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062 カネコと異形の騎士。
しおりを挟む黒いアリよりも、白いアリよりも、さらにひと回りほど大きい。
各部パーツはがっしりした造りをしている。
全身が光沢のあるメタリックシルバー、頭に触手はない。
フォルムこそはアリンコをベースにしているが、西洋の甲冑を身にまとった騎士のようないでたち。
足が八本あるのは白のビヤンフォルミガと同じだけど、内訳がちがう。
白アリは第四の腕に鎌をつけていた。
けれども銀アリは後ろ足の二本をのぞき、残り六本すべてが両手剣のような形状をしている。それらがけっして見かけ倒しでないのは、先ほどカネコビームを打ち払ってみせたことからも明らかであろう。
銀のアリンコ――カヴァレイロフォルミガ。
女王の剣であり盾でもある騎士にして、群れの中で最強の戦士。
最後にして最大の障壁が、ワガハイたち一行の前に立ち塞がった。
こいつをどうにかしないと、女王の喉元に刃を突き立てられない。
そんな局面で隊長さんが「悪いが付き合ってくれ」と言ったもので、ワガハイは「しょうがないにゃんねえ」と嘆息。
ようは隊長さんとワガハイで騎士殿のお相手をして、その隙に残り三人に女王陛下を仕留めてもらう二面作戦。
本命はもちろん三人の方、言い方は悪いけどワガハイたちは囮だ。
せいぜい暴れてヤツの注意を引きつけないといけない。
「というわけで喰らえ、カネコスラッシュ乱れ打ち!」
めったやたらと両の前足をぶん回し、真空の刃をびゅんびゅん飛ばしまくっては銀アリを牽制する。
それを合図に一同散開。
各々が自分の成すべきことをするために行動を開始した。
隊長さんは広げていた布をたたみ急降下、いちはやく着地体勢へと移行する。
ギュンとけっこうな速度で落ちて行ったのにもかかわらず、地面に当たる寸前、わずかに風魔法を発動しては勢いを弱め、さらにはにゃんぱらりと華麗な回転受け身をも披露する。落下の衝撃を完全に消した。
――ヤダ、隊長さんってば超カッコいい!
鍛えられた獣人のエグ過ぎる身体能力に、ワガハイは脱帽である。
見事な着地を決めてみせた隊長さんは、女王の方へと向かう三人を横目にすぐさま双剣を抜き、銀アリへと目がけて「ウォオォォォォォ!」
雄叫びをあげながら駆け出した。
一方、まだ空中でモタモタしていたワガハイはというと……
さっそく厳しい状況に置かれていた。
威勢よく真空の刃を飛ばしたまでは良かったのだけれど、まさか相手が正面からこれを受けて立つとはおもわなかった。
銀アリの六本の腕が動き、剣が乱舞し、銀光が閃く。
放たれた大量の風刃たちが、次々とカネコスラッシュとぶつかっては撃破するだけでなく、ときに打ち破りこっちにまで届くではないか!
威力そのものは同じぐらい。だが、ちゃんと踏ん張れる分だけ銀アリの攻撃には力が乗っている。
比べてワガハイのは腰が入っておらず腕だけで放ったへにゃちょこ。
そんなふたつの攻撃がぶつかり合えば、どうなるのかなんていちいち語るまでもないだろう。
「にゃにゃにゃっ! ちょ、ちょっと待つにゃん。軽く挨拶しただけにゃのに……そんなにムキににゃらなくても」
風刃が次々に飛んでくる。
ワガハイは必死に身をよじっては、どうにか直撃をかわす、かわす。
ネコは液体と言ったのは、どこの誰であったか?
もちろんジョークだが、それぐらいネコの体はふにゃふにゃ柔らかいということ。
でもって、カネコもそれなりに。
だからどうにかギリギリのところで回避し続けていたのだけれども……
「っ!」
ザシュッと切り裂かれたのは、パラシュート代わりを引き受けてくれている黒のベトベトさん。
とたんに重力と空気抵抗との均衡が崩れた。落下傘がくしゃりと萎んだ朝顔のようになり、ワガハイの体はすとんと落下を開始したもので「あんぎゃあ~~~~」
だがしかし、ワガハイとて腐ってもカネコである。
ここは本家本元の、華麗なるにゃんぱらりを決めてやろうとも。
と、意気込んだのだが、そこで足と顔にまとわりついたのが黒のベトベトさんである。
「うにゃ、見えないのにゃあ」
ジタバタしているうちにドテっと落ちた。
それはもう非の打ちどころがないほどに、無様な墜落にて。
テレビ特番の衝撃映像系に送ったら、きっと即採用されることであろう。
腰をしたたかに打ち「ふんぬぅ」と悶絶。
お星さまチカチカにて、アウチッ!
――ヤダ、ワガハイってば超カッコ悪い!
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