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022 カネコ、念願の寄宿生活?
しおりを挟む祝! 初めての寄宿生活。
あてがわれた部屋はちょっと殺風景で日当たり悪く、カビ臭くて狭いけど、防犯設備は完璧でガードマンまでついており、三食昼寝付。ただし、おかわりは二回まで。
いや~、ようやく寄宿生物の面目躍如にて。
かくしてカネコはたいしてさすらうこともなく、安住の地を手に入れましたとさ。
めでたしめでたし。
「――んなわけないにゃん! こんなのワガハイが望んだ暮らしとぜんぜんちがうにゃ!」
鉄格子の奥でワガハイは吠えた。
すると「やかましい! 静かにしろ。あんまりうるさいと、シチューの具を減らすからな」と看守から怒鳴られた。
ワガハイは「あっ、ごめんにゃあ。それだけはかんべんしてほしいのにゃあ」とすぐにペコペコ謝った。
ここは衛士隊の詰所にある留置所にて。
では、どうしてワガハイがそんなところに拘束されているのかといえば……
城塞都市トライミングを震撼させた『怪奇! 教会が黒いベトベトさんに覆われて大パニック事件』の被疑者として連行されたからである。
冒険者ギルドで受けた教会での奉仕仕事。
向かった先で掃除を頼まれたものでちょっとハリキリ過ぎちゃった、テヘペロ。
そうしたら教会関係者たちは目を回して卒倒し、教会建屋の周辺は騒然となり、「すわ、魔獣が町中に入り込んだのか!」と住人たちも慌てふためき、「えらいこっちゃ!」と衛士隊らもおっとり刀で出動してくる事態となる。
すべては不幸なすれちがい、誤解の産物なのだけれども、いろいろこじれてこうなった。
よかれとおもってやった行為が裏目にでるとは、なんたる悲劇!
「ワガハイは無実にゃん」
「はいはい、犯人はみんなそう言うんだよねえ」
問答無用だった。
そうして始まった牢屋暮らしのスローライフも、はや三日目。
取り調べそのものはサクっとすんだ。
なにせワガハイにやましいところは微塵もないもの。
「あれは闇のクリーンにゃ! その証拠にちゃんと教会がピカピカになっているにゃんよ」
と、堂々と主張する。
事実、その通りにて教会は新品同様に生まれ変わった。むしろ追加料金を請求してもいいぐらいだ。地べたに額を押しつけて感謝されこそすれ、恨まれる筋合いはない。
そりゃあ、ちょっと驚かせちゃったかもしれないけれど。
なのに取り調べを担当した奴が、石頭のこんこんちきにて。
「あれが闇のクリーン、だと? ウソをつくな。私の知っているクリーンとぜんぜんちがうじゃないか。いいからとっとと吐け! あんな邪神を教会に召喚して、いったい何をするつもりだったんだ。
はっ、もしや国家転覆をはかったのか? きさま、さてはスぺリエンスの工作員だな」
などとツバを飛ばしては、わめき散らすのである。
ちなみにスぺリエンスというのは、あの存在そのものがハタ迷惑な南の隣国のこと。
あといまさらながらだけど、この都市の名前がトライミングというのをワガハイは知った。
にしても失敬かつ思い込みの激しい男である。
よりにもよってワガハイをスパイ呼ばわりし、黒のベトベトさんを邪神扱いするだなんて、ぷんぷん。
結局、初日の取り調べは「バーカ、バーカ」「バカっていう方がバカなんだよ、バーカ、バーカ」という不毛な罵り合いに終始し、物別れとなった。
そして二日目を迎えたのだけれども……
あの男は来ず、取り調べはなかった。
今度こそ論破して、けちょんけちょんにしてやろうと意気込んでいたワガハイは、とんだ肩透かしである。
で、三日目となったが、奴は今日も来ない。
「これじゃあ、ワガハイの方があいつを待ち焦がれているみたいにゃん。なんだか納得いかないにゃあ~」
ぼやきつつ、ワガハイはゴロゴロしている。
するとそこへ看守があらわれたので「うにゃ、もう昼メシの時間かにゃあ」と尻尾をゆらゆらさせれば、こう言われた。
「……釈放だ。もう帰っていいぞ」
それに対してワガハイはこう答えた。
「いやにゃん。昼メシがまだにゃん」
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