彼はなんでも作ることができたのさ……『工場王こうじょうおう』」

 いつのまにか瓦礫の上に座ってニヤニヤしながらそう言っているシルヴィは上機嫌そうにお茶を飲んだ。

「ガリガリガリガリーン」

 与一がそう言って手をすり合わせた。

 すると、背後の機械から更に新しく回転する丸のこが出てきて、ロボットの装甲を削った。

コース通りに!一発ずつ食らいやがれ!コースバイコース!ワンバイワン!

 意外と表情の割にはふざけた事を抜かす余裕のあるらしい与一は、一歩ずつ前へロボットを追い詰めた。

「おのれおのれおのれぇぇぇぇぇ!!」

 すると、ロボットは周りの瓦礫を巻き込んで更に巨大化し始めた。

 与一の背後の工場よりも巨大な影が出来上がるのを与一は見上げると、

「…………見上げ入道見ーこした!……あ、無理?」

 与一はそう言うと、さっきまでの様子とは打って変わって反対を向いて逃げ始めた。

「逃さんぞぉぉぉぉ!!」

「わーーーーー!!無理無理無理無理!!ノヴァ!ノヴァ!ワールドでもええから助けてー!!」

 与一に伸ばされた巨大な手が与一を握ろうとしたその時、光が巨大なロボットの腕を貫いた。

「ホンマ何してんの!?街の外に誘導するんちゃうんけ!?」

「それやったら捕まるから一旦あの槍宇宙空間に待機させといた!あれ操作しとる間、集中しやな……あっぶ!」

 起き上がった巨大ロボの拳を与一は間一髪で躱しながら、続けた。

「集中しやなアレ動かせんから!それやったら三人で押し出そうおもてんけど……」

「せぇぇぇぇい!」

 続いてロボットの頭の部分にノヴァの鋭い蹴りが入り、再びロボットは地面に倒れ込んだ。

「そうしたらアレ、何故か与一しか狙わないのよね」

 ノヴァはパンパンと埃を払うと、与一をヒョイっと立ち上げた。

「自分で立てるわ」

「はいはい、足ガックガクのクセによく言うわ」

 確かに与一の足はガクガクと震えていた。

「だが、与一が居なくなれば戦力的に厳しくなるのはまぁ、事実……なのか?」

 背後から追ってきたワールドが首を傾げながら三人に合流した。

「おいおい、私がちょっと目を離した隙にどうなってやがんだ?」

「ロキィ?あー……取り敢えずまぁ何とかするわ」

 与一はイヤホン越しにロキにそう告げると、巨大なロボット向けて手を向けた。

「にーちゃんさっきのは多分もう無理やで……まぁ見とき……」

 と、俊明が自身ありげに与一を押しとどめると、ロボットに向かって走り出した。

「空にある太陽が輪を持っているように!俺も輪を持ってるんや!」

 謎の自論を繰り出した俊明はロボットに向かって飛び上がると、俊明を中心に何かが幾つもの軌道で高速回転してロボットを滅多斬りにした。

「俺を中心に世界が回っていないなら……俺が世界を回す!」

 俊明の目が爛々と光り、マントを羽織った何かと重なって見えたような気がした時、シルヴィの声が聞こえた。

「あっはっはっは!いいねぇ!さぁ、祝おう!彼は世界を守る人物で、世界を掛けて戦い最後は自分で世界を回し、輪を完成させたその勇姿をどうぞご覧に!」

 そう言ってシルヴィは興奮気味に叫ぶと、目を見開いた。

「うそ……もう一つ………?………あ、あぁ……!ソウヤ!だとしたら君の目的は一体!?」

 シルヴィは明らかに兄弟を困惑した目で見ると、ワンピースのヒラヒラを翻して消えていった。

「お前ら!合わせろよ!」

「合わせるのはお前や!」

「ふむ、中々に高ぶるな」

「……ふふっ」

 四人は不敵に笑うと、巨大ロボットに向かって攻撃を開始した。

「ッアァイ!」

「ッラァ!」

「フンッ!」

「ッタァ!」

 一撃ずつ大きく後ろに吹っ飛ばされ続けるロボットは立ち直ることができずにいた。

「与一!」

「あいよぉ!」

 与一は自分を発射台にしてノヴァを勢いよくロボットに向かって打ち出すと、後に続いてロボットを殴った。

「全力で殴れ!」

「俺は蹴るけどなぁ!」

 俊明の蹴りとワールドの拳がロボットにめり込み、ロボットは更に大きく吹っ飛んだ。

「っっっ調子にのるなぁぁぁ!!」

 が、何とか体制を立て直したロボットは与一と俊明に向かってエネルギーブレードを振り上げた。

「「危ない!」」

 それをノヴァとワールドがギリギリではじき飛ばすと、二人は何とか避けたが二人とも遠くに吹っ飛ばされてしまった。

「「ノヴァ!ワールド!!」」

 二人はノヴァとワールドが無事そうなのを確認すると、顔を見合わせ、拳をぶつけた。

「最終ラウンドっぽいなぁ!気合入れぇや!」

「うっさい!足引っ張んなよ!」

「あいあい!」

二人はロボットの足元に入り込むと、同時に蹴りを打ち込んだ。

「チャーオー!!」

「まだやぞ!」

「「ダメ押しもう一丁!!」」

 更に二人はもう一度蹴りを突っ込むと、ロボットは遥遠くに飛んで行った。

 与一は周りを見渡して頷くと、

「あっこは……おっさ!ええやろ!」

 と、言って空に飛んで手に計測機を作ると、ロボットに向かって行ったが、

「まだだ……まだ終わってないぞぉぉぉ!!」

 すると、ロボットの背中に翼が生えて与一に向かって飛び上がった。

「与一!」

「くっそ!」

 与一は計測機をロボットに向けたまま空を飛び始めた。

「まてぇぇぇぇ!」

「くそくそくそくそくそくそくそ!!」

 与一は最大のスピードで飛んでいたがロボットはそれに追いつきそうな速さだった。

「音速は……超えられへん……ほんまなんで!」

 明らかに音速ギリギリの速度で飛んでいる与一に追いつきそうなロボットは衝撃波で弾け飛んでも良さそうなのだが、一向に弾け飛ぶ気配はなく、ついに与一の足を掴んだ。

「捕まえたぞぉぉぉぉぉ!!」

「ちょまっ!怖い怖い怖い怖い!」

 与一はもがいていたが、頭の部分が口を開くように開くと、

「これで貴様は我に攻撃することは出来ん!」

「……えーや!自称世界最強のガンナーさんにお前はもうロックオンされとるで!」

 そう言って与一は鎧を変形させてロボットの手を破壊すると、ロボットの顔に足を乗せて、

「アディオスアミーゴ……次は友達にでもなろで?」

 そう言って蹴って離れた。

 その瞬間ロボットの頭から槍が刺さってそのまま地面に凄まじい速度で落ちていって、地面に大きなクレーターを作って墜落した。

「……ふぅ」

 与一は鎧を元の服に戻してブースターを切って自由落下で空から落ちた。

「…………よっと」

 与一は暫く自由落下を楽しむと、鎧を元に戻してブースターを噴射しながら地面に着地した。

 大きく凹んだクレーターの中心には大きさが10分の1になってロボットが槍に貫かれた状態でひしゃげていた。

 与一は最後の確認の為かロボットの近くに近寄った。

 そして、コックピット部分を開けようとすると、そこから手が出てきたことに驚いて尻餅をついた。

「く……そが……まだ……せめて貴様だけでも!」

 コックピットから転がり出てくるように出てきたエルフの男は与一の首を締め上げた。

「くぇぇっ………!」

 間抜けな声を上げながらも、与一は本当に苦しくてそうな感じだった。

 しかし、そんな与一を救ったのは俊明でもノヴァでもワールドでもなかった。

「やはり私の見立てに間違いは無かったな」

 と言って男の腕を短剣でバッサリとセツは切り捨てた。

「ぐぉぉぉぉ!?」

 セツは咳き込む与一の首根っこを掴んで立ち上がらせると、前に付いたホコリを払った。

「やはりお前は詰めが甘い、優しさとかそう言うのとかではなく単純にバカだからな」

「ゼヒュー………間違いなく褒められてへんよなこれ?」

「当たり前だ」

 与一は深呼吸をしてため息をそのまま吐くと、

「ありがとう……待って待って、俺もしかして生後一年ない子に助けられた?」

「……お前は本当に余計な言葉が多い……」

 セツはそんな与一にうんざりとした表情を向けると、ナイフを男に突きつけた。

「どうせお前は殺せんだろ、私が殺す」

 と、与一の反応を待たずに悶える男エルフの心臓、喉をかっさばいて、頭に厚い服の下から銃を取り出して撃った。

「……オーバーキル……いや、こんぐらいはいるか」

 与一は若干引いたような口調だったが納得したように頷くと、セツに質問をした。

「部屋に引きこもっとるんちゃうんかったん?」

 すると、セツはピシッと止まると、ゆっくりと与一の方を向いた。

「……ほぅ……?私が部屋でお前が来るのを待っていたのに、ワールドに忘れられている間暇を持て余していたと言うのに……お前はそれをまるで私が出てくるのが嫌で部屋にいたと言うのか?」

 確実に地雷を踏んだ与一は素早く鎧を変形させると空に飛び立とうとしたが、セツに足を掴まれて頭を地面に叩きつけられた。

「いっっったくないけど!心臓ヒュンってしたわ!」

「煩いぞ一々、お前は一応私たちの中でも年上の者なのだからもう少し落ち着きというものを……」

「は?俺落ち着いたらタダのコミュ障になるんですがそれは?」

「お前は一々話し相手に喧嘩を売らないと話してられないのか?」

 セツが握り拳を作って与一を脅そうとした。

「ごめんて!でも悪いなぁ、こればっかはテンション上がっとる時はこうなるからなぁ……」

 ちょっとシュンとした与一を見てセツは何を思ったのかジッと与一を見つめると、諦めたようにため息をついた。

「じゃあ一生嫌われてろ」

「え、それは嫌やからなんとかするわ」

 与一は真顔でそう言うと、ゆっくりと立ち上がった。

「……さて……男は死んで後は……」

 与一は残ったペシャンコとなった機体を見て目を細めた。

「ちょいと調べてみるか……?」

「やめといたほうがええに、一票」

 俊明がいつのまにか与一のそばにため息をついて、立っているのを二人は少し驚いたようにすると、咳払いをして、

「ロキに一度確認を取った方が……」

 と、そこまで言ったところでよいちの鎧が一人でに動き出して、機械の中に吸い込まれて行った。

「………ヤバすぎるに一票」

「アホ!」

「何をした!?」

「何もしとらんよ!」

 与一は俊明とセツの目に怯えながら、も手を機械の中に突っ込んだ。

「おいおい、どこ行くねん……ん?」

 与一は首を傾げながらも握ったものを引っ張り上げるようにして力を入れたらしい。

 与一が引き抜いたものはさまざまな破片を飛び散らかして、一緒に飛び出てきた。

 そしてそれを与一と俊明が視認するよりも早くセツが動いた。

 まず魔法を使って俊明と与一の目を潰して二人の服を一枚ずつ剥ぐと、飛び出てきた物にそれを着せた。

「「目がぁぁぁぁぁ!!」」
 
 二人はフラフラと暫く彷徨うと、与一の方が若干早く視界が回復したのか、何度も目を擦ってセツが手を握る美少女の姿を視認した。

「……………………だるぇ?」

「……大丈夫か?」

 与一の呆気に取られた声を無視したセツは、囚われの姫君を助け出した女騎士の如く少女の前に跪くと、手を包んでそう質問した。

「……当機は少々エラーを吐いているが暫くすると改善されるはず……よって肯定、はい」

 機械的に話す少女を与一は訝しげにみると、ポンと手を打った。

「あのロボットの中におったAIけ?」

「何で分かんねん……いったいよぉ……」

「あ?誰が厨二病拗らせハタチじゃ」

 俊明の呆れた声に与一が切れ返していると、そこにワールドとノヴァがやってきた。

「全くどう言うことなのよ…………それ……だれ?」

「うむ、見たところ安産型へぶっ!?」

 ワールドの分析にノヴァは顔を向けることなく殴ると、マジマジと少女を見つめた。

「当機はメネシスと名付けられており……」

「ちょっとちょっと!私達に車の運転させといて何勝手に……誰その子!カワイイ!!」

「カミラ、落ち着け」

 与一達のすぐそばに車が急停車するとそこからカミラと重火器を持ったタシトが降りてきた。

「貴方誰!?すっごいタイプ!ねえ!今から私とお茶しぶっ!?」

 重火器で頭を軽く小突かれたカミラはフラフラとすると、タシトに抱えられてぐったりとした。

「すまんな……さて、その子は?」

 与一が説明しようと口を開いた瞬間に、与一はふと倒れた男の方に目をやった。

 すると、その男は目を見開いてゆっくりと最後の力を振り絞って人差し指をセツに向けていた。

 与一は無言でセツを突き飛ばそうと動いたが、それよりも早く何かが男に覆いかぶさった。

 そして、血飛沫をあげながら今度こそ漢は絶命した。

「狼型の魔物か……」

 与一とセツ以外は臨戦態勢にすぐに入った。

「待て……ヨイチ、お前コイツ見覚えないか?」

「………さあ?」

「……本当か?」

「あっ?…………あれ?……あぁ!あん時の!」

 暫くセツに睨まれた後与一は出来の悪い頭を回転させたのか、唸った後ポンと手をうった。

「……来いと」

 セツがそう言って与一を見た。

「セツって……えや、何もないわ」

 与一は頷いてため息をついて、メネシスをチラリと見た。

「この子、一旦ロキに見せたって、俺の鎧が子になってんやけど……」

「ま、まて、どう言うことだ?」

 ワールドが珍しく狼狽えていたが、与一はそれを無視してセツと狼の後について行った。

「………あまって、あの子にあったかいところ全部持ってかれたからめっさ寒いんやけど……」

「あの槍から少し持って来れなかったのか?」

「あっ、いけるか?いけるわ」

 与一は後ろを振り返って手をちょいちょいと動かすと、箱が2つほど飛んできて与一の体に当たって砕けた。

「んんんんん、温い……」

 与一は箱が変形して行って服になっていくにつれて顔を幸せそうにさせた。

「お前は単純な奴だな」

「素直って言うてくれ」

 そんな軽口を叩きながら与一はどうやら崩れたらしい洞窟の前までやって来た。

 すると、狼はそこを掘り始めた。

「成る程手伝えと……なしてか知らんけど、それやったらこうよ」

 与一は手を動かして槍をこちらに飛ばしてくると、槍を砂のように溶かして岩の隙間などに潜り込ませ、岩を一気に吹き飛ばした。

「よすよす……よきよき」

「もっと繊細に……まぁいい」

 セツは若干不満そうな声をあげたが、それ以上は何も言わなかった。

 与一は洞窟の瓦礫の殆どが吹っ飛んだ後を見て目を見開いた。

「……巣か……しっかし何やこれ……」

「みたいだな」

 そこには盗賊達が殺した狼達の死体が岩によってぐちゃぐちゃに潰された後だった。

 すると、狼は洞窟の奥まで入って行くと、奇跡的に潰れていなかった狼に鼻を擦り付けた。

「生きてるみたいだな」

「やなぁ」

 与一は懐からロキからもらったポーションを取り出して、それを狼に掛けようとしたらセツが与一の手を止めた。

「止めておけ、哀れみは侮辱になる」

「知るか、哀れみかけられるぐらい俺からしたら、弱ってんねんやし、嫌やったら止めれや」

「………」

 セツは忌々しそうに与一の手を離すと、与一はため息をつきながら狼にポーションをかけた。

 狼はゆっくりと身を起こすと、与一には目もくれずに一目散に洞窟のさらに奥に入って行った。

 すると、暫くすると悲しげな遠吠えが聞こえた。

 与一達はこっそりとその後をつけて行くと、狼の子供達が空気を求めるように洞穴の入り口に重なって死んでいた。

「んん………死んでるなぁ」

 与一はどれも動いていないことを確認すると肩を竦めた。

「………で?そうするとお前が無駄に手をかけてしまったこの二匹はどうする?」

 そう言ってセツは与一を背後から睨みつけた。

「知らぁん……別に、どうでもええよ……あの二匹がどうするかによるかねぇ?」

「………チッ」

 明らかに与一の返答に納得のいっていないセツだったが、与一がこの後どうするのかを見届けるようだった。

「………ガルルルル」

 すると、二匹は与一の方を見て唸った。

「…………やるん?」

 二匹はそれに応えるように更に身を低くして構えた。

「外は?」

 と、与一が言った瞬間に二匹が同時に襲いかかり、与一は二匹に背を向けて逃げ出した。

 と、思えばすぐに二匹に向き直って腰のホルダーから銃を取り出して二匹に一発ずつ撃ち込んだ。

「「キャンッ!」」

 二匹はそう叫ぶと地面に頭をつけて動かなくなった。

「………このクソ野郎が」

「不満点は?俺はアホやから分からんねやけど、後々の為に教えてくれん?」

 セツは拳をプルプルと震わせて耳を逆立てて、目を見開いて与一を見ていたが、

「……お前には命を大切にしようって考えが……そいつの持つプライドを守るって考えが……ないのか……!!」

 と、絞り出すように言った。

「うえぇ……プライドねぇ……普通に生きることに関してはプライドは俺は捨てたほうがええと思うんやけどなぁ……まぁ、命の重さを聞いてるなら俺は考えてんで?」

「……………もういい、私はお前達と離れる事にする」

 と、言った瞬間にセツの背後にシルヴィが現れた。

「それは困ったなぁ……うーん……彼ねぇ、自分の事バカだとかアホだとか言ってるけど君の思ってるよりは考えてるよ?」

「あ"?」

 セツが目を光らせてシルヴィを睨みつけると、シルヴィは肩を竦めて続けた。

「彼ねぇ、さっき逃げるように後ろ向いた瞬間に、あの二匹が幸せな暮らしが出来る来世になる様に交渉してたんだよ?」

「……さっきの一瞬でか?私の目には……」

「だからって後ろ向いたんじゃないか、まぁ、交渉の内容は本人の名誉のために伏せ……させてね?」

 セツがシルヴィの胸ぐらに掴みかかったところで、シルヴィはため息をつきながら易々とセツの腕を捻った。

「さて……そして、君自身彼に大きな借りがあるでしょ?」

「…………それはもうあの男を殺した時点で返されただろ」

「まぁ、百歩譲って良いとして、君ねぇ……彼が交渉しなかったら……」

「シルヴィさん!ストップ!ストップ!」

 すると、そこで与一はシルヴィに向かってバツを腕で作って止めたが、シルヴィはニヤリと笑って続けた。

「彼が交渉しなかったら、早死にする事になってたんだよ?」

「は?」

 セツはもじもじしている与一を見た。

「君の、あの人えーっと……タクミ君だっけ、が君が生まれた時に早く成長する代わりに早く死ぬ様に改造手術をしたんだよね、うん」

「………それは……」

「それで、心優しいタシト君とカミラちゃんが与一君にお願いしたんだよ、セツちゃん、君を助けてほしいってね?」

「…………っお前!余計なことを!」

 セツは与一に掴みかかるとガクガクと揺さぶった。

「ごめんて!……まって、今俺謝る必要あったっけ?」

「無いねぇ」

 与一がバカな事を口走る横でシルヴィはおかしそうに、笑っていたがセツは膝に手をついていた。

「……お前……もしかして最初は面倒くさいとか関係ないとかほざいてたんじゃ……」

「おっ、セツちゃんご名答!すごいね!ドンピシャだよ!」

「お前………あぁ!!」

 セツはイラついたように頭を掻き毟ると与一を指差して、

「一発殴らせろ!」

「ええよ」

 セツは与一をノータイムで殴った。
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