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砂漠の試練
しおりを挟む灼熱の陽光が砂漠を焼き、風は熱波を運んでくる。エルラは馬車の荷台に座り、額に浮かんだ汗を拭った。彼女の手には水筒があったが、すでに中身はほとんど残っていなかった。
「この暑さ、いつまで続くんだろう…」
エルラは小さくつぶやき、空を見上げた。青い空には雲一つなく、ただ太陽が容赦なく照りつけている。
「エルラ、水はまだあるか?」
カイが馬車の前方から振り返り、気遣うように尋ねた。
「うん、でももう少ししかないよ。みんなは大丈夫?」
エルラは心配そうに答えた。
カイは苦笑いを浮かべた。
「まあ、なんとか持ってるけど、正直厳しいな。この砂漠、思ったより水場が少ない」
グループは山岳地帯を抜け、伝説の「生命の結晶」を求めて砂漠地帯に足を踏み入れていた。しかし、予想以上に過酷な環境に、皆の顔には疲れが浮かんでいた。
「こんな時に限って水が足りないなんて、運が悪いね!」
タロンが馬を操りながら、いつもの軽い口調で言った。だが、その声にも疲れが滲んでいる。
「タロン、冗談言ってる場合じゃないわよ。早くオアシスを見つけなきゃ、このままだと全滅だわ」
リアが苛立たしげに言った。彼女は地図を手に、砂漠の地形を確認しているが、眉間にしわが寄っている。
ガルドは無言で馬車の横を歩き、荷物を守っていた。彼の頑丈な体も、砂漠の暑さに耐えるのは辛そうだった。
エルラは皆の様子を見ながら、心の中で不安を感じていた。村では水不足など考えたこともなかった。癒しの力は傷や病を治すことはできるが、喉の渇きを癒すことはできない。
「私がもっと役に立てたら…」
エルラは小さくつぶやいたが、その声は風にかき消された。
グループは水が完全に尽き、疲労がピークに達していた。馬車を引く馬も弱り始め、進む速度は目に見えて遅くなっていた。
「もう限界だ…このままじゃ全滅するぞ」
タロンが弱々しく言った。彼の陽気な声も、今はかすれている。
カイが皆を見回し、落ち着いた声で言った。
「諦めるな。地図によると、近くにオアシスがあるはずだ。もう少し頑張ろう」
エルラはカイの言葉に励まされ、立ち上がった。
「そうだよね。みんなでオアシスを見つけよう!」
彼女の声に、皆が少しだけ元気を取り戻した。
その時、リアが叫んだ。
「みんな見て!あそこ!何か見える!」
遠くの地平線に、緑の点が見えた。オアシスだ。グループは最後の力を振り絞り、馬車を進めた。
やっとの思いでオアシスにたどり着くと、澄んだ水が輝き、ヤシの木が涼しげな影を作っていた。皆は水辺に駆け寄り、顔を洗い、水を飲んだ。
「生き返った!これ、最高の水だよ!」
タロンが水をかぶりながら叫んだ。
エルラも水を飲み、冷たい感触に安堵した。だが、喜びも束の間、水面が突然揺れ、巨大な影が現れた。
「気をつけろ!何かいる!」
ガルドが盾を構え、叫んだ。
水面から、巨大な蛇のような生物が姿を現した。その体は青く輝き、鱗には水滴が光っている。ウォーターウォーデン、オアシスの守護者だ。
「我はウォーターウォーデン。この聖なるオアシスを汚す者を許さぬ」
その声は低く、響き渡った。
カイが前に出て、剣を構えた。
「我々はただの旅人だ。休息と水を求めてここに来ただけだ。争うつもりはない」
ウォーターウォーデンは目を細め、グループを見回した。
「旅人か。だが、このオアシスは試練を乗り越えた者のみに与えられる。汝らの目的を話せ」
エルラは恐る恐る前に出た。
「私たちは、生命の結晶を探しています。王国の人々を救うために」
エルラの言葉を補うようにカイとリアが詳細を説明する。
ウォーターウォーデンはエルラを見つめ、静かに言った。
「生命の結晶…その目的は高潔だ。だが、試練なしにはこの水を使えぬ」
「試練って何ですか?」
エルラが尋ねると、ウォーターウォーデンは体を揺らし、傷ついた尾を見せた。そこには大きな傷があり、黒い瘴気が漂っている。
「っ!」
「この傷は闇の魔物によるものだ。癒せぬまま我は弱っている。汝らに癒しの力があるなら、それを証明してみせよ」
エルラは傷を見た瞬間、心が動いた。彼女は癒し師として、痛みを感じる力を持っている。
「酷い傷…!今すぐ癒やします!」
カイが心配そうに言った。
「待て!エルラ!危険だ。そいつが何をするかまだ分からない」
「大丈夫だよ、カイさん。私は癒し師だから」
エルラは決意を込めて答えた。
彼女はウォーターウォーデンに近づき、傷に手を当てた。癒しの魔法が発動し、暖かい光が傷を包んだ。瘴気が消え、傷がゆっくりと塞がっていく。
ウォーターウォーデンは驚いたように体を震わせた。
「なんと…この力は…」
癒しが完了すると、ウォーターウォーデンの鱗がさらに輝き、水面が穏やかに揺れた。
「汝、癒し師よ。見事だ。汝の力は純粋で、心からのものだ」
エルラは疲れ果てながらも、微笑んだ。
「よかった…あなたが楽になったなら」
ウォーターウォーデンは頭を下げ、言った。
「感謝する。このオアシスを自由に使え。そして、生命の結晶への道を教えよう」
グループは安堵し、オアシスで休息を取った。ウォーターウォーデンは、結晶が古代の遺跡にあること、そしてそこへ至る道の危険性を語った。
その夜、キャンプファイヤーの光がオアシスを照らしていた。エルラは水辺に座り、ウォーターウォーデンの言葉を思い返していた。
「エルラ、今日の癒やしも凄かったね」
カイが隣に座り、穏やかに言った。
「ありがとう、カイさん。でも、私、怖かったんだ。失敗したらどうしようって」
「でも、君はやってのけた。君の力は本当に特別だ」
リアが珍しく優しい声で言った。
「あのウォーターウォーデンを癒すなんて、私の魔法じゃ無理だったわ!本当に尊敬する」
タロンが笑いながら加わった。
「だろ?エルラは俺たちの秘密兵器だな!」
ガルドも静かに頷いた。
「本当に助かった」
エルラは皆の言葉に、胸が熱くなるのを感じた。村では当たり前だった癒しの力が、こんなにも仲間を救い、感謝されるなんて。
「みんな、ありがとう。私、もっと頑張るね」
エルラは笑顔で答えた。
ウォーターウォーデンが水面から顔を出し、静かに言った。
「癒し師よ、汝の力は多くの者を救うだろう。だが、結晶への道はさらに厳しい。心を強く持て」
エルラは頷いた。
「はい、ありがとうございます。必ず結晶を見つけます」
翌朝、グループはオアシスを後にした。ウォーターウォーデンは水をたっぷり与え、道中の安全を祈ってくれた。エルラは新たな自信を感じていた。彼女の癒しの力は、ただ傷を治すだけでなく、信頼と絆を生み出す力なのだと。
「次の目的地は古代の遺跡だ。準備はいいか、みんな?」
カイが力強く尋ねた。
「もっちろん!」
タロンが元気に答え、リアとガルドも頷いた。
エルラは仲間たちを見ながら、心の中でつぶやいた。
「私、みんなと一緒ならどんな試練も乗り越えられる」
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