Two Runner

マシュウ

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『寄り道』

ある平凡な少年

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 俺達がヨイチと言うおかしな名前の男に買われて、列車の中の仕事をする様になって暫く経ったある日のこと、

「多いなぁ……んじゃ先ずは、自己紹介からやな、みんなもう各々自己紹介とかしとると思うけど、俺が分からんから一人ずつ名前と、趣味、特技を教えてちょ」

 すると、前の街から一緒に乗って来た俺達とそれほど歳の離れたように見えない子供(だが、冒険者のメダルを持っていたので冒険者だ)が手を上げた。

「先生から先にすればいと思いまーす」

「せやなぁ、んじゃ俺からやな……フジワラヨイチ……年齢も言うとくか、19歳で趣味はゲームと食事、それとのんびり過ごす事、特技は……太る事、あい、じゃあ俺から見て一番右前の君からどぞ」

 と言った具合にやる気があるのか無いのか、あくびを噛み殺したような顔をしながら俺達を買った男は一番前で俺たちの前に座っていた。

 そして、暫くぼうっとしていると、隣の少女が立ち上がって淡々と、

「私は……イーデンと呼ばれておりました、年齢は……多分15歳ぐらいになると思われます……」

 俺はその声を聞くと当然のように目を奪われた。

 シルクのような艶をした髪に、黙って立たせておけば蝋人形と見間違うほどの整った顔立ち、言い出せばキリがないが、完璧ではない所を見出す方が苦労しそうなほど全てが整った彼女に一目惚れするのは、もう何度目の事だろうか。

 自己紹介が終わった後も彼女に目を奪われた俺は暫く彼女の事を見つめ続けていた。

「………おい、次お前だぞ」

 前に座る男がしょうがなさそうな顔で俺の方を向いていた。

 ムカつくからいつかあの顔をぶん殴ってやりたいものだ。

「俺はルート、たまたま死んでいた古代龍の肉を食ったから、たまたま高値で売られてた奴だ……それ以外は何もない」

 めんどくさい自己紹介を終えて俺は椅子に座った。

 何とかして彼女と近づけないか……いや、近づけばあの……美しさが……俺とどう考えても不釣り合いだな……だが……。

 暫く悶々としていると何やら全員動き出して、彼女の近くに近寄る奴らが居たが、意外なことに全員……殆ど女だった。

 殆どと言ったのには理由があって、どこからどう見ても優秀そうな男と、野獣たっぷり成分率100%の美形のどこか幼い奴と、優男そうな奴が彼女と話し合っていた。

 アイツらとは並んでいる檻が近かった為、よく話し合ってたな。

 それにしても……俺もあんな風にイケメンだったらなぁ……。

 そう思いながら周りの様子を確認した。

 どうやら五人組を作るようにあのクソ男が指示したようだ。

 どこかで良さそうな所を探したが、全員自分よりもイケメンで、女の子達はとても顔が整っていて、自分がここにいるのは場違いな様な気がした。

 そう思うと、あそこで誰かに買ってもらえる様になるまでボーッと生きていた方が良かった様な気がして来た。

 唐突に俺の隣に誰かが立った気配がした。

 俺はその気配に気づかないフリをしながら、周りの様子を見回した。

 暫くすると肩をトントンと叩かれて、俺は振り返った。

 そこにはジッとこちらを見つめる綺麗な薄緑の双眸があった。

 俺はそこに吸い込まれる様な心地がしたが、その隣に立つ元気そうな女の声で我に帰った。

「ちょっと、この子が君に興味あるみたいだけど、私達と班になる?」

「……それだと六人に」

「それなら、アイツが他の班に行ったからその点に関しては問題ないぞ」

 優秀そうな男が、獣の男の方をチラッと見た。

 それに釣られてそちらを見ると、片腕をなくしたクモの魔物と人のハーフらしい女の子、お嬢様っぽい女の子、そして吸血鬼の女の子に、その血族しか使えない特別な魔法を使えるエルフの男の子のグループに入って楽しそうに喋っていた。

「だから心配はしなくても良いみたいけど?」

 優男はそう言って俺に向かって手を差し出した。

「……じゃあ有り難く、お仲間に入れさせて貰おうかな」

 俺はそう言って優男の手を取った。

 そうして俺は彼女から俺のどこに興味を持ったのか知らないまま彼女達と班を組む事となった。

「さぁて、今くんでもろたんが、これからやってもらう仕事の班分けよ、ロキから頼まれたんよね……頼んでも仕事しおらん奴がおるて」

 俺の他にも何人か仕事をしようとしない奴が居たのか。

「そんで、仕事やけど指定の時間に仕事終わらんかったら、その班全員でちゃーんとペナルティ受けて貰うからそのつもりでよろね」

 ………これからはしっかりと仕事をしよう。

 そう彼女の顔を見ながら俺は決意したのだった。





 そうして俺の新しい生活が始まったある日のこと、最近の自分の日課で夕暮れを外に出て見る事がここ最近マイブームだった。

 檻の中に入れられてこんな所に来れるとは思っていなかった。

 その点で言えば俺はあの男に感謝をするべき……いや、金を出したのは確かロキさんだったな……。

 と、そんなどうでも良い事を考えながら俺は列車の外に上着をたくさん着て出た。

 空はオレンジ色にそまり、真っ白な雪が空を反射してこれまた綺麗な色に輝いていた。

 そんな事を考えると、いつも俺より先に来て一番良いポジションを取るその気に食わない……事も最近はない男、ヨイチの姿が列車の屋根の上に見えた。

「……出て来たか、飲むけ?」

「……もちろん、俺が外に出てくる理由の半分はコレっすよ」

「はいはい」

 ヨイチさんはコップをもう一つ用意して俺にココアを注いでくれた。

 それはそれを息を吹きかけて冷ますと、ゆっくりと口につけた。

 あぁ、美味しい。

「そうけ、そらよかったわ……あぁ、随分と遠くまで来たもんやなぁ」

「……そうっすねぇ、街からもう随分と離れましたもんね」

「ん………」

 そう言って微妙な返事をするヨイチを横目に俺はもう一人遅れてやって来る人の気配を感じた。

「ヨイチさん」

「ん、来たか」

 ヨイチはもう一つのコップにココアを注ぎ始めた。

 すると、セツさんがいつも通りフードを深くかぶって俺達と同じように夕焼けを眺めるように座った。

「ほい、いつもん」

「ん……」

 セツさんは無愛想にそう受け取ると、熱さに強いのか息で冷ます事なくそのまま口をつけた。

「……ん、うまい」

「そけ……」

 三人でそうやって夕焼けを眺めていると、唐突にヨイチさんはユラユラと揺れ始めると目を瞑り、セツさんはとても落ち着いた様子で本を読み始めた。

 最早慣れた光景だったが、分かってないなと思いながらも、俺は夕焼けを一人いつまでも眺め続けていた。

 そうしていると、今回は意外な客がやって来た。

「……いつもここにおいででしたか?」

「……あ、うん、そうだな、俺達三人でいつもこうやっているかな?」

 少し高鳴る胸と感情を押し殺しつつも、俺はチラリとヨイチの方を向いた。

 ヨイチは目を覚まして、俺の方を向くとこれまた仕方無さそうに頷くと、手慣れた手つきでココアを新しいコップに注いだ。

 俺はそれを受け取ると彼女に渡した。

 彼女は一度そのまま口につけて、ココアをそのまま飲み干した。

「あ、熱くないのか?」

「これぐらいの熱さなら問題ありません」

「あー…………これ、そんなに焦って飲まなくても良いんだぞ?」

 彼女はコップをジッと見つめて何かを考えているようだった。

「……これは何かの訓練では?」

「………ふっ」

 俺の後ろでヨイチが目を瞑りながら鼻で笑うのを聞いた俺は、ヨイチさんの座っている安楽椅子を少し蹴った。

 ヨイチさんの乗っていた椅子はものの見事に屋根の上からバランスを崩して滑り落ちていった。

「………よぉーし、鬼ごっこするかぁ、十数えたら追っかけるでぇ」

 俺は馬鹿馬鹿しいと構う事なく彼女の方を向いた。

「いーじゅう」

 一とも言い終わらない内にヨイチは俺の背後から俺の頭を腕でガッチリとロックすると、頭の頂点をグリグリと拳で捻り始めた。

 これが割と痛く、俺はすぐに降参をしたかったが、彼女が見ている前少し意地を張って、

「な、なれたらぁぁぁぁ!!」

 言い終わらないうちに、ヨイチの拳は俺の頭にめり込まんとばかりに力が入った。

 その瞬間彼女が目にも止まらぬ速さで動いたが、彼女が動いた瞬間動いた与一さんに、攻撃が当たる事はなかった。

「……はぁ、少し散歩にでも行くかな」

 そうヨイチが言うとセツさんはすこしヨイチの方に目を向けた。

「行くのか?」

「ん」

 セツさんはヨイチの返事を聞くと頷いてまた本を読み出した。

「………」

 何なんだこの二人は………。

 そう喉まで出掛かった言葉を飲み込むと、俺は彼女の方を向いた。

「……何で今日はまた外に?」

 違うバカ、そうじゃ無いだろ。

 その場で悶えながら転がり回りたいのを理性で何とか留めていると、彼女は真っ赤な空を見上げて、

「夕焼けが綺麗だと……聞きました」

「ふーん………誰から?」

 そう言った瞬間、俺は自分で腹を切りたい気持ちを抑える事が出来そうに無かった。

「ロキさまからです……」

「ロキさんか……」

 あの人……神は俺達から様付けで呼ばれるのはあまり好きでは無いと言っていたのだが、彼女は理由は知らないが頑固に様付けで呼んでいた。

「……綺麗だと思う?」

「……一般的な人の感覚によれば、これは美しいに該当すると思われます」

 彼女は時折この様な難しい言い回しで返事をしてくる事がある。

 俺の貧弱な頭では理解するのに少し時間がかかる。

「……要するに綺麗って事か?」

「………………はい」

 彼女の喋り出すまでの普段の沈黙よりも、少し長めの沈黙が今回はあった。

 それが合っているからなのか、それとも間違っているからなのかは……。

 間違っていたとしたら、俺は今後彼女と顔を合わせるのが怖くなって来るだろう。

 そうビクビクしながら、ふと彼女の顔を覗き込んだ。

 彼女の目は真っ直ぐに目の前に広がる景色を見つめていた。

 その目を見ても感情を読み取る事はやはり出来なかった。

 そうしている内に、日が沈み一瞬だけ緑色の閃光を放った。

「これが完全に日が沈んだ合図だ……この光はあの世から人が帰って来た光だとも言われてるな」

「そう……なのですか?」

「まぁ、あくまでも言い伝えだけどな」

 すると、一瞬だけ彼女の目が少し動いた様な気がした。

「………」

 俺はここでその理由を聞く勇気もなく、俺達は列車の中に戻った。

 列車に戻りロキさんと他の班の奴らが作った夕食を済ませると、俺は外の景色を見ようとまた外に出た。

 外に出ると、ヨイチが屋根の上に座って触手をうねらせていた。

「……何してんすか」

「ん?……おぉ、お前か……いやな、空を眺めとったんや、夕焼けは俺には眩しすぎるからなぁ……これぐらいが丁度ええ」

「じゃあ夕方に出なけりゃいいじゃ無いっすか」

「夕方は夕方であれはええんや」

「は?」

 完全に矛盾しているヨイチの言葉に俺は首を傾げるも、考えることをやめた。

 恐らく考えるだけ時間の無駄だろう。

 俺は暫く空を眺めていると、ヨイチさんが降りて来た。

「望遠鏡って知っとる……け?」

「まぁ、知ってますけど……」

 今度は何をし出すんだと思っていると、彼は服の一部を変形させてとても大きな特殊な形をした望遠鏡を作った。

「ちょっと待っててな」

「あ、はい」

 俺は暫くヨイチが望遠鏡を覗きながらクルクル回っているのを見ると、準備が終わったのか俺を手招きした。

 俺は招かれるがままにそれを覗き込むと、俺の目には空に浮かぶ月の表面がクッキリと映し出された。

「うぉっ!?」

「そないビビらんでも……暫く自分の好きなように見てみ」

 俺は言われるがままに望遠鏡を先程のヨイチと同じように動かした。

「ん?月の表面に……何がちっさな……」

 すると、列車からロキさんが降りて来た。

「天体観測か?良い趣味してるじゃねぇか、だけどそこまでにしとけ、もう出るぞ」

 夜の皆んなが寝静まっている間、ロキさんは列車を走らせる。

 もう出発の時間だろう。

「分かりました、ヨイチさん、ありがとうございました」

「うぃ」

 変な返事をしたヨイチは屋根の上に触手を使って登ると先程と同じように寛ぎ出した。

「落っこちんなよ」

「わぁってるよ」

 適当な返事をするヨイチさんをからかおうと、もう一度見上げると、満月を背景に触手をうねらせながらヨイチさんが笑っていた。

 その様子はまさしく化け物と呼ぶべきに相応しかったのだが、それだけではなく、何故かヨイチから寒気のするような雰囲気を感じた。

 ……いや、周りが寒いだけだろうからきっと気のせいだろう。

 こうした日が暫く続いて、極点基地に到着した後地獄のような特訓の日々が始まるのはまた別の話だ。
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