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父さん

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 何だここ。

 僕の予想を大きく外れて彼女達についていった場所は汚い廃ビルだった。

 何と言うか・・・不良がたむろってそうな所だな。

「ここ、なのか・・・」

「そうだよ。さあ入ろ入ろ」

「お、おう・・・・・って、うわぁっ!」

 いきなりの揺れに思わず情けない声が出た。
 ん?揺れ?

 僕達が建物に入った直後、どこかの映画で見たように入った部屋がズズズと音を立てて下がっていった。

「な、な、なななななっ」

「ふっふーん。すごいでしょ。私達も最初来たときはビックリしたんだもんねー」

 驚いた僕に何故か廻理花が自慢げに無い胸をそらしていた。

「いやいやいや、そうじゃなくて、そうじゃなくってぇ」

「分かってる。分かってる。簡単に言うとこの建物はある組織の秘密基地で、そんな所に我が物顔で入った私達はその組織の一員って訳。私達もまだまだ入ったばかりの新人だからそこまで詳しい訳じゃないけどこの組織に入っている人達に共通している事が一つだけあるの。なんだと思う?」

 さっきから気になってたが廻理花の口調からぶりっ子が消えてる。やっぱりキャラ作りだったのか。

 それはそうと共通点か・・・うん、一つしか思い浮かばない。

「魔法が使える・・・違うか?」

「せいかーい。しかも魔法だって思っても普通は言うのを躊躇するはずなのに堂々と言うなんて、もしかして縁ってこうゆう人?」

 そう言って廻理花は中二病の代名詞とも言えるポーズを取ってきた。まあ否定する理由も無いから頷いておくか。

 しかし完全にキャラが違うな。以前の廻理花を知ってる僕達しかいないから素になってるんだろう。あのままだと疲れそうだしな。まったく、だったら切り替えが必要な面倒なキャラをするなよ。

 しかし僕が魔法を使えるようになったのは今朝だぞ、その日のうちに接触してくるなんて組織とやらの情報網はどうなってるんだ?

 輪名が入ってるってことはそれほど危険な組織じゃないのか・・・いや、こいつおバカだし騙されてるって可能性もあるな。
 油断はせずに警戒しておこう。

「まっ、詳しいことはこれから会う人に聞くといいわ」

「会う?誰に」

「ここの偉い人。名前は秘密、会ったら驚くわよ」

 廻理花がイタズラを思いついた子供のように笑って言った。

 会ったら驚く?僕が知ってる程の有名人なのか。
 それからしばらくして部屋エレベーター(勝手に命名)が止まった。どれだけ深い所に行ったんだよと言いそうになるくらい下がっていて、止まるまでまだ下がっているのに気づかなかった。

 部屋の入り口から出て扉だらけの冷たい印象の廊下を歩くこと数分、似たような扉の中から廻理花はその一つをノックした。

「誰だ」

「私、私、廻理花だよ。言われた通り縁を連れてきたよ」

 廻理花の言動が軽いな。扉の中の人ってここの偉い人じゃないのか?

「ハァ、言動が軽いな。私はここの一番偉い人なんだけど・・・まぁ良い入りなさい」

 ほらー、本人も自分で偉いって言ってるじゃんかー。廻理花ってあまり敬語使わないし無理なのか。
 それにしてもこの声どこかで聞いたような、誰だ?

「おっじゃましま~す」

 やっぱり軽いな。
 そう言って入った廻理花に続いて部屋に入った僕にその人物は笑いかけてきた。

「ようこそ、我が基地へってね。歓迎しよう縁」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」

 部屋に入った僕に声をかけてきたのは父さんだった。

「と、父さん⁉」

「ん?そうだが・・・何だ?」

「何だ?じゃなくって、何で父さんがこんなところにいるんだよ!」

「なんでって言われてもな、私はこの組織のトップだぞ」

 今日だけで一生分驚いた気がする。まさか怪しい組織のトップが父さんだったなんて。
 もしかしてこの組織って知り合いだらけじゃないのか?

「父さんがトップって、ひょっとして母さんも?」

「いや、母さんは組織の一員じゃあないが存在自体は知ってるぞ。この組織を知らなかったのは家族でお前だけだな」

 もう何があっても驚かない気がする。


「まぁとりあえず座れ。話はそれからだ」

 そう言って自分の後ろにあるソファを指さした。今でさえ僕の頭のキャパオーバーするくらいの情報量なのにこれ以上にまだ話があるのか。いや、次元縁よ、これくらいでくじけるんじゃない!こうなったらヤケだ、父さんに根掘り葉掘り聞いてやる!

 とりあえず父さんの言う通りにソファに座ると、父さんも僕達の目の前のソファに座った。

「さて、まず何から話そうか」

「全て、一から十まで話してもらう」

「それだとかなり長くなるが、・・・・しかたない、それじゃあまず私達の話からしようかな。これでも飲みながら聞きなさい」

 そう言いながら父さんは何もない所から紅茶をポンと出してきた。
 これも魔法か?一体どうやるんだ。

「お前はもう魔法を使っただろう?何故使えると思う?」

「分からないな。何かのきっかけ?覚醒的な?それこそ魔法を使ったとか」

「ハハッ、中々面白い考えだな。だが残念、正解は、そうゆう種族だから、だ。実は私達はホモサピエンスとは全く違う存在なんだなこれが」

 そう言って肩を竦めた後、父さんはズズーと紅茶を飲んだ。
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