癒やしの旅人

風待 結

文字の大きさ
5 / 12

神殿の試練

しおりを挟む


エルラは馬車の荷台に揺られながら、窓の外に広がる山脈を眺めていた。旅を始めて数週間、森や砂漠を越え、ついに古代の神殿に続く道にたどり着いた。空は灰色の雲に覆われ、冷たい風が彼女の頬を撫でる。心臓がドキドキと高鳴る中、彼女は自分の癒しの力がこの旅の鍵だと感じていた。

「エルラ、緊張してる?」

カイが馬車の前方から振り返り、落ち着いた雰囲気が漂う穏やかな声で尋ねた。

「うん、ちょっと…。でも、みんなと一緒だから大丈夫だよね?」

エルラは微笑みながら答えた。

「その通ーーり!エルラがいるから、俺たちは無敵だぜ!」

タロンが馬車を操りながら、陽気に叫んだ。彼の軽快な口調が緊張を和らげる。

「全く…タロン、調子に乗らないで。神殿には危険が待ってるわ」

リアが地図を手に冷静に告げる。

ガルドは無言で馬車の横を歩き、盾を構えて周囲を警戒していた。静かで力強い存在感がグループを支えている。





山の頂上にそびえる古代の神殿は、霧に包まれ、荘厳な姿を現していた。石造りの入口は大きく開き、まるで彼らを飲み込むかのようだった。

「ここが生命の結晶がある神殿か…。気を引き締めよう」

カイが剣の柄に手を置き、皆を見回した。

「簡単にはいかないでしょうね。古文書によると、試練が待っているとのことよ」

リアが地図を閉じ、鋭い目で神殿を見つめた。

「試練って、どんなの? 魔物? それともパズル?」

タロンが興味津々に尋ねた。

「さあな。行ってみなきゃわからねえよ」

ガルドが低く答えた。

エルラは深呼吸し、仲間たちと共に入口をくぐった。心の中で、村で過ごした日々を思い出す。祖母の言葉、「君には君の人生がある」が、彼女を勇気づけていた。



神殿の内部は暗く、湿った空気が漂っていた。壁には古い彫刻が刻まれ、かすかな光が石の隙間から漏れている。足音が反響し、静寂を破る。

「みんな、足元に気をつけて。トラップがあるかもしれない」

カイが先頭に立ち、慎重に進んだ。

突然、床の石板がカチリと音を立て、矢が壁から飛び出してきた。ガルドが素早く盾を構え、矢を弾き返した。

「危ねえ! エルラ、離れてろ!」

ガルドが叫び、エルラは後ろに下がった。

「あ、ありがとう、ガルドさん!」

エルラの声は震えていたが仲間を信じる気持ちが強かった。

リアが魔法で光を放ちトラップの仕組みを調べた。

「この先は似たような仕掛けが続くわ。私の魔法で道を照らすから、ついてきて」

グループはリアの光を頼りに進んだ。次の部屋では、宝物が積まれた台座が目に入った。金貨や宝石が輝いている。

「うっほおおお!!すっげえ!!これ持って帰ったら大金持ちだぜ!」

タロンが目を輝かせ、近づこうとした。

「待ちなさい、タロン! 触ったら罠が発動するわ!」

リアが鋭く止め、タロンは肩をすくめた。

「ちぇ、わーかったよ」

その後も、幻覚魔法の部屋や、骸骨の戦士が襲いかかる試練を乗り越えた。エルラは戦闘には参加せず、仲間たちの軽い傷を癒しながら支えた。カイが振り返り、微笑んだ。

「エルラ、君のおかげで僕たちは無事だ。ありがとう」

「ううん。私もみんなが頑張ってくれるから力を出せるよ」

エルラは照れながら答えた。




神殿の最奥にたどり着くと、巨大な祭壇が現れた。その中央に、青く輝く生命の結晶が浮かんでいる。エルラの目が釘付けになる。

「これが…生命の結晶…」

彼女がつぶやくと、突然空気が重くなり祭壇の前に光の柱が現れた。中から透き通った声が響く。

「結晶を求める者よ。試練を乗り越えた勇気を讃える。だが、結晶を手に入れるには、代償が必要だ」

光の中から、守護霊が姿を現した。白いローブをまとい、顔のない存在がグループを見下ろす。

「は??代償? 何だよそれ!」

タロンが叫んだ。

「結晶の力は、確かに命を救う。だがその対価として、求める者自身が大切なものを捧げねばならぬ」

守護霊の声が神殿に響き渡る。

カイが剣を握りしめ、前に出た。

「僕たちが捧げるべきものは何だ?」

「それは汝自身が知っている。最も大切なものを差し出せ」

エルラは息を呑んだ。彼女の心に癒しの力が浮かぶ。村で祖母から受け継いだ力。仲間たちを守り、支えてきた力。

「私…私の…私の癒しの力を捧げます!」

エルラの声は震えていたが、決意に満ちていた。

「エルラ、駄目だ! 」

カイが叫んだが、エルラは首を振った。

「カイさん、この結晶なら、たくさんの人を救えるんだよ?それに代わるなら…私の力は喜んで捧げる」

リアが慌てて言った。

「待ちなさい!エルラ!考え直して! 君の力は唯一無二なのよ?!」

「そうだぜ!エルラ! お前がいなきゃ、俺たちどうすんだよ!」

タロンが声を荒げた。

ガルドも静かに言った。

「お前がそんな決断をしたら、俺たちは…」

カイがエルラの肩にそっと触れる。

「エルラ…君にそんな決断をさせる為に一緒に旅をしようと誘ったわけではないんだ!他の方法を考えよう?」


「ありがとう。でも、私、決めたの。この力で、もっと多くの人を…救いたい」

エルラは微笑み、守護霊に向き合った。

「私の癒しの力を、結晶と引き換えにしてもらえますか?」

守護霊は静かに頷いた。

「汝の決意、受け取った」

光がエルラを包み、彼女の体から暖かい力が抜けていく。癒しの魔法が消えていく感覚に、エルラは一瞬だけ恐怖を感じた。だが、祭壇の結晶が輝きを増し、彼女の手元に落ちてきた。

「エルラ!」

ふらつくエルラをカイが慌てて支える。
エルラは弱々しく微笑んだ。

「大丈夫…。見て、ここにちゃんと結晶はあるよ」

「あまり、無茶をしないでくれ…心配になる…」

「勝手をしてごめんなさい…。気をつけるね?」

心配気なカイの反対にタロンは苦笑いをしながら言う。

「こう見えてエルラはばーちゃん似で頑固だからなー!」

リアはため息をつきながら

「そのようね…認識を改めないといけないわね…。これからはちゃんとみんなと相談をしてからにしなさいね!」

リアの厳しい言葉がくすぐったく嬉しくなったエルラは笑顔で頷いた。




神殿を後にし、グループは山を下った。エルラは結晶を手に持ち、仲間たちを見た。癒しの力は失われたが、彼女の心は軽かった。

「エルラ…本当に良かったのかい?…自分の力を…」

カイが心配そうに尋ねた。

「うん。私、新しい自分を見つけられる気がする。癒しの力はなくなったけど…みんなと一緒にいることで、別の力を学べるよね?」

エルラの言葉に、リアが微笑んだ。

「君の勇気は本当に尊敬するわ。新しい力もきっと見つけてみせるわよ」

タロンが笑いながら言った。

「さっすがエルラだ! 俺たちってばどんな時も一緒だからな!」

ガルドが静かに頷いた。

「お前は強い。俺たちも、もっと強くならなくてはな」

カイが結晶を見つめて言った。

「君のおかげで、僕たちは結晶を手に入れることができた。王国を救うため、そして君の新しい旅のために、前に進もう」

エルラは仲間たちの顔を見回して頷いた。

「うん!みんなと一緒なら、どんな未来も怖くないよ!」

グループは新たな決意を胸に旅を続けた。
生命の結晶が放つ青い光が、彼らの道を照らしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

【完結】令嬢は売られ、捨てられ、治療師として頑張ります。

まるねこ
ファンタジー
魔法が使えなかったせいで落ちこぼれ街道を突っ走り、伯爵家から売られたソフィ。 泣きっ面に蜂とはこの事、売られた先で魔物と出くわし、置いて逃げられる。 それでも挫けず平民として仕事を頑張るわ! 【手直しての再掲載です】 いつも通り、ふんわり設定です。 いつも悩んでおりますが、カテ変更しました。ファンタジーカップには参加しておりません。のんびりです。(*´꒳`*) Copyright©︎2022-まるねこ

王女様は聖女様?おてんば姫の大冒険~ペットのドラゴンが迷子なので冒険者になって探しに行きます!~

しましまにゃんこ
ファンタジー
アリシア王国の第3王女ティアラ姫には誰にも言えない秘密があった。 それは自分が全属性の魔力を持ち、最強のチート能力を持っていた「建国の賢者アリシア」の生まれ変わりであること! 8才の誕生日を境に前世の記憶を取り戻したものの、500年後に転生したことを知って慌てる。なぜなら死の直前、パートナーのドラゴンに必ず生まれ変わって会いにいくと約束したから。 どこにいてもきっとわかる!と豪語したものの、肝心のドラゴンの気配を感じることができない。全属性の魔力は受け継いだものの、かつての力に比べて圧倒的に弱くなっていたのだ! 「500年……長い。いや、でも、ドラゴンだし。きっと生きてる、よね?待ってて。約束通りきっと会いにいくから!」  かつての力を取り戻しつつ、チートな魔法で大活躍!愛する家族と優しい婚約者候補、可愛い獣人たちに囲まれた穏やかで平和な日々。 しかし、かつての母国が各国に向けて宣戦布告したことにより、少しずつ世界の平和が脅かされていく。 「今度こそ、私が世界を救って見せる!」 失われたドラゴンと世界の破滅を防ぐため、ティアラ姫の冒険の旅が今、始まる!   剣と魔法が織りなすファンタジーの世界で、アリシア王国第3王女として生まれ変わったかつての賢者が巻き起こす、愛と成長と冒険の物語です。 イケメン王子たちとの甘い恋の行方もお見逃しなく。 小説家になろう、カクヨムさま他サイトでも投稿しています。

華都のローズマリー

みるくてぃー
ファンタジー
ひょんな事から前世の記憶が蘇った私、アリス・デュランタン。意地悪な義兄に『超』貧乏騎士爵家を追い出され、無一文の状態で妹と一緒に王都へ向かうが、そこは若い女性には厳しすぎる世界。一時は妹の為に身売りの覚悟をするも、気づけば何故か王都で人気のスィーツショップを経営することに。えっ、私この世界のお金の単位って全然わからないんですけど!?これは初めて見たお金が金貨の山だったという金銭感覚ゼロ、ハチャメチャ少女のラブ?コメディな物語。 新たなお仕事シリーズ第一弾、不定期掲載にて始めます!

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜

日々埋没。
ファンタジー
​「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」  ​かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。  その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。  ​レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。 ​ 地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。 ​「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」  ​新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。  一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。  ​やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。  レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。

伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊
ファンタジー
気が付くとまん丸と太った少女だった?! 痩せたいのに食事を制限しても運動をしても太っていってしまう。 一体私が何をしたというのよーっ! 驚愕の異世界転生、始まり始まり。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

処理中です...