寄宿生物カネコ!

月芝

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036 カネコ、将来への布石を打つ。

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 商業ギルド側からの要請を受けて、今後ワガハイは清掃依頼は控えることにした。
 さすがに自分のせいで、真っ当に生きてきた女性たちが不幸になるのは看過できない。その子どもたちから「おまえのせいで、うちの母さんが……」と憎しみの眼差しなんぞを向けられたら、ワガハイのシャイなハートは悲鳴をあげるだろう。
 野郎どもは――まぁけっぱれ、たくましく生きろ。
 というわけで……

「こちらは謹んでお返しするのにゃあ」

 ワガハイは小判を一枚だけ抜き取って、残りの山吹色のお菓子は返却した。
 その代わりにこのお金を使って、今回の騒動で職を失った連中になにか救済処置をして欲しいとお願いする。
 たんにお金をばら撒くのではなくて、たとえば仕事を創って雇うみたいな感じで。

「いいのか?」と商業ギルド長。
「べつにかまわないのにゃあ」ワガハイは肩をすくめた。

「どうせ予定になかった稼ぎだし。ワガハイ……これでも寄宿生物としての誇りを胸に生きているから、基本的にお金はあまり使わないのにゃあ。
 それにこれはおおいなる野望を叶えるための先行投資みたいなものにゃあ」

 くくく、そうなのである。
 ゆくゆくは城塞都市トライミングにて公式マスコットキャラに認定されて、愛されキャラとして住人たちからちやほやされ、こぞって世話を焼かれる生活を手に入れるための。
 じつは今回の会合の途中で、ワガハイはふと閃いた。
 個人宅に寄宿してゴロゴロするのも悪くないけど、それだけではいささかスケールが小さい。ワガハイほどのビッグな男ならば、いっそのこと都市そのものに寄宿するというのもアリなのではなかろうか? そうしたら寄宿先なんぞは選び放題。その日の気分であっちでゴロゴロ、こっちでダラダラ。
 あぁ、素晴らしきかな異世界スローライフ。

「おっ、そうだにゃん! ついでにコレもそっちでどうにかできないかにゃあ?」

 ワガハイがスチャっと取り出したのは赤い鱗。
 ずっとアイテムボックスに死蔵していたモノ。ドラゴンっぽいやつの鱗だ。
 ちなみにドラゴンっぽいやつの正式名称はドゥラーケンというそうな。狂暴な空の魔獣で、もしも襲われたらちんけな町なんぞは一発で壊滅するらしい。でもその体は良素材の宝庫にて、頭の天辺から足の先まで捨てるところがない、かつ討伐困難で希少だから高値で取引されているという。
 冒険者ギルドの資料室にある図鑑にそう書いてあった。

 ならばどうしていままで冒険者ギルドで売却しなかったのかといえば、たんに忘れていただけである。
 いや~、ワガハイのアイテムボックスってば何でもポンポン収納してくれるけど、整理整頓は自分でせねばならないのだ。これがとにかくめんどうくさい。なまじ容量が大きいのが仇となったという次第。

 片メガネを装着した副ギルド長が、手にした赤い鱗をしげしげ眺めては「……本物ですね。それも極めて上質だ。傷がないこともさることながら、たったいま剥ぎ取ったかのようなみずみずしさがある。魔力もしっかり定着している。じつに素晴らしい」とうっとりしながら絶賛した。

 当然だ。カネコビームで瞬殺して、すぐにアイテムボックスに放り込んだので鮮度抜群。
 またそんな状態で放置していたおかげで、熟成されて上物になっているっぽい。
 これはうれしい誤算である。
 なお副ギルド長がかけている片メガネ、鑑定できる魔道具なんだと。
 ワガハイのポンコツな鑑定能力とはちがい、かなり優秀なようでうらやましい。
 ちなみにワガハイの鑑定はもっぱら屋台の食べ歩きで活躍しており、ほぼほぼB級グルメガイドと化しつつある。

「おいおい、これの売却益も穴うめ事業に当てろってか……。うちとしてはありがたい話だが本当にいいのか? 冒険者ギルドの方でさばけば評価されて、たちまち上位冒険者の仲間入りだぞ。そうなりゃあ、放っておいてもおいしい話が向こうからいくらでも転がりこんでくるだろうに」

 もったいないと商業ギルド長は言う。
 だがワガハイは首を横にふるふる。

「そうかもしれにゃい。けど、きっと同じぐらいやっかいごとも押し寄せるのにゃあ」
「あ~、たしかに」
「お金は好きにゃんけど、あくせく働くのはちょっとちがうのにゃあ。カネコの辞書に勤労の文字はにゃい。いらぬ気苦労もごめんだにゃあ。
 ワガハイの願いは心安らかに、他人様の厚意に甘えて適当に喰っちゃ寝してぼんやり暮らすことだにゃ。
 というわけで、くれぐれもブツの出処がバレないように上手く処理して欲しいのにゃあ」

 もしもワガハイが持ち込んだとバレたら、うるさい羽虫どもがたかってくる。
 冒険者ギルドもやいのやいのうるさいだろう。ドゥラーケンの討伐依頼とかされても困るし、大森林の深層まで遠出するとかダル過ぎる。
 商業ギルドとしては珍しい商材が手に入り、かつ補填事業の資金が得られ、社会貢献にもなる。
 ワガハイは心身の平穏を確保し、邪魔な荷物が片付き、今後とも裏でブツをさばくルートが確立され、なおかつ将来への布石を打つ。
 今回の件で仕事にあぶれたシングルマザーたちも大助かり。
 ウィンウィンでみんな幸せ。
 ワガハイと商業ギルド長はにへらと笑いながら、がっちり固い握手を交わした。


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