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旅の始まり
しおりを挟む馬車の車輪が石畳の道を軋ませながら進む音が、エルラの耳に響いていた。
馬車の隅に座り、窓から見える風景を眺める。
村の風景とは全く異なる、広大な野原と遠くに見える険しい山脈が広がっている。エルラの心は、期待と不安で揺れていた。
「エルラ、初めての旅はどう?」
カイが馬車の反対側から声をかけてきた。彼は軽い笑顔を浮かべ、気さくに話しかけてくる。
「まだ慣れなくて、ちょっと緊張してます」
エルラは正直に答えた。彼女の手は膝の上でぎゅっと握られていた。
「大丈夫、僕たちも最初はそんな感じだったよ。でも、すぐに慣れるさ」
カイの言葉にエルラは少しだけ安心した。彼の声には不思議な温かさがあった。
冒険者グループは、カイを含めて4人だった。リーダーのカイは剣士で、落ち着いた雰囲気を持つ若者だ。次に、魔法使いのリアは少し気難しいが、知識が豊富で頼りになる女性。弓使いのタロンは村にもよく来ていて陽気で、いつも冗談を言って場を和ませてくれる。そして、盾役のガルドは無口だが、力強く仲間を守る存在だ。
エルラは彼らと旅を始めてまだ数日しか経っていなかったが、すでにそれぞれの個性が少しずつ分かってきた。
「なあ!エルラ!この辺の風景、村と全然違うだろ?」
タロンが馬車の外から声をかけ、馬を操りながら笑った。
「うん、こんな広い景色、初めて見たよ」
エルラは窓から身を乗り出し、風を感じながら答えた。彼女の髪が風に揺れ、初めての冒険の興奮が胸に広がった。
その夜、グループは山のふもとにキャンプを張った。リアが魔法で火を起こし、ガルドが鍋にスープを用意している。
エルラは薪を集める手伝いをしながら仲間たちの動きを観察していた。
「エルラ、薪はそれで十分だ。こっちでスープ食べて、温まるといい」
ガルドが低い声で言った。彼の言葉は少ないが、どこか優しさを感じさせた。
「ありがとう、ガルドさん」
エルラは薪を置き、皆の輪に加わった。スープの香りが漂い、寒い夜に温もりを与えてくれる。
「そういえばさ、エルラ、癒しの魔法ってどうやって使うの?なんかコツとかあるの?」
タロンが興味津々に尋ねた。
「コツ、かぁ。うーん、ただ心を落ち着けて、相手の痛みを感じようとするだけなんだよね」
エルラは少し考えながら答えた。彼女にとって、癒しの魔法は自然なものだったから説明するのは難しかった。
「へえ、なんかすごいね。俺、弓しか撃てないからさ、そういうの尊敬するわ」
タロンの軽い口調に、エルラは笑顔になった。
カイが火を見つめながら、静かに言った。
「エルラの力はこの旅で本当に大事になる。僕たちの命を預かることもあるかもしれない。だから頼りにしてるよ」
「そんなプレッシャーかけるんじゃないわよ、カイ」
リアが少しイラついたように言ったが、彼女の目には笑みが浮かんでいた。
エルラは皆の会話を聞きながら、初めて感じる安心感に包まれた。村ではいつも一人で癒しを続けていたが、ここでは仲間がいる。それが彼女の心を軽くした。
翌日、グループは山岳地帯に入った。
道は険しくなり、馬車を降りて歩くことになった。岩がゴロゴロと転がる道を進む中、エルラは自分の体力が追いついていないことに気づいた。
「ハァ、ハァ、ごめんなさい、ちょっと、待って、ください」
エルラが息を切らしながら言うと、カイが振り返った。
「大丈夫か?無理しないで、少し休もう」
カイの気遣いに、エルラは感謝しながら岩に腰を下ろした。
「エルラは村暮らしだったから、こういう道は慣れてないよね。ゆっくり行こうぜ」
タロンが笑いながら水筒を渡してくれた。
「ありがとう、タロンさん」
エルラは水を飲みながら、仲間たちの優しさに心が温まるのを感じた。
その時、リアが鋭い声で叫んだ。
「気をつけて!何か来る!」
地面がわずかに揺れ、岩の隙間から巨大なゴーレムが現れた。
石と金属でできたその巨体は、仲間を威圧するように立ちはだかった。
「ゴーレムか!みんな、戦闘準備!」
カイが剣を抜き、指示を出した。リアは魔法の詠唱を始め、タロンは弓を構え、ガルドは盾を手に前に出た。
エルラは戦闘の経験がなく、ただ立ち尽くしていた。
「エルラは後ろに下がって!怪我したら君が癒してくれるんだから!」
カイが叫び、エルラは慌てて岩の後ろに隠れた。
戦闘が始まった。カイの剣がゴーレムの体を切りつけ、リアの火炎魔法がその表面を焦がす。
タロンの矢は正確にゴーレムの関節を狙い、動きを鈍らせた。
ガルドはゴーレムの攻撃を受け止め、仲間を守った。
だが、ゴーレムの力は強く、カイが一瞬の隙をつかれて吹き飛ばされた。
「カイ!」
エルラは思わず叫び、岩の後ろから飛び出した。カイは地面に倒れ、腕から血を流していた。
「エルラ、危ない!下がるんだ!」
ガルドが叫んだが、エルラはカイのもとに駆け寄った。
「カイさん、大丈夫ですか!」
エルラはカイの腕に手を当て、癒しの魔法を発動した。暖かい光が傷を包み、血が止まり、傷が塞がっていく。
「ありがとう、エルラ。助かったよ。」
カイは弱々しく微笑んだが、すぐに立ち上がった。
「まだ終わってない!みんな、集中だ!」
カイの号令で、グループは再び戦闘態勢に入った。エルラは後ろに下がりながら、仲間たちの動きを見守った。彼女の癒しが、カイを戦線に復帰させたのだ。
戦いは長く続いたが、リアの強力な魔法がゴーレムの核を破壊し、ついに巨体は崩れ落ちた。
「やった!勝ったぞ!」
タロンが歓声を上げ、皆が安堵の息をついた。
エルラはカイに駆け寄り、改めて彼の状態を確認した。
「カイさん、本当に大丈夫?」
「うん、君のおかげでね。ありがとう、エルラ」
カイの言葉に、エルラは胸が熱くなるのを感じた。村では当たり前だった癒しの力が、こんなにも感謝されるなんて。
その夜、キャンプファイヤーの周りで、皆は戦いの疲れを癒していた。リアが珍しく穏やかな声で言った。
「エルラ、今日はとても助かったわ。カイがやられてたら、もっと大変だったかもしれない」
「そうだな、エルラの力は本当にすごい」
ガルドも珍しく口を開いた。
エルラは照れながら答えた。
「そんな、みんなが戦ってくれたからだよ。私、ただ癒しただけだから。」
「いや、君の癒しがなければ僕たちはこんな早く動けなかった。君は僕たちの命綱だよ」
カイの言葉に、エルラは顔を赤らめた。
火の光が揺れる中、エルラは仲間たちとの絆を感じていた。村では味わえなかった、共に戦い、支え合う感覚。それは、彼女の心に新しい希望を灯した。
夜が更け、皆が寝静まる中、エルラは空を見上げていた。星が輝き、遠くの山々がシルエットを描いている。彼女は自分の決断を振り返った。
「村を出てよかった。怖かったけど、こんな素敵な仲間に出会えたんだから」
エルラは心の中でつぶやき、静かに目を閉じた。
翌朝、グループは再び旅を続けた。山岳地帯を抜け、次の目的地である森へと向かう。エルラはまだ慣れない旅路に戸惑いながらも、仲間たちと過ごす時間が彼女を変えつつあった。
「エルラ、今日はどんな冒険が待ってると思う?」
タロンが軽い口調で尋ねた。
「わからないけど、みんなと一緒なら大丈夫だよね?」
エルラは笑顔で答えた。
カイが彼女を見て、優しく言った。
「その通りだ。僕たちは仲間だ。一緒に乗り越えよう」
エルラは頷き、心の中で決意した。この旅で、自分の価値を見つけたい。そして、仲間たちと共にどんな試練も乗り越えていくんだと強く心に刻んだ。
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