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神殿の試練
しおりを挟むエルラは馬車の荷台に揺られながら、窓の外に広がる山脈を眺めていた。旅を始めて数週間、森や砂漠を越え、ついに古代の神殿に続く道にたどり着いた。空は灰色の雲に覆われ、冷たい風が彼女の頬を撫でる。心臓がドキドキと高鳴る中、彼女は自分の癒しの力がこの旅の鍵だと感じていた。
「エルラ、緊張してる?」
カイが馬車の前方から振り返り、落ち着いた雰囲気が漂う穏やかな声で尋ねた。
「うん、ちょっと…。でも、みんなと一緒だから大丈夫だよね?」
エルラは微笑みながら答えた。
「その通ーーり!エルラがいるから、俺たちは無敵だぜ!」
タロンが馬車を操りながら、陽気に叫んだ。彼の軽快な口調が緊張を和らげる。
「全く…タロン、調子に乗らないで。神殿には危険が待ってるわ」
リアが地図を手に冷静に告げる。
ガルドは無言で馬車の横を歩き、盾を構えて周囲を警戒していた。静かで力強い存在感がグループを支えている。
山の頂上にそびえる古代の神殿は、霧に包まれ、荘厳な姿を現していた。石造りの入口は大きく開き、まるで彼らを飲み込むかのようだった。
「ここが生命の結晶がある神殿か…。気を引き締めよう」
カイが剣の柄に手を置き、皆を見回した。
「簡単にはいかないでしょうね。古文書によると、試練が待っているとのことよ」
リアが地図を閉じ、鋭い目で神殿を見つめた。
「試練って、どんなの? 魔物? それともパズル?」
タロンが興味津々に尋ねた。
「さあな。行ってみなきゃわからねえよ」
ガルドが低く答えた。
エルラは深呼吸し、仲間たちと共に入口をくぐった。心の中で、村で過ごした日々を思い出す。祖母の言葉、「君には君の人生がある」が、彼女を勇気づけていた。
神殿の内部は暗く、湿った空気が漂っていた。壁には古い彫刻が刻まれ、かすかな光が石の隙間から漏れている。足音が反響し、静寂を破る。
「みんな、足元に気をつけて。トラップがあるかもしれない」
カイが先頭に立ち、慎重に進んだ。
突然、床の石板がカチリと音を立て、矢が壁から飛び出してきた。ガルドが素早く盾を構え、矢を弾き返した。
「危ねえ! エルラ、離れてろ!」
ガルドが叫び、エルラは後ろに下がった。
「あ、ありがとう、ガルドさん!」
エルラの声は震えていたが仲間を信じる気持ちが強かった。
リアが魔法で光を放ちトラップの仕組みを調べた。
「この先は似たような仕掛けが続くわ。私の魔法で道を照らすから、ついてきて」
グループはリアの光を頼りに進んだ。次の部屋では、宝物が積まれた台座が目に入った。金貨や宝石が輝いている。
「うっほおおお!!すっげえ!!これ持って帰ったら大金持ちだぜ!」
タロンが目を輝かせ、近づこうとした。
「待ちなさい、タロン! 触ったら罠が発動するわ!」
リアが鋭く止め、タロンは肩をすくめた。
「ちぇ、わーかったよ」
その後も、幻覚魔法の部屋や、骸骨の戦士が襲いかかる試練を乗り越えた。エルラは戦闘には参加せず、仲間たちの軽い傷を癒しながら支えた。カイが振り返り、微笑んだ。
「エルラ、君のおかげで僕たちは無事だ。ありがとう」
「ううん。私もみんなが頑張ってくれるから力を出せるよ」
エルラは照れながら答えた。
神殿の最奥にたどり着くと、巨大な祭壇が現れた。その中央に、青く輝く生命の結晶が浮かんでいる。エルラの目が釘付けになる。
「これが…生命の結晶…」
彼女がつぶやくと、突然空気が重くなり祭壇の前に光の柱が現れた。中から透き通った声が響く。
「結晶を求める者よ。試練を乗り越えた勇気を讃える。だが、結晶を手に入れるには、代償が必要だ」
光の中から、守護霊が姿を現した。白いローブをまとい、顔のない存在がグループを見下ろす。
「は??代償? 何だよそれ!」
タロンが叫んだ。
「結晶の力は、確かに命を救う。だがその対価として、求める者自身が大切なものを捧げねばならぬ」
守護霊の声が神殿に響き渡る。
カイが剣を握りしめ、前に出た。
「僕たちが捧げるべきものは何だ?」
「それは汝自身が知っている。最も大切なものを差し出せ」
エルラは息を呑んだ。彼女の心に癒しの力が浮かぶ。村で祖母から受け継いだ力。仲間たちを守り、支えてきた力。
「私…私の…私の癒しの力を捧げます!」
エルラの声は震えていたが、決意に満ちていた。
「エルラ、駄目だ! 」
カイが叫んだが、エルラは首を振った。
「カイさん、この結晶なら、たくさんの人を救えるんだよ?それに代わるなら…私の力は喜んで捧げる」
リアが慌てて言った。
「待ちなさい!エルラ!考え直して! 君の力は唯一無二なのよ?!」
「そうだぜ!エルラ! お前がいなきゃ、俺たちどうすんだよ!」
タロンが声を荒げた。
ガルドも静かに言った。
「お前がそんな決断をしたら、俺たちは…」
カイがエルラの肩にそっと触れる。
「エルラ…君にそんな決断をさせる為に一緒に旅をしようと誘ったわけではないんだ!他の方法を考えよう?」
「ありがとう。でも、私、決めたの。この力で、もっと多くの人を…救いたい」
エルラは微笑み、守護霊に向き合った。
「私の癒しの力を、結晶と引き換えにしてもらえますか?」
守護霊は静かに頷いた。
「汝の決意、受け取った」
光がエルラを包み、彼女の体から暖かい力が抜けていく。癒しの魔法が消えていく感覚に、エルラは一瞬だけ恐怖を感じた。だが、祭壇の結晶が輝きを増し、彼女の手元に落ちてきた。
「エルラ!」
ふらつくエルラをカイが慌てて支える。
エルラは弱々しく微笑んだ。
「大丈夫…。見て、ここにちゃんと結晶はあるよ」
「あまり、無茶をしないでくれ…心配になる…」
「勝手をしてごめんなさい…。気をつけるね?」
心配気なカイの反対にタロンは苦笑いをしながら言う。
「こう見えてエルラはばーちゃん似で頑固だからなー!」
リアはため息をつきながら
「そのようね…認識を改めないといけないわね…。これからはちゃんとみんなと相談をしてからにしなさいね!」
リアの厳しい言葉がくすぐったく嬉しくなったエルラは笑顔で頷いた。
神殿を後にし、グループは山を下った。エルラは結晶を手に持ち、仲間たちを見た。癒しの力は失われたが、彼女の心は軽かった。
「エルラ…本当に良かったのかい?…自分の力を…」
カイが心配そうに尋ねた。
「うん。私、新しい自分を見つけられる気がする。癒しの力はなくなったけど…みんなと一緒にいることで、別の力を学べるよね?」
エルラの言葉に、リアが微笑んだ。
「君の勇気は本当に尊敬するわ。新しい力もきっと見つけてみせるわよ」
タロンが笑いながら言った。
「さっすがエルラだ! 俺たちってばどんな時も一緒だからな!」
ガルドが静かに頷いた。
「お前は強い。俺たちも、もっと強くならなくてはな」
カイが結晶を見つめて言った。
「君のおかげで、僕たちは結晶を手に入れることができた。王国を救うため、そして君の新しい旅のために、前に進もう」
エルラは仲間たちの顔を見回して頷いた。
「うん!みんなと一緒なら、どんな未来も怖くないよ!」
グループは新たな決意を胸に旅を続けた。
生命の結晶が放つ青い光が、彼らの道を照らしていた。
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