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118 新生カネコモービルとヘンな爺さん。
しおりを挟むあれこれとイジくっているうちに夜が明けていた。
つい夢中になってしまった。
でもそのかいあって……
「ふぅ、ついに二号機が完成したのにゃん」
正面からのフォルムはゴツイ六角形をイメージした。外車のいかついピックアップトラックっぽい顔をしている。どんなに険しい道でもガンガン突き進む四輪駆動を採用し、パワフルな走りを実現した。
他にもあちこちが六角形となっている。これはハニカム構造を積極的に取り入れたからである。ハニカム構造は蜂の巣でお馴染みの形だ。三次元空間充填というもので、強度を維持しながら中身をくり抜き軽量化が図れるのがメリット。
チャラい見た目よりも中身が大事、頑丈さを優先した結果の選択だ。
そのため容姿はやや武骨になってしまったものの、スピードとパワーが一号機よりもずっと増しており、ぶちかまし時の破壊力も数段アップしていることであろう。
なお、ボディのカラーペイントは、明るめの茶トラ地の白混ざりにて、ワガハイの毛並みを再現している、操者とお揃いだ。
「……こいつの名前はエボルヴにするのにゃあ」
二号機はカネコモービル・エボルヴと命名する。
ちなみにエボルヴの言葉の意味は「進化」「発展」「変化」など。
キラリと光るネーミングセンス。
さすがはワガハイである。
などと自画自賛していた時のことであった。
ジーッ……
背後よりじっとりとこちらを舐めまわすような視線を感じたもので、ハッとふり返る。
倉庫の入り口扉がわずかに開いていた。
その隙間から血走った目がのぞいており、ハァハァと興奮する息づかいまで聞こえてくるではないか。
「変態デバガメ発見だにゃん! くらえ、天誅!」
不埒者に対して、魔法にて水鉄砲をピューッと発射する。
水鉄砲といってもそこはワガハイがすることなので、放たれる水の威力は機動隊が使用する特殊車両ばりにて、非致死性だが当たると吹き飛ばされるレベルの放水である。
だがしかし――
「むっ、なんのこれしき。アチョー!」
覗き魔が奇声を発するなり、展開されたのは半透明な障壁。
これがバリアとなってワガハイの放水攻撃を防ぐ。
じつに精緻かつ滑らかな魔力運用に、ワガハイは目を見張る。
――こ、こいつ、デキる。ただのデバガメじゃない!
でも変態だ。
だからワガハイはすかさず「だったらこれならどうにゃ? カネコスパーク!」
説明しよう。
カネコスパークとはゴワゴワした体毛より静電気を発生させては、これを放つ技である。受けた相手は、バチッとして「アイタッ!」となる。
ただし、ちょっと痛がるだけでべつに感電したりはしない。
そもそも静電気なので、たいした威力はない。
よってカネコスパークは相手を驚かせるだけのドッキリ技である。
びしょびしょに濡れている床。
それを伝ってカネコスパークが相手の足下で炸裂した。
デキるデバガメも、さすがにこれには対処しきれず。「うわっ」と驚き、ドスンと転んで尻もちをついた。
〇
とっ捕まえたデバガメは森人の爺さんであった。
白い眉毛に白くて長いアゴ髭にメガネをかけており、どこぞの魔法学校の学長のような容姿をしているとおもったら、実際にとある学園の元理事長だったんだとか。
いまはもう教育者を辞めて、一介の学者として活動しているとのこと。
これでもけっこうえらい学者先生らしい。どれくらいえらいのかというと、いまの王さまが若かりし頃の教育係を務めるぐらいに。
では、どうしてそんな立派な学者先生が、あんな覗きみたいなマネをしていたのかというと……
「うにゃ、ギルド長から『おもしろいヤツがいるから、見に来いよ』と誘われた?」
で、誘われるままにホイホイ、勇者一行と入れ違うようにしてトライミングにやってきた。ギルド長のところに挨拶におもむけば、さっそく例のおもしろいヤツが何かを始めるという。
どうにも気になったもので、ちょいと覗いてみたらたいそう驚いた。
なぜなら、失われたとされるゴーレム錬成を行っていたからである。
「おかげで、つい年甲斐もなくハァハァしてしまったわい。うぅ、血圧が。
ところでずっと気になっておったんじゃが、そこのデカい本はもしや……」
「あー、これかにゃあ。これはサレーオっていうボッチ老人が残したもので――」
「なぬ! やはりそうか。やたらと大判だから、もしやとはおもったが、そうであったか!」
伝説のゴーレム錬成技師サレーオ。
高度なゴーレム錬成技術を確立したことでも有名だが、じつは魔法使いや錬金術師としても超一流にて。
彼が残した著作はどれも優れているのだが大判なので、内容はともかく「場所をとる!」「持ち運びがしにくい!」「邪魔!」と不評らしい。
でもその大きさゆえに、ひと目で判別できるそうな。
えらい学者先生、『魔術大全』を前にして「ひゃほう」と小躍りして大興奮。
ますます目に毛細血管を浮かべては鼻息を荒くするもので、ワガハイはちょっと引き気味である。
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