癒やしの旅人

風待 結

文字の大きさ
12 / 12

故郷への一時帰還

しおりを挟む


エルラは馬車の荷台に座り、懐かしい村の風景が近づくのを見ていた。
王都での戦いを終え、生命の結晶を王に託してから数週間が経っていた。
結晶の力で王国の病は癒され、闇の使徒とガルシア卿は断罪された。
エルラの心は、達成感と新たな決意で満ちていたが、村への帰還には一抹の不安があった。
癒しの力を失った今、祖母や村人たちに何を伝えればいいのか、彼女はまだ答えを見つけられずにいた。

「村に帰るのは久しぶりだね。緊張してる?」

カイが馬車の前方から振り返り、穏やかに尋ねた。

「うん、ちょっと…。おばあちゃんに、癒しの力がなくなったこと、ちゃんと話さないと…」

エルラはぎこちなく微笑みながら答えた。

「そりゃ、まあ大事な話だな! でも、エルラなら大丈夫だぜ。おばあちゃん、絶対喜ぶって!」

タロンが馬車を操りながら、陽気に叫んだ。彼の軽快な口調が、緊張を和らげる。

「エルラ、君の新しい力は本当に素晴らしいわ。おばあさまも、君の成長を誇りに思うはずよ」

リアが地図を手に、微笑む。

ガルドが馬車の横を歩きながら、低くつぶやいた。

「お前がどんな力を失っても、俺たちには関係ねえ。お前はエルラだ。それで十分だろ?」

「ガルドの言うとおりだね。エルラは僕達の大事な仲間だよ」

「そーそー!あんまり深く考えなくったって、だーいじょーぶだって!」

「タロン、騒がしいわ…」

エルラは仲間たちの言葉に胸を熱くした。

「ありがとう、みんな。私、おばあちゃんにちゃんと話して、冒険者として進むことを伝えるよ」



村の入り口が見えてきた。
見慣れた木造の家々、畑で働く村人たちの姿。
エルラの心に、懐かしさと少しの寂しさが混じる。
馬車が広場に止まると、村人たちが集まってきた。

「エルラだ!帰ってきたの!?」
「タロンもいるー!」
「お土産はー?!」

「エルラだって?!帰ってきたのかい!」
「王国を救ったって本当か?」

子供たちが駆け寄り、大人たちが驚きの声を上げた。
エルラは照れながら手を振った。

「うん、帰ってきたよ。みんな、元気だった?」

村長が前に出て、笑顔で言った。

「エルラ、噂は聞いてたぞ。生命の結晶を届けたんだってな。村の誇りだ!」

「ありがとう、村長さん。でも、私一人じゃできなかった。みんなのおかげだよ」

エルラは仲間たちを振り返り、微笑んだ。

村長が少し真剣な顔で尋ねた。

「でも、エルラ、癒しの力はどうしたんだ? 噂じゃ、失ったって…」

エルラは一瞬言葉に詰まったが、深呼吸して答えた。

「うん、それは本当。結晶を手に入れるために、癒しの力を捧げたの。でも、新しい力を手に入れて、冒険者として頑張ってるよ」

村人たちがざわつき、驚きの声が上がった。
エルラは祖母の家に向かう前に、皆に頭を下げた。

「これからおばあちゃんに話してくるね。村にはまた戻るよ、約束する」



祖母の家は、昔と変わらない木の香りに満ちていた。
エルラはドアを叩き、ゆっくり開けた。
祖母は暖炉のそばで薬草をすりつぶしており、エルラを見ると目を輝かせた。

「エルラ! 帰ってきたのね!」

「おばあちゃん! ただいま!」

エルラは祖母に駆け寄り、抱きしめた。
祖母の温もりに、旅の疲れが溶けていくようだった。

「噂は聞いてたよ。生命の結晶を届けたんだって? 立派になったね、エルラ」

祖母が優しく微笑み、エルラの手を取った。

「うん、でも…おばあちゃん、ごめんなさい。私、癒しの力を失ったの。結晶を手に入れるために、捧げちゃった…」

エルラは目を伏せ、声を震わせた。
祖母は静かに聞き、ゆっくり頷いた。

「エルラ、癒やしの力なんて、お前のほんの一部でしかないんだよ。お前の優しさ、勇気、それこそが本当の力だ。癒しの力を失っても、お前は私の誇りだよ」

「おばあちゃん…」

エルラの目から涙がこぼれた。
祖母は彼女の頬を拭い、続けた。

「それに、新しい力を手に入れたんだろ? 冒険者として、どんな道を歩むんだい?」

エルラは微笑み、胸を張った。

「うん、大賢者アルテミスさんに補助魔法を教わってるの。仲間たちを強くできる力だよ。私、冒険者として、もっとたくさんの人を助けたい。そして、いつかまた村に戻って、みんなのために何かしたいな」

祖母が笑顔で頷いた。

「それでいいんだよ、エルラ。お前にはお前の道がある。行って、たくさん学んでおいで。村はいつでもお前を待ってるよ」



その夜、村の広場でささやかな宴が開かれた。
火の光が揺れ、村人たちの笑い声が響く。
エルラは仲間たちと並び、村人たちと語り合った。

「エルラ、ほんとすごいな! 王国を救ったなんて、信じられねえぜ!」

タロンがスープを飲みながら笑った。

「タロン、食べながら喋らないで頂戴。騒がしいわよ。でもエルラ、君の新しい力は村でも自慢のようね」

リアが微笑みながら言った。

ガルドが静かに頷いた。

「お前がここまでやったなら、俺たちももっと頑張らねえとな」

カイがエルラの肩に手を置き、言った。

「エルラ、君は村を出て、僕たちと旅して、王国を救った。そして、こうやって戻ってきた。君の旅はまだ続くけど、僕たちはいつも一緒だよ」

エルラは仲間たちの顔を見回し、目を潤ませた。

「ありがとう、みんな。おばあちゃんに話せて、安心したよ。私、冒険者としてもっと成長して、また村に戻ってくる。そして、みんなと新しい未来を作りたい!」

村人たちが拍手を送り、子供たちがエルラに抱きついた。
祖母がそっとエルラの手を握り、微笑んだ。

「エルラ、行ってらっしゃい。お前の物語は、まだまだ続くよ」

夜空に星が瞬き、村の灯りが温かく揺れる中、エルラと仲間たちの絆は新たな旅への希望を照らしていた。
癒しの力を失ったエルラだったが、補助魔法と仲間たちとの絆で、彼女の心は未来への光に満ちていた。

しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

【完結】令嬢は売られ、捨てられ、治療師として頑張ります。

まるねこ
ファンタジー
魔法が使えなかったせいで落ちこぼれ街道を突っ走り、伯爵家から売られたソフィ。 泣きっ面に蜂とはこの事、売られた先で魔物と出くわし、置いて逃げられる。 それでも挫けず平民として仕事を頑張るわ! 【手直しての再掲載です】 いつも通り、ふんわり設定です。 いつも悩んでおりますが、カテ変更しました。ファンタジーカップには参加しておりません。のんびりです。(*´꒳`*) Copyright©︎2022-まるねこ

王女様は聖女様?おてんば姫の大冒険~ペットのドラゴンが迷子なので冒険者になって探しに行きます!~

しましまにゃんこ
ファンタジー
アリシア王国の第3王女ティアラ姫には誰にも言えない秘密があった。 それは自分が全属性の魔力を持ち、最強のチート能力を持っていた「建国の賢者アリシア」の生まれ変わりであること! 8才の誕生日を境に前世の記憶を取り戻したものの、500年後に転生したことを知って慌てる。なぜなら死の直前、パートナーのドラゴンに必ず生まれ変わって会いにいくと約束したから。 どこにいてもきっとわかる!と豪語したものの、肝心のドラゴンの気配を感じることができない。全属性の魔力は受け継いだものの、かつての力に比べて圧倒的に弱くなっていたのだ! 「500年……長い。いや、でも、ドラゴンだし。きっと生きてる、よね?待ってて。約束通りきっと会いにいくから!」  かつての力を取り戻しつつ、チートな魔法で大活躍!愛する家族と優しい婚約者候補、可愛い獣人たちに囲まれた穏やかで平和な日々。 しかし、かつての母国が各国に向けて宣戦布告したことにより、少しずつ世界の平和が脅かされていく。 「今度こそ、私が世界を救って見せる!」 失われたドラゴンと世界の破滅を防ぐため、ティアラ姫の冒険の旅が今、始まる!   剣と魔法が織りなすファンタジーの世界で、アリシア王国第3王女として生まれ変わったかつての賢者が巻き起こす、愛と成長と冒険の物語です。 イケメン王子たちとの甘い恋の行方もお見逃しなく。 小説家になろう、カクヨムさま他サイトでも投稿しています。

華都のローズマリー

みるくてぃー
ファンタジー
ひょんな事から前世の記憶が蘇った私、アリス・デュランタン。意地悪な義兄に『超』貧乏騎士爵家を追い出され、無一文の状態で妹と一緒に王都へ向かうが、そこは若い女性には厳しすぎる世界。一時は妹の為に身売りの覚悟をするも、気づけば何故か王都で人気のスィーツショップを経営することに。えっ、私この世界のお金の単位って全然わからないんですけど!?これは初めて見たお金が金貨の山だったという金銭感覚ゼロ、ハチャメチャ少女のラブ?コメディな物語。 新たなお仕事シリーズ第一弾、不定期掲載にて始めます!

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜

日々埋没。
ファンタジー
​「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」  ​かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。  その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。  ​レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。 ​ 地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。 ​「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」  ​新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。  一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。  ​やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。  レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。

伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊
ファンタジー
気が付くとまん丸と太った少女だった?! 痩せたいのに食事を制限しても運動をしても太っていってしまう。 一体私が何をしたというのよーっ! 驚愕の異世界転生、始まり始まり。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

処理中です...