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078 カネコ、童話物語。
しおりを挟む正直者のきこりが、仕事中にうっかり大切な斧を池に落としてしまった。
「やっちまった! まだローンが半分以上も残っているのに……。こんなことならケチらずに損害保険にちゃんと入っておくんだった。う~ん、どうしよう」
途方に暮れるきこり。
するとそんな彼の前にペカーと後光を帯びてあらわれたのが池の神さま。
でもその頭には痛々しいコブの姿が……
神さまは金の斧を持っており「おまえが落としたのはこれか?」とたずねる。
きこりは首を振って「ちがう」と答えた。
すると神さまは「どっこらせ」と新たに銀の斧を取り出し「じゃあ、こっち?」
きこりはやはり首を振っては「おいおい、ジョーダンはよしこさん。金とか銀なんぞの斧で木がまともに斬れるわけがないだろう。ははは」と肩をすくめてアメリカンな呆れポーズ。
正直者のきこりは、その実直さゆえにウソをつけなかった。
おもったことをすぐ口にするもので、幼少期よりお母さんから「あんたはひと言多いんだよ」とよく注意されていたものである。
正直すぎるきこりの態度に、ビキリと青筋を立てた神さま。
「あー、はいはい。だったらこいつだろう」
と、水底より引き揚げたのはふつうの斧。
するときこりは「そうそう、これだよこれ」と嬉しそうに受け取り「サンキュー神さま」と礼を述べた。
そんなきこりに向かって神さまは「とっとと失せやがれ! このしゃばぞうが。今度うちにゴミを放り込んだら、てめえのドタマをかち割ってやるからな」との捨て台詞を吐き、金と銀の斧を投げつけて池のなかへと帰っていった。
ギュンと回転しながら迫る金の斧と銀の斧。
きこりは手にしたふつうの斧でそれらを叩き落とし、窮地を脱するも刃零れした相棒に「オーノー!」
……なんてことがあったんだよう。
という話を正直者のきこりから聞いた、欲張りのきこりは「しめしめ、いまは金も銀も価格がべらぼうに高騰しているんだ。いっちょ、俺さまももうけてやるとしようか」とくだんの池へとおもむき、斧をぽちゃんと投げ入れた。
だが、ふと欲張りのきこりはおもった。
――ん? どうせなら一本だけじゃなくて、もっと入れたら倍々になるんじゃね。
そこで予備の斧だけでなく、鉈やナイフなどもポイポイ池に投げ入れた。
で、待つことしばし。
池の神さまが姿をあらわしたのだけれども、聞いていたのと御姿がぜんぜんちがう。
ツルピカなローブ姿の老爺だったとの話なのに、出てきたのはたくましい腕が六本もある筋骨隆々の大男にて、顔も三面あって、そのすべてが憤怒の形相であった。
「おまえの落としたのは、この斧と斧と鉈とナイフか?」
と神さま。
欲張りなきこりは、これをいぶかしむ。
手順がちがう。先に金と銀がお目見えされるはずなのに……
しかし、ここは正直者を演じた方が得策だと考えて「イエス」と答えておく。
すると神さまは「そうかそうか、なんと正直者であろう。その心根の清さにめんじて、おぬしにはこれをくれてやろう」と言うなり、欲張りなきこりの胸元をむんずと掴んでは、ひょいと持ち上げたとおもったら、他の手に持っていた斧やら鉈にナイフでザクザクザクザクと……
「ぐふっ、ど、どうして。ちょいと楽してひと儲けしてやろうとおもっただけなのに」
「どうして――だと? ヒトの頭の上に、ポンポン刃物の雨を降らしやがって。当然の報いだろうが」
「そ、そんなバカな……ガハッ。そもそも、あんた、ヒトじゃないじゃん」
「クッソやかましい! この期に及んでヒトの揚げ足を取るようなヤツは、こうしてくれる」
「ぎゃあぁあぁぁぁぁーっ」
ブチリと力任せに引っこ抜かれたのは舌。
欲張りなきこりの絶叫が森に木霊する。
流れた血により池が朱に染まった。
森の奥は池のほとりで起きた惨劇。
それを枝の上からコマドリだけが見ていた。
おしまい。
イソップ童話でお馴染みの『金の斧と銀の斧』のあらすじだ。
一部オリジナルアレンジを加えてあるけど、だいたいは合ってるはず。
正直であることが最善であるという教訓物語。
じつは似たような話は世界中にあったりする。
よもや自分がそれを体験することになろうとは夢にもおもわなかった。
泉の精霊と名乗る麗人から、「金のおむすびと銀のおむすび、さぁ、どっち?」と言われてワガハイは非常に困惑している。
どっちだ? どっちが正解なんだ?
ここはセオリーでいくべきか、はたまた裏の裏まで読むべきか。
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