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『寄り道』
最初の空
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空を見上げると私を買った人が高く、白い線を引きながら上がっていくのが見えた。
その人は何度も回転しながら、空を自由に飛び回っていた。
少女が手を伸ばしても届く筈のない遠い遠い空。
暫くすると更に高く上がっていって、完全に見えなくなってしまった。
「ねぇ、何見てたの?」
「……空の主を」
「空の主様……あぁ、御伽噺のあれ?」
「それはどんな話なのですか?」
「あれ?知らないの?全てに通じる何にも邪魔されない空には主がいたって話」
「……はい」
私は空に残る白い線を何とも言えない様な表情で見つめていた。
「……あの線、ヨイチさん?」
「はい……恐らくあの箱を使って」
「はぁー、あれ私達も使えたらだいぶ色々楽になるのにねー」
「そうですね……」
「………戻ろ?」
「……はい」
少女は名残惜しそうにその場を後にした。
列車の中に戻ると、列車の中はまだしんと静かだった。
二人の少女は彼女たちの部屋が並ぶ通路の前に立つと息を思いっきり吸って、
「「総員起床!!」」
と、叫んだ。
すると、部屋からバラバラと彼女達の仲間があくびを噛み殺しながら、部屋から出てきた。
体調不良の者がいないか確認すると、少女達は列をなして食堂車へと向かった。
「……今日はヨイチさんいなくて良かったわね」
「……はい」
ヨイチは彼女達のこの光景を見ると、そんな事はするなと声高らかに叫ぶのだが、彼は先程空に用事があったのか飛んでいってしまい、今日は見当たらなかった。
食堂車に着くと既にロキとその助手達である仲間が既に腕を組んで待っていた。
「やった、今日は当たりの日だよ」
「………はい」
片腕のない蜘蛛の女の子のグループが作る料理はとても美味しいと仲間内で評判であった。
「全員揃ったな?それじゃあ祈祷」
祈祷とは言ってもそれぞれ信じる神々に裏切られた様な物なので祈るのは殆ど目の前で自分達を慈しむ目で見る女神に対しての祈りだった。
朝食を食べ終われば歯を磨き顔を洗った後、与一が授業を用意するまでの30分ほどは自由時間になる。
しかし、それは洗濯物を干す当番に当たっていない者だけだ。
「いやー、ホントにイーは力持ちだよねー」
「……はい」
彼女達は女子区の洗濯物が入った籠を両手に抱えて女子区の洗濯機の前までやって来た。
「はぁあ、外が寒くなかったらお日様の下で干せるのになぁ」
勿論外で干そうなどすれば、カッチカチに凍る。
洗濯機の乾燥機をかけて、しまうと後は勝手に全部してしまうので、時間が余る事が多々あった。
その場合は決まって彼女達は、この列車における書物の保管所である図書車に向かう。
ここの管理人はロキとビート、そして与一の誰かであり、与一が授業の時はロキ、偶に俊明の時がある。
この日はビートが管理をしていた。
ビートはカウンターで何か本を読んでいたが、ブックカバーをしており、内容は見る事が出来なかった。
「ビートさん、二人ね」
「………」
ビートはしゃべる事が出来ないのかチラリと二人の方を見ると、一度頷いた。
「行こ」
「はい」
図書車の中はとても静かで、この時間にここに来る人はあまり居ない。
「……またここで寝てたのね?」
「ん……あっ、二人とも来たんだ」
「ここはアンタの寝室じゃ無いんだけど?」
「んー、ここの本の匂いが落ち着いて丁度良いんだ……」
そう言って眠たげにまったりと喋る彼は彼女達とチームを組んでいる五人組の一人で、とてもマイペースな人物である。
「全く……今度ヨイチさんに頼んで香水か何かでも買ってもらったら?」
「嫌だよ、人工の甘い匂いは好きじゃ無いからね」
「あっそう……イビキかかないでよね、うるさいから」
「大丈夫だよ、一応目を瞑っているだけだからさ」
彼はそう言ってまた机の上に突っ伏してしまった。
「……はぁ」
彼女達二人はそれぞれ気になる本を手に取った。
活発な少女は鍛造などの技術系の本を、そして優秀な少女はある物語の本を手に取った。
二人はまったりとした時間を過ごすと、チャイムがなるのと同時に席を立ち上がって教室と呼ばれる場所に向かった。
中に入ると与一がスマホを触りながら周りを取り囲む子供達に対して何かを言っていた。
「あぁん?お前らはよく食ってよく寝てよく学んでよく遊びぁええんや、心配するのは俺らの仕事やから」
何の話かさっぱりだが二人は自分達の用意された席についた。
そして、もう一度チャイムが鳴ると全員椅子に座って与一が出した問題を解き始めた。
出来た人から終わることの出来る仕組みになっているため、いつも優秀な少女と少年の二人がほぼ同時に与一に答えを提出する。
もちろん全問正解は当たり前である。
優秀な少女はそのままもう一度図書館に、皆んなが終わってからの与一のオマケを聴きに行くまで暇をいつも潰すことにしている。
彼女が図書室に入ると先程と全く変わらない体制で本を読んでいるビートがこちらをみた。
「……失礼します」
彼女はビートの前を横切って彼女達がさっきまでいた場所に読んでいた本を置くと、また座って本を読み始めた。
「………」
静かな部屋の中で時間を忘れて彼女は本の世界に引き込まれていると、唐突に背後に気配を感じて相手の頭めがけて本を振り下ろす……手を止めた。
「相変わらず良い反応だな」
彼女の背後に立ったのは優秀な少年だった。
「何でしょうか?」
「いや、いつも読んでるそれは何なのかと思ってな」
「……ヨイチさまが勧めて下さった本なのですが」
「ちょっと良いか?」
「はい」
「……何故こんなにもジャンルがバラバラ何だ?」
少年はそう言いながらパラパラと本をめくった。
「っ!?これは!?」
「そちらは、性知識を少しでもと勧めて下さった本です」
「っっっそ、そうか!ちょっとヨイチさん殴……話にて来る!」
「はい」
少年は回れ右をして車内を走って飛ぶ様に駆けて行った。
「……?」
少女は首を傾げながらも先ほどまで読んでいた本の続きを読み出した。
そうして、何故か若干疲れ気味の与一のオマケ授業を終えた後、彼女は手に持った貸してもらっている本を見て与一の部屋へと足を向けた。
「失礼します」
「あいー?」
みんなの前で立っている時は打って変わって、完全に覇気のない与一が彼女の為にドアを開けた。
「今日の早朝、空へと向かわれていたのをお見かけいたしました」
「………見られとったか……うーん……うーん……」
「いかがされました?」
「うん、こっちの問題やから気にしやんといて……で、続きは?」
少女は持っていた本をギュッと握って、感情の読み取りにくい瞳を少し震わせながら、
「空へ……連れて行って下さりませんか?」
「…………うーん……うん、丁度ええか」
与一は部屋に戻ってゴソゴソと何かを探す様な者音を立て暫くすると、彼女に皮でできたヘルメットとマスクを渡した。
「5分後のフライトになるから、あっ、お前以外誰も呼ぶなし言うなよ?」
「……はい」
何故と言う言葉を飲み込んで少女は小さく頷いた。
「5分後にロキに列車から離陸させてもらうから、おっきい黒箱の場所わかる?」
「はい、倉庫車にあったのを覚えています」
「うし、そこ集合な、じゃあ先行っててぇ」
与一はそう言うと部屋に戻った。
「………」
少女は倉庫者の方を向き、皮のヘルメットを服の内側に隠してゆっくりと歩き始めた。
「……あっ、イーどうしたんだい?」
倉庫車に向かう途中に図書車で寝ていた一緒の班の少年と出会った。
「それは……言えません」
「イーが秘密……?うーん、どうにしろなんだか嬉しそうだね?」
「そうですか?」
「そうだよ、思わず見惚れ……いやいや、何でもないや!」
「?そうですか、それでは失礼します」
少女は気まずそうに笑う少年を後にして倉庫車に向かった。
「……や、来たか」
そこには与一とロキ、そしてワールドがいた。
「うむ、では頼んだぞ」
「うぃー」
与一はそう言うとバイクの様な細長い乗り物に乗り込んだ。
「ほら、ヘルメットとマスクして乗りぃ」
「はい」
与一は少女の手を引いて自分の後ろに座らしてベルトをきっちりとさせた。
「そいじゃ行って来るわ」
「おう、そんなに長いこと出るなよ、晩飯がもうすぐだからな」
「今日の晩御飯は?」
「パスタだな」
「ミート?」
「クリーム」
「わかった」
と、取り止めのない話をしながら与一はテキパキと準備をしてエンジンを掛けた。
ドルルルルとエンジンが鳴って、機体が揺れた。
乗り物の前方の扉が開いて雪原が目の前に広がっている。
「おっしゃテイクアウトー!」
その掛け声と共に少女の視界は急に開け、冷たい空気が体を突き抜けた。
与一が操縦する乗り物は一気に急上昇して雪雲の中に突っ込んだ。
中は雹が降っていたが、与一はそれを気にせずに更に上昇した。
そして、雲を突き抜けると文字どうり雲ひとつない空が広がっていた。
そして、与一さんはゆっくりとスピードを落とすと、少女に話しかけた。
「俺はよくここに来るんやけど、そん時はこの乗り物やなくて鎧の状態で飛んどるからもうちょっと融通きくんやけどな、すまんの!」
「………!!!」
少女はそれよりも目の前に広がる無限に続く雲の海と青い空に目を奪われていた。
「……ちょっと運転してみるか?」
与一は自分は足に鎧をつけて飛びながら彼女を前に移した。
「これが上昇で、これが前進、これがバックで……」
「見ていたので分かります」
「さすが天才、それじゃあ良い空の旅を」
「はい」
少女はマスクとヘルメットを全部与一に投げ渡すと、焦る与一を置いて急発進した。
彼女は高速で空を駆けながら 時々見える雲の下の景色を見た。
すると、そこにはいつも自分達がいる列車が小さな蛇の様に地面で蠢いているのが見えた。
少女はその光景を暫く見ていると、与一が隣に飛んできて、
「君以外とやんちゃするね!?」
「ヨイチさま………!これが………!」
「……おっしゃあ、じゃあ俺の事本気で殺しに来ぃ、それぐらいで丁度やろ」
目を輝かす少女に与一はそう言うと鎧を全身に纏って猛スピードで飛び出した。
「っっっっっ!」
少女は突風に息を呑みながら口元に笑みを浮かべた。
「来いや」
「はい……先生!」
少女は乗り物のエンジンをふかして与一の後ろに続いた。
乗り物からはレーザーとワイヤーロープが射出されて与一の事を確実に仕留めようとしていた。
「……やるなぁ、じゃあちょっとやんちゃするけ?」
与一は少し先の積乱雲の中に突っ込んで行った。
少女もそれに続いて積乱雲の中に入った。
中は雷と猛吹雪で視界が非常に悪かった。
「スパーキーン!」
の声と共に与一は少女の目の前を横切ったが、少女は落ち着いた状態のまま与一の行先を目で追って進行方向にレーザーの川を置いたが与一はそれを紙一重で躱したが、バランスを大きく崩して空中で回転し、少女はもう一度レーザーを用意して、与一に向けて撃った。
その瞬間与一は体制を立て直して少女に急接近して積乱雲から出た。
少女は与一を追って積乱雲から出た瞬間に目の前にいたのは心の底にある憧れと言うべきか、恐れと言うべきか、えもいわれぬ感情を持たせる光景が広がっていた。
「そろそろ終わりにしよけ?」
日が落ちていく太陽を背にして重力を感じさせない動きをしながらヨイチは黄色い電気を発しながらアーム状の触手をくねらせながらゆっくりと上下を反対にする様に回転していた。
赤い空が広がり、緑色の閃光が雲の水平線が立ち登るのと同時に与一は少女に急接近して、触手の一本の先を刃に変形させて喉元に突きつけた。
「……どう?」
「…………ほぅっ」
白い息を吐き出した少女はどこか満足げな表情をしていた。
空には星々が輝き河となって夜空を彩っていた。
「帰るか」
「………はい」
少女は見たこともないほどの美しい微笑を与一に見せた。
「ええ顔や………っておぉ!?」
少女は満足げに乗り物からは身を乗り出して、
「先生……お願いします」
と言って落ちて行った。
「マジかぁぁぁぁ!!」
そんな声を高速で置いて少女は体を大の字にして空を全身で感じて、落ちながら少女は回転しない様に体を動かしていた。
「おお!!さすが天才!やけど唐突に落ちるのは心臓に悪いから辞めよな!」
少女に追いついた与一は笑ってお姫様抱っこをしながら自分の周りに上から乗り物を下ろしてきてそこに乗せた。
「じゃあ今度こそ帰るか」
「………はい、先生」
どこか少女は満足そうな、してやったらと言う様な顔をしていた。
「で?空を自由に駆け回った感想は?」
少女はココアをゆっくりと飲むと、ほうっと息をついた。
「はい………際限のない……何かを感じました」
「……そっか、また飛びたいって思うのか?」
「……はい」
そうして、空を初めて飛んだ少女を皮切りに少年少女達は新しく空という新たな場所を手に入れるのだった。
その人は何度も回転しながら、空を自由に飛び回っていた。
少女が手を伸ばしても届く筈のない遠い遠い空。
暫くすると更に高く上がっていって、完全に見えなくなってしまった。
「ねぇ、何見てたの?」
「……空の主を」
「空の主様……あぁ、御伽噺のあれ?」
「それはどんな話なのですか?」
「あれ?知らないの?全てに通じる何にも邪魔されない空には主がいたって話」
「……はい」
私は空に残る白い線を何とも言えない様な表情で見つめていた。
「……あの線、ヨイチさん?」
「はい……恐らくあの箱を使って」
「はぁー、あれ私達も使えたらだいぶ色々楽になるのにねー」
「そうですね……」
「………戻ろ?」
「……はい」
少女は名残惜しそうにその場を後にした。
列車の中に戻ると、列車の中はまだしんと静かだった。
二人の少女は彼女たちの部屋が並ぶ通路の前に立つと息を思いっきり吸って、
「「総員起床!!」」
と、叫んだ。
すると、部屋からバラバラと彼女達の仲間があくびを噛み殺しながら、部屋から出てきた。
体調不良の者がいないか確認すると、少女達は列をなして食堂車へと向かった。
「……今日はヨイチさんいなくて良かったわね」
「……はい」
ヨイチは彼女達のこの光景を見ると、そんな事はするなと声高らかに叫ぶのだが、彼は先程空に用事があったのか飛んでいってしまい、今日は見当たらなかった。
食堂車に着くと既にロキとその助手達である仲間が既に腕を組んで待っていた。
「やった、今日は当たりの日だよ」
「………はい」
片腕のない蜘蛛の女の子のグループが作る料理はとても美味しいと仲間内で評判であった。
「全員揃ったな?それじゃあ祈祷」
祈祷とは言ってもそれぞれ信じる神々に裏切られた様な物なので祈るのは殆ど目の前で自分達を慈しむ目で見る女神に対しての祈りだった。
朝食を食べ終われば歯を磨き顔を洗った後、与一が授業を用意するまでの30分ほどは自由時間になる。
しかし、それは洗濯物を干す当番に当たっていない者だけだ。
「いやー、ホントにイーは力持ちだよねー」
「……はい」
彼女達は女子区の洗濯物が入った籠を両手に抱えて女子区の洗濯機の前までやって来た。
「はぁあ、外が寒くなかったらお日様の下で干せるのになぁ」
勿論外で干そうなどすれば、カッチカチに凍る。
洗濯機の乾燥機をかけて、しまうと後は勝手に全部してしまうので、時間が余る事が多々あった。
その場合は決まって彼女達は、この列車における書物の保管所である図書車に向かう。
ここの管理人はロキとビート、そして与一の誰かであり、与一が授業の時はロキ、偶に俊明の時がある。
この日はビートが管理をしていた。
ビートはカウンターで何か本を読んでいたが、ブックカバーをしており、内容は見る事が出来なかった。
「ビートさん、二人ね」
「………」
ビートはしゃべる事が出来ないのかチラリと二人の方を見ると、一度頷いた。
「行こ」
「はい」
図書車の中はとても静かで、この時間にここに来る人はあまり居ない。
「……またここで寝てたのね?」
「ん……あっ、二人とも来たんだ」
「ここはアンタの寝室じゃ無いんだけど?」
「んー、ここの本の匂いが落ち着いて丁度良いんだ……」
そう言って眠たげにまったりと喋る彼は彼女達とチームを組んでいる五人組の一人で、とてもマイペースな人物である。
「全く……今度ヨイチさんに頼んで香水か何かでも買ってもらったら?」
「嫌だよ、人工の甘い匂いは好きじゃ無いからね」
「あっそう……イビキかかないでよね、うるさいから」
「大丈夫だよ、一応目を瞑っているだけだからさ」
彼はそう言ってまた机の上に突っ伏してしまった。
「……はぁ」
彼女達二人はそれぞれ気になる本を手に取った。
活発な少女は鍛造などの技術系の本を、そして優秀な少女はある物語の本を手に取った。
二人はまったりとした時間を過ごすと、チャイムがなるのと同時に席を立ち上がって教室と呼ばれる場所に向かった。
中に入ると与一がスマホを触りながら周りを取り囲む子供達に対して何かを言っていた。
「あぁん?お前らはよく食ってよく寝てよく学んでよく遊びぁええんや、心配するのは俺らの仕事やから」
何の話かさっぱりだが二人は自分達の用意された席についた。
そして、もう一度チャイムが鳴ると全員椅子に座って与一が出した問題を解き始めた。
出来た人から終わることの出来る仕組みになっているため、いつも優秀な少女と少年の二人がほぼ同時に与一に答えを提出する。
もちろん全問正解は当たり前である。
優秀な少女はそのままもう一度図書館に、皆んなが終わってからの与一のオマケを聴きに行くまで暇をいつも潰すことにしている。
彼女が図書室に入ると先程と全く変わらない体制で本を読んでいるビートがこちらをみた。
「……失礼します」
彼女はビートの前を横切って彼女達がさっきまでいた場所に読んでいた本を置くと、また座って本を読み始めた。
「………」
静かな部屋の中で時間を忘れて彼女は本の世界に引き込まれていると、唐突に背後に気配を感じて相手の頭めがけて本を振り下ろす……手を止めた。
「相変わらず良い反応だな」
彼女の背後に立ったのは優秀な少年だった。
「何でしょうか?」
「いや、いつも読んでるそれは何なのかと思ってな」
「……ヨイチさまが勧めて下さった本なのですが」
「ちょっと良いか?」
「はい」
「……何故こんなにもジャンルがバラバラ何だ?」
少年はそう言いながらパラパラと本をめくった。
「っ!?これは!?」
「そちらは、性知識を少しでもと勧めて下さった本です」
「っっっそ、そうか!ちょっとヨイチさん殴……話にて来る!」
「はい」
少年は回れ右をして車内を走って飛ぶ様に駆けて行った。
「……?」
少女は首を傾げながらも先ほどまで読んでいた本の続きを読み出した。
そうして、何故か若干疲れ気味の与一のオマケ授業を終えた後、彼女は手に持った貸してもらっている本を見て与一の部屋へと足を向けた。
「失礼します」
「あいー?」
みんなの前で立っている時は打って変わって、完全に覇気のない与一が彼女の為にドアを開けた。
「今日の早朝、空へと向かわれていたのをお見かけいたしました」
「………見られとったか……うーん……うーん……」
「いかがされました?」
「うん、こっちの問題やから気にしやんといて……で、続きは?」
少女は持っていた本をギュッと握って、感情の読み取りにくい瞳を少し震わせながら、
「空へ……連れて行って下さりませんか?」
「…………うーん……うん、丁度ええか」
与一は部屋に戻ってゴソゴソと何かを探す様な者音を立て暫くすると、彼女に皮でできたヘルメットとマスクを渡した。
「5分後のフライトになるから、あっ、お前以外誰も呼ぶなし言うなよ?」
「……はい」
何故と言う言葉を飲み込んで少女は小さく頷いた。
「5分後にロキに列車から離陸させてもらうから、おっきい黒箱の場所わかる?」
「はい、倉庫車にあったのを覚えています」
「うし、そこ集合な、じゃあ先行っててぇ」
与一はそう言うと部屋に戻った。
「………」
少女は倉庫者の方を向き、皮のヘルメットを服の内側に隠してゆっくりと歩き始めた。
「……あっ、イーどうしたんだい?」
倉庫車に向かう途中に図書車で寝ていた一緒の班の少年と出会った。
「それは……言えません」
「イーが秘密……?うーん、どうにしろなんだか嬉しそうだね?」
「そうですか?」
「そうだよ、思わず見惚れ……いやいや、何でもないや!」
「?そうですか、それでは失礼します」
少女は気まずそうに笑う少年を後にして倉庫車に向かった。
「……や、来たか」
そこには与一とロキ、そしてワールドがいた。
「うむ、では頼んだぞ」
「うぃー」
与一はそう言うとバイクの様な細長い乗り物に乗り込んだ。
「ほら、ヘルメットとマスクして乗りぃ」
「はい」
与一は少女の手を引いて自分の後ろに座らしてベルトをきっちりとさせた。
「そいじゃ行って来るわ」
「おう、そんなに長いこと出るなよ、晩飯がもうすぐだからな」
「今日の晩御飯は?」
「パスタだな」
「ミート?」
「クリーム」
「わかった」
と、取り止めのない話をしながら与一はテキパキと準備をしてエンジンを掛けた。
ドルルルルとエンジンが鳴って、機体が揺れた。
乗り物の前方の扉が開いて雪原が目の前に広がっている。
「おっしゃテイクアウトー!」
その掛け声と共に少女の視界は急に開け、冷たい空気が体を突き抜けた。
与一が操縦する乗り物は一気に急上昇して雪雲の中に突っ込んだ。
中は雹が降っていたが、与一はそれを気にせずに更に上昇した。
そして、雲を突き抜けると文字どうり雲ひとつない空が広がっていた。
そして、与一さんはゆっくりとスピードを落とすと、少女に話しかけた。
「俺はよくここに来るんやけど、そん時はこの乗り物やなくて鎧の状態で飛んどるからもうちょっと融通きくんやけどな、すまんの!」
「………!!!」
少女はそれよりも目の前に広がる無限に続く雲の海と青い空に目を奪われていた。
「……ちょっと運転してみるか?」
与一は自分は足に鎧をつけて飛びながら彼女を前に移した。
「これが上昇で、これが前進、これがバックで……」
「見ていたので分かります」
「さすが天才、それじゃあ良い空の旅を」
「はい」
少女はマスクとヘルメットを全部与一に投げ渡すと、焦る与一を置いて急発進した。
彼女は高速で空を駆けながら 時々見える雲の下の景色を見た。
すると、そこにはいつも自分達がいる列車が小さな蛇の様に地面で蠢いているのが見えた。
少女はその光景を暫く見ていると、与一が隣に飛んできて、
「君以外とやんちゃするね!?」
「ヨイチさま………!これが………!」
「……おっしゃあ、じゃあ俺の事本気で殺しに来ぃ、それぐらいで丁度やろ」
目を輝かす少女に与一はそう言うと鎧を全身に纏って猛スピードで飛び出した。
「っっっっっ!」
少女は突風に息を呑みながら口元に笑みを浮かべた。
「来いや」
「はい……先生!」
少女は乗り物のエンジンをふかして与一の後ろに続いた。
乗り物からはレーザーとワイヤーロープが射出されて与一の事を確実に仕留めようとしていた。
「……やるなぁ、じゃあちょっとやんちゃするけ?」
与一は少し先の積乱雲の中に突っ込んで行った。
少女もそれに続いて積乱雲の中に入った。
中は雷と猛吹雪で視界が非常に悪かった。
「スパーキーン!」
の声と共に与一は少女の目の前を横切ったが、少女は落ち着いた状態のまま与一の行先を目で追って進行方向にレーザーの川を置いたが与一はそれを紙一重で躱したが、バランスを大きく崩して空中で回転し、少女はもう一度レーザーを用意して、与一に向けて撃った。
その瞬間与一は体制を立て直して少女に急接近して積乱雲から出た。
少女は与一を追って積乱雲から出た瞬間に目の前にいたのは心の底にある憧れと言うべきか、恐れと言うべきか、えもいわれぬ感情を持たせる光景が広がっていた。
「そろそろ終わりにしよけ?」
日が落ちていく太陽を背にして重力を感じさせない動きをしながらヨイチは黄色い電気を発しながらアーム状の触手をくねらせながらゆっくりと上下を反対にする様に回転していた。
赤い空が広がり、緑色の閃光が雲の水平線が立ち登るのと同時に与一は少女に急接近して、触手の一本の先を刃に変形させて喉元に突きつけた。
「……どう?」
「…………ほぅっ」
白い息を吐き出した少女はどこか満足げな表情をしていた。
空には星々が輝き河となって夜空を彩っていた。
「帰るか」
「………はい」
少女は見たこともないほどの美しい微笑を与一に見せた。
「ええ顔や………っておぉ!?」
少女は満足げに乗り物からは身を乗り出して、
「先生……お願いします」
と言って落ちて行った。
「マジかぁぁぁぁ!!」
そんな声を高速で置いて少女は体を大の字にして空を全身で感じて、落ちながら少女は回転しない様に体を動かしていた。
「おお!!さすが天才!やけど唐突に落ちるのは心臓に悪いから辞めよな!」
少女に追いついた与一は笑ってお姫様抱っこをしながら自分の周りに上から乗り物を下ろしてきてそこに乗せた。
「じゃあ今度こそ帰るか」
「………はい、先生」
どこか少女は満足そうな、してやったらと言う様な顔をしていた。
「で?空を自由に駆け回った感想は?」
少女はココアをゆっくりと飲むと、ほうっと息をついた。
「はい………際限のない……何かを感じました」
「……そっか、また飛びたいって思うのか?」
「……はい」
そうして、空を初めて飛んだ少女を皮切りに少年少女達は新しく空という新たな場所を手に入れるのだった。
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