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044 カネコ、現状を憂う。
しおりを挟む朝のピーク時を無事に乗り切り、ちょっと弛緩ムードが漂っている冒険者ギルドの受付にて――
「はぁ~~~~~~だにゃん」
「あん? 人の顔をみるなり……あいかわらず失礼なヤツだな」
ワガハイの態度に受付のおっさんがジロリとにらむも「で、どうした? 朝っぱらから盛大なタメ息なんぞつきやがって」と、いちおう訊ねる。
いつもしかめっ面で不愛想な入道頭だが、なんだかんだでこのおっさんは面倒見がいい。
それに甘えて、ワガハイはタメ息をついたわけをポツポツ吐露し始めた。
「あらためて自分の周囲を見回してみて、ワガハイはあることに気がついて愕然としたのにゃん」
「ん? ようやく悟ったのか、自分の阿呆っぷりを」
「ムカっ、ちがうのにゃ! ワガハイはお利口さんなのにゃん」
「あーはいはい、わかったわかった。で?」
「ぐぬぬ……まぁ、いいにゃん。え~と、それでどこまで話したっけかにゃあ?」
「……あることに気づいたとかなんとか」
「そう、それにゃん! じつはワガハイ、重大な事実に気がついてしまったのにゃあ~」
それは自分の身辺における、異様なおっさん率の高さ。
城塞都市トライミングにやってきてから知り合いになった者たちを、指折り数えてみてみれば……
城門を守る衛士隊の隊長さん。
冒険者ギルドの七人の受付のおっさん。
冒険者ギルドに併設している酒場のマスター。
ギルドに出入りしている冒険野郎ども。
教会の老人。
とある貴族邸の門番の男。
元リッチでリッチな新生リッチー。
商業ギルドのギルド長。
商業ギルドの副ギルド長。
屋台のオヤジたち。
一部高齢者が混じっているが、アレも元はおっさんである。
とどのつまり、ワガハイの周囲は苦み走った薫り立つおっさんだらけということ!
おっさん率、ほぼ100%だよ!
これにはワガハイもびっくりにて、おもわず髭もビビビと震えちゃう。
「加齢臭の密度が濃すぎるのにゃあ~! 圧倒的に若さが足りないのにゃん! ワガハイのキューティクルばりに瑞々しさが無いのにゃあ! あまりの潤いの無さに日々が乾いてかっさかさ! あと、かわいいヒロインはいずこ?」
何気に都市での暮らしを思い返してみてみれば、もっとも言葉を交わした異性って、ガキンチョどもを別にしたら、たぶん違反切符を切られたあの獣人の婦人警官になるのではなかろうか? 次点で農家の死神鎌ババア。
このままではマズイことになる。
いずれ出版され大ベストセラーになるであろう、ワガハイの自叙伝『寄宿生物カネコ、その偉大なる軌跡』の表紙イラストまでもがむさ苦しいものになってしまう。
渋い、あまりにも渋すぎる。
煮詰ったブラックコーヒーどころか、渋柿レベルの渋さだ。
これでは一部のマニアしか本を手に取ってくれなくなってしまう。
それは社会にとっておおいなる損失となることであろう。
現状を憂い「にゃあにゃあ」嘆くワガハイ。
そのなで肩をポンと叩き、受付のおっさんが諭すように言った。
「それはちがうぞワガハイ。おまえさんだけが特別じゃない。もとからおっさん率は高いんだ。
かわいいアレやキレイなコレ、流行っているモノ、習慣などなど……
じつは世の中の大半のことに、おっさんが大なり小なり絡んでいる。
世界はおっさんで回っているんだ。
もちろん活躍している女性も大勢いるさ。
だがしかし、現状では世界はおっさんという歯車で成り立っているんだよ」
しかもその歯車は摩耗品にて使い捨てである。
受付のおっさんは自分の頭の不毛地帯を優しく撫でながら、ちょっと寂し気に「おかげで、いまではおれもこのざまだ」とつぶやいた。
どうやらおっさんという歯車は頭から摩耗していくものらしい。
なんてこったい!
諸君、どうやら未来はちっとも明るくないらしいぞ。
いや、明るくはあるのか?
残酷な真実を告げられて、ワガハイは言葉も出ない。
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