Two Runner

マシュウ

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『寄り道』

別の天才

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「…………」

「ホノカ?」

「ん?何すか?」

「いや、何考えてるのかなって」

「ん~どうやったらあの魔物ペットに出来るか考えてるっす」

「そんな事よりも今どうやったらヨイチさ……ヨイチを倒せるか考えない!?」

「んーーー」

「「「お願いたがら!!」」」

「アー!ラッセーラーイラッセーラーイ!!オーライオーライ!!」

 彼女達は今自分達めがけて爆進してくる与一から何とか逃げようと走り回っていた。

「いやね、幾らでも思いつくんすけどね~、あんまりどれも面白そうじゃあないんすよね~、あっそうだ、おーいヨイチさーん!」

「お願いだから呼ぶなこのバカ!」

「いや、それなら私に色々と勝ってから言って欲しいっす」

「こんの~~!!」

「2人とも!今はそんな事言ってる場合じゃないでしょお!?」

「そうですよ~あっ、ケガはして無いですか?大丈夫ですか?回復要ります?回復魔法掛けましょうか?魔法は嫌ですか?じゃあ血飲みます?」

「貴方はお願いだからもっと自分を大切にして……!あーもう!仕方ない!こうなったら私特製の回転爆弾で……!!」

「それは止めろ!」

「止めて下さい」

「止めて欲しいっすねぇ~」

「なんでよー!!」

 と、そんな感じで騒がしい4人は雪原の中を何とか与一の攻撃を掻い潜りながら走っていた。

「はぁ……はぁ……クッソ!他の奴らどんどんやられてんぞ!」

「やっぱり残るのは私達といつものメンツっねぇ~」

「あ"~~さすが俺ら!!天才!厄災!大喝采!!」

「頭大丈夫ですか?怪我してないですか?回復します?魔法は嫌ですか?血飲みます?」
 
「やばっ!視界が白くなって来た……」

「与一さーん、今の状況打破する秘策教えて下さいっす!」

「どうせ銃かっぱらってんろお前!やったらそれ使ぃや!」

「いつから見てたんすかー?」

「忘れたわ!」

「ほっと」

 繰り出される触手からの攻撃を軽々と躱すとホノカと呼ばれた少女は触手を伝って与一に迫った。

「じゃあお望み通りあげるっすよ」

「ちょまっ!」

 発砲音と同時に与一は触手を変形させて自分の体の周りを囲った。

 その瞬間ホノカは素早くその場を離脱して3人の元に戻った。

「さ、流石ね……」

「ほら、何してんすか、一番遅かった人が次の当番全部やるっすよー」

「「「あっ!」」」

 その瞬間ホノカは加速してゴール地点まで駆けて行った。

 3人も負けじと走り、ジリジリと距離を狭めて追いつくと殆ど同時に4人でゴールした。

「はぁ……はぁ……今の……誰が最後なのよ……」

「はぁ……はぁ……俺ではない事は確かだな」

「はぁ………はぁ………あれ?ホノカちゃん?」

 すると、息を整える素振りもせずに空を見上げるホノカは暫くすると走って極点基地の工房に向かって走って行ってしまった。

「ちょっ!どこ行くんだよ!」

「ちょっとそこまでっす!」

 と、声が帰ってきてそして、続けて他のチームが帰って来て、最後に与一がゴールに戻って来た。

「おっさ、全員おるな?怪我したやつは?おらん?よし、今日の訓練はここまで!解散!自由に遊んで来い!」

 与一はそう言うと、暫くそこに残って彼らの話したい事が無いかどうか確認するためにそこに座ってコーラを飲み始めた。

 コレが彼のここに来てからの習慣になる。

 そして、そんな与一を横目に3人は起き上がると、ホノカが何か仕出かさない内にと向かった工房へと向かった。

 工房は熱気に満ちており、何やら怒号や爆発音が轟くことも多々あった。

「すみませーん!」

「おぉ?与一の坊ちゃんところの嬢ちゃん達じゃあねぇか、お前らもどうしたんだ?」

「ホノカがここに来ませんでしたか?」

「あ?あの嬢ちゃんか?なんか姐さんに用事が有るつって奥に行ったぞ!」

「わかった!ありがとなおっちゃん!」

「おうよ!ここで働きたくなったらいつでも言えよ!がっはっはっはっは!」

 と、そんな男と会話した後この工房を指揮している女性の所へと向かうと、そこでは姐さんと呼ばれている女性が何人もの筋骨隆々の男の作業の様子を見ながら時に頭を叩いたり、時に隣に立ってアドバイスをしながら何かを作っていた。

「すみませーん!」

「お、あんたらも来たかい!よしじゃあ一発かまして……」

「違う違う!俺達はホノカを探しに来ただけなんだ」

「なぁんだ、あの子かい、あの子ならあたしに銃を返した後あのボウズとは違って今作っているやつの実用的なアドバイスをくれた後、物資センターに行ったよ」

「実用的なアドバイス?」

「そうさね、まぁ、あんたらには関係の無い事だからね、さあ行った行った!」

「あぁまって!私はここに残るから!ごめん!発明家としてここの技術力はやっぱり見過ごせないの!先に行っといて!」

「あー、分かったよ、ちゃんと迷惑かけるなよ?」

「私を何だと思っているの?」

「俺たちの目の前で爆発するダメ爆弾を作るイカれ発明家以外に何があるんだよ」

「よし、貴方の部屋に今度仕掛けとくわね」

「じゃあお前が前与一さんの部屋に間違えて爆弾突っ込んで部屋の中めちゃくちゃにしたのチクるからな」

「喧嘩してもいいですけど、怪我したら私に言って下さいね?」

 2人が威嚇する様に睨み合っていると工房の女が、

「用事がないならとっとと出てく!」

 と追い払う様に2人を工房から出すと、手を叩いて中に戻って行った。

「くっそ、何だよあのババア」

「私に関しては完全に書き添えなのですが……あっ、怪我してないですか?魔法はいりますか?それとも血が良いですか?」

「どっちも良いよ、ありがとうな……はぁ、行くか」

 今度はこの基地での物流を掌握する物流センターに向かった。

「ねぇ、ホノカちゃんは何を考えているのかしら?」

「おおよそ、俺みたいな凡人に解るような考えはして無いだろうさ」

「………」

 4人は元奴隷と言う凡人とは言い難いような経験をしているが、この少年はそれを平凡と言っているあたり隣に立っている少女はこの少年も平凡ではないと感じているようだった。

 4人はそれぞれ別々の理由で奴隷になっている。

 少年はカインマンと言い、親の顔を知らず保護施設で育てられていたが、偶々親が逃避行生活していた商人と妾との隠し子で、偶々外で遊んでいた所を発見されて、それが偶々その施設を狙っていた盗賊の耳に入り、色々な口を経て誘拐される事となり、色々な政治的な策略の後に泣く泣く親から捨てられた結果与一に買われる事となった。

 少年曰く、別れる時に泣きながら2人ら抱き締めてくれたからもうそれで良いと。

 発明家の少女はパンビルと言い、小さい頃は探検好きで良く村から出ていたがある日、遺跡を発見してその中で回転する車輪型の爆弾や妙な兵器の模型や設計図を見た時からそれらの研究をする様になり、それを物珍しく思った貴族の1人が攫い買収しようとしたが、買収する前に与一が買い取ってしまい少し腹が立つも業者から謝礼金がある程度出た為まぁ、コレはコレでいっかとなっている為、少女の命が脅かされる事はない。

 やたらと回復魔法を押してくる少女はアイシャと言い、生まれながらの得意体質で身近にいる者の傷などを癒せると言う事でこの世界の教会から神聖児として育てられており、熱心な教徒でありそうだが教会の人間に裏切られ奴隷のセリに出され、どこかの貴族の内通者に飼われる事となり穢らわしい自身を見る目を見た時、悟り信仰心などと思い諦めて全てを受け入れて道具になってしまおうと考えていると、そこに与一と言う横槍が入り結局助かる事となった。

 因みに協会側には奴隷商人側から与一から割高で取った金が流れ、貴族には少女とは別の偽物の子があてがわれる事となり、その子がこの少女に助けられるのはまた別の話だ。

 そして、この不思議ちゃんと言うか天然というか、天才と言うべきか、取り敢えずこのチームの一番の問題児である自称ホノカは……言うまでも無いだろうが転生者である。彼女がこの世界でつけられた名前は無い為自身でそう名乗っている。彼女がこの世界に降り立った時はその天才的な才能で魔物は殺し尽くし、その才能と美貌に見惚れた貴族が買収の為彼女に嘘を付き奴隷まで貶めたが、タイミングよく与一が彼女を回収した為事なきを得たのであった。その事を彼女は知ってか知らずしてかよく一人(偶にセツや他の子と一緒に居たりするが)でいる寂しそうな与一に嬉しそうに楽しそうに構いに行く子の一人になる。

 因みに彼女が元の世界で死んだ原因は凍死である。

 と、この様な経験を抱えているが、それぞれ口に出す事なく四人はグループを作っていたのであった。

 そして、カインマンがグチを言いながら歩いていると物流センターに到着した。

 物流センターは今日は静かで資材置き場で頭を掻きながら、センター長が物資の管理を行なっていた。

「すいませーん」

「ん?あぁ、君たちか、彼女がそろそろ追いつくんじゃ無いかって言っていたがまさか本当にそうだとは……」

「その口調じゃあ、ホノカはここに来たみたいですね?」

「んん、まぁな、何か『私が使っても良い金属って言うか物資みたいなんって無いっすか!?』って聞いて来たからよ、廃材置き場なら好きな使いなって言ったからそこに居ると思うぞ」

「そっか、ありがとうございます。所で……あいつ何か失礼な事言いませんでした?」

「失礼な事……?いーや?『流通の物価の動きってどんなんすかねぇ』とか、あいつホントに14歳かぁ?とか思ったけどそれ以外は何とも?似たような質問しかしなかったしな」

「そ、そうですか……」

「うーん、思っていたよりもホノカちゃんは大人なのでしょうか?」

「うーん分からん!飽き性なところもあるしなアイツ」

「そうでしょうか?」

 二人はそう言いながら近くの廃材置き場に向かった。

 5分も歩かない内にそこに着くと、そこでホノカは走っていた時には流していない汗を流しながら必死に何かを探していた。

「おい、何してんだ?」

「おー、来たっすか、どしたんすか?」

「どしたんすかじゃねーよ」

「いやー、ちょーっと作りたい物があってっすね?工房の予約とかは出来たんすけど資材はお金で買えば良いんすけど、私直ぐに使っちゃうからここで調達してるんす」

「金なら十一で貸してやらんことも……」

「良いっすよ、ある分でも多分作れるんで」

「……そうかよ、好きにしな……何探してんだ?」

「お金は出ないっすよ」

「お前なぁ……十一で貸すとか言うのは冗談だし、流石にこの寒空の下で一人でそんな手ぇ震えさせて何か探す奴が居るか」

「そうよ、魔法かけてあげるわね、凄く冷たいわ……何をそんなに探していたの?」

 ホノカは二人を表情を変えずにじっと見つめてニコッと笑うと、

「じゃあ、材料探しは私がやるから運ぶの任せたっす」

 そう言ってホノカが叩いた鉄屑をカインマンは持ち上げようとすると、驚いた様に目を開いた。

「お前これ一人で運ぼうとしてたのか!?」

「えー、持てないんすかー?」

「くっ!こなくそぉぉぉ!!」

「あぁ!危なっかしいですね、私も反対側を持ちますよ」

「うぐっ……すまん」

 二人は、うんとこしょ、どっこいしょと鉄屑を工房向けて運んで行った。

 その背中を見ながらホノカはぼうっとしていると、俊明がそこに現れた。

「こない寒い所で何してん」

「あ、俊明」

「さんをつけ……いや、いいか……ほら」

 俊明はホノカに三つ何かの機械を投げ渡した。

「電気カイロや……にーちゃ……与一がくれてやれってさ」

「……どーもっす」

 俊明はホノカが頭を下げるのを見て微笑むと、その場から元々居なかったかのように消えてしまった。

 ホノカは俊明がいた方をじっと見つめると、再び電気カイロを握り締めながら材料を探し出した。

 暫く後工房から大声が聞こえた。

「できたーーーーーー!!!!」

 ホノカは工房から作ったものを持って走り出ると、そのまま自分の部屋に戻ってしまった。

 ホノカは作ったミシンを机の上に置くと、嬉しそうにロキや与一からもらった布素材を元に衣装の製作を鼻歌を歌いながら、裁縫を始めた。

「「………ん~~~」」

 そして、そんな部屋の前で俊明と与一は目配せをしてハイタッチを……

「「ィィィエビィ!カニィ!タコォ!フゥー!!!」」

 ……騒ぎ立てるのだった。
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