Two Runner

マシュウ

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『寄り道』

ある青年のある夜

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 この列車の男女の割合は断然男の方が少ない。

 理由は単純、高価な奴隷として売られる傾向が強いのはいわゆる純粋無垢な少女や見目麗しい女性だからである。

 それ故に列車にいる男どもは常に女性から見られていると言う緊張感の中に立っていた。

 無論例外もある。

「うむ、腰つきも良くなってきた頃合いであるな、よし、今晩我の部屋にドゥベシッ!?」

「お前ぇ、あんだけ手ぇ出すなつったよなぁ?ええ?」

「そんな事を言っておると、いつまで経っても童貞だぞ?」

 全く自重しないワールドに、

「………」

 恐らく性別上雄……のはずのビート(元が異形の為性欲などがあるかは不明)がいる。

 そして、今日も女性に見られているのと仲間達からの期待に応えようと見えを張ってしまった結果、とんでもない事になってしまった男が自分部屋で頭を抱えながらカリカリとペンを走らせていた。

「爆薬の作り方は……適切なゲリラ戦法……環境に沿った配置……何でこんな事になったんだ……」

 彼はその優秀さから元奴隷達のリーダーの様な存在となっている。

 しかし、彼自身その存在になれたのには元々あった知識が大きく要因している。

 元々貴族崩れの少年で教育を受けていた為、この世界では通用するある程度の事は知識としてあった。

 しかし、ロキや与一と言った異世界からやってきた人物に対しての知識などは全くの皆無であり、彼らがもたらした知識に彼は何度目を飛び出させたことか……

 そんな彼はロキや与一、そして何故か集団戦術に通じているワールド達の期待に応えるべく日夜勉強する必要になった。なってしまったのである。

 だが、与一はどうだか分からないがロキやワールドは彼の潜在能力をしっかりと見抜いていた。

「戦場を操るものとして必要なのは勇気でも知恵でも無い、本当に必要なのは『仲間を死地へ立たせる事が出来る言葉』だ」

 ワールド曰く、時に状況を判断して的確な指示を出し、時に嘘をついて賭けに出たり、時に情に訴えかけたり、指揮官として必要なのは死という恐怖がある場所に足を向けさせる事だ、先ず足を向けないと何も始まらない故にと。

 そして奴にはそれらを行えるだけの度量と技量とがあった。

 それは、奴の出自が関係しているのか、ここに来るまでに何があったかは分からないが、とのことである。

 そんな彼の部屋にやってくる人物がいた。

 ノックされ青年は一度机に顔を突っ伏すと鏡を見て顔と髪を整えると返事をした。

「誰だ?」

「私です……」

 そこからの行動は早かった。

 机の上を3秒で片付け、床にゴミが散らばっていないから5秒で確認して、残り2秒たっぷり使ってドアを開けた。

「どうしたんだ、こんな時間に?」

 あくまで少し眠たげに、そして尚且つ優しい声色でそう言うとドアの前に立っている人物を中に入れようとしたが、

「明日の連絡です、明日は湖の近くを通る為凍った湖の上での演習にするそうです」

「そ、そうか……」

 青年は頭を抱える代わりに少し下を向いてコツコツとドアを叩き、

「分かった」

 と言った。

 少女はそれだけと言わんばかりに青年の前を歩いて行くのだった。

 ドアを閉め青年はため息をついた。

「……がっつきすぎって思われてないよな」

 疲れた様に溜息を吐いて、

 この列車に乗る元奴隷の人物達には基本的に銃が渡されることはない、狩りに向かうときに携行を許可されるが、それでも演習などでも使用することは許可されていない。

 主にそれは与一と言う人物の働きによる物だった。

 曰く、
「自分より若い子らが銃持つってのは、なんてーか、居た堪れへんって言うか……」

 と、ごにょごにょとよく分からないことを言っているが、独立する際に銃を持つことは不可欠なので将来的にはユウラビ達指導の元演習も行う予定らしい。

「……さて、行くか」

 列車が走っている夜中、この青年は決まって列車から出て屋根の上に登る。

「さっっっぶ……」

 震えながらも青年はその人物が来るのを待った。

「……待たしたな」

「トシアキさん」

 青年は俊明が揺れる列車の上でも微動だにせず立っているのに毎度の如く感動しながら剣を構えた。

「本日もよろしくお願いします」

「………」

 俊明は無造作に握っている剣を構えると目を細めた。

 暫く剣の打ち合いが続くと、青年は膝をついた。

「……やっぱり強いですね」

「ふんっ、当たり前やろ」

 俊明は剣を放り捨てると、剣は雪となって散った。

「……お兄さんは俊明さんよりも強いんですか?」

「……知らん」

 俊明は溜息をついて青年を立ち上げた。

「立て、もう寝る時間や」

「……はい」

 青年は屋根から飛び降りて列車に入った。

 俊明はそこに残ったまま空を見上げたままだった。

「……ふぅ」

 青年はかいた汗を流そうと、自分のいた家よりも豪華な浴槽設備がある風呂に向かった。

「………ふぅー」

 湯船に浸かり、一息ついてふと青年は思案に耽った。

「トシアキさん……あの人は一体……」

 兄の与一と比べあまり皆んなの前に姿を出すことは無い俊明は、謎多き人物として皆んなの中で広まっていた。

「高速移動だけかと思いきや、剣も銃も使える……」

 与一は基本素手であったり籠手をつけた先頭が主流なのに対して、俊明の出来ることはとても多かった。

「天才かはたまた……」

 自分達は未だ安心できる立場に無いと思った青年は再び気を引き締めて自室に戻るのだった。
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