49 / 280
049 カネコとガガスメイヤ。
しおりを挟む黄昏刻、藍色の空には早くも星々が瞬いていた。
生ぬるい風がびゅるりと吹く。
宵闇迫る丘にて。
消えゆく残光を受けて、黒紫色の鱗が妖しく艶めいていた。
長い体だ。わずかに身じろぎをするたびに鱗たちがジャランと鳴る。その音は鉄の鎖がうねるかのよう。
黄色の虹彩、黒い瞳孔をした円らな瞳は愛らしく見えなくもない。
が、全体の凶悪なフォルムと合わさることで、そのアンバランスさがかえって不気味さを醸しだしている。
半開きの口からのぞく牙よりポタポタ滴るのは、おそらく毒液だろう。
細長い舌が血よりもなお濃く赤い。舌の先端がふたつに分かれておりチロチロしているけど、うっかり噛んだりしないのだろうか。
尾を小刻みに震わせては、ジャラジャラジャラとやかましい。
まるでガラガラヘビみたい。この仕草はきっと威嚇音。
――デカい。
胴回りがパルテノン神殿の石柱ほどもある。
とぐろを巻いたとて、小学校のプールではたぶん収まりきらないだろう。
それほどの巨体だ。
デカいヘビが寝起きのワガハイをじっと見下ろしていた。
全身を舐めまわすかのようなこの視線をワガハイはよく知っている。
捕食者が被食者、自分のエサに向けるもの。
込められた意は『オマエクウ、アタマカラマルカジリ』だ。
もはや怪獣と呼んでも差し支えあるまい。
そんなバケモノがいきなりあらわれたのだ。
ヒヨッコどもが設営作業の手を止めて固まるのもムリはない。
かくいう、ワガハイもぽかんと固まっている。
メテオリト大森林にいた時には、いろんなタイプの魔獣を見かけたものだが、コイツは初お目見えである。
にしても、ここでヘビ型が登場するとは……
う~ん、他所さまのお宅の蛇蝎具合をちょいと覗いてやろうとか、ゲスいことを企んでいたから罰が当たったのかもしれない。
なんぞとワガハイが反省していたら、デカいヘビが動いた。
いきなり頭から突っ込んでくる!
その姿は自分が毎日利用する最寄り駅のホームを、ゴーっと素通りする朝の通勤快速電車のごとし。
あぁん、イケずぅ。どうしてウチには止まってくれないの?
と、恨みと妬みの念を込めた目を向け、何度見送ったことか。
「――じゃなくって!」
ワガハイはあわててピョンと横っ飛び、デカいヘビの突進をかわす。
で、すかさずカネコスラッシュで反撃、胴体を輪切りにしてやろうとするも「っ!」
放った真空の刃はヒットするも、ぬるんつるんと滑って明後日の方向へと飛んでいってしまった。
「にゃんだとぅ!?」
驚くワガハイに、引率役のおっさんの声が届く。
「気をつけろ、ガガスメイヤは体の表面に魔力を通すことで攻撃を受け流すぞ」
襲撃者の名はガガスメイヤ。
見ての通りの大蛇の魔獣にて、ふだんは大森林の第四層にある古代遺跡の辺りに生息しており、高位冒険者らで編成された大規模パーティーで挑むような手強い相手である。リアル・レイドボスみたいなもの。
そんなのが、なぜだか森の外……新人どもが研修におもむくような場所にあらわれた!
おかげで現場は大パニックである。
「なんで四層の魔獣がこんなところにいるのにゃん? おかしいのにゃあ~」
「知るかよ! とにかく俺はヒヨッコどもを避難させるから、ワガハイはそいつの相手を頼む」
「え~」
ワガハイは口を尖らせるも、ガガスメイヤの方は殺る気マンマンである。
というか、逃げ惑っているヒヨッコたちなんてまるで眼中にないっぽい。
親の仇とばかりに、ワガハイにばかり突っかかってくる。
はて、おかしいな? ふつうは狩りやすそうな方から狙うのに。
魔獣は倒した魔獣の血と肉を喰らい、その心臓近くにある魔晶石を吸収することで、より強い個体へと成長する。
かといってザコの持つクズ石をいくら食べたところで、たいして強くはなれない。
ど~んとレベルアップするには、強い魔獣のブツを摂取する必要がある――らしい?
なぜに疑問形なのかといえば、あいにくとワガハイ、魔晶石は食べたことがないので。
いやね、ふつうあんな石ころ、口に入れようとかおもわないから。
手持ちの分はゴーレム錬成でパーッと使ってしまったし。こんなことならドゥラーケンの分だけでも残しておくんだった。
とまぁそんなわけで、ガガスメイヤは更なるステージへと至るための踏み台として、ワガハイをロックオンしたっぽい。
もちろんワガハイとて、簡単にフミフミされてやるつもりはない。
42
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!
えながゆうき
ファンタジー
妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!
剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
冒険野郎ども。
月芝
ファンタジー
女神さまからの祝福も、生まれ持った才能もありゃしない。
あるのは鍛え上げた肉体と、こつこつ積んだ経験、叩き上げた技術のみ。
でもそれが当たり前。そもそも冒険者の大半はそういうモノ。
世界には凡人が溢れかえっており、社会はそいつらで回っている。
これはそんな世界で足掻き続ける、おっさんたちの物語。
諸事情によって所属していたパーティーが解散。
路頭に迷うことになった三人のおっさんが、最後にひと花咲かせようぜと手を組んだ。
ずっと中堅どころで燻ぶっていた男たちの逆襲が、いま始まる!
※本作についての注意事項。
かわいいヒロイン?
いません。いてもおっさんには縁がありません。
かわいいマスコット?
いません。冒険に忙しいのでペットは飼えません。
じゃあいったい何があるのさ?
飛び散る男汁、漂う漢臭とか。あとは冒険、トラブル、熱き血潮と友情、ときおり女難。
そんなわけで、ここから先は男だらけの世界につき、
ハーレムだのチートだのと、夢見るボウヤは回れ右して、とっとと帰んな。
ただし、覚悟があるのならば一歩を踏み出せ。
さぁ、冒険の時間だ。
気づいたら美少女ゲーの悪役令息に転生していたのでサブヒロインを救うのに人生を賭けることにした
高坂ナツキ
ファンタジー
衝撃を受けた途端、俺は美少女ゲームの中ボス悪役令息に転生していた!?
これは、自分が制作にかかわっていた美少女ゲームの中ボス悪役令息に転生した主人公が、報われないサブヒロインを救うために人生を賭ける話。
日常あり、恋愛あり、ダンジョンあり、戦闘あり、料理ありの何でもありの話となっています。
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
星の勇者たち でも三十九番目だけ、なんかヘン!
月芝
ファンタジー
来たる災厄に対抗すべく異世界に召喚された勇者たち。
その数、三十九人。
そこは剣と魔法とスチームパンクの世界にて、
ファンタジー、きたーっ!
と喜んだのも束の間、なんと勇者なのに魔法が使えないだと?
でも安心して下さい。
代わりといってはなんですが、転移特典にて星のチカラが宿ってる。
他にも恩恵で言語能力やら、身体強化などもついている。
そのチカラで魔法みたいなことが可能にて、チートで俺ツエーも夢じゃない。
はずなのだが、三十九番目の主人公だけ、とんだポンコツだった。
授かったのは「なんじゃコレ?」という、がっかりスキル。
試しに使ってみれば、手の中にあらわれたのはカリカリ梅にて、えぇーっ!
本来であれば強化されているはずの体力面では、現地の子どもにも劣る虚弱体質。
ただの高校生の男子にて、学校での成績は中の下ぐらい。
特別な知識も技能もありゃしない。
おまけに言語翻訳機能もバグっているから、会話はこなせるけれども、
文字の読み書きがまるでダメときたもんだ。
そのせいで星クズ判定にて即戦力外通告をされ、島流しの憂き目に……。
異世界Q&A
えっ、魔法の無詠唱?
そんなの当たり前じゃん。
っていうか、そもそも星の勇者たちはスキル以外は使えないし、残念!
えっ、唐揚げにポテトチップスにラーメンやカレーで食革命?
いやいや、ふつうに揚げ物類は昔からあるから。スイーツ類も充実している。
異世界の食文化を舐めんなよ。あと米もあるから心配するな。
えっ、アイデアグッズで一攫千金? 知識チート?
あー、それもちょっと厳しいかな。たいていの品は便利な魔道具があるから。
なにせギガラニカってば魔法とスチームパンクが融合した超高度文明だし。
えっ、ならばチートスキルで無双する?
それは……出来なくはない。けど、いきなりはちょっと無理かなぁ。
神さまからもらったチカラも鍛えないと育たないし、実践ではまるで役に立たないもの。
ゲームやアニメとは違うから。
というか、ぶっちゃけ浮かれて調子に乗っていたら、わりとすぐに死ぬよ。マジで。
それから死に戻りとか、復活の呪文なんてないから。
一発退場なので、そこんところよろしく。
「異世界の片隅で引き篭りたい少女。」の正統系譜。
こんなスキルで異世界転移はイヤだ!シリーズの第二弾。
ないない尽くしの異世界転移。
環境問題にも一石を投じる……かもしれない、笑撃の問題作。
星クズの勇者の明日はどっちだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる