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145 カネコと破人の国
しおりを挟むモンスターに相当する危険な魔獣が闊歩し、ナゾの古代遺跡などもあり、いろんな種族が暮らしていて、そこかしこにワクワクドキドキの冒険が溢れている。
剣と魔法のファンタジーなこの世界……
ポンコツだがいちおう勇者なんかもいて、魔王とかもいるらしい。
そんな魔王が支配しているのがテネブラエという国である。
場所はわからない。
地下深くとも、海の底とも、別の大陸、天空に浮かんでは気の向くままに彷徨っている、次元の狭間……などなど。
様々な憶測はあるものの、真実は不明だ。
どこからともなく漏れ伝わってきたわずかな情報によれば、そこはつねに夜の帳が降りている常闇の国らしい。
陽の光が一切届かない。太陽の恩恵のない凍てついた地にて、住人である破人(はじん)らは生活しているという。
魔王はその存在こそ広く世に知られてはいるものの、実際に遭遇したという話はとんと耳にしたことがない超激レアキャラ。
でもって、これを一方的に敵視しているのは、類人至上主義を掲げている女神フロディアを信奉するアロセラ教団である。
それ以外の者たちは「ふ~ん」といった感じで、とくに気にしていないのが実情だ。
ようは騒いでいるのはごく一部のみということ。
他の者からすると「あ~あ、教団の連中ってばまたバカをやってらぁ。いったい何をやってるんだか」ぐらいの感覚にて、眉をひそめる程度なのだ。
けれども人類側にアロセラ教団みたいなめんどくさい連中がいるように、あちらさんにも跳ねっかえりどもがいるらしく。
こちらにちょっかいを出す者らがいる。いわゆる過激派というヤツだ。
でもって、そいつらに共通しているのが……
「にゃにゃにゃ、変装の名人?」
『あぁ、なにせヤツらの見た目はちと個性的だからな。そのままの姿でうろついていたら、すぐにバレる。そのための変装……だが実態はそんな生易しいものではないがな。我も数えるほどしか見ていないが、あれはなかなかにおぞましいぞ』
「……コクコク」
魔剣の言葉を肯定するかのようにして、剣姫もうなづく。
聖剣と並び称される天下の奇剣をして、そうまで言わしめる理由。
それは破人らが、文字通りヒトの皮をかぶって化けるから。
特殊な加工が施された魔道具の皮らしく、かぶると破人の気配が遮断されるばかりか、魔力の波形をもごまかされるそうで、あのレジメ板すらも欺くというから驚きだ。
とどのつまり、連中は大手を振って堂々と城門を行き来できるということ。
スネに傷を持つ悪党ども垂涎の能力を持ったアイテム――ヒトの皮。
そんなモノを造り出すだけの高い技術力を、破人らが保有している証左でもある。
ちなみに彼らの素顔は、ギョロリとした大きな目に、ぼてっと厚めのくちびる、ギザギザした歯をしており、鼻はなく、平たくて縦に長い顔にて、ウロコを持つ魚っぽい顔をしているとのこと。あと独特の体臭は、部屋干しされたシャツの生乾きみたいなニオイがするそうな。
この話を聞いて、ワガハイはちょっとその姿を想像してみる。
なにかのひょうしにビリビリっと皮が破けて、なかから半魚人みたいなのがあらわれては「キシャーッ!」
う~ん、これはたしかにおっかない。まるでクトゥルフ神話の深きものども! 驚異と怪異にて完全にゴシックホラーの世界である。暗がりで見かけたらワガハイ、チビるかもしれない。
ヒトの皮を使えば、ほぼ完璧に近い状態で他人に成りすませる。
このことから、今回の一件の裏では破人が暗躍しているのかもしれない。
と、剣姫と魔剣はにらんでいる。
未知の技術を持つ破人の関与が疑われる。
――えらいこっちゃ!
だからワガハイは言った。
「手がかりも途切れたことだし、ここはいったん話を持ち帰ってはどうなのかにゃあ?」
破人がかかわっているとしたら、もはやいち辺境都市の問題ではすまないだろう。
だからこそだ。上司にお伺いを立てるべき。報連相は組織人の基本である。
あ~、くれぐれも誤解なきよう。けっしてめんどうそうだからとかではない。それっぽい理由をつけては体(てい)よくこいつらを追い払おうとか、ワガハイはこれっぽっちも考えていないよ。
けれどもこのワガハイの目論みはうまくいかなかった。
せっかく剣姫が「……たしかに」とうなづきかけたところで、商業ギルドから副ギルド長がやってきて「話は聞いた。それについてちょっと心当たりがある」なんぞと言い出したもので。
ワガハイは「ちっ、あとちょっとだったのに。余計なことを」と口を尖らせる。
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