癒やしの旅人

風待 結

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森の闇と絆

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深い森の木々がそよ風に揺れ、葉擦れの音が静かに響く。エルラは馬車の荷台に座り、緑豊かな風景に目を奪われていた。村の森とは異なる、どこか神秘的な力が漂うこの場所に、彼女の心は高鳴っていた。

「エルラ、この森、村の近くとは全然違うだろ?」

カイが馬車の前方から振り返り、気さくに声をかけた。笑顔には疲れが見えるが、仲間たちとの時間が彼を和ませているようだった。

「うん、なんだか…生きてるみたい。ちょっと不思議な感じがする」

エルラは少し緊張しながら答えた。木々の間から差し込む光が、彼女の目にキラキラと映る。

「この森には古い魔法が残ってる。気を引き締めなきゃな」

カイは馬を進める手を緩めず、落ち着いた口調で言った。

タロンが馬車を操りながら、いつもの軽い調子で割り込んだ。

「でもさ、エルラがいるから大丈夫だろ! 癒しの力って最強だもんな!」

「タロン、調子に乗らないで。敵を引き寄せたらどうするの?」

リアが地図を手に、鋭くたしなめた。彼女の声には知的な響きと、ほのかな優しさが混じる。

ガルドは無言で馬車の横を歩き、盾を手に周囲を警戒していた。彼の静かな存在感が、グループに安心感を与えていた。

エルラは仲間たちを見ながら、心の中で感謝した。砂漠での試練を乗り越え、ウォーターウォーデンとの出会いを経て、彼女は自分の癒しの力が仲間にとってどれほど大切かを少しずつ理解し始めていた。




その夜、グループは森の開けた場所にキャンプを張った。リアが魔法で火を起こし、ガルドが鍋にスープを用意する。タロンは木の枝を削りながら、冗談を飛ばして場を和ませていた。

「なあ、エルラ、この森、夜になると幽霊が出るって噂だぞ。怖い話、聞きたいか?」

タロンがニヤリと笑いながら言った。

「え、幽霊? やめてよ、タロンさん!」

エルラは身を縮こませ、笑いながら答えた。彼女の声には、仲間との時間が楽しくてたまらない様子が滲む。

「もう、タロン!いい加減にしなさい!エルラが怖がったらどうするの?」

リアが呆れたように言い、火に薪をくべた。彼女の口調は柔らかく、姉のような気遣いが感じられた。

カイは火のそばに座り、皆のやり取りを静かに見守っていた。彼の表情には、仲間たちとの穏やかな時間が映っているようだった。

「エルラ、旅はどうだ? 慣れてきた?」

カイが穏やかに尋ねた。

「うん、だいぶ慣れてきたよ。みんながいるから怖くても頑張れる」

エルラの素直な言葉に、カイは小さく笑った。

「そうか。君がいてくれて、僕たちも心強いよ。以前の砂漠での癒し、忘れられないな」

その言葉に、エルラは頬を赤らめた。村では当たり前だった癒しの力が、こんなにも感謝されることに、彼女はまだ慣れていなかった。



翌日、グループは森の奥深くへ進んだ。道は狭くなり、木々の枝が馬車に絡まるようになってきた。空気が重くなり、鳥の声も聞こえなくなっていた。

「妙だな…何かおかしい…静かすぎるぞ。」

ガルドが低い声でつぶやいた。彼の言葉に、皆が周囲を見回す。

突然、木々の間から低い唸り声が響き、地面がわずかに震えた。巨大な影が現れた。闇の魔獣だった。狼のような姿だが、体は黒い霧に包まれ、目は赤く光っている。

「魔獣だ! みんな、戦闘準備!」

カイが剣を抜き、叫んだ。リアは魔法の詠唱を始め、タロンは弓を構え、ガルドは盾を前に出した。

エルラは馬車の後ろに身を隠し、心臓が高鳴るのを感じた。戦闘は苦手だが、仲間を支えるために何ができるかを考えていた。彼女は深呼吸し、落ち着こうとした。

魔獣がガルドに襲いかかり、彼は盾で防ぎながら踏ん張った。

「この魔獣、普通じゃない! 矢が効かねえ!」

タロンが叫んだ。彼の矢は魔獣の体を貫くが、黒い霧が傷をすぐに塞ぐ。

リアが鋭い目で魔獣を観察し、叫んだ。

「ちょっと、待って! 胸のあたり、霧が濃いわ。核がそこにあるはずよ!」

「よし、みんな、胸を狙え!」

カイが指示を出し、グループは攻撃を集中させた。ガルドが魔獣の注意を引き、タロンの矢とカイの剣が胸を狙う。リアは火炎魔法を放ち、霧を薄くした。

タロンの矢が核を直撃し、魔獣は咆哮を上げて崩れ落ちた。

「やった! 倒したぞ!」

タロンが歓声を上げ、皆が安堵の息をついた。

エルラは馬車から降り、仲間たちの無事を確認した。カイは無傷で、ガルドも軽い傷だけで済んでいた。

「みんな、無事でよかった…」

エルラがほっとした声で言うと、カイが笑顔で答えた。

「君がいてくれたから、僕たちも全力で戦えた。ありがとう、エルラ」

エルラは少し照れながら、仲間たちの力強さに心を動かされた。



その夜、グループは再びキャンプを張った。
火の光が揺れ、森の静寂が皆を包む。スープの香りが漂い、仲間たちの笑い声が響く。

「エルラ、今日もありがとう。君がいるから、私たち安心して戦えるわ」

リアが穏やかに言った。

「だな! エルラってば、ほんと頼りになるぜ!」

タロンが笑いながら加わった。彼の陽気な声が、場を明るくする。

ガルドも静かに頷き、口を開いた。

「お前がいるから、俺たちも強くなれる」

エルラは皆の言葉に、頬を赤らめながら微笑んだ。

「みんなが頑張ってくれるから、私も頑張れるんだよ。ありがとう」

火のそばでカイが静かにスープをかき混ぜていた。エルラは彼の少し遠い目つきに気づき、そっと声をかけた。

「カイさん、今日の戦い… すごかったね。みんな無事でよかった」

カイはスプーンを置いてゆっくりと顔を上げた。

「ああ、ほんとにな。実は… 今日みたいな戦いを見てると、昔のことを思い出すんだ。僕の家族は謎の病で死んだんだ。王国を襲ってるあの病だ。僕には何もできなかった。あの無力感… 今でも胸に残ってるよ」

カイの声は静かだったが、その中に深い悲しみが感じられた。エルラは胸が締めつけられる思いだった。

「カイさん… そんなことが…」

エルラは言葉を探しながら、続けた。

「私は癒し師として、傷だけじゃなくて心も癒したい。カイさんの悲しみは全部は消せないかもしれないけど… 少しでも支えたいと思ってる」

カイはエルラの真剣な目を見て、ほのかに微笑んだ。

「エルラ、ありがとう。君のその気持ち… 僕には本当にありがたいよ。君がいてくれるから、僕も前に進める気がする」

その言葉に、エルラは胸が熱くなるのを感じた。彼女はカイの笑顔を見て、心の中で決意を新たにした。

「私も、カイさんのため、みんなのために、癒し続けるよ。絶対に結晶を見つける!」

タロンが笑いながら割り込んだ。

「おーい!カイ、暗い話はそこまで! エルラがいるんだから、結晶なんてすぐ見つけられるぜ!」

「はは、確かにその通りだな」

カイは笑い、皆に言った。

「よし!みんな、明日も進むぞ。結晶はもう近いはずだ」

グループは笑い合いながら、旅の準備を始めた。エルラは仲間たちを見ながら、新たな希望を胸に抱いた。

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