寄宿生物カネコ！

167 カネコ、詰み？

　
　王都を覆っていた結界はただのシールドや檻なんぞではなくて魔法生物だった！
　それもたくさんの小さな個体が寄せ集まって、一体の巨大な獣の形をしたモノ！

　攻撃をしたらワッと散っては、すぐに寄り集まって元通り。ダメージもほとんど通らず。百や二百の個体を潰したところで、全体からすれば微々たるもので、漆黒の獣はへっちゃら。
　ばかりか、シレっと減った端から分裂し増えている！？
　つまり総個体数にほとんど変動ナシ！

　半端な攻撃では効果がない。
　倒すには全体を巻き込み、なおかつ圧倒的な火力を持つ攻撃でなければ……

「うにゃ～、でもさっきカネコビームをフルバーストで放ったばかりだから、魔力もすっからかんなのにゃあ～」

　爪と同じくしばらくすれば回復する。
　というか、すでにギュンギュン猛烈な勢いにて回復しつつある。
　さすがはワガハイ、各種能力値だけは高いハイスペックな超生命体カネコなのは伊達ではない。
　しかしそんなカネコをもってしても、再充填には少々時間がかかる。

「……あれ？　この状況、何げに詰んでにゃい」

　カネコスラッシュ……爪を切ったばかりなので使用不可。
　カネコビーム……エネルギー不足により使用不可。
　カネコアイ……群体との相性最悪にて、見え過ぎちゃって困るの。
　カネコパンチ……末端をいくら叩いても効果薄。
　カネコイヤー……は地獄耳。攻撃力は皆無。
　カネコボイス……はただの大声。耳の近くでシャウトすればキーンとするけど。
　カネコスパーク……はドッキリ技。静電気でバチッと驚かせるけどダメージ軽微。
　カネコテイルボム……ドッカンと爆発するけど破壊力不足。
　カネコインビジブル……はカモフラージュで姿を消すだけ。

　打撃全般が効かないからカネコ深酔拳もダメ。
　怪人八号を捕まえるときに使った水と土の合体技『秘技どろ団子』で、群体を分断して封じるという手は使えそうだけど、肝心の魔力が不足している。
　よって魔法全般もしばらくはロクに使えない。

　敵は強大である。
　対してこちらはスカンピンなだけでなく、えらい学者先生や王都のことも気にかけながら戦わなくちゃならない。
　あまりにも不利な条件が重なっている。
　以上のことを踏まえて、ワガハイはこう結論を下した。

「……うん、やっぱり詰んでるのにゃあ。ここは一時撤退にゃあ～。というわけでカネコインビジブル、発動」

　説明しよう。
　カネコインビジブルとは、カネコの豊富な魔力を惜しげもなく全身の毛に注ぎ込み、ビビビと震わせることにより、生じる光学迷彩のことである。
　とはいえＳＦ作品に登場するようなカッコいいのではなくて、カメレオンやタコが保護色を変えて擬態し、周囲の景色に溶け込むようなモノ。

　ワガハイの姿がにじんでぼやけ、たちまち宵闇に溶けて消えた。
　王都周辺は荒野なので身を隠す場所はないけど、この寒々しい景色とカネコインビジブルは相性がよろしい。
　例えるならば砂漠に鏡を置くようなもの。
　同じようか景色がどこまでも続くような殺風景な場所だと、鏡に映り込んだんモノとの見分けがつかなくなるのだ。

　魔力残量はいささか不安だが、これぐらいならばどうにか。
　即時撤退を選択したワガハイは姿を消しつつ移動を開始。
　抜き足、差し足、忍び足にて、えらい学者先生がこもっている土のシェルターへと向かう。
　さっさとカネコモービル・エボルヴと爺さんを回収してトンズラしようとする。
　が、その時のこと。
　ヤツの体全体が急に何倍にも膨れあがったとおもったらザバーッ、津波のようになって襲いかかってきた。
　見失ったワガハイを逃がすまいと、無差別広域攻撃を仕掛けてきたのだ。

「ぎにゃあーっ！？」

　あわてて逃げようとするも間に合わず、ワガハイはあっという間に黒の奔流に呑み込まれてしまった。