寄宿生物カネコ!

月芝

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039 カネコ、ギャル神輿でわっしょい。

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 カネコイヤーで居所を特定して、サクっと退治しようとしていたワガハイの目論見がはずれた。こうなったら別の方法を考えなければならない。

「穴から水をじゃばじゃば流し込んでの水責め……はダメにゃん。畑がぐちゃぐちゃになったら、きっとあの婆さんに殺されるのにゃあ」

 大鎌を手にどこまでも追いかけてくる鬼婆。
 アレやコレをちょん切られる自分の姿を想像し、ワガハイはガクブル。
 というわけで火責めもダメ。
 土がホカホカになって大量の焼きイモができかねん。

 地魔法で穴を塞いだとて、ドリモグどもはどうせすぐに別の穴を開けるだろう。
 ならば魔法で地下全体をプールみたいに壁で囲って、カチンコチンに守りを固めるのはどうだろうか? そうすればきっと入ってこれない……と言いたいところだけれども、畑の水はけが悪くなるからイモの生育によくないだろうから却下。

 風魔法は……ぼちぼち使える。
 直接攻撃はデキないだろうけど、居所を探るのはイケそうだ。そよ風みたいなのを送ればこっそり地下の様子がうかがえるはず。

 光魔法は……ぶっちゃけ微妙かも。
 穴の中に閃光弾代わりに光の玉を放り込んで、驚かせるという手もあるけど、そんな簡単な話ならばとっくに誰かがやっているはず。
 それに地中の微生物たちも心配だ。なにせ光魔法には殺菌効果があるもので。
 知ってるかい? 紫外線の殺菌力は直射日光の1600倍なんだってさ。
 土に含まれる養分を植物が吸収するうえで、欠かせないのが微生物たち。
 それらを丸っと滅したりしたら、畑までもがダメになって老婆が大激怒することは必至であろう。

「こうなれば毎度お馴染み、黒のベトベトさんの出番かにゃあ」

 困ったときのベトベトさん。
 変幻自在のベトベトさんならば、地下に張り巡らされた穴という穴を埋め尽くし、奥に潜んでいるであろうグリモグどもを追い詰め、さらには一網打尽にすることも可能なはず。
 というわけでさっそく生活魔法・闇のクリーンを発動する。

「へい、カモン! ベトベトさん」

 呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃ~ん。
 足下の影から湧いて出た黒いヌメヌメは、まるで「フッ、みなまで言わずともわかっているさ」とばかりに、自主的に最寄りの穴に潜っていった。
 頼もしい相棒にワガハイはにんまり。

「これであとは果報を寝て待つだけだにゃあ」

 農家さんを困らせる害獣を駆除すれば、きっと感謝されまくるはず。
 それどころか感激のあまり涙腺は崩壊し、「あぁ、神さま、精霊さま、カネコさま」と畑の守護者としてあがめられるようになり、ついには祠が建てられ、なかの祭壇にはワガハイをかたどった愛らしい招きネコなんぞがちょこなんと。そして秋の収穫祭シーズンともなれば、そんなワガハイの像をのせて「わっしょい、わっしょい」とギャル神輿が町中を練り歩くのだ。
 第一次産業層の支持を得れば、ワガハイの評価はますますウナギのぼり。
 カネコの野望は大きく前進する。にゃしっしっ。
 かとおもわれたのだけれども……

  〇

 待つことしばし。
 黒のベトベトさんがしゅるしゅると戻ってきたのだが、獲物の姿はナシ。

「うにゃ、もしかして食べちゃったのかにゃあ?」

 と聞けば、ちがうとプルプル。
 肝心のグリモグがどこにも居なかったらしい。
 連中、どうやら危険を察して、さっさとケツをまくって逃げたっぽい。しかもご丁寧に追ってこれないように穴を塞いで。
 なんという鮮やかな退き口。用心深いとは聞いていたけれど、よもやこれほどとは……

「ぐぬぬ、この様子だとしばらくは雲隠れして出てこないのにゃあ」

 弱者の生存戦略。
 グリモグ退治のムズカシさを、ワガハイは思い知った。
 これは作戦を練り直す必要がある。
 ワガハイはいったん出直すことにした。


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