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140 カネコ、水中戦に苦戦す。
しおりを挟むキルコスの巨体がぬめっと動くたびに、周囲に奔流が発生しては水がぐわんと大きくうねる。
発生する水流に翻弄されるばかりのワガハイの体は、グルグルグル……
「うんにゃあ~、目がまわるのにゃあ~」
水の中ゆえに、こちらも水魔法を展開して体勢を整えようとするが「にゃ!?」
うまくいかない。せっかく集めた魔力が散る。
いやちがう……これは散らされているのか?
キルコスの仕業だ。
ヤツはたんに泳いでいるだけではなくて、全身から魔力を放出しており、これにより周囲の水がヤツの支配下に置かれているっぽい。
ワガハイの魔力がこれを振り払い押しのけようとするも、のれんに腕押し、ヌカにクギな状態にて。逆に押し流されたり、呑み込まれたり、受け流されたりしてしまっているのだ。
そのためにどうにも軸が定まらない。グラグラする。
イメージ的にはいきなり無重力のなかに放り込まれたかのよう。
いくら手足をジタバタさせても、掴むところもなければ踏ん張れもしないせいで、体が固定できないのだ。
とはいえ、このままではさすがにマズイことになる。
そこでワガハイは……
「だったら、こうするのにゃ!」
足場がないのならば作ればいい。
とはいえ、さっきも述べたようにここは水の中である。
だからワガハイが魔法で作ったのは氷のブロック。
材料ならば周囲にいくらでもあるから、ギュッと固めて産み出す。
で、これを足場とし蹴飛ばすことで、推進力を得る。
その際に全身にまとわりついては邪魔をしてくる大量の水についても対策を講じる。
キルコスを見習って受け流すことにした。自分の周囲に水の流れを作って対応する。
とっさのおもいつきではあったが、これが案外うまくいった。
ワガハイはある程度の自由を手に入れることに成功した。
あと、うれしい誤算もあった。
それは――
ゴンッ!
氷のブロックに頭をぶつけて、キルコスが身をよじっている。
いきなり進路上にあらわれた氷の塊を避け損ねて、自損事故を起こしているのだ。
原因は氷の透明度の高さ。
透明度の高い氷を作るのには、本来ならばそれなりの時間と手間をかける必要がある。
基本はゆっくり凍結すること。
そして途中で不純物を取り除いたり、半分ほどまで凍らせてからいったん中身を抜いてはまた凍らせたりと、なにかと面倒がかかるもの。
だがそこは異世界ファンタジー、科学な分子結合的問題はサクっとムシして、魔法でちょちょいとインチキをした。テヘペロ。
ガンッ!
あっ、またキルコスが氷のブロックに頭をぶつけやがった。
大きなコブまでこさえて痛がっており、ワガハイは「にゃっしっしっ」と笑みを浮かべる。
というわけで、そろそろ本格的に反撃を開始しようとした矢先のことであった。
「にゃ! 何にゃコレ?」
急にビリっときて、しっぽや背中を乱雑にわしゃわしゃ逆撫でされたような不快な感覚に襲われる。
一方で、こちらへとグングン近づいてくるキルコス。
またぞろバカのひとつ覚えである体当たりにて、ワガハイはひょいとかわしつつヤツの進路上に氷のブロックを浮かべてやったのだけれども。
すれちがった瞬間に――
バチッ!
ワガハイの視界のなかでスパークが生じ、体中を何かが駆け巡る。
髭や毛がピンと立ち、剣山みたいになったとおもったら一瞬にして、しおしおと萎れて、体中からストンと力が抜けた。
電気ショックによる攻撃だ。やったのはもちろんキルコスである。
どうやらワガハイはかんちがいをしていたようだ。
ヤツはナマズじゃなくて、電気ウナギであったらしい。
そうとは知らずに、うかつに接触してしまったワガハイは感電してしまった。
電気を使った攻撃手段ならばワガハイも持っている。
カネコスパークだ。これはゴワゴワした体毛より静電気を発生させては、これを放つ技である。受けた相手は、バチッとして「アイタッ!」となる。
ただし、ちょっと痛がるだけでべつに感電したりはしない。
そもそも静電気なので、たいした威力はない。
よってカネコスパークは相手を驚かせるだけのドッキリ技である。
でもって、その発生の仕組みゆえに、もちろん水中では使えない。
キルコスの電撃は強烈にて、ワガハイのカネコスパークとは比べものにならないほど。
それをまともに喰らってしまい、衝撃で水中ヘルメットもどきがはずれてしまい、ガボガボガボ、大切な酸素が一挙に放出されてしまった。
マズイ! あわてて口を閉じようとするも、痺れているせいでうまくいかない。
このままではマジで溺れる。パニックに陥るワガハイ。
そんなワガハイへと目がけて、ア~ン。
大口を開けたキルコスが迫る。
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