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067 カネコ、凱旋す。
しおりを挟む城塞都市トライミングの城門前にて――
「父ちゃーん!」
「ラフト!」
トテトテ駆け寄ってきた我が子を、しゃがんで受け止める父親。
ひしと抱き合う獣人の父と子。
感動の再会である。
それは隊長さんのところだけでなく、他のメンバーたちも。
妻子や恋人、親しい友人など縁者らが偵察隊を出迎えている。
遺跡での試練を乗り越え、トライミングに帰還したワガハイたち。
あらかじめ言珠にて連絡をしていたので、ギルド側が粋なはからいをしてくれたらしい。
まるで映画のワンシーンのよう。ジーンと心揺さぶられる光景だ。どこもかしも喜びと愛があふれている。
「よかったのにゃん」
ぐすん。
熱くなった目頭を押さえつつ、ワガハイはみんなの邪魔をしないように、ひとりそっとその場を離れようとする。
だってほら、誰もお迎えがいないのってばワガハイだけなんだもの。
こういうハートフルな場面に、クールな独身貴族はふさわしくない。
フッ、高貴にして孤高なるヒーローはただ静かに去るのみ。
でも、そんなワガハイに声をかける者がいた。
「おい、ワガハイ」
野太い声の入道頭。
誰かとおもえば馴染みの受付のおっさんだった。
「おつかれさん、よくやってくれた」
ねぎらいの言葉に、ワガハイは不覚にもちょっとキュンとしてしまった。
モジモジするワガハイに受付のおっさんは続けてこう言った。
「……まぁ、それはともかくとして、おまえさんにちょいと訊きたいことがある。ガガスメイヤの件なんだが。あー、なんでも森のなかにあった奇妙な道を辿って外に出たとか」
――ギクッ!
ワガハイは「へ~、そうにゃのかにゃあ」とにへら、作り笑いを浮かべじりじり後ずさり。隙をみてパッときびすを返し逃亡をはかる。
だが、逃げられない。
逃亡失敗――ワガハイは受付のおっさんに回り込まれた。
しかしカネコは諦めない。別方向へとネコ首をめぐらせる。
でもざんねん、またもや受付のおっさんに回り込まれた。
ふり返ればヤツがいる。
シュッと消えたとおもったら、一瞬で背後に。
「うにゃーっ、おっさんのフットワークが軽快すぎるっ!」
あの銀アリとも威風堂々、正面から互角に渡り合った、このワガハイをも上回る超スピードとかありえないんですけど。
三つの目を大きく見開き驚愕しているワガハイに、受付のおっさんはこともなげに「べつに本当に速いわけじゃねえよ。そう見えているだけだ。まぁ、このへんは経験と鍛錬の賜物だな」と言った。
コツは歩法と相手の息づかいと視線を読むことだそうな。あと全身のわずかな動きも見逃さず、なおかつ気と風の流れをどうこう……って、デキるかっ!
かくしてワガハイはあっさり捕獲された。
受付のおっさんにむんずと首根っこを掴まれ、ワガハイはギルドへと引っ立てられていく。
「にゃ~ん」
〇
ギルドに連行されたワガハイは、尋問というていのお説教をされて、こってり油を絞られた。それはもうねじ切れんばかりにギュウギュウ、ギッチギチに。
たぶん大樽で三つ分ぐらいは、だらだら絞られたとおもう。
あとこれでもかってぐらい、しこたま怒られた。
それも七人の受付のおっさんたち総出で。
ひとりでもシンドイのに、いきなり七倍!
お説教がパワーインフレを起こしている。
「はぁ~、こんなことはうちの支部始まって以来だぞ。というか他所でも聞いたことがない」
と、おっさんたちの嘆き節が留まるところを知らない。
まったくもって面目次第もないことで、ワガハイは背中と尻尾を丸めて嵐が過ぎるのを待つばかり。
殊勝な態度にて猛省していることをアピールしつつ、こっそり耳も伏せてカネコイヤーの防音機能を発動しようとしたが、それはバレて阻止された。
でも、お叱りを受けているときに、ふとワガハイはおもった。
――あれ? こういう時ってふつうえらい人が出てきて、ドカンと特大のカミナリを落とすものじゃないのかしらん。
いまさらながらに気づいたのだけれども、ワガハイ……じつはまだ一度も冒険者ギルドのギルド長、副ギルド長らと顔を合わせていない。
一時期はギルドの簡易宿泊室にお世話になっていたこともある。滞在中は館内のトイレ清掃を一手に引き受けていたもので、わりとウロチョロしていた。
都市に居る時には、ほぼ毎日ギルドに顔を出している。
なのにまったく見かけたことがないとは、これいかに?
その疑問に答えてくれたのは、ほぼワガハイ担当となっている受付のおっさんだった。
「あぁ、そのことか。うちのギルド長なら、いまは王都に出張中だ。でもって副ギルド長はおまえさんがここに来る少し前にクビになったぞ」
なんでもグランシャリオという国が、周辺諸国の反対を押し切って『勇者召喚の儀』とやらを行ったとかで、その対応策を協議するために国のえらい人たちを交えてのギルド長会議が王都で開かれているんだとか。
う~ん。勇者召喚とか、いかにも異世界ファンタジーっぽい。
で、それのいったい何が問題なのかといえば……
「えっ、グランシャリオってば、あのアロセラ教団の総本山がある国なのかにゃん。あ~、それはたしかに大問題にゃんねえ」
アロセラ教団といえば、いるかいないのかわからないナゾの女神フロディアを信奉し、類人至上主義を掲げ、他種族を亜人と蔑んでは悦に浸っている、性根がひん曲がっている連中である。
インチキ宗教が幅を利かせている時点で、グランシャリオという国のお里が知れるというもの。
そんな国が中二病に罹患したチートガン積みの勇者を手に入れるとか、なんとかに刃物であろう。
厭な予感がプンプンしてしょうがない。そりゃあ各支部のギルド長たちもわざわざ集まるというもの。
ちなみに副ギルド長がクビになった理由は、横領なんだってさ。
ギャンブルにのめり込んだ末に、緊急時用にとコツコツ貯めていたギルドの金に手を付けてしまったそうな。
でもってギルド内裁判にかけられ懲戒解雇となったばかりか、物理的にもキュッとクビになったんだと。
クビはクビでも縛り首!
なおワガハイはいろいろと問題を起こしたものの、意図したものではなく、かつなんだかんだで解決にも尽力したことと、これまでの功績が認められて相殺、今回は厳重注意処分だけですんだ。
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