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001 カネコ、開眼す。
しおりを挟む「われ思う、ゆえにわれあり――だにゃん」
澄み渡る青い空を見上げ、つぶやいてみる。
理由はとくにない。
しいてあげれば……ん~気分?
あと言葉の意味はよくわからん。
まぁ、それはさておき。
え~、こほん。
ワガハイはカネコである。名はない。
というか、転生したときにあっちに忘れてきた。
ちなみにカネコというのは、生物分類学上の学名である。
それにいまはワガハイの名前なんぞはどうでもよろしい。
広大なジャングルの奥地。
岩山の上にぽつんとひとりきり。
現状をかんがみるに、まったくもって、これっぽっちも、ヘソのゴマ粒ほどさえも名前なんぞは必要なかろう。
いちいち回想するのもめんどうなので割愛するが、地球は日本産のワガハイ、なんやかやあって異世界へ旅立つことになった。
そしてお約束。
神さまからスキルやら職種など、いろいろ転生特典を勧められたものの、ワガハイはそのことごとくを毅然と突っぱねる。
状況に流されない。
いい歳こいて「ひゃっほう、異世界転生だぜ!」とか浮かれない。
ウマい話にはきっと裏がある……はず、たぶん?
たとえ相手がえらい人だとて、ワガハイは「ノー」と言えるダンディな男。
だって――ねえ。
王さまになって民草を導くとか、賢者になって文明を発展させるとか、勇者になって魔王と戦うとか、かったるいんだもの。
チートでモテモテ?
ハーレムルート?
ますますもって、ハレンチけしからん!
痴情のもつれによる修羅場の数々。朝から晩まで、ギスギスクエストな毎日は、地雷原のど真ん中で生活しているようなもの。うっかり踏んだら、たちまちドッカン。
異性関係こじれまくり、つねに危険と隣合わせ、ハラハラドキドキ、スリリングな第二の人生とか、絶対にイヤだ!
だがしかし……
せっかくの申し出を無碍にするのも礼儀に反する。
世の中、ときには妥協も必要だ。
そこでワガハイはささやかな願いを述べた。
「あー、そういうのはけっこうなんで……。どうせ生まれ変われるんだったら、今度はパンダかネコになりたい」
あくせく働くばかりの社畜人生よ、さらば。
おいでまで、ゴロゴロぐうたらスローライフ。
すると神さまはタメ息まじりにこうおっしゃった。
「あいにくと、どちらもおまえさんの向かう世界にはおらんのぉ。
だが、ネコっぽいのならばおったはずじゃから、特別にそいつにしておいてやろう」
ネコっぽい生き物はカネコというらしい。
一文字プラス。いちおう幻の絶滅危惧種だそうで、パンダなみに保護されてチヤホヤされるかも?
とのことだが……チラリと神さまの方を見たら、露骨に目をそらしやがった。
(――あ、怪しい)
よくよく考えてみたら『っぽいの』という表現もいかがわしい。
どうにも不安を覚えたワガハイは、もう少し詳しい説明を聞こうとするも、その時のことであった。
いきなり足下にぽっかり穴があらわれた。
とおもったら、ストンと落ちて「あんぎゃーっ」
気がついたら、この岩山の上に立っていたという次第である。
かくしてワガハイはカネコとなりにけり。
でもってなったらなったで、やっぱり問題があった。
神さまの言うとおり、フォルムはネコに似ていなくもない。
ただし、いささかサイズがおかしいのだ。
ぶっちゃけかなりデカい。
(え~と、なにこれ? アムールトラほどもあるんですけど)
体毛は明るめの茶トラ地の白混ざり、中毛だけれどもちょっとゴワゴワしている。モフモフ感は乏しい。キューティクルが圧倒的に足りない。お手入れ不足のせいならば改善の余地はあるけれど、もしも生まれもっての毛質だったらワガハイ泣くぞ。
目の色は自分ではわからないので、あとで確認するとして……ゆらゆらしている長い尻尾が三本もあるし。
他にもいろいろとおかしなところが……
「ギィガァアァァーッ! ギィガァアァァーッ! ギィガァアァァーッ!」
だしぬけに大空をつんざいたのは、不快な鳴き声。
やれやれである。招かれざる客のようだ。
全身が赤い鱗に覆われた大きなトカゲに翼が生えた――いわゆるドラゴンっぽいのが、こちらへ飛んできているではないか。
そりゃあ、こんな辺鄙な場所だもの。
弱肉強食であろう野生の王国。
やんやと騒いでいれば、他の生物に気づかれたとてしょうがあるまい。
さりとて異世界でのファーストコンタクトがドラゴンっぽいのとか、ちょっとひどくない?
まずは無難に小鬼っぽいのとか、スライムや頭に角の生えたウサギとかからじゃないの?
よってワガハイはチェンジを希望する。
だが残念、そんなシステムはなかった。
赤いドラゴンっぽいのがどんどん近づいてくる。
飛行速度はなかなかのものだ、プロペラ機ぐらいの速度はあるかも。尻尾まで入れたら図体は優に倍ぐらいもあるけど。
ごつごつ厳めしい顔をしており、口を半開きにしては牙をむき、ヨダレだらだら。
ギョロリとこちらをにらむ瞳が如実に語っている。
「オマエクウ、アタマカラマルカジリ」と。
う~ん、これはとてもお友達になれそうにない。
というわけで……
「ギガギガうっさいにゃ。くらえっ、カネコビーム!」
言うなり開かれたのワガハイの額にある第三の目、パカッとね。
シュビビビビビビビビ~~~~ン。
第三の目より放たれし怪光線が空を切り裂く。
毒々しい色味を帯びた光線の直撃を受けて、赤いドラゴンっぽいのはビリビリビリビリ。
一撃必殺、即瞬殺。
赤いドラゴンっぽいのが全身からプスプス白煙をあげながら落ちていく。
「いえ~い、お肉ゲットだにゃん」
ワガハイは「ひゃっほう」と駆け出した。
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